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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
目的達成のため手段を選べぬ者『予言者』
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勇者編 竜使いの一族 前編

 それはジャーダ鉱山山頂に居を構えている一族の話である。

 そこに一人の若者が迷い込んできた。

 長身痩躯の若者はきちんとした正装をしている。

 仕立ての良いスーツ姿のその若者の名はアメデオ・キエザ。

 彼は竜使いの一族に会いに来ていた。


   +++


 アメデオ・キエザはいわゆる詐欺師である。

 口先で他人を丸め込み、利益をかすめ取ってきた。

 さまざまな詐欺行為をはたらいてきたが、最近は結婚詐欺に凝っていた。

 アメデオは背が高く、顔立ちも整っているため、結婚に焦る女性を見つけては甘言を尽くして、うまくお金を貢がせていた。天職だった。


 その際に気をつけていることがあった。

 まず、搾り取りすぎないこと。

 これは暗黒大陸から侵攻がある厳しい時代に、そこまでしてはならないというわずかな良心。

 そして、それ以上に、ギリギリのところで恨みをかいたくないという怯懦きょうだな本心。

 次に、できるだけ相手を良い気分にさせるということ。少なくとも、騙している最中は満足させたいと考えていた。


 アメデオは自分が世の中に寄生しているしょうもない虫だと自覚がある。

 世界が『魔王の眷属』に滅ぼされるまで、いかに自分が生き残るかしか考えていない。

 それでも長生きできないと分かっていた。


 そんなアメデオが今回目を付けたのが竜使いの一族だった。

 最強の魔獣を使役する傭兵集団だ。


 そこにいる娘が結婚相手を探しているが、見つけられていないという。この間、飲み屋でたまたま隣になった名も知らない男に教わったのだ。

 調べてみると事実だった。

 一般的には十代後半から二十代前半には結婚するのが当たり前なのに、もう三十近いらしい。

 アメデオよりも五歳以上年上なのだ。

 婚期を逃した焦りもあるはずだ。

 有名人なので危険性も大きいが、立場がある分、うまく立ち回ればリターンも大きいはずだ。


 ハイリスクハイリターンだからアメデオは狙ったわけではなかった。

 彼は疲れていた。

 侵略による社会情勢が厳しい中、寄生虫のような生き方に疲弊していた。

 しょせんは他人の上前をいただいているだけ。寄生先がどんどん失われている今、明日も知れない刹那的な生き方だ。

 プライドのない人生を続けるのも意外と難しい。

 人間は他人に頼られることで踏ん張れる一面があった。

 生産性が失われると誇りがなくなり、自棄になる。

 つまり、アメデオは竜使いの一族に殺されたくて狙ったのだった。


   +++


 ジャーダの頂は竜が空を支配していた。

 家より大きい巨体がまるで重さを感じさせない動きで縦横無尽に宙を舞っている。意外と静かだ。

 アメデオは口をあんぐり開けてそれを見ていた。


 竜は最強の魔獣である。

 強大な体躯たいくに圧倒的な魔力、爪も翼も戦闘のために生まれてきたとしか思えない。

 もちろん、アメデオだって知っていた。知識としては常識すぎて誰もが知っている。

 だが、実際に目撃するとあまりにも大きかった。

 最強の魔獣という知識があっても、実物を見ると想像以上だった。

 まぁ、簡単に言うとアメデオは怖じ気づいていた。


「おいおいおいおい……」


 意味のない言葉を繰り返した後に絶句する。

 今から竜たちを統べる一族の女を騙す……そんなことが可能なのか?

 いや、最強の魔獣を使役するとはいっても強いだけだ。

 口先で騙すテクニックなんて知らないはずだ。多分。

 付け入る隙はある。はずだ。おそらく。


 アメデオが恐る恐る様子をうかがっていると、山頂には小屋のようなものがあった。

 決して大きくはない。というか、かなりボロだ。人が住むというよりは何か作業小屋だろう。

 しかし、そうすると人の住む家がない。山頂は高い草木も遮る場所もない平原が広がっている――他に建造物らしい建造物はなさそうだ。

 ということは、ここに住んでいるのか。本当に?


 いや、竜使いの一族は竜を使役し、武装した盗賊などを討つ傭兵稼業をしているらしい。

 武力の保持を強制的に王家から勝ち取った唯一無二の一族だ。

 それでこんな家に住んでいるわけがない。


 アメデオは分からずに困惑していたが、すぐに考えることを止めた。

 あばらやであっても、竜の目が行き届いているのだからドロボウなんて入るわけがない。そもそも、こんな山の頂上まで来て、このボロ小屋に入るドロボウもいないだろう。

 案外、質実剛健で家なんて気にしない一族かもしれない。

 ジャーダ鉱山を本拠地にしているというが、別に住処がある可能性もある。

 分からないのであれば、動くべきだ。

 サバト家は都市伝説じみた殺し屋『案山子』とは違い、間違いなく実在しているのだから。


 アメデオは居住まいを正し、表情を作る。余裕と安心感を見ている者に与えるように。

 小屋にいるかは分からないが、悠然と訪ねる。ノックすると扉が壊れそうなので声だけで。


「ごめんくださーい。いらっしゃいませんかー」


 しばらく待つが返事がない。

 人が住んでいる気配はあるが、小屋の中に人の気配はない。

 どうやら不在のようだ。

 アメデオは少しだけ気を緩める。


「このまま待たせてもらうかな」

「あんたがアメデオ・キエザ?」


 完全に気を抜いていたら腰を抜かしていたかもしれない。それくらい唐突に背後から呼びかけられた。


「え」


 振り返ると、そこには若い少女が立っていた。おそらくまだ二十歳前だろう。

 背筋をピンと伸ばし、堂々とした態度だ。

 少女はアメデオをジロジロと上から下から観察するように見て「ふーん」と頷く。


「意外とまだ若いのね」

「は」


 ただただアメデオは絶句するしかなかった。

 長身のアメデオより頭一つ半ほど低いが、奇妙な威厳の持ち主だった。

 肉食獣のようなシャープな顔立ちで、燃える炎のような赤い髪。

 若いのに落ち着いた態度だ。こちらをやや上目遣いで見上げている。

 ゆったりとしたスカートで、全体を見ればシンプルな服装をしている。

 アメデオは口をあんぐりと開けて驚いていたが、すぐに我に返る。

 動悸が激しい。

 虚飾がはがされないように必死で繕いながら、それでも絞り出すように訊ねる。


「その、あなたは?」

「あんた、あたしに会いに来たんじゃないの? 違う? 結婚詐欺師なんでしょ」

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