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八十一ノ怪 浪速の花子さん

「″この学校せかいのトイレの闇に堕ちし花子さん、花子さん、花子さん……。どうか現世ここへ顕現してください…″」



ーー………



「″花子さん、花子さん、花子さん……。だからぁ、早く出てきてくださいよ″」



ーーカタッ…カタカタッ…



「″花子さん、花子さん、花子さん……。三回、3セットで呼びましたよ?そうやったら出るんでしょ?いい加減に出てきてくださいって…″」



ーーガタンッ!!



ここはとある小学校内。

今は夜更け過ぎで無音、静寂…、真っ暗な校舎内は人っ子一人いはしない。その校舎三階突き当たりにある使用歴の少ない女子トイレ…

そんな静まり返る不気味な場所トイレで、闇に紛れ″もののけの類い″である『トイレの花子』さんを呼び出そうとしている人物が一人。


「は〜な〜こ〜さぁ〜ん〜…。で〜て〜きぃ〜てぇ〜く〜だ〜さぁ〜い…」


すると一番奥の一ヶ所だけドアが閉まっていた個室から、その鬱陶しい四度目の呼び掛けに対し…


『あー…、あんたは……誰や?』


と、少し呆れ気味に不機嫌且つ掠れた″声だけ″が聞こえてきます


「……ボクはーーだよ?」


『へ?名前…、ちゃんと聞こえへんかったけど…?ま、まぁエエわ…。で、ウチはこう見えてれっきとした″れでぃ〜″やで?それやのに約束も無く、いきなり呼び出すとか…。アンタ?これはウチに対して失礼に当たるんとちゃう?』


と、突如現れた″浪速の花子さん″ 。かなりご立腹の様子です。その害した気分に併せてか個室全てのドアはガチャガチャと開閉し、軽いポルターガイスト現象が発生中。


「あ、ごめんね花子さん…。すっごく君に会いたかったから…。でも、ガラガラ声だけど喉は大丈夫?」


『ウチはこういう設定やから大丈……って、何言わすんやっ!ち、違うからなっ!こういうキャラやねんっ。何か文句でもあるんかっ!?』


「全然ないよ〜」


『素の返事…?なんかムカつくんやけど…。ま、まぁ、それやったら別にエエわ…』


やがてトイレの花子さんを呼び出した謎の人物は、その花子さんのいるであろう一番奥の個室前へと移動し、軽くドアを叩きました。


(トン、トン…)


「ねぇねぇ花子さん?話すだけじゃなくて、早くトイレから出てきてボクと一緒に遊ぼうよ…?」


『え?真夜中にわざわざウチのマイホームにやって来て遊びたいって?またまた凄い物好きで酷く酔狂なヤツがおったもんやなぁ…。…ってかさ?アンタ。男子やろ?』


「そうだよ〜…」


『こ、ここは女子トイレやでっ!?平然と男子がココに入ってきてウチをお誘いとか、アンタ変態か?マジモンの変態かっ!?警察に通報したらアンタ、確実に即逮捕やでっ!?いや、もういっその事捕まってしまいっ!!』


「捕まるも何も…、こんな真夜中の学校になんて誰も来ないよ?」


『あーぁ…、鋭いツッコミやなぁ…。芸人としてはダメダメやけど、言われてみたらその通りや。……ってか、何で逆にウチが気ぃ遣ったり、小っ恥ずかしい気持ちにならなあかんねんっ、おかしいやろっ』


「ごめんね、花子さん…」


『あ、改めて…、ちゃんと謝られてもウチが困る』


(トン、トン…)


そこで、男の子は再度優しくドアを叩き…


「花子さん、花子さん…早く出てきてよ?」


『え?アンタ、そもそもウチの事が怖くないんか?あの有名な「花子さん」やで…?むっちゃ恐ろしいんやで?しかもこの姿見たら◯◯◯かもしれんで??』


(トン、トン…、トン、トン…)


「早く遊ぼうよ…」


『あ″ーっ、何せかしとんねんっ!ウチの質問は無視かっ?無視すんのかアンタはっ。気ぃ遣こうて先に「怖くないんか?」…って聞いてやってんのにっ、返事くらいしいやっ!?ホンマ失礼なヤツやなっ!』


(ドンドンッ、ドンドンッ!)


『ちょっ、急に無茶苦茶ドアを叩かんといてよっ!ウチのマイホーム壊す気かっ、このっドアホッ!タチの悪い、しつこ過ぎるストーカーかアンタわっ!!』


(ドドンッ!ドドンッ!ドドンッ!)


