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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
目的達成のため手段を選べぬ者『予言者』
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勇者たちの死

 『団長』ルカの子孫が『士』の一員というのはマクシムを驚かせた。あの恋する暴走乙女が?

 だが、驚いただけで、すぐに切り替える。今は関係ない。それよりも勇者たちについてだ。


「じゃあ、結局三十三人の勇者たちが『暗黒大陸』に残ったんだね」

「はいです。生き残って帰ってきたのは英雄として名を残している『案山子ハセ・ナナセ』さま、『クレート・ガンドルフィ』さま、『大魔法つかい(クラーラ・マウロ)』さま、『武道家バジーリオ・スキーラ』さま、『竜騎士アメデオ・サバト』さま、そして『予言者サルド・アレッシ』の六人だけなのです」

「つまり、二十七人が死亡かぁ。『料理人アダム・ザッカーバード』を除いて二十六人……。ナタリアは知っているの?」


 『竜姫』ナタリアは本当に申し訳なさそうな顔で首を横に振った。


「そういえば、ひいおじい様からほとんど話を聞いたことがありませんわ。やはり多くの人間が死亡しているので慎重だったのでしょうか」

「ですです。アメデオさまは後々には語ったかもしれませんが、まだナタリアさんが子どもだと思って死について語るのは避けたのです」

「ワタクシはいつまでも子ども扱いですか」

「いえ、ナタリアさんが分別がつく頃にはアメデオさまの記憶の方があやふやになっていただけです。行き違いなのです」


 そういえば、アメデオはボケ老人のようだったなぁ、とふとマクシムは思い返す。

 ずいぶんと昔の記憶だ。

 最期は命を賭して戦って散ったことを思い、胸が痛くなった。

 英雄の中の英雄。

 その仲間たちの死について思うと、どこか空々しいものを感じる。

 ナタリアでさえ知らないのなら、現代人はほとんど知らないと思うべき勇者たちだからだ。


 ルチアは「『暗黒大陸』でお亡くなりになった勇者の方々のお名前は以下の通りです」と前置いて、


「『賊党』フランチェスカ・ベッリーニさま、

『超人』ルイジ・カルボーニさま、

『成功者』カルミネ・ダモレさま、

『霧笛』アンナ・ピッツィさま、

『天才』エンリコ・マリーノさま、

『全人前』アントニオ・マンフレッジさま、

『しのび』カルロータ・オルシーニさま、

『氷牙鬼』ジャコモ・ルッジェーロさま、

『山岳家』ヴィットリア・ ピアッツァさま、

『建築家』ピエトロ・グリッロさま、

『探求者』グイド・グレコさま、

『紙一重』アンドレア・マンチーニ さま、

『谺』レオナ・ヴァレンティさま

『不屈』マリア・カステッリさま、

『反跫音』フィオレッラ・ダヴィーノさま、

『因念』シルヴィア・ペッレグリーノさま、

『病葉』カルラ・デルベッキオさま、

『投賊』チアラ・ロッセィさま、

『紅蓮将』ニコロ・ベルナルディさま

『猛獣』レオナルド・ヴァルガスさま、

『泡沫』フェデリコ・モンタルドさま、

『白狼』ジャンルカ・モンタルドさま、

『紙装甲』マッシモ・セルヴィさま、

『光翼』カルロータ・ペトロッセさま、

『捕食者』アレッサンドロ・フェッリさま、

『月影』ジョバンニ・ロンバルディさま、


 以上です」


 マクシムはふと気づいたことがあった。


「あれ? モンタルドってマーラ大尉もだったよね? いや、家名が同じだけかな。でも、二人も?」

「お二人ともマーラ大尉の親戚なのです。モンタルド家は名家なので勇者も輩出していたのですが、残念ながら『暗黒大陸』で亡くなられたのです」


 マクシムは『暗黒大陸』にて別れたマーラ・モンタルド大尉のことをふと思い出す。元気だろうか。

 そこで何故かナタリアとルチアの二人が半眼をマクシムに向けてきていた。


「どうかしたの?」

「他の女のことを考えていたのです」

「これ以上は本当に許しませんわよ?」

