『団長』と集合写真
ルチアは話し終えてからどう思うです? とマクシムたちに質問した。
マクシムは「勇者たちの集合写真についてだよね」と確認しながら言う。
「えーっと、実際にたくさんの勇者が死んだんだよね? なら、やっぱりサルドは遺影として撮ったんじゃないかな。生き残る人に忘れて欲しくなかったんじゃないかな」
そこでナタリアは「ですが」と口を挟む。
「ひいおじい様も映っていたと思いますが、ワタクシはその写真を見た記憶がございません」
「それは生きて帰ってきたからで」
「逆ではありませんか。ひいおじい様は生きて帰りました。亡くなった仲間たちが映っているのでしたら、大切にしますわ」
「それもそうだね。でも七十年以上前の写真だから劣化して捨てられちゃったとか」
「それでも捨てるようなことはありませんわ」
「じゃあ、逆に大切にし過ぎて保管していたら場所が分からなくなったとか」
「うちはそこそこ広いと思いますけど、あなたがいない間に一通り片づけました。整理整頓はきちんとしていますわ」
「あ、はい」
なんとなくあんまりこの点は言及しない方が良さそうだ。
アメデオ・サバトは芸術を解する心があったし、それでなくても情に厚いタイプだったような記憶がある。
マクシムの印象だけでなく、血の繋がったナタリアの発言は重視すべきだろう。
ルチアは言う。
「実際のところ、アメデオさまはその写真を捨ててしまったのです。これは勘違いによるものです」
「勘違いですか」
「はいです。アメデオさまは写真にアダムさまが映っていると思ったのです。自分たちの手で殺してしまった罪悪感から持ち続けることができなかったのです。その勘違いをさせたのはサルドの野郎だったので、アメデオさまに罪はないのです」
しかし、ルチアは本当に『予言者』サルド・アレッシに辛辣である。
「えーっと、勘違いさせた理由は何なのさ」
「まず勇者の中にアダムさまを記録として残さないためです。事実、勇者としての公的な記録は一切残っていないのです。アダム・ザッカーバードという人物は全然別の場所で死亡したことになっているのです」
「それは結局、最後アダムを殺すために?」
「はいです。ただ、気は進まないのですが、サルドの名誉のためにフォローすると、です。最初からアダムさまを殺すつもりではなかったのです。その可能性がどれほど濃厚だったとしても、そこまで最初から決められるほどサルドは予知能力者としての実力がないのです」
「それはフォローなのかな……」
ナタリアは「まず、ということは」と目を閉じて黙考しながら言う。
「写真には他にも理由があるということですね」
「そうです。あれは大量の『魔王の眷属』の死体を並べ、『団長』ルカさまの実力を証明するための写真なのです」
「ああ、なんか話に聞いただけでも相当な実力者だったみたいだね。王国騎士団の『団長』かぁ。多分今は存在しないよね、その役職」
「はいです。もう王国騎士団は解散されてしまいました。
ルカさまは選ばれた勇者の中で純粋な戦闘技術だけで言えば最高です。『士』クレートさまを上回る唯一の人間なのです」
「史上最強の剣士を上回るんだ……」
「クレートさまが成長し続けていればおそらく異なったのです。その域に達する前に『契約者』になってしまいましたからね。
ルカさまは特異能力と思考を多重に加速させる組み合わせが相性良すぎなのです。あの境地まで達している人間は現代では二人だけです」
「あ、いることはいるんだ」
「『士』大佐カスト・コルギさま、中佐パオロ・ガリレイさまです」
『暗黒大陸』にて『士』最長派遣の男性をマクシムは思い出す。そういえば、彼は勇者よりも長く『暗黒大陸』にいることになるのか。
「パオロ中佐はその域なんだ」
「ですです。ただ、パオロ中佐は防衛能力は最高クラスですが、攻撃能力はそこまで高くはないのです。あくまでも戦闘技術の評価だけです」
実力と技術は別ということか。
そういえば、マクシム自身も一応少佐ではあるが、戦闘技術なんて皆無だ。
戦闘技術はあくまでも技術でしかなく、それだけが絶対的な評価軸ではないということか。
確かピッキエーレ少佐は最高の剣士だったし、なかなか評価軸がいろいろあって難しい。
「純粋な戦闘能力でもルカさまは現代では比肩する人間はいないのです。それくらいルカさまは強い勇者だったのです」
「じゃあ、暗黒大陸派遣には欠かせない人間だったんじゃ」
「こちらの世界を護るために必要な人材だったのです。暗黒大陸からの『魔王の眷属』の侵略は『魔王』討伐完了まで激しくなるのです」
「ルカ・モレッティって勇者はナタリア知っていた?」
「いえ、ワタクシも知りませんでしたわ」
「実は『魔王の眷属』を討伐数は、『団長』は『案山子』に次ぐ第二位です。暗黒大陸に来ていたら第一位だったかもしれないのです」
それは凄い。
「へー。迎撃だけでその二人より多いのはビックリだね。ちなみに、第三位以下は?」
「『竜騎士』、『士』と続くのです」
ナタリアは首を傾げる。
「ルカ・モレッティという勇者に覚えはありませんわ。ご子孫はおられませんの?」
「『魔王』討伐後は完全に引退して、結構子だくさんの家庭を築いているのです。ただ、現代も戦闘職にいるのは一人だけです。
家名が異なっているので気づかないと思うですが、マクシムはすでに会っているのです」
「え? 誰?」
「その方もとても背が高かったのです」
分からない。
マクシムが首を傾げているとルチアは答えを言う。
「アリアナ・コスタ中尉です」
それは『暗黒大陸』にてパオロ中佐の副官をしていた、自信なさげな女性の名前だった。
『暴威』という特異能力も持っていた。
「あの人、勇者の末裔だったんだ」
「彼女はいろいろあり過ぎたので説明が難しいのです。ただ、勇者は過去の存在と思われがちですが、意外と繋がりがあるものなのです」




