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九十三ノ怪 ディスカウントショッぷ…

『″おいっ、このクソガキッ!あんまりチョロチョロするなっ…つってるやろがっ!殺すぞっ!!″』


「……。」


ふむ……



ここは大阪の富◯林のディスカウントショップ、メガド◯キー2階、そのエレベーター内。まさに今、1階へ降りようとスライドドアが閉まっている最中だ。

その間取りが広いエレベーター内のスペースには、自分ケイジと妻の二人だけ。そして締まりかけのドアの隙間、その向こう側から純真無垢な瞳で慌ただしくも、必死に此方を覗き込む5歳前後の可愛らしい兄妹の姿が。

う〜ん…背格好から見て、背の高い方が兄ちゃんで小ちゃな方が妹さんだろうか?…と、そんな微笑ましい雰囲気を蔑ろに。まさか、このご時世…。我が子をキンキンの茶髪にしてる…?

そして恐らく、その背後…。この子たちを視界外、2階駐車場側から怒鳴りつけたであろう母親の酷い掛け声が……。いや、掛け声というよりもエグい罵声だった…


『ママッ、痛いっ!!』


完全にドアが閉まり、1階へ降下中のエレベーター内に聞こえてきた″殴られた″か″蹴られた″かによる子供の悲痛な叫び声…。それは″親が子を叱りつける行動、言動″とは、とても思えません…


「ここいらへんは…、ホント、この手の人間が多い気が………ん?」


(ゾッ…)


この密室で自分ケイジが嫌味混じりにそう呟くと、横にいた妻が「はぁ…」と重い溜め息を吐き捨て、視線でそれを肯定した。

…でも、実はその時。急に自分ケイジの背筋へ、その場にそぐわない強烈な悪寒が走っていました。何だ…!?ふ〜む…。これは己が過去に、親兄弟から受けた虐待がフラッシュバックしてしまったのが原因とか…??


…で。


チーン、チーン…


…とは2回鳴ってませんが…


(なら、書くなよ…)


チーン…。はい…1階へ到着で〜す。え〜っと、…さて…、降りようかな…?…と、下階に着いてエレベーターのドアが開いたのはいいが。その出口の真ん前を塞ぐ形で並んで立っている、この若いカップルって一体…


「……。」


…ってかさ?こいつらの目…。完全に先に乗って来ようとしているな…。普通、エレベーターは下りる方が優先…なのがセオリーじゃないか…?これはケイジの考え方が間違っているのだろうか…?


「ちっ…」


そこで横にいる妻が、たんまりと毒を含む舌打ちを炸裂…。しかし若い女性の方は抱っこ紐で赤子を連れていたので。自分ケイジは少し後ろへと下がり、エレベーター内のボタン位置へと移動。そして、開ボタンを押して…


「と〜ぞ…」


…と。


「あ…、ありがとうございます…」


気さくにお礼を言って、そそくさとエレベーターに乗り込んできた、白メッシュが混じる茶髪の女の子…と、もう一人の超無愛想な男性…。ん…?この子ら、まだ10代じゃないのか?ふむふむ…、これから色々と大変だろうけど頑張れよ…


(スー…)


その後、何事も無かったかの様に再び2階へと上がっていったエレベーター。それを振り向きざま、眺める感じにボーッと見ていたら、妻が突然…


「なぁ、今の見た?彼氏か旦那か知らんけど…。アレ…、頭、モヒカンやったで?怒ってるか何か知らんけど、なんかムスッとしとったし、無茶苦茶無愛想やし、あんなんで子供育てられるんかいな?ホンマ、世も末やな……ぶつくさぶつくさ…あーだ、こーだ……、はぁ…」


一瞬、俺もそれはツッコミどころ、思っちゃったりしたけども…。容姿や見た目云々よりも、「子供の為にどうするか?」…は本人おやたちの優しさ、考え方、意志の持ちようだからな。良くも悪くもだが……と、思いつつ…