「いや、知り合いを思い浮かべるのは自然でしょ。一緒に戦ったしね。むしろ、そこで思い出さないような冷たい人間が良いの? 君らは?」

「正論で対抗してくるのは若干怪しいですが、どうやら本当にやましいことはないようです」

「命拾いしましたわね」

「仲良いね、君たち……」


 マクシムは嘆息する。

 あまりに深刻な雰囲気になりそうだったので軽い話題にしてくれたのだろう。そうだと思いたい。多分。お願いだから。


「正直、名前を並べられてもピンと来ないね。でも、少しだけ身近になった気がするよ」

「マクシム、少し苦言を呈するのです。勇者たちは確かに存在したのです。軽く扱って良い人たちではないのです」


 ルチアの視線が真剣だったのでマクシムは気まずくなって、首の裏を人差し指で掻く。


「そうだね。そんなつもりはなかったけど、軽口だったよ。でも、やっぱり、『魔王』とその『眷属』はそれだけ手ごわかったんだね」

「いえ、勇者たちのほとんどは『暗黒大陸』の環境に殺されたのです。現地生物に殺された人間もいます。直接的に『魔王の眷属』に殺された人間はむしろ少数派なのです」


 現地生物……? ルチアと二人旅を始めてすぐ巨大な蛇に似た生き物に会った。あの異常な巨大さ。あれはインパクトが強くてよく覚えていた。

 ナタリアは水を向けてきた。やはり『暗黒大陸』については好奇心を抑えられないのだろう。


「実際に二人は『暗黒大陸』を旅してきたのでしょう? どうでしたか?」

「竜が豆粒に感じられるくらい超巨大生物もいたね」

「大げさですわ。それとも冗談ですか?」

「違うよ。ただの経験談」

「『ヨルムンガンド』です。勇者たちも逃げるしかなかった種族です。あれでも大きい方ではありませんでしたが、軽く1キロメルはあります。ちなみに、サルドたちが逃げるために殿しんがりとなって散った勇者もいるのです」


 誰だろう。

 質問をする前にナタリアが首を傾げた。


「あの、ワタクシ、『魔王の眷属』と現地生物の違いを分かっていないのですが。何が違うのです?」


 マクシムは視線を逸らした――冷静に考えると何が違うのか分からない。

 人類種に対する敵意の有無だと思うが、『暗黒大陸』の生物でどうしてそんな差が出るのか分からなかった。

 ルチアは言う。


「全ての根源は『魔王』です。結局、人類種を敵視しているのは『魔王』なのです。それに影響を受けているモノが『魔王の眷属』になるのです」

「では、現地生物は『魔王』の影響を受けていないのですね。それは何故です?」

「一言でいえば、血の濃さです。

 『魔王』は大昔、人類種でしたが、七百万年という長い年月をかけて人から人ではなくなっていったのです。

 『魔王』は自分が失ったものを持っている現代の人類種が憎くて仕方なかったのです。その呪いが『魔王の眷属』を侵略者にしてしまったのです」


 侵略者と言っても人ではなくなっていますが、とルチアは締めくくった。

『魔王』は大昔人類種だった。

 マクシムはそれを既に聞いて知っていたが、ナタリアはまだ知らない事実のはずだ。

 ナタリアは目を見開いてルチアに問い直す。唇がわずかに震えながら。


「……それは本当ですか?」

「ルチアはウソを言わないのです。そして、それは大した話ではないのです」

「どう考えても大した話ですわ!」

「もう『魔王』の滅んでしまった現代ではどうでも良い話なのです。残った『魔王の眷属』が少しばかり人類種の危機にはなりますが、対処できる範囲です」


 より厄介な問題の前ではどうとでも良いという理屈は理解できるが、納得し難い。

 そういう気持ちの部分が未来を統べるルチアには通じない部分がある。正しいのは『夢界』だからこそ、この断絶は根深い。

 ルチアは続ける。


「未来を思えば、本当に、本当に、『魔王』を滅ぼした勇者の方々には感謝です。それがなければ、ルチアたちは本当に大変だったのです。

 たとえ、それが『魔王』探索開始から数時間で亡くなったとしても、その勇気と献身には敬意を払いたいのです」

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