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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
目的達成のため手段を選べぬ者『予言者』
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勇者編 『団長』と秘密

 最初の襲撃を切り抜け、勇者たちは暗黒大陸に上陸した。

 しかし、その際に得た代償は大きかった。

 まず、『博士』ジュリオ・ピコットは瀕死の重傷を負いリタイア。

 一命は取り留めたが、可能な限り本格的な治療・リハビリが必要であり、すぐに帰国をしなければならなかった。

 助かったのは奇跡的だった。


 リタイアしたのはジュリオだけではなかった。

 不運で巻き込まれた者も多く、食料など荷物を下ろしたら船はすぐ帰国することになった。

 心折れた勇者もそれに含まれていたが、その中に一人だけ、帰国する者たちを護るためにこの『魔王』討伐を中断した者もいた。


   +++


「帰国するのかね?」

「ああ」と陰りのある表情で彼は頷く。

「残念だ。君は『魔王』討伐の英雄に最も近いうちの一人だったからね」


 『予言者』サルド・アレッシが惜しむのは、今回の派遣で最も背の高い青年だ。

 遠目には痩せて見えるが、実際は勇者の中で最重量の筋量を誇る。

 長い髪を後ろで結び、端正な顔立ちは若い女性が一度は惚れるという。

 『団長』ルカ・モレッティ。

 まだ二十代の若さだが、王国騎士団を率いている。

 勇者の中でも最高、つまり、世界最高の槍使いである。

 彼の身長より二回りほど多い巨槍は重すぎて常人は持ち上げることさえできない。

 それをルカはナイフか小剣のように軽々と振り回す。

 

「そうなのか。だが、自分以外では護衛任務は果たせないだろう」

「そうだね。君以外なら『クレート』だけだ」

「彼は体力的に問題がある。『聖剣』があってもいささか不安定だろう。まだ子どもだしな。そんな責任を押し付けるのは可哀想だ」

「そうか……そうかもしれないね」


 それはサルドの私室で、暗黒大陸上陸前のわずかな時間での面談だった。

 帰国前に最後の意志確認をしていた。

 護るために帰る、それがルカの結論だった。

 そこでサルドはゴホンと咳払いをする。

 

「さて、この場で聞いている者は他にいないのだが、本音で話さないかね」

「本音、か。そうだな……では少し話をするかな」


 ルカは端正な顔に余裕をにじませながら言う。


「本当に自分は『魔王』討伐隊に参加し続ければ英雄になれたのか?」

「その可能性が高いね。もちろん、君の実力を正確に評価したのだよ」

「本当に、本当か?」

「当然だ。我は『予言者』。決して虚言は吐かないからね」


 ルカはふぅと嘆息する。天井を見上げながら脱力し、


()()()()()()()


 盛大な溜息とともにそう言った。

 サルドは「残念だよ」と苦笑いする。


「実力は『聖剣』を持ったクレートにも比肩するのに、君は自分を過小評価している」

「…………本当に誰も聞いていないのか」

「この派遣任務を成功に導く者として保証しようではないか。聞き耳を立てる者はいない。君の秘密は守る。安心したまえ」


 ルカの様子が徐々に変わる。

 ガタガタと震えはじめ、顔色も青くなる。

 巨体を縮め、俯きがちの体勢から顔を伏せ、ポツリと一言。


「ウソだ。無理に決まっている……」

「『魔王』討伐が、かい。いや、我らは必ず討つ。どれだけの犠牲が出ようともね」

「申し訳ないが、自分は信じられない。生き残ることなんてできるわけがない……相手は『魔王の眷属』だぞ……ふざけている。やつらは人類の敵だ。共存できない敵。それを孤立無援の討伐隊なんて正気じゃない。全滅するに決まっている……」

