七十七ノ怪 たまたま、な男
これは昔働いていた会社の先輩、″マカ″にまつわるお話。名前がマカだからって精力的に凄いとか?夜になると◯◯が爆発的にパワーアップ?…とかは全く無いのであしからず…
そんな先輩の実家は百姓をしており、かなり広大な土地の地主とか。貯水池管理やマンション等も持っていて?早い話がかなりの大金持ちとの事でした。
何で?そんな人間が?万年平社員で、こんな会社に…!?ーー
後から入社した十歳下の自分…ですが、マカより先にこちらが管理職に就いてしまいます。会社には十人十色、様々なタイプの人が存在し、そのマカという人物はかなり危険&厄介者だったのです。
まず交通費を貰いながら会社の社用車で通勤しガソリン代を経費で落とすし。仕事中に勝手にいなくなるわ。仕事中でも知らない間に家に帰ってるわ。タイムカードは後輩に全部キッチリと押させてるわ。頼んだ仕事は全部中途半端だわ。トドメに「あー、俺はいつ辞めてもいいからな?わはははは、クビだクビッ…、ふわぁ〜…あー眠い…」…と、毎度トラックへ寝に行くわ……
まだまだ、まだまだ…あるけど、あとはご想像にお任せします…(笑)
簡単に″その人間像″を表現するのなら『社畜』ではなくて、完全無欠の『社屑』人間だったのです。
もし一般的な人だったら、モラルがあるなら「″他者から見た自分″」が、どうなのか?…が凄く気になりますよね?彼はそんなのを全く気にしない、デリカシーが完全に欠如してしまっている人でした。
そして責任者として、マカと同作業場の別の先輩に…
「ダラハさん、もしサボっていたらマカさんを注意してやって下さいよ?」
…と、注意喚起しようが
「あー、俺はマカの後輩だから奴に直接言ってくれ」
ダメだこりゃ…
「もう、自分は何度も何度もマカさんを注意してますが何か?」
「あははは…。すまんな、ケイジ…」
「はぁ…」
マカの仕事は自分の担当する管理エリア外だったのですが。会議で人事の話になったら奴がいつも筆頭に…。当然、配置換えにしても他部署からも総スカン…「うちはいらない」の言葉が返って来るだけでした。
だって全職場で『会社の歩くガン細胞』とまで言われている超有名人でしたから。しかも
「あ〜…」
(チャンチャラ、チャーチャーチャ!!チャーチャチャ!!)
会社前に、いきなりデカい街◯車が停まり軍艦マーチ?マカの知人…?いくら企業団地内とはいえ、スピーカーでワンワン、ガンガン…五月蝿いったらありゃしない…。恐らく、ウチの会社は近隣会社からブラック扱いになってるぞ?
まさに右◯な″他人に迷惑を掛け倒し、それを全く気にしない″思想をお持ちの素晴らしき方でした。
…まぁ、このままだと会社が全くダメになってしまうので。理詰め作戦で…、タイムカードを各々自分が押しているかどうか?の完全確認チェック、社用車は使用時に自分の確認無しでは乗れない、社用車で自宅へは絶対に帰らせない……と、朝の朝礼で新たに取り決めた社内規約を発表。
「あー、うざっ」
誰か″一人だけ″、そう言ってましたが…
「…以上、これらの規約は幹部会議での取り決め…ーー」
…と。そうしたら「マカが少しは真面目に働いてくれるかな?」…的な、僅かな期待&考えは甘過ぎました…
そして、その規約を取り決めた数日後、彼は″仕事中に社用車で駐車禁止の切符を切られた″のです。工場で仕事中の筈なのに?一体どうやって?(笑)
彼は、ある駅前に違法駐車して、ダ◯ソーへ遊びに行っていたとか?警察も絡み堂々とサボっていた事が表沙汰に。一応、自分の上役、常務へと連絡しましたが。彼が常務から呼び出され、逆に言い返した″その一言″が、あまりにも凄まじかった…
「マカさん。今回の件は明らかに仕事中の出来事ですよね?会社の倉庫で仕事をしていて、一体どうやって数キロ離れた◯◯駅で切符を切られるんですか?新しい社内規則も違反しておられますよね…?」
と、常務が問うと…
「ん?仕事中にキップって?それは…″たまたまや″」
「いや…、たまたまも何も…。ただ単に、サボって…」
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜、″たまたまや″って言ってるやろがっ」
「いえいえ…。そもそも、たまたまの使い所がおかしいでしょ?」
「どこもおかしくない。″たまたまや″、ああ、そうや。″たまたまや″」
「……。」
逆ギレ?その日。彼はクビにならず、仕事も辞めませんでした。(笑)
それに″常務″…と言っても、社長と血縁筋。キャリアは浅く自分より更に十歳も下でしたから…
訳の分からない理由で、完全に言いくるめられてしまったようで…。しかし流石のマカも、その日を境に少しは真面目になった様ですが…
でも…ーー
普段からマカの周囲には、数人にも及ぶかなり見辛くて薄っすらとした怪しい人の足影がチラホラと見えていたのです…
まさに怨念がおんねん…と、付き纏う悍ましき霊たち。見た感じから…足は太く、全て男性だと思います…。その姿まで自分には目視出来ませんでした。
しかし一人に大量発生した蟲みたく、こんなに集っている霊なんて初めて見たと思います…。まさか過去に?遠回しにでも人を殺めてしまった事が有るとか?仲間の…殺人現場に居合せたとか?恐らく服役歴は有ると思いますが、彼の素性は謎が多かったですから…
しかし犯罪者的な外見とは異なり、意外とマカは社内で暴力沙汰等は一切起こさない平和的キャラでした。逆に金をたくさん持ってるとトラブルを避けたくなるのでしょうか?