「ふむ…。世はまさに世紀末、汚物は消毒だ…」


「はぁ?何それ…?アンタへ真面目に話を振ったウチがアホやったわ…、はぁ…」


漫画ネタが分からないからって、そこまで言わなくても…。いや…、もっと…、もっともっと俺を蔑んだ目で睨みつけてくれっ!はぁはぁはぁはぁはぁ…。違


そして店の入り口に運良く残っていた最後の一台のカートを手に入れ、幸先良し。いざ、混み合う店内へ突入…


やっぱり?流石の日曜日だな…。コロナ蔓延防止措置とは思えない人の入り乱れっぷりだ。ホント…、じぶんも含め、頭のおかしい奴等ばかりで嬉しいよ、まったく。しかも…


「ふむ。まさに激アツ、レインボーだぜ…」


「パパ、何が?」


「い、いや…。何でもない…」


「……?」


近くには当の本人たちがいるので、妻の確認をはぐらかしたが…。レジ待ちをしている客たちの髪がまた多種多様にカラフルな事。あ〜かぁ〜、しろぉ〜、きぃろぉ〜……。いや、紫か…。ふむふむ、まるで大阪の道頓堀辺りを練り歩いてるかの様だ。…と、そこで妻が。


「まぁ、いいけど…。じゃあ、わたしは″また″ピアス見に行ってくるからね」


「あいよ〜」


これは定例通り、妻は耳ピアスを見るのが大好きなのだ。…で、いつも″見るだけ″で一切買わないのだが…。ウホッ、家計にエコで優しい〜…。よって自分はその″空き時間、待ち時間″という大義名分を掲げ、大人げなくも、そそくさと一人駄菓子コーナーへと舞い降りる…


「息子がお菓子大好きだし、うん。うまい棒は美味いから美味いボーなんだ。それにチョコパイはある種、食の文化じゃないか?菓子界の遺産だよ。もう、買うしかないな…」


…とか、訳の分からない事を色々と呟きながら、これらプラス他の菓子を目一杯両手に持ち。赤面しながらも、素早くピアス売り場にいるであろう妻の元へと…。しかし、そこにある筈の″モノ″が何故か…


「あれ?ママ…、カートは…?」


「あー、パパ!ちょっと聞いてーー」


妻曰く、カートを横に置きピアスを物色していたら。どこぞのオバちゃんが通路を通り過ぎざま、まるで空きカートを発見して「あら、空いてるわ…」…といった感じか。黙ったまま、音も無く、それが当たり前か当然かの如く、妻の真横に置いてあったカートをスーッ…と持ち逃げしたらしいのです。

あまりのショッキングな出来事に、あの短気で過激な妻が怒りもせず、あっけらかんとした表情で棒立ち状態になっていたとか…


「脱力感がハンパないわ…、はぁ…」


普通、カートの横に人がいたら「このカート使ってませんか?」…とか、確認するよな?……ってか、自分ケイジの持ったままの大量の恥ずかしい菓子…どーしてくれるよ?


「こんなん有り得へんわ…。流石、富◯林や…。突然の出来事に、わたし目が点になってもーて…」


「あははは…、なるわな……」


…納得。


そして本来の購入目的だったトイレットペーパーをゲットし。妻の好きなマウン◯レーニアのコーヒーと、特売の商品数点を手提げ状態のまま買い足し、レジへ…


「……。」


で…、これはちょっと書いていいのか分からないが。…ってか、結局は書くのだが…。(おい)

ここの特売商品はレジで値引きされてない事がホントに多い……とか言ってる傍から再び背筋がゾッ…として。


…な、何だ…!?


(キョロキョロ…)


さっきの悪寒は、過去のトラウマの脳裏の一番奥の横の引き出しの二番目から引っ張り出したからじゃないのか?まさか別件バウアーだったか??