「別に我はそれを否定しないよ。勇者たちは基本的に狂っている。世界を救うなんて誇大妄想みたいなものだからね」

「そうだ! おかしいのだ、君たちは……」


 『団長』ルカは槍術の天才で、王国騎士団の代表に選ばれている。

 二十代で選ばれたのは彼の実力が圧倒的過ぎたからで、その立場からこの派遣に参加せざるを得なかった。

 本人の立場から強制されただけで、全く希望していなかった。

 帰国の護衛という建前で、この派遣を途中離脱するのだ。

 勇者たちの中でもルカの実力は屈指だが――心折れた人間だった。

 ルカはブツブツと言う。


「無理だよぉ。あんなやつらに勝てるわけがないよぉ。暗黒大陸で途中で野垂れ死に決定だよぉ。あんなやつらに食われたくねぇよぉ。怖いんだよぉ」


 端正な顔をクシャクシャにしながらルカは泣く。

 その立場や実力とかけ離れた姿に、サルドはボソリと独り言を呟く。


「こいつ、これで実力が勇者屈指ってどんな性格だ」


 実際、ルカはほとんどの人間は知らないが死ぬほど根暗ネガティブだった。

 それが王国騎士団『団長』ルカ・モレッティの秘密。

 その後ろ向きさから常人が発狂する次元の鍛錬を行い、最強の一角まで登りつめている。

 天才が誰よりも努力した。

 その結晶がルカだ。

 ルカが帰国隊に加わらなければ、途中で船は沈む可能性が高い。

 実際、守るという言葉にもウソはないのだ。

 臆病だが、最強の一角。その実力は本物だ。

 ルカのような実力者が派遣隊から抜けるのは痛手だ。

 だが、『団長』の彼にはやってもらうことがあり、そちらを優先してサルドは帰国を認めたのだ。

 ルカはその美しい顔をクシャクシャにしている。

 サルドはいい加減腹が立って来て、


「この泣き顔、写真に撮ってばらまきてぇ……」


 無論、そんなことはしない。

 勇者一団の士気を下げるようなことはできないからだ。

 サルドはルカが落ち着いたタイミングで、一つ質問をする。


「しかし、このまま反撃しなければ人類はじり貧だ。それについてはどう思うかね?」

「知らないね。いや、この言い方はすこし違うな……」


 ルカは少し考えて、


「反撃が本当に意味ある行動なのか?」

「どういう意味かね? 無意味なわけがないだろう」

「『魔王』を討伐して、本当に『魔王の眷属』たちは止まるのか? いや、この戦いの勝利条件が『魔王』討伐なのか?」


 ルカは熟考しながら言葉を紡ぐ。


「そもそも本当に『魔王』なんて存在しているのか? 誰がどうやって観測したんだ? 暗黒大陸は自分たちが今初めて上陸したはずだ。『魔王の眷属』は幾度となく戦ったが『魔王』なんて見たこともない」


 『魔王』の存在について疑問を持つ者はいた。

 襲撃してくる正体不明の怪物たちがいたとしても、その大ボスが存在しているとは限らない。

 『魔王の眷属』とは意思疎通もできないので、そいつらが語ったわけではないのだから。

 だが、誰もが知っていた。

 『魔王』はいると確信していた。

 それにルカは疑問を抱いたのだ――この思考力こそが丁寧な狂気の鍛錬を彼自身に課す原動力だった。


「ふむ、君のその疑い深さを知る者がほとんどいないのは面白いね」

「……ここだけの話にしてくれ。自分にも立場がある」

「約束しよう。誰にも言わない。だから、一つ秘密を我も明かそうではないか」

「秘密?」

「『魔王』は確かに存在している。非常に厄介な存在でね。我々、人類種を心底から憎んでいる」

「誰がどうやって観測したのか、それを教えて欲しい」

「それこそが秘密だよ。誰にも言わないでくれたまえよ」

「?」


 もっと信じられない話をしよう、とサルドは前置く。


「『魔王』については我が子どもの頃に予言し、それが広まったんだ」

「え」とルカは絶句する。


 そこでサルドはルカから視線を外して大仰に言う。


「君は臆病だが勇者だ。全霊で船を護ってくれ。我らは『魔王』を討つ――信用して帰国してくれたまえ」


 大船に乗ったつもりでね、とサルドは笑った。

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