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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
目的達成のため手段を選べぬ者『予言者』
214/235

勇者編 旅立ち直前 その二

 それは現代から遡ること約七十六年ほど昔、勇者全員が顔を合わせた時の話である。


   +++


 この場に揃った勇者は五十四人。

 しかし、『魔王』との戦場へ至るのはたった六人だという。

 暗黒大陸への派遣任務は、名だたる勇者を揃えても過酷なものだった。


 それぞれが近くにいる者と顔を見合わせるが、不安そうにしている人間は誰一人としていない。

 その六人に自分が入らないと思わない人間はこの場にはいなかった。

 それは実力下位という自覚のあるジュリオ・ピコットも例外ではなかった。

 魔法使いとしては国内屈指だし、直接的な戦闘能力は低くても、生き残ることに関していえば、上位に入るという自負があったからだ。


「おい。その六人ってのは誰になるんだい?」


 その中の一人、派手目な獣人種の女性がサルド・アレッシにそう問いかけた。

 椅子にだらしなく座った体勢のままである。

 その女性の名はフランチェスカ・ベッリーニ。

 素手で銃器を持った警官隊を壊滅させた死刑囚、いや、元死刑囚だった。


「いや、違うな。まさかその六人以外は全員死亡するのか? 『魔王』討伐に成功しても死ぬ可能性もあるのか?」


 ジュリオは少し見直した――粗暴な死刑囚をイメージしていたが、想像以上に頭が回るタイプのようだ。

 

「そんな話を聞かされたら、参加を取りやめる奴もいるんじゃないのかい?」

「ふむ。我としてはそんな人間はそもそも選んでいないつもりだがね。だが、その他全員死亡なんてことは全くない。半数以上は生き残るだろうね」


 半数以上は生き残る。

 言い換えると半数近くは死亡するのか。

 フランチェスカは「そもそも」とどこか疑わし気な上目遣いで続ける。


「お前はどうしてそんなことが分かるんだよ。意味分からないじゃないか。どうすれば断言できるんだよ」

「我には予知能力があるからね」

「は? 予知能力?」

「特異能力者はこの場では珍しくもないだろう。我はここに君たちを集めるためにいろいろ画策してきたのだが――心当たりのある奴もいるのではないかね?」


 王国騎士団から招集依頼をされたジュリオは心当たりがなかったが、そうでない人間もいるようだった。

 幾人かは顔色を変えている。

 特に顕著な反応を示したのは『竜使い』の一族である、アメデオ・サバトだった。


「あー! あんた! 昔俺飲んだことがあるな!」

「久しぶりだね」

「あんたのおかげで、超かわいい奥さんと結婚できたよ! ありがとう! ありがとう!」


 ブンブンとアメデオはサルドの手を取り、両手で包み込むように握手した。

 超かわいい。

 先ほどの自己紹介――婿入りしたとかなんとか――を考えれば、『竜使い』の奥さんだろうか。

 アメデオはサルドを紹介するように手を広げる。


「こいつは本物だ。俺が保証するよ」


 このサルドという男が本当に予知能力があるのかどうかは分からない。

 だが、『竜使い』の反応を見ると、信憑性はあった。


「いや、待て。予知能力があるなら誰が死ぬかも分かるんじゃないのか。避けることはできないのか?」

「無理だ。我にはそこまでの能力はない。あまりにも多くの未来が見えているのだよ。無論、可能性の大小に差はあるが、ここに集まった勇者の全員が六人の英雄の誰かになる可能性があるのだよ」

「ふーん。なのに、生き残る人数が六人ということは分かっているんだな」

「そうであるな。それは最大人数なのだよ。我にはそれ以上の人数が『魔王』打倒の場に立つ未来が見えなかったのだよ。それは我も例外ではない」

「ん? あんたも今回の派遣任務につくのか?」

「当然である。我も必要な要素の一つであるからね。ああ、一人だけ絶対に生き残らせなければならない人物がいる。それはこの中にはいないのだよ」


 絶対に生き残らせなければならない一人?

 どういうことだろう。

 ジュリオが内心で首を傾げていると、サルドは「さぁ」と含み笑いを浮かべながら言う。


「ところで、実はこの後、懇親会を予定しているのだよ。ぜひ参加して欲しい。いや、これは強制参加だと思って欲しい。そして、『彼』の実力を実感して欲しい」


 彼? 懇親会で実力?

