『英雄の死』、『魔王』の正体
アダムを殺した。
今、ハッキリとアメデオに言われて、マクシムはわずかに身震いする。
真実だったのだ。
どうして、英雄たちは仲間を殺したのか。
七人の勇者は、六人の英雄になるしかなかったのか。
その理由を聞けると思い、マクシムは手に力が入った。
「どうしてさ」
「どうして、理由か……それはな……」
「まさか忘れたとは言わないよね」
「忘れてはいない。いや、思い出したさ」
アメデオは答える。
「わしは理由を知らないし、教えられなかったんだ」
「え?」
マクシムは耳を疑う。知らない?
そのままアメデオに詰め寄る。
「知らないってどういうことさ。教えられなかったって誰に?」
「わしも共犯者ではあるが、正直、全てが終わってから発覚したんだ。直接手を下したのは『武道家』バジーリオ・スキーラ、指示したのは『予言者』サルド・アレッシだ」
「……経緯を教えてよ」
アメデオは目を閉じ、思い出すように語り出す。
「あれは『魔王』を殺した直後のことだ。サルドが言ってきたんだよ、『料理人』アダム・ザッカーバードを生かしていたら世界が滅ぶ、と。わしらは理由を問うたが、答えてはくれなかった」
「『料理人』で世界が滅ぶ。どうやってさ? そもそも、それを信じたの?」
「実績が違ったからな。『予言者』が見える未来には一定の条件があったみたいだが、奴の語る未来は確定的だった。もちろん、予言に従った場合、未来は変更されるが、三年に渡る旅でわしらはあいつの言葉を疑いようがなかったよ」
「それで殺したとして、やっぱり、理由は気になると思うんだけど」
「ただ、もう既にアダムはバジーリオの手で殺されていた。一撃。背後から首の骨を折ったんだろうな。苦しまなかったと思うよ。もう殺されてしまったなら、言い合いをしても仕方ないしな」
死んでしまったのだから仕方ない。
英雄として生きるか死ぬかの人生を送ってきたせいか、生死に対する価値観が違った。
しかし、そこで新たに生まれる疑問がいくつかあった。
「でもさ、そこまで一緒だったなら、アダムも世界を救った一人として名前くらい残しても良かったんじゃない?」
「わしらはそのつもりだった。だが、『予言者』が許可しなかった」
「抵抗というか、抗議しなかったの?」
「したさ、もちろん。だが、帰ったら説明すると言っていたのに、あいつは早々に自殺してしまった。何も語らずにな」
「そもそもさ、帰路はどうしたのさ、『料理人』がいなくなったら、食事とか困ったんじゃないの?」
「ああ、この状況を想定していたのか、まず保存食を大量に用意していた。それと、帰りは道ができていたからな。『魔王』の亡骸の上を歩いて帰ったからそれほど時間はかからなかった」
マクシムは耳を疑った。亡骸の上?
「は? 死体の上を歩いたの?」
「ああ、そうか。これは誰も知らないかもな。ナタリアは知っているか?」
「ええ、『魔王』の正体——『魔王樹ゴッズ』ですわよね。以前、お聞きしましたわ」
「ああ、そうだ」
魔王樹? 木が『魔王』の正体?
マクシムはその意外な正体に首をひねった。
「それ、『魔王』の正体って内緒なの?」
「いや、別に言ってもあまり浸透しなかっただけ。天を突く巨大な樹が『魔王』の正体だよ。『魔王樹』ゴッズはあらゆる生命を生み出す。暗黒大陸ではこの世界とは全く異なる生き物が跋扈していたよ。正直、わしの目には、あれが本当に生き物だったのか分からないくらいだった」
「じゃあ、その『魔王樹』を切り倒して上を歩いたってこと?」
「ああ、『予言者』の指示で攻撃していたんだが、恐らくは帰り道では『料理人』がいないことを考えて、道にするつもりだったんだろう。あと、帰り道ではほとんど妨害もなかったしな。敵討ちがあるか警戒していたが、それもほとんどなかった。次の『魔王樹』が生まれるまで大人しくしておくってことだったのかもしれないが……『眷属』の動きを考えると向こう側にも意思はあるんだろうな」
今、とてつもなく聞き捨てならないことを言われた気がした。
マクシムは思い切り笑いながら、聞き返した。
「次の『魔王樹』ってどういう意味?」
「ああ、わしらは『魔王樹』を切り倒したし、帰り道で徹底的に破壊した。でも、これは永続的じゃないさ。相手は樹だ。種子は残ってあるだろうし、その生育まではどうやったって妨げられない」
「じゃあ、また『魔王』危機が起きると?」
「ああ。サルドの話ではあと二百年は大丈夫だろうと言っていたがな……それと、次の『魔王樹』から生まれる生命が、わしらにとって危機であるとも限らない。さすがのサルドもそこまで先は見通せなかった」
生命を生み出す樹。それが『魔王』危機だったのか。
おそらくは正確には『魔王樹』が生み出す生命がマクシムたちの世界にとって有害だったということなのだろう。
それを妨げるために英雄たちは戦ったのか。
そして、その場で『料理人』も死ぬしかなかった。
おそらくはそれにも理由があったはずだが、『竜騎士』アメデオ・サバトさえも知らなかった。
直接手を下した『武道家』バジーリオ・スキーラであれば、少しくらい話を聞いているかもしれないが、ニルデの様子を思い出すと望みは薄そうだ。
それにしても、樹が『魔王』とは思わなかった。
「『魔王樹』か。僕の能力なら、それも無害にできたかもなぁ……」
「僕の能力? お前さん、何かあるのか?」
「いや、覚えているでしょ。僕を襲い掛かったんだから」
「襲い掛かった? わしが? いつ?」
「いや……えーっと、何でもないや」
アメデオはあの時のこともあまり覚えていないようだった。
非常に、都合の良い記憶をしているが、マクシムももう文句を言う気力が沸かない。
というか、そうなると、自分の存在はどうしてここにいると思っているのか。
マクシムはその疑問を解消すべく訊ねる。
「じゃあ、アメデオさん、僕のことなんだと思っているのさ」
「それはナタリアの恋人だろ? いや、婿だったか。確かにナタリアから聞いた記憶があるぞ」
アメデオは非常に、都合の悪い記憶をしていた。
ナタリアは耳まで真っ赤になっていた。
マクシムは「あー」と言うしかなかった。
シラは珍しく吹き出していた。




