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ある寝室での対話

 ルチア・ゾフのベッドの上には大きなぬいぐるみがある。

 それは伝説の生き物『猫』を模したぬいぐるみだ。

 ルチアはもっと幼い頃に買ってもらい、ずっと大切にしてきている。

 買った当初には一抱えほどもあったが、成長した今では胸元に収まるくらいのサイズである。


 ルチアには()()()がある。

 それはぬいぐるみと会話するという癖だ。


 両親はその癖を「子どもらしい一時的なものだろうな」とか考えている。

 兄弟もなく、両親が忙しく働いているので、その寂しさを紛らわせるためのものなのだろうな、と。

 親のひいき目を除いてもあまりにも可愛らしい娘だが、知能も高く、性格も良いので特に問題ないだろう、とあたたかい目で見守っている。


   +++


「ナタリアさん、とても綺麗な人です」

『ああ、あの厳ついアメデオ・サバトの血縁とは思えないな』

「マクシムさん、ああいう人がタイプです?」

『そうだな。正しいとも言えるし、そうでもないとも言える』

「どっちです?」

『個人の好みなんて流動的なものだろ。とはいえ、これで間違いなくナタリア・サバトとマクシム・マルタンは結ばれる流れになったな」

「はいです。これで()()()()()()()()()()()()()()()()()です」


 それはベッドに腰かけたルチアと猫のぬいぐるみの対話である。

 いや、猫のぬいぐるみは喋らない。

 だから、それはルチアの空想上の相手である。

 一般的にはそう思われている。


『しかし、ナタリア・サバトの言う通り、嫉妬とかはないのか?』

「ないです」

『本当に?』

「しつこいです。しつこい人は嫌いです」

『すまないすまない。ちょっとからかいたくなっただけだ』


「……ルチアはマクシムさんが生きて欲しいです」

『分かっているよ、その点は。ルチア・ゾフの行動原理は理解している。それに我らの目的においてもマクシム・マルタンは重要人物キーマンになる』

「そのためには『竜姫りゅうき』の寵愛ちょうあいは絶対に必要です。だから、ルチアは全然許容できるです」

『ふむ、理性で受け入れているが、感情的にはそこまでってところかな』

「そろそろ怒るです。ルチアを怒らせるのは大したものです」

『別に今のはからかっているわけじゃない。九歳とは思えないほど大人だなと感心している。大人でもそこまで割り切れない人間は多数存在している』


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


『いや、九歳ではあるだろう』

「はいです」

『なかなかややこしいな。成長はまだまだだし、脳内物質の分泌も子どものものだが、()()()()()()()()というのは』

「正直、他の子どもと一緒にされるのは間違っているです」


『そうかもな。

 で、『竜姫』と結ばれることでマクシム・マルタンの生存確率は極めて上昇した、と話を戻すぞ』

「それで良いです。

 これで、『案山子』も『大魔法つかい』も『武道家』や『さむらい』たちも、ついでに『獣姫けものひめ』もマクシムさんに手が出しにくくなったです。竜たちがいれば『魔王』の眷属も問題ありません。情報はできるだけ早めに拡散が必要ですが、既に『士』現頭領のイーサン・ガンドルフィがある程度広めているです」

『ああ、だが、『案山子』は大分壊れているからな。一瞬で殺されかねないぞ』

「大丈夫です。『案山子』は壊れているからこそ安心できるです。それに時代が違うです」

『こちらの『案山子』ハセ・ナナセはかなり己の才能に葛藤があったが……。まぁ良い。その点はそちらの方が詳しいだろうから任せる。ただ、ルチア・ゾフは自分の目的のためだけに行動するから不安ではある』


()()()()()()()()()()()()()()()()()です」


『我らのような人種は目的達成のために生きているからな。死んだ後であろうとも目的が続くなら気になるさ』

「あなたの目的は世界平和です」

『ルチア・ゾフの目的はマクシムとの幸せな生活、か』

「ちょっと違うです。ルチアとマクシムさんの間には、四人の子どもが生まれるです。その子たちも幸せにするし、その先の子孫も幸せにしたいです。だから、ついでに世界平和も叶えるです」

