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九ノ怪 死者が住む古民家

そう、あれは自分ケイジが小学生三年生くらいだった…かな?いい加減ですいません…

で、自称とても可愛らしかった小さな男の子な頃でもあります…か?(何故聞く)

父親の仕事は不動産。オラ、オラ、出て行け、出て行け、引っ越し、引っ越し…は、しない、至って平和的なお仕事です、…多分。


そんなこんなで、ある日の事。その父から祝日に、何故か強引に京都の大江山麓にある古びた茅葺かやぶき屋根の古民家へと連れて行かれる事になってしまいました。…で、その移動中の車内


「おい、ケイジ。お前はな?今日は誰と会ってもニコニコ、ニコニコしていたらいいんや。笑っとくだけやぞ?簡単やろ?上手くいったら何か買ったるからな?」


…と、全く内容の無い意味深な言葉を自分に吹っ掛けてきました。しかし父と会うのはホント久しぶり。家に滅多に帰って来ないのに、いきなり帰って来て「お前、今日は休みだろ。行くぞっ。」と、何が何やら…。まぁ、この後。自分が連れて行かれた理由が判明するのですが…


しかし大阪から現場までは数時間の長い道のり。会話も無く父と一緒の車内は息が詰まる。そんな時ふとサイドブレーキの横に置いてあるコカコーラが目につき。気分転換も含め


「このコーラ貰っていい?」


と、無理矢理家から引っ張り出されたので、ここぞとばかり権利を主張する自分ケイジ


「おお、飲め飲め、安いもんだ」


この言い方…。我が子を商売道具と彷彿させる様な言葉だな…。金になるなら平気で人を売り飛ばしかねませんからね。この人ばかりは…


「ありがと…」


ですが今は真夏。暑くて車内で長い時間加熱されていた″ソレ″は…


プシュ…。″熱っ″…″ゴクゴク…″…ぷっはぁ〜…う〜ん。うぷっ、ホットコーラァ…


その後。自動車の安全運転がなんたるかを全く理解していない父親の所為で、とてつもなく、非常に、危険な感じて胃の中が核融合し…


「と、とめて…ぅぅ…」


「!?」


高速道路の退避場にて急停車。あとは″キラキラキラキラ…″。所謂、車酔い…。うぷ…。食事中の方々、本当にごめんなさい。そしてその表情は土色で青褪め、自分が幽霊になりました。はい、今回のお話はおしまい…(すいません、嘘です)



…と、本日。酷く最悪なスタートをきってしまった自分ケイジ。取り敢えず出す物は出して、座席を倒し横になり、ある程度気分が回復したので再び現場へと向かっていました。そして運転しながらも、父は自分を心配して…


「おい、大丈夫か?」


「うん。もう、大丈夫…だょ…」


相手きゃくの前で、しんどい顔すんなよ?はぁ…」


父親の心配は、実は仕事上の心配でしたが何か?う〜ん辛辣っ。ほんとに尊敬できる偉大な方だ。

そして高速道路から降り国道へと入り、やがて細い一般道へと続けて入りました。


「あー、それから。今日のお客さんはだな?子供のいない結構年配な夫婦や。特に奥さんが無茶苦茶子供好きみたいでなぁ?だからケイジ、頼んだぞ?」


「…え?」


…と、現場到着寸前に完全想定外な無理難題を吹っ掛けてくる父。まるで極刑…。そんな大役話をサラッと流し程度に言いますか?それに、まだホットコーラが依存していて凄く体調が悪いんですけど?いや、寧ろ最悪と言っても過言では無い…うぷっ……と心の中で叫ぶ自分。

誰でもいいです。一度ホットコーラを飲んでスタントマンが運転するアクションシーンの暴走車に乗ってみて下さい。ある意味、同じ臨死体験出来ますから…


やがて周りは山、山、山。ほとんど舗装もされてない凸凹な砂利道へと突入。見た感じ、長閑で″ザ・田舎″って感じの場所へと到着してしまいました。悪路は体調不良者には酷ですが目的地まであと少し。頑張ろう…

すると周囲には田畑や小川が見えており、鳥は囀り、美しい景色が視界に飛び込んできました。そして″日本昔話″で見た様な茅葺屋根の古民家ばかり。…で、その内の一つ。ポツンと建つひとつの一軒家前に車を止め、父はベルの無いその家ドアをトントンと強目に叩きます。


「あの〜、すんません」


「……ん?なんじゃ?」


するとガラガラ声のお爺さんが家の中から出て来て。地図を片手に、父は目的の場所を聞いている様でした。そして納得したのか頭を下げてお礼を言い、その父の去り際。そのお爺さんは、ある一軒の古民家を指差しながら


「あー…、夜になると、いつも人が立ってるでよ?あんまり行きなさるな?」


…と、一言。


「あ、知ってますんで、大丈夫や。教えてくれて、ありがとうやで」


父がそう返す。

え?何それ?何の話?自分ケイジは父親からそんな話、全く聞かされてませんが?で、今の二人のやり取りは一体何だったのか?そんな事を考える余裕も無く、自分は徒歩で強引に腕を引かれながら、その目的の古民家へと到着してしまいました。


(ゾワッ…)


それが一番最初に、自分の背筋へ感じた強烈な違和感でした。ガラガラと開きの悪い傷んだ木製の扉を強引に開け、更に中へと連れて行かれます。


「もうすぐ、お客さん来るからな?…なんや。別に言われていた問題も起きんし大丈夫そうやな?これならいけるやろ」


(…何が大丈夫なの?)