しかし慌てて辺りを目で確認するも、それらしい要因が全く見当たらない。…いや、ここには人が多過ぎてゴタゴタと何が何やら分からないんだな、これが…


「あ、ちょっとアンタッ!コレ、2個セットで値引きになってないでっ」


「へ?」


過去の経験から。ここの価格設定を疑って掛かっている妻は、金額が表示される精算ディスプレイをずっと睨みながら、チーズタルトがセット割りされてなかったのを見逃さない…。しかも「へ?」って何だよ…

そして指摘を受けたレジ打ちの女性店員は悪びれた様子も無く、素の表情のまま少し横へ流し目に、耳元のインカムを使って


「あ、店長?チーズタルト2個セットの値段なんですが、お客さんが…どーたらこーたら…ーー」


「……。」


しばらく待たされた後。やっと納得したのか、店員が


「はぁ〜い、じゃあ◯◯円に″しときます″ねぇ〜」


「……。」


え?「しときます」って何だ?指摘されたから仕方がないみたいな?こんな上からの物言いをされた挙句、謝罪すらない…。まるでお客様おれらの方が悪いみたいじゃないか…

…余談ですが、更に別の特売2点が値引きされておらず。後ろでレジ待ちしていた他のお客様は確認〜訂正する間、ずぅ〜っと顔を真っ赤にして待っていたと思われます…

しかも、その価格確認の時間がやたらと長い…。だって、手に提げている″少ない商品の中から3つ″もの特売が通常価格だったんだぞ?公序良俗に反し……ってかさ?毎回、毎回、何かしら商品価格を間違っているのはワザとか?そうなのか?店長…?


「これで全部ですね。はい、どうぞ〜…」


この店員さんはラストまで、何事も無かったかの様…。はい、お疲れさん〜…な感じで…


レジ打ちの人からは最後まで「ありがとうございました」や「ご迷惑をお掛けしました」等のお礼や謝罪は無く。こちらはあまりにもアホらしくて、首を傾げながら荷造りカウンターへと移動しました。


「何?あのレジ打ちの女、全く謝れへんかったなっ。それに普通は『ありがとうございました』やろっ!」


…と、そのレジの女性に対し。″絶対に聞こえているであろう、大きな声″でボヤく妻。流石、俺の鬼ヨメだぜ…。(泣)


「あははは…」


自分ケイジは始終、超低トーンだったが、笑うしかないなコレは…。そして荷作った袋を提げ……ってか、カートを地元の刺客おばちゃんに強奪されてしまったからなぁ。(更に笑)

そして商品が山積みの狭小通路をテクテク、トコトコと通り過ぎ。…で、運が良いのか悪いのかは分からないが。


(ウィーン…ブルド……)


丁度1階エレベーターがタイミング良く降りて来たので、中へ入ると………え?もちろん自分ケイジたちは、降りる方たちを優先しましたが何か?テヘペロ。


「ママ、乗ろうか?」


「はいはい」


返事は二回もいらないぜマイハニー……とか。鳥肌を立てながら、心の中で小さく呟いていると。ほどなくして…


(ブルブル…)


別の本気の鳥肌が…、これは寒気や軽い貧血…?いやいや…、吐き気というか、餓死寸前の限界を超えた空腹感に苛まれているというか…

続き、サー…と大量の冷や汗が全身の陰の部分から溢れ出し。同時に我が耳元へ、あの怒鳴り声が…


『″このクソガキッ!さっきから、走るなって言ってるやろがっ!!″』


…と。


(ドタバタ、ドタバタ…)


こ、この声の主は……


「……。」


今までにも何度か体験した事がある、この体調不良に似た嫌悪感、焦燥感…?もちろん物理的、生理的な現象ではなくて…

へたり…と、自分ケイジは背からエレベーターの奥へともたれ掛かり、少し俯き加減「これは…何処かで聞いた声だ…」と、すぐ心霊体験をしている認識に至る。


あ……


それは確か来店時…、最初にエレベーターの2階から降りる際。小さな兄妹に向かって吠えていた、あの口の悪い母親の声だった…


(ゾゾ……)


運の良いか悪いかは、やっぱり引きの甘い自分ケイジだからか…、悪い方だったみたいだ…


(これ…、多分ヤバいやつだ…)


慌ただしくも、後から最初にエレベーター内を覗いていた、あの小さな兄妹が乗ってきて


「……。」


続いて例の母親もエレベーター内へと入ってきました…。見た目は大凡30歳くらい?子供をすんごい茶髪にしているから母親も超茶髪かな?…と思っていたら。案外、あっさりとした黒寄りの薄茶。…ってか、ボブのホボ黒。


(ウィーン…ブ……)