『ひぃーっ!?や、やめっ!!い、いっぺんウチのいたぁ〜い愛の花パン(ぱんち)でアンタのドタマ、カチ割ってもうたろかぁーいっ!!』


(ガチャッ!!…バァーン…!)


この謎の男の子がマイホームのドアを無茶苦茶叩きまくるので。完全にトサカに来てしまっていた、怪異らしからぬ花子さん。トイレの外開きドアを思いっ切りフルオープンしたのですが…、しかし


「あ、花子さんだぁ〜…」


『え?え〜……っと』


「ねぇ、ねえ…早く遊ぼうよ〜…」


『だからぁ〜…』


「だからぁ?」


『ア、アンタは一体何処におるんやっ!殴られへんやないかぁーいっ!』


「此処だよ…」


その声は窓の外から聞こえている様に思えました。仕方無く花子さんはフラフラと宙を舞う様、窓際まで彷徨い行くと…


「花子さん〜…、此処だょぉ〜…」


『……。』


校舎三階のトイレ窓から見える、月夜に照らされたグラウンドの一番奥手。端の方にある砂場からフワフワとした感じに手を振っている人物が一人いました。


『ん〜?え〜…?″アレ″は…一体誰や…?…あっ!!』


「花子さん〜早く〜、こっち、こっち〜…」



一体、砂場そこに立っていた人物とは…?



『ひ、一人遊びの″たけしくん″ちゃうのっ!?』



同じ、もののけの類。花子さんを誘っていたのは実は怪異″砂場のたけしくん″でした。


『いゃぁ〜、一人遊びとかウチが許しても世界が許さんわぁ〜…。もう黙って、そこでずっと一人で遊にんどきぃ〜…。″口裂けちゃんや置いてけ堀姉ちゃん″も「アイツと一緒にいたら白い目でみられるで…?」とか言われとったしっ。トイレボッチ派としてもアイツと仲良しとか絶対有り得へんわっ』


「花子さん〜…」


『…ってか、何でアイツはずっと笑顔なん?やたらと馴れ馴れしいし…。え?もしかして恋人気取りとか!?ないわぁ〜…。いくらなんでも、そりゃないわぁ〜…』


「花子さん〜…」


『ま、まぁ、見方によったら顔は可愛いらしいと思うけど?素直にウチ好みかもしれんけどぉ…、でもなぁ〜…、やっぱりなぁ〜…』


「花子さんって〜…」


『ア、アホッ。ウチかって心の準備…ってもんがあるやろっ。そんなせかして、押せ押せでこられたら…、ウチかて、もう…、ああっ!』


「花子〜…」


『な、何でそこで呼び捨てやっ!?まるで彼氏気取りかっ!ウ、ウチはそんな安い女やないでっ!』


「こっちおいでぇ〜…」


『……。』


「ここには砂がほらっ、こんなにたくさんあるょ〜…」


(ザザ…、ザザ…)


『…………。ホ、ホンマに…。しゃあ〜ないなぁ…』


「いらっしゃい、花子…」


『う、うん…』


「これ見て?砂の山で可愛い花子を象ったよぉ〜」


『…ふ、ふん。こんなんで面食いなウチは簡単にオトされへんで?たかが砂やろ?こんなもん基本からなってないわ。まず、ウチに対する真心がこもってへん!』


「じゃあ、花子の顔の部分の砂をちょっと崩してみて?」


『……?』


(ザザ、ザザ…)


デザインは″花子さん風″な砂の山。いつの間に作ったのか?でも花子さんは素直に、その自分の顔の部分であろう、砂を少し払い落とすと…


『ひゃっ…』


月夜に照らされた砂地の下。そこに浮き出る様に現れたのは、経年からか光沢を帯びた真っ白な髑髏しゃれこうべでした…


「じゃあ〜ん…。花子の人型に合わせて、この砂場にはボクの骸骨からだが埋まってましたぁ〜」


『ア、アンタッ!ウチになんちゅーモン掘らすんやっ!!怪異を吃驚させるって何っ!?』


「…これで花子とボクは…、もう一心同体だね…?」



『えっ…?』



(ポッ…)



……



…………




「ーー…という事があって。″たけしくん″に口説かれ心底ホレてしまった″花子さん″。『砂場の花子とたけし』に怪名かいめいし、学校の砂場の怪異として末長く一緒に暮らしましたとさ?……めでたし、めでたし…ーー」


