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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
目的達成のため手段を選べぬ者『予言者』
232/235

勇者編 最初の死者その後

 二人の勇者が死んだ。

『光翼』カルロータ・ペトロッセに『猛獣』レオナルド・ヴァルガス。

 有望でない勇者など誰一人と存在しないが、どちらも戦力として頼りになる二人だった。

 特に飛行能力者の脱落は今後の行動に相当制限が生まれる。


 ここまで早く脱落者が出るとは『予言者』サルド・アレッシも考慮していなかった。

 想定外すぎて平静を装うことを忘れそうになったが、どうにか余裕の仮面は取り外さずに済んだ。


 しかし、サルドがどれだけ余裕を装っていても、死体が二体転がっている事実は変えられない。

 二人とも落下の衝撃で潰れている。

 どれほどの高度から落下したのか、二人を明確に区別することは難しい――ひとかたまりになって潰れていた。


 ただ、それでもカルロータらしき肉塊の胸の中心が貫かれているのは分かった。

 そして、それをやったのがレオナルドらしき肉塊なのも間違いなさそうだ。血に塗れたその右手らしき部分が物語っている。


 勇者たちは誰もが絶句してこの状況に混乱していた。

 特に顔色を真っ青にしているのは『大魔法つかい』クラーラ・マウロだった。

 倒れそうな顔色で、隣にいる『士』クレート・ガンドルフィに支えられている。

 彼女は世界最高の魔法使いだが、それほど経験を積んでいるわけではない。

 死に慣れていないため、仲間の死体を見てかなり動揺しているようだった。


「おいおいおいおい、サルド。君は一体どうするつもりだい?」


 サルドにそう話しかけてきたのは『成功者』カルミネ・ダモレだった。

 勇者の中でも影響力が最も強い人間の一人だ。

 まるで舞台役者のような大仰な仕草で、周囲の視線を集めている。

 眉目秀麗で威厳のある彼がそう話しかけてきた意図を読み、サルドは不敵に笑う。


「どうするつもり、とは?」

「君はこの計画を始めたリーダーじゃないか。しっかり指揮を執ってまとめないか」

「ならこう返そう。我らと死は仲間のようなものだよ。この程度のことは日常茶飯事として受け入れて、先へ進む準備をしたまえ。皆もだ! 準備の手を休めるんじゃないのだよ!」


 その言葉にほんのひとつまみだけの怒気を孕んでおく。

 そうすることで、周囲の勇者たちも我に返ったようだ。ハッとした顔を見渡しながら、サルドは視線に力を込めて続ける。


「カルロータとレオナルドの死は悼むことだが、我らの任務は変わらず続く。『魔王』討伐は我らの義務なのだよ! すぐ出発する! 準備を続けるのだよ!」


 ほとんどの勇者が仕事に戻ったのを見て――繊細なクラーラはサルドの気迫に目を回して失神した――カルミネもニヤリと笑った。

 彼は言う。


「その通りだよ。リーダーはそうでなければならない。目的遂行のためだけに行動すべきだ。冷たいようだが、不要なものは見捨てるべきだね。死体はもう『魔王』を殺せないからね」


 一瞬だけ反発したい衝動に駆られたが、サルドは目で感謝を伝える。


「カルミネ。すまない」

「感謝は不要だね。だがね、サルド。君は未来予知能力者だろ。どうして彼ら二人の死が見えなかったんだい」

「……我には完璧な未来が読めない。だからだよ」

「ふむ、君の能力は優れているが、上限があるということかね」

「ああ。二人がここで死ぬ可能性は低かった。だからだよ」


 カルミネは少しだけ考え込む仕草でポツリと。


「つまり、低い可能性は優先できない――対策が打てないからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということかね?」

「その認識で構わない。我は完璧な予知能力者ではないのでフォローできる未来はそう多くないのだよ」

「その理屈がせいなら、完璧な予知能力者なんて存在しないだろう。気にする必要はないさ。君は君の仕事に徹すれば良い」


 そうでもない、という言葉をサルドは呑み込んだ。

 将来生まれるであろう完璧な予知能力者の存在は、今言っても仕方ないし、そもそも、この『魔王』討伐が成功しなければ現れない可能性だ。

 意味がない。


 どうせ、我らが失敗したら、世界は終わる。


 そのそれなりに高い可能性の未来を知っているのはサルドだけだ。


「しかし、彼らがどうして亡くなったのかは分かっているのかね? それに対処できなければ、同じ過ちが起きるのではないかね」

「安心したまえ。我にはよく分からないが、分かる人間は知っている」

「おいおいおいおい、それはどういう意味だ」

「リーダーに任せたまえよ」

「ふむ。オーケイだね、ボス」とカルミネは砕けた敬礼をしてその場を去った。


 自分が途中で死んだ場合、やはりカルミネがリーダーとして勇者たちをまとめるだろう。

 そう確信できる広い背中だった。

 サルドはそれぞれが自分の仕事に戻ろうとしている中、二人の人間を呼び止める。

 原因究明に必要なのは片方だが、もう片方も手元に置いておきたい。

 先のことを考えた判断だった。


「アダム、バジーリオ、来て欲しいのだよ。ちょっと力を借りたいのだよ」

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