八ノ怪 滝畑ダムの死霊
関西の心霊スポットとして有名な滝畑ダム。その周辺は色々な寺、墓場や火葬場が有るのを知っていますか?普通に有名なのはトンネルに出没する幽霊話があったりと。他にも多種多様で危険な噂が多く、絶対に何かありそうなのですが…
そんなある日、仕事の休憩時にバイク好きで霊感の強い部下、ユウが滝畑の怖い話をしてくれたのです。トンネル内がライトアップされている第一、第二トンネルに出ると恐れられている霊は、実は通りすがりの浮遊霊だという事らしいのですがーー
「滝畑ダムの幽霊話。ネットやデレビとかでやってますが、信じちゃダメです。あれは毎度変わる、ただの通りすがりの霊か只の自然現象です。もし幽霊に会えばラッキー程度に思っていた方がいいっすよ?」
「へ、へぇ…そうなんだ?幽霊と出会ってラッキー…なんてヤツはいないと思うけど…。じゃあ、出るには出るんだね?偶に……か?」
すると彼は首を振り″違う、違う″と、それを否定しました。
「普段から彼方此方に霊…いえ、思念体みたいなのが存在するっすよ。ただ、あの″トンネルはいわく付き″。そう恐怖する人間の気持ちの波長が合えば″ソレ″が見えるだけっす。まっ、合っても大半の人は俺みたく見ええないっすけどね?テレビの霊媒師も嘘ばっかり…、本当に見える連中はその苦い経験から、ひっそりとバレないように生きてる人が多いっすよ…」
彼はその能力で過去に酷い目に遭っており、少し元気がない様に見えました。″霊″が見える者と見えざる者。前者は色々と苦労が絶えなさそうです…。
そう…、ユウは過去に母親へ霊が見えると言っても信じてもらえず。毎度の訴えに嫌気が差した母親は父親と兄弟を残し蒸発したと言っていました。それ以降、彼は他人に一切霊感の話をしなくなったらしいですが。自分には何故か心開いてくれて…
「ごめんねユウ。何か…、悪かった」
「い、いえっ。これは自分の話っすっ!ケイジさんは何も悪くないっすよっ!ただ、滝畑にはトンネル以外にもっと強烈な場所がたくさんあるっすから…」
「えっ?」
別の話なら、脇道にそれた第三トンネルの霊だったか?それ以外にもまだあるのか?
興味がわいた自分は、それを聞こうとしますが。ユウの辛い過去を思い出させてはならないと思う優しい心がそれを邪魔します。どうすればいい?聞けば、また彼を苦しめる事になるかもしれない…。心の中で善と悪が葛藤を繰り広げている…
「その場所はっすね。実は…」
「って、話すんかぁーいっ!」
「あ、はい。話すっす」
ユウ…。いくらなんでも、そんな簡単に…。俺の良心を返してくれ。はぁ、…まぁ、いいか。
「うん。聞かせて?」
「あははは。実は、それわっすね…」
そこは自分にも簡単に分かる場所でした。基本、問題の場所以外にもその周辺は自殺者が多く、かなり危険らしいです…。滝畑ダムには綺麗に舗装された道、サイクルスポーツセンター側からだとトンネルを二つくぐり簡単に滝畑ダムに行けますが…もう片方の道。曲がりくねった険しい山沿いで、車の対向車とすれ違うのがやっとな山道があります。要はそこの狭い道の中程に、木が道路へ覆い被さる様に生えている場所があって、空気中が澱み、凄く危険との事でした…
「大体わかるけど…、道が狭いし、あっちは車で走らないなぁ…」
「それとっすね。本当にヤバいのがもう一つ…」
「って。まだ、あるんかぁーいっ!」
ユウのコンビネーションにたじろぐ自分。ツッコミも含め、既にイイ感じに彼の術中にハマっている状態でした。どうしよう…、てか、もっと術中にハメて下さい…はぁ、はぁ、はぁ………取り乱してすいません…。
「トンネルを抜けたら、左にダムが見えて…」
彼は行き先を軽く説明してくれました。それはトンネルを抜けダムを無視し、その大きな川沿いをひたすら真っ直ぐ進みます。途中、左手に車で入れるトイレ休憩所。更に進めば左手に釣り堀のある小さなドライブインが見えてきます。
そして更に真っ直ぐ進もうとすると、ドライブインから先は右手が崖になってる小川があり、急激に道が狭くなるのです。途中、道が開け。コンクリート製の幅広い駐車場がある川沿いのキャンプ場があって。そこを抜けると、すぐに川を跨ぐ小さな橋が見えてくるのですが…
「その橋を渡ると直角に道は左へと続いてるんすけどね?」
「ああ、わかるわかる」
「問題は橋を渡っても左に行かずに、袋小路のすぐ右手っす…。あそこ、かなりヤバいっすよ?ただでさえ、周囲でも自殺者が多いのに…。恐らく自殺した霊っすけど、周囲も巻き込む渦になっていて、その場所の怨念はかなり濃くて、強烈で…」
「!?」
ホワイ?ちょっと待て。いや、待ってください。ユウの言った場所は良く知ってるよ?対向車を避ける為の車一台止めれるスペースがある場所だろ?
今は採れる数が減りましたが、冬はそこのキャンプ場がお休みなので子供と野苺狩りに行ってましたよ?山手の至る所に野苺が生えていたので、そのキャンプ場から出て橋を渡って、その危険な現場にもしっかりと行きましたが何か?
「ちょっと待ってよユウ、俺さ?娘たちと野苺狩りしててさ?まともに、その場所に行ってしまったよ?そしたら崖の岩肌に疑惑の花束が何個も置かれていて…。″ゾゾゾッ″として、振り向かずその場からすぐに離れたけど…。そう言えばさ…?一番下の息子が何度も何度も振り返ってその場所を見てたんだ…。理由を聞いても言わないし…。かなり…ヤ、ヤバいの…?」
「あ。今もケイジさんの後ろに、そこの悪霊いるっすよ?」
「ひえぅっ!?」
声にならない声で驚く自分。それを見た彼はクスリと笑い
「あははは、冗談っすよ?取り憑かれてはいないっす」
「は、はへ?…良かった」
と、しかしユウは真剣な表情に戻り一言。
「通り過ぎる以外では″もう二度とあそこには行かないで下さい″ね?もし行って見てしまったら…、必ず視線はスルーで…」
…と言われました。彼曰く橋を渡った右側の小さな場所は、その空間がドス黒く澱んでいるらしいのです。″花束が有るのは人生の希望を失った自殺希望者がその波長と合い。そこに引き摺り込まれ、また人が死ぬから″だと彼は言ってました。その周辺も含め一体何人の人があそこで自殺したのでしょうか?まだ見つかってない仏さんも…
取り敢えず、この話を聞いてから自分はそこに行かなく…、いえ、行けなくなりましたが…
完。