……


『……。』


「……えーっと、全く意味分かんないだけど…。″ケイジ″くん『めでたし、めでたし…』って何?まさかのオチ?それの何処が″怪談話″なん…?」


「いや、ホントにあったら″ある意味怖い″だろうなぁ〜…っとか思った的な?」


「″マユ″。こいつ(ケイジ)の与太話を真面目に聞いたらダメだって」


「……。」


ーー改めて。ここは関西の某有名大型公園。時間的には薄暗い夕暮れ時だが、立ち並ぶ高い樹木の所為か辺りは見上げる空以外漆黒の闇である。

そして園内に数カ所点在する一つのトイレ横で、懐中電灯を片手に肝試し的な怪談話に没頭中なこの″四人″。


「″ワダ″…それを言っちゃあお終いだょ。『ここで怪談話をしよう』って、言い出しっぺはお前だろ?…俺はたださぁ…?夜の、こんな薄気味悪いオドロオドロしい場所で『″変なモノ″』を呼び寄せたくはないんだよ…」


「ケイジくん…、そっちの方が話怖い…」


「このケイジばかりは、いつも格好つけやがって」


「……。」


実は怖いし、さっさと帰りたかった自分ケイジ


「俺はもう、さっさと家に帰った方がいいと思う。だって…」


『だ、だって…?』


その振りに対し皆が震える声を揃え、心の奥底に潜む畏れを隠しながら、その理由をマジマジと聞いてきました…


「だって…」


(ごくり…)


…でも、そんなものは有りはしない。

″だって″これは建前&雰囲気だけの嘘…

自分ケイジは色々な悪意あるモノを呼び寄せる肝試しをするのがリアルに怖いだけ。だから、そこで適当にマユという女の子の背後を指差して


「ほら…。マユのう…しろ………に……?」


『…え!?』


…と、言ってみたはいいが。


(ゆらぁ〜……)


「……。」


こういう場合。冗談半分的な嘘で済む筈なんですが…。万が一にも、そこに偶然″リアル幽霊がいた″場合はどうなるのか…



「ごめん…」


(ダダダダダ…)


取り敢えず、気持ち先に謝ってから即猛ダッシュ…


「この臆病者!もう大嫌いっ!」と言われてもいい。「最低な男!あんたクズねっ!」なんて中傷もウエルカム。

でも希にしか遊びに行かない国立公園で、しかも完全真っ暗闇。自分ケイジは方向も分からないまま、がむしゃらに走りました。そして「これはマラソン大会か?」ってくらい、何故か綺麗な列になって後から必死についてくる友達連中…


「はぁはぁ、あ、はぁはぁ……」


やがて呼吸は限界を迎え、公園内の明るい街灯下で百足ムカデ一同は立ち止まりました。

だって自分ケイジは喘息持ちだ、無理すれば酸欠窒息死で幽霊の仲間入りになってしまいます…


「ケ、ケイジ…はぁはぁ…。な、何がいたんだよ…?」


「そ、そうよ…、何がいたの…?」


「はぁはぁ……」


友達は何のオブラートも無く、そう直接聞いてきましたが…


「いや、聞かない方がいい…」


「って、″またソレ″かよ?」


「え〜…、やだぁ…」


「……。」


う〜ん…。ワダよ…「″またソレ″」…とか言わないでくれ…。怖いものは怖い。これは人間の五感…本能とも言えるモノだ…


普通、道を歩いていて急に車が突っ込んできたら眺めてるだけですか?いや、当然の如くその場から死に物狂いで″逃げる″でしょう?だから、これも「同じ事」なのです…

…え?あ、はい。只の遠回しな言い訳です。すいません…


そして自分ケイジは少しキム◯ク風に…


「おいっ、待てよっ!」


そうワダに声を掛けました。


「はぁはぁ…、さっきから待ってるよっ。お前が立ち止まった″こ・の・ば・しょ″でっ!」


ただ、そのツッコミが聞きたくて…。そしてここでメンバー整理を致します。


まず一人目に、一応?勝手に主役の自覚すら無い最低、最悪、非人道的な男。「誰がやねん!」…名前が敏腕刑事…っぽいだけな?こと「ケイジ」。


二人目には、一応それなりに霊感を持っていたり持っていなかったり。世紀末的なアンラッキー男であり、自称″頼れる男″こと「ワダ」。


三人目はもう只のギャラリーと化していた、全く霊感ゼロなのにパワースポットが大好きな迷惑女子こと「マユ」。


そして最後の四人目………








「ケイジくん…」


「サ…、″サキ″さん何?」


と、そんな彼女は薄気味悪い苦笑いを浮かべながら…


「あれ…。酷く窶れた……お婆さんだったよねぇ〜?」


「せ、正解…」


「うふふ……」




こわっ…





完。

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