『遠大な目的だな。それにルチア・ゾフも死んだ後のことを気にしている』

「ホントです。不思議です」

『そんなものさ。人間なんて』

「……ルチアにとって、マクシムさんは別格なんです」

『のろけ話か』

「ですです。続けても構わないです?」

『構わないさ。聞こう』


()()()()()()()()()()()()()が、どんな別人と一緒になっても、自分一人で生きても、どこかでマクシムさんのことを想っていたです。結局、そういう生き方しかできないです」


『ふむ。愛というのは呪いのようだな』

「そうです。ですが、幸せな呪いであれば文句ないです。人間誰だって呪われているです」

『判断を誤らなければ好きにすれば良い』

「ルチアたちは判断を誤れないです」

『いや、そうでもない。ああ、それは我だけかもな。ルチア・ゾフほどの能力はないから』


「それに、マクシムさんは()()()()()()()()()()()()()です。幸せにするのは世界のためにも大切です」


『よく考えるとナタリア・サバトと二人、世界を滅ぼせる人間が揃っているわけか。なかなか剣呑な状況だな』

「二人とも滅ぼせる自覚はないです。そもそも、ナタリアさんは自分が殺された後にしか発動しないから自覚的に滅ぼせるのはマクシムさんだけです」

『ああ、そうだな。竜が暴走する『報復行為』。世界を滅ぼすほどの報復は非常に危ういが……まぁ、それほどでもないか』

「ですです。『竜姫』を殺せる人間が皆無に近いです。竜が常に守っているです」

『不意打ちも毒殺も不可能ではないが、わざわざ竜の怒りを買う行為をする奴もいない、と。危険なのは『案山子』くらいか?』

「堂々巡りです。先ほども言いましたが、今代の『案山子』は壊れているから大丈夫です。それに、『大魔法つかい』に繋がるためにも、なるべく早く『案山子』と会うのは必要な行為です」

『ふむ、つまり、我らの計画は順調ということだな』

「ですです。予定通りです」


『ということは、そろそろマクシム・マルタンとナタリア・サバトは結ばれるわけか』

「……ですです」

『しかし、ナタリア・サバトも罪な女だよな。マクシム・マルタンを愛していても最終的には竜を選んでしまう。『竜姫』としての責任感のせいか……。悲しい話だ』

「悲しい話ではないです。ナタリアさんの選択はとても高潔です。それに、ルチアがマクシムさんを癒すです」

『しかし、ナタリア・サバトは引き合わせれば、()()マクシム・マルタンを愛するようになるんだ。それでも一緒にはいられなくなる。これを悲劇と言わずして何と言うのか』

「それも本人の意思です。ナタリアさんには竜を捨てることも不可能ではないです。だから、尊重すべきです」

『しかし――』


「そろそろ、黙るです。『()()()()()()()()()()、あなたはうるさいです」


『おお、怖い怖い。死人に対して酷いじゃないか』

「お前は生きているです。未来予知の能力でルチアと会話しているだけです」

『そろそろ、自殺するんだがね、我は』

「それもお前の意思です。ルチアは尊敬するです」

『対話できる回数ももう大分減って来たんだ。もうちょっと大切にして欲しいものだがねぇ……』

「なら、ルチアの気分を害さないで欲しいです」

『やっぱり、マクシム・マルタンとナタリア・サバトの件、不快なんだな』

「黙るです」


   +++


 ルチア・ゾフ。九歳。美少女。

 あらゆる未来を見通せる()()()()()()()

 夢を実現してしまう究極の能力。


 その名も『夢界』。


 彼女の行動に『不可能』という文字はない。

 過去の亡霊とも能力を介して繋がることができる。

 ただし、彼女が表に出ることはない。

 戦闘能力を持たないため、表に出ることで害される可能性がある以上、静かに戦うのみ。

 彼女は自分の夢を叶えるため、暗躍を続ける……。



 第六部 目的達成のため手段を選べぬ者『予言者』に続く

途中ではあまり書かないスタイルでしたが今回は特別に。


こういう、すっごい先の章に少しだけ触れるのすっごい好きです。

というか、自分だけではないと思っていますが、どのくらいいるのか謎です。


創り手としてはストーリーをコントロールし辛い面もあるのですが、

読み手としての好みを優先させました。

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