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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
目的達成のため手段を選べぬ者『予言者』
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備える者たち

「ルチア見参! このまま放置して勝手にやられても困るのです! 大人は仕方ないのです!」


 バンと大きな音を立てて扉が開き、ルチアが戻ってきた。ほとんど蹴破るくらいの勢いだった。

 あまりにもタイミングが良くて、マクシムもナタリアもビクッと反応してしまう。

 ルチアは「仲がよろしいのです」と同じ反応をする夫婦に半眼を向け、それから嘆息。ナタリアへ幼児を慰めるように語りかける。


「もう十分に揉めたはずなので、そろそろ大人になるのです。これからのお話をするのです」

「あ、あなたのせいもあることは分かってください!」

「ルチアの能力なら、ナタリアさんからマクシムをただ奪うことだってできたのです。それをしなかったのはあなたを尊重したからなので、それを誠意と理解してほしいのです」

「あなたの能力? あなたの特異能力が何か分からないけど、ほとんど脅迫みたいに聞こえますわ」

「脅迫ではないのです。誠意のある脅迫を説得というのです。ルチアには誠意しかないのですが……体験してもらうのが早そうなのです」

「体験? ワタクシには分かりませんが、害意があるとしたら覚悟してください」


 マクシムが口を挟む間もなく会話が進む。臨戦態勢に入るナタリアにさすがに焦り割って入る。


「ナタリア落ち着いて、ルチアに害意はないから。

 いや、ちょっと待ってよ。アレを体験させるの? いや、大丈夫なの?」

「マクシム、あなたも危険だと思っているような行為なのですか。それを体験させようなんてこの子はどういうつもりなのです」

「いや、危険はないんだけど、でも、手っ取り早すぎて弊害もありそうな気が……」


 ルチアの能力を体験は、あの世界――本来の未来を体験させるということだろう。

 身体的には問題なくても、精神的な負担はあるし、そもそも、ルチアがどれくらいのことまで可能なのか、マクシムもよく分かっていない。

 ルチアは言う。


「ルチアは直接的な戦闘能力はないのです。なので、危険はありませんと約束するです。ただ、とんでもなく危険な可能性もあると思って欲しいのです」

「どういう意味です?」とナタリア。マクシムが割って入ったおかげか少しだけ冷静になったようだ。

「直接的な戦闘能力が不要なほどの能力だからです」


 それは『竜姫』という人類屈指の戦闘能力を持った相手に言うにはあまりにも挑発的だった。


「ルチアは『予言者』サルド・アレッシの格上です。あいつは不完全な予知能力者だったのですが、ルチアはその格上――つまり、完全な予知能力者です。では、完全な予知能力者とはどういう存在か、分かるです?」

「ワタクシが質問しているのに反問されても困りますが……完璧に未来が見えるということでしょう? それが本当かどうかは分かりませんが」

「少し違うのです。完全に未来を当てるということは原則的に不可能なのです。なぜならば、未来を見てしまうということが干渉になり、パラドックスが生じてしまうからです」

「未来視そのものが予定通りだとしたらどうなりますか。その可能性はありませんか」

「運命論は否定させていただくのです。未来は決まっていないのです。いえ、干渉可能であるからこそ、ルチアは完全な予知能力者なのです」


 マクシムはルチアが何を言っているのか分からなかった。

 ただ、何か重要なことを言っている気がした。


「完全なる予知、つまり、ルチアは()()()()()()()()なのです」


「「え」」


 異口同音、マクシムとナタリアの言葉が重なる。

 言葉が難しかったからではない。

 ただ、マクシムに関していえば、発言に飛躍があるように感じたからだ。


「いや、未来を創造って……予知が?」

「ですです。ルチアは自分の望む未来の可能性をいくつか見ます。その中から選択することで未来を創りあげます。未来を創り出すことこそが『夢界』の本質なのです」

「でも、見る可能性にも限度があるんじゃないの?」

「ですです。存在しない可能性は選べないのです。ただ、どれだけ低くても存在する可能性を見出し、導くための能力が『夢界』なのです。たとえば、故人との会話や未来幻想の共有もその一端でしかないのです。おそろしく低い可能性でも実現してしまうのがルチアの能力です」


 もう少し分かりやすく言うと「百発百中で狙って宝くじで一等を当てることも可能です」とルチアは締めた。

 それは確かに破格の能力かもしれない。

 直接的な脅威はないが、最高の能力だ。誰もが持っている人間の未来を創りあげるという可能性。それを突き詰めた存在がルチア・ゾフという少女だからだ。


「ルチアに戦闘能力はありませんが、それは必要ないからなのです」


 実際は戦闘能力がないことでルチアにも制限はあるし、諦めた可能性も少なくない。

 だが、それをマクシムは知らないし、ナタリアだって分からない。

 特にナタリアは目の前の少女の得たい知れなさに気圧されていた。


「……そんなわけがないでしょう。今、あなたに危害を加えてしまえば、その創られる未来はご破算のはずですわ」

「はいです。直接的な暴力に弱いのがルチアですが、そういうことはさせないです」


 その言葉がトリガーだったのかもしれない。

 ナタリアが一瞬目を見開いたと思うと、それから表情がものすごい速度で千変万化した。立ったままだが、倒れないかとマクシムは慌てて傍に寄る。それくらい彼女の中で何か急激な変化が生じていた。

 怒りや悲しみの表情が多いが、あの世界を見たとしたら、マクシムとしても納得しかない。

 これで『夢界』による本来の歴史を体験しているのだろう。

 ルチアに確認する前に、ナタリアの表情の変化が収まる。収まった後にあるのは、落ち着いたいつものナタリアだった。

 ナタリアはため息をつく。


「なるほど。あれが本来の歴史ですか……。分かりましたわ。マクシムとルチアちゃんのことも一応理解はしましたわ……」


 物分かりが良すぎる気もしたが、それどころではないと分かってくれたからだろう。敏い妻で良かったとマクシムは内心で胸をなでおろす。

 それからナタリアはどこか呆れたように言う。


「ところで、ルチアちゃん。ひとついいかしら」

「ダメなのです」

「あなた、可愛くなりすぎではありませんか。あの世界では普通の女の子ではありませんか」

「ルチアだってこの可能性では可愛くなっただけなのです! どの可能性でも美人だからと偉そうにしないでくださいです!」


 それは激しい剣幕ではあったが、どことなく微笑ましい。そんな会話だった。

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