日曜日は仕事か何かで、旦那さんはいないのか?…とか、そんな事はどーでもいい…。今、自分ケイジの体調が異常をきたしている理由…、それは間違いなく″この女性ひと″の所為だ…

そこでスライドドアが小さな音を立てながら静かに閉まり、頼んでもいないのに、この二家族からなる陰鬱な閉鎖空間が生まれてしまいました。


「……。」


現状。その女性の子供…、兄ちゃんの方は妹さんにボコられていて。でも兄は兄らしく笑いながら優しく妹を撫でて、からかっていた。しかし自分ケイジの中では、そんな微笑ましい兄妹の仲よりも、目でその不気味な原因れいの存在を必死に追っていました。


今ここに″確実にいる″…


まずは、いつも通りに下を先に見る。次は横だ。床は汚れ、エレベーター内の壁には色々なカラフルなデザインのポスターやら広告、中にいる人間で、その″霊″を確認すら出来ない。すると、その女性が


「うるさいっ!こんなトコでちょけるな!アホがっ!!」


「…はぁーい…」


他人がいるからか、さっきよりはマシな叱り方だが…。丁度そのタイミングで、エレベーター内の天井ライトがブレる…。それは自分ケイジ以外には絶対に見えてないであろう微妙な陰りとでも言おうか…。そして、ふと天井を見上げてみると…


(ひぃ……!?)


 ……………


じぃ〜………………ーー


 ……………


脚元は見えず。腰辺りからエレベーター内の天井壁を突き抜け、重量という概念を無為に。逆さまになりながら、ジッ…と、その暴言女性を見つめている男性れいが″そこ″にいたのです。

半透明ながらも、色が抜けた様な土色の顔。逆向きにだが、だらんと垂れ下がった肩と両腕…。霊感が弱い自分ケイジにも結構ハッキリと、その全体像が見えているのは何故なのか…?

昔、自分の実兄弟であるナガ兄の霊と遭遇した、薄っすらと優しく切ない感じではなく、かなりの恨みや念のこもった威圧的なモノを肌で感じてしまいました…


(む、無視だ。徹底的に無視しよう……)


あまりの異様な雰囲気に、すぐさま足元へ視線を戻し完全無視を決め込みます。こんなに攻撃性を感じる霊なんて滅多にいません…。ある種、殺意すら肌で感じてしまう程でした。やがてエレベーターが2階に着くなり、その家族はサッサと駐車場の方へと歩いて行きました。そこで妻がやっとこさ自分ケイジの異変に気づき、優しく声を掛けてくれて…


「パパ?どーしたん?死んだんか??」


「……。」


勝手に俺を殺してくれるな、マイハニー…。次は生命保険の確認か…?しかし自分の身体は、未だブルブルと震え、緊張が解けておらず…


(バタバタバタバタバタリアン…)


そのまま次の客がバタバタと、このエレベーター内に乗ってきちゃいました…。そして妻は何かを察知してくれたのか、小さな溜め息一つ、再びエレベーターの昇り降りに付き合ってくれたのです。


やがて、次の2階に上がったタイミングでエレベーターを降り。駐車場に停めていたマイカーへと乗り込むと…


「″あの家族″もう、いないよな…?帰ったか…?はぁ、良かった……。で…、ママ…実はな…?」


「うるさい!言わんといてっ!」


「いや、だって…」


「アンタは″言わんといて″って、言葉の意味が分からんのかっ!!」


「はい…、もう、言いません…」


流石、勘のいいおんなだ…。この手の話が大嫌いだからな…。結果として妻には、一切何を見たか等の話をしていません。したら恐らく″あの霊″の仲間入りとなってしまう事でしょう…(泣)


いやしかし…。あんな″真の祟り″みたいな気を放つ幽霊なんて初見かもしれません…。あの女性が過去に遺恨を残しフッた男性でしょうか?それとも、彼女に恨みをもって亡くなった旦那さんとか?あと…、考えたくはないが…彼女に対し怨みを持ち、自殺か…殺されてしまった人物かもしれませんが…

勿論、これらはバカな自分ケイジの妄想です…。近寄れば確実に自分の身体が拒絶反応を起こすし…、出来れば二度と″あの女性″とは遭遇したくないものです…





完。

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