 ジュリオには何も分からないが、興味をひかれた。

 強制参加でなくとも、おそらくは全員、参加を拒まなかっただろう。


   +++


 良い匂いがホールに充満していた。

 あらゆる種類の大量の料理と酒が並んでいる。

 どちらかといえば、酒に目がないジュリオもそちらよりも料理の発する匂いの方に気を取られていた。

 言葉にならないほど美味しそうだ。

 見た目にも煌びやかだった。

 皿に盛られた無数の料理たち――肉も野菜も魚もその他諸々が全て輝いているようだった。


「なに、これ」と誰ともない呟きにサルドは答える。


「普通なら乾杯から入るが、それすらも待てない者がいるようだね」

「え」とジュリオが振り返ると、既に素手で料理を貪っている女性が一人。


「な、何だこれ! うますぎるぞ!」


 フランチェスカだ。

 手だけでなく、口の周りも汚しながら、大皿に盛られた料理を休むことなく食べている。

 獣人種らしく肉を中心に、しっかり噛んでいるのか不安になるほどのペースで口に運んでいる。

 他の人間はまだ理性が残っているが、このままだと料理を食べ尽くしそうな勢いのフランチェスカに焦りを覚えている。

 ジュリオも同感だった。

 口中に唾液がたまっていく。

 五感の全てが料理だけに集中している。

 料理以外の何も見えなくなり、声がどこか遠くなる。

 このままだと理性が蒸発してそのままかぶりついてしまいそうだ。

 サルドは言う。


「どうぞ、食べてから話し合いましょう。料理はまだまだありますから」


 その言葉で皆が料理へ群がった。


「ええい、それはあたいが先に目をつけていたんだよ!」「早い者勝ちだろ」「あ! それ狙ってたのに!」「もぐもぐもぐもぐ」「おい、人のを取るなよ」「これなんて料理なの」「知らんが美味しいから良いだろ」「だから、自分で取り分けろってば」「うっさいなぁ。あー、おいし」


 この場に揃っているのは達人ばかりだ。

 超高度な速度での応酬がいたるところで行われている。

 おそらく常人であれば、五度は殺せるほどの速度で手を交差させている者さえいた。

 共通していることとして、全員が目の色を変えて食事していた。

 ジュリオも味覚を最大限活用し、この美味の祭典を堪能していた。

 今までの人生でここまで美味しい食べ物があるとは知らなかった。

 本当に陣地を超越した料理の数々だった。


 それは『案山子』も『士』も『大魔法つかい』も『武道家』も『竜騎士』も『賊党』も『超人』も『成功者』も『団長』も『猛獣』も『凶戦士』も『遊び任』も『探求者』も『紙一重』も『犬師』も『霧笛』も『谺』も『不屈』も『泡沫』も『山岳家』も『賢者』も『投賊』も『建築家』も『電気師』も『反跫音』も『火空師』も『健闘士』も『因念』も『紅蓮将』も『月影』も『氷牙鬼』も『白狼』も『金剛某』も『一発屋』も『紙装甲』も『死獅童』も『雷田』も『欠刃』も『不滅氏』も『雷鉱』も『光翼』も『銀牙』も『千鳥丸』も『捕食者』も『全人前』も『病葉』も『陣大公』も『紫電廻』も『葵炎』も『烈破』も『しのび』も『天才』も『博士』も――。


 まだ異名・二つ名はない者もいたが、五十三人の勇者たち全てに例外はなかった。

 特にあの感情を一切面に出さなくなって久しい『案山子』が食事に一心不乱な様子は異常だった。


 だが、異常が通常になるほど、どの料理も究極にして至高の逸品ばかり。

 子どものように夢中になって食事をし、それが終わった後には全員が程よい満腹感に包まれていた。


 そして、不思議なことがあった。

 こういうパーティー料理の大皿は過不足が生じるのが普通だ。

 だが、全員が程よい満腹感に包まれた時点で、料理はなくなっていた。

 物足りないという人間はいなかったし、満腹すぎて気分が悪くなる者さえいなかった。

 力が漲っている者も多く、特に『士』クレート・ガンドルフィは老いて体が重くなった自分が若返った気にさえなっていた。

 それまで黙って皆の食事を見守っていた『予言者』サルド・アレッシは言う。


「『魔王』の下に到着するのは七人です。その一人は彼になります。いえ、彼がいなければ、この作戦は立案されませんでした」


 それは料理服を着た、小柄な男性だった。

 人の好さそうな笑みを浮かべているが、特に目立つ特徴はない。

 ただ、この美味の数々を生み出したとしたら、それは特別な存在だ。

 全員が実感していた――確かにこの料理の腕前は『魔王』討伐に必要だ、と。


「彼は『料理人』アダム・ザッカーバード。今回の暗黒大陸派遣任務での最重要人物になります」


 アダム・ザッカーバードはどこか照れた様子で「よろしくお願いします」と丁寧に頭を下げた。

ここまで読んでくれたことに感謝を。

どうもありがとうございます。


で、補足というか、旅立ち直前で『その二』ってなんやねん? と思われそうなので、こちらは124話になります。

その直後というか、続きだと思ってください。

214話にこれをしたのは、使っている数字が同じじゃんと思ったからです。

本当はあと二、三話旅立ち前の過去話入れようとも思っていたのですが、重要なのは終わっていたのでこちらにしました。


今回はそんな感じです。

ではまた。

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