一体何が″いける″のだろうか?いくら小学生の自分でも一連の流れからその問題の回答が少しずつ見えてきました…


(まさか…)


その瞬間、幅2センチ程でしょうか?奥の土製竈門付近にある障子の隙間から、誰かが此方を覗いているのが見えました。しかもいくら屋内が暗いからといって、その人は人間らしい肌色じゃなく。不気味に灰色っぽくて…。オマケにこの建物内は現在無人のはずでは…?恐怖を感じ始めた自分は、慌てて父親のスラックスを強く握り締め、震える指でそのヤバい何かが見えた場所を差し


「誰かいる…よ?」


…と、そう言っちゃいました。


(ゴンッ)


すると父に軽く頭を殴られ


「ぃあ″っ…」


「バカな事を言うんやないっ!特にお客さんがいる時、そんな事言ったら絶対ダメやからな!!」


理不尽に怒られる自分。その父にグイッと腕を引かれ、そんなモノはいないとばかりに、自分の目の前で問題の障子を開けられました。すると


(スー…)


「……ほらっ!誰もおらんやろっ!」


「うん……」


確かに部屋には僕が見たであろう何かはいませんでした。障子の仕切りから他の部屋に移動したら、何かこ擦れる音が鳴る筈です。しかし自分たち親子二人以外の物音なんて一切聞こえてきませんし


と、そんなやりとりをしていたら…


「こんにちはーー」


先に父が言っていた年配の夫婦らしき人が、この問題物件へとやって来たのです。見た目にも凄く優しそうな老夫婦でした。間違いなく父の言っていたお客様でしょう。ちょうどタイミング良く来てくれて助かった感は否めませんが。

建物内は異様で怖かったし、これ以上父に怒られたくなかった自分は、慌ててお客様がいる屋外へと逃げました。


「こ、こんにちは…」


しかし外へ出る時、逆光で見え辛かったのですが。確かにシルエットは三人いた筈…。だけど今、自分の前には笑顔を見せる年配の老夫婦二人だけ…


(目の錯覚…!?)


やがて段々と状況が飲み込めてきた自分の心中は、既に罪悪感でいっぱいに。気が咎め完全ブルー状態に…


「あ、まいどーっ!わざわざお越し頂き有難う御座います。それでですねーー」


父親の話す内容を聞いていると、この建物は支柱となる大黒柱等を残してリフォームされるとの事。そして父が旦那様の方へずっと説明しているのですが。その間、奥様の方にはキスされたり、抱きつかれたり、名前やら年齢やら根掘り葉掘りと聞かれたりしました。けど、ちゃんとその奥様の話をいたのですが…


「わたしはね?子供が産めない体で…。ウチの人と一緒に飼っているペットを可愛がりながら、ゆっくりと余生をおくれる場所を探していたの…」


…と、それは寂しげに語っておられました。この女性には色々とされましたが、それは優しい愛情の裏返しと思え。自分の行いは、そんな純粋な女性の気持ちを裏切り、踏み躙る行為だと。そしてそれを阻止出来ない自分に子供ながら心が切なくなり、怒り、知らぬ間に涙が自分の頬を伝っていました。


「ご、ごめんねケイジくん…。オバさん何か変な事言っちった??」


「違う…。オバちゃんが…何か…可哀想で…。僕……」


「??あ、ありがとうね…」


結論から言うと…、この取引は自分の所為で一発成立したらしいです。あの遺恨が残る、奥様が言った最後の「ありがとうね…」。自分の心に深くトラウマ的傷を残しました…

そして約半年後。やっと家に帰ってきた、いつも行方不明の不良親父。今がチャンスとばかり、あの年配夫婦がどうなったのか?その事を一番初めに聞きいたのでが…


「父さん…。野球の試合見てる時に悪いけど…。あ、あの夫婦は問題無く、うまく住めているの?」


「あの夫婦?誰やそれ?」


呆れた事に、父は全く覚えていない様でした。だから少し強目の口調で…


「大江山で、僕に年配夫婦の相手をさせたでしょ…?」


「………あ〜、あれか。売れた、売れた。ありがとな」


と、超あっさり。そこで父親の会話は終了。再びプロ野球のテレビ中継に没頭する父。同居する、この父親の実母である性格破綻者な祖母と同居してるのですが…

自分の親ながら″祖母諸共、感情が欠落している一卵性親子″…って言ったら殺されるから、再び心の中でそう呟きました。しかし次に父親に会えるのがいつになるか分からなくて、気になる自分はしつこく


「あ、あのね…?」


すると、しつこい自分に対して父は…


「はぁ、だぁからなぁ…」


そう、父は吐き捨てる様に言うと。テレビを見たままの姿勢で


「俺の商売は売ったら、そこで終わりや。後がどうとか、どうなったとか、買った本人がこれから決める事やろ?だから俺は知らんし、もう聞いてくんな」


…と、そんな捨て台詞を…。その後、自分は父親に何も言えなくなりました…。こんな親でも子供じぶんたちを食べさせてくれているのですから…。今でも、その年配夫婦がどうなったのか気になりますが調べようがありません…。それに「上手くいったら、何か買ってやる」と父は言ってましたが、あれから30年以上経ち。一体、それはいつになるのでしょうか?ある意味、こちらの方が果てしなく怪奇現象ですが…





完。

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