でも本人の生まれ持ったその性質上、かなり良からぬモノを引き込んでいたのかも知れません…
だって、仕事もロクにしていないのに「腰が痛い」やら「肩が凝る」やら「首が痛い」…とかいつも言ってましたから。
あー、なるほど。…って、取り憑かれ過ぎやないかぁーい…。あ、ここは笑う所かも?(泣)
そんなこんなで、万有引力的な心霊現象男マカの傍に寄るのが霊感的にも生理的にも、すんごい嫌だったのですが。何故か、彼の奥様が運営する飲み屋で忘年会をする羽目になってしまいました。多分、言い出しっぺはダラハの可能性が高く…。これ以上、奴を儲けさせてどーするのでしょう…
しかもその日は、自分が上司にあたるから…と。マカは、やたらと馴れ馴れしく酒を注いできたりして…
「ほら、ケイジ。飲めよっ!」
「ありがとうございます…」
マカさん、それ以上近寄らないで下さい…。アンタや他のヤバい存在に取り憑かれたくはないから…
でも彼は仕事で″リフトの運転だけはプロ級″でした。やれば仕事は出来る男なのです。あー、勿体無い…
だから、自分は気長に「倉庫はプロの運転手が必須です。だから僕は真面目に働いてくれる事を期待してますからね?」と彼には面と向かって言った事があります。………″何度″も。(笑)
しかし彼は一体何人に取り憑かれていたのか?「雰囲気や怖さだけでも有段者じゃないか?」…ってくらい風貌や顔がイカつい人でした。見た目だけでも人を5、6人殺ってしまってる感が凄い人物…
しかしその後。自分は兄弟会社からのあまりに酷い人事や内部腐敗で、その職を離れてしまいます。まったく世知辛い世の中になったものです。
風の噂では…、自分が盾になってあげていた社員や、派遣の方々が風当たりが更に酷くなり次々と働き手が辞めてしまったとか…
申し訳ないと思いつつも、実はその中にあのマカも含まれていたのは秘密です。
やがて数年が過ぎ…
とある安い「焼肉食べ放題店」でバッタリ、あのマカと鉢合わせしてしまいました。
「おぉ、ケイジ。久しぶりやなっ」
「あー、マカさん。ご無沙汰しています」
互いに家族連れで、マカは奥様と二人。コッチは夫婦と子供三人の計五人。薄暗い店内なのにマカはドぎついサングラスを掛けていて、風貌はもう完全に暴◯団化していました。確か今日の天気はすんごい曇ってたよな?何でサングラス?しかし…
(……。)
その時、何故か急に自分の背後へ″サッ″…と隠れた長女のヤカ…
「おー…、ケイジんとこの嬢ちゃん。オッちゃんの顔、怖ぁ〜てすまんなぁ?許したってや?」
「マカさん、すいませんね」
「大丈夫、大丈夫。わはははは。オッちゃん、ホンマは優しいんやでぇ?」
…いやいや、長女は多分…″マカが怖いんじゃない″と思いますが…
そして見た目からキンキンで寡黙な奥様は軽い会釈のみ。水系の仕事してるのに無愛想とか…、余るくらい金持ってる連中が羨ましい。
その後「金持ちがこんな安い食べ放題の店に来た」…と言われるのが凄く嫌だったのか?凄く恥ずかしかったのか?
いつの間にかマカ夫婦は店内から姿を消していました。すると、それを確認した長女ヤカがいきなり自分の袖を引っ張ってきて…
「パパ?あ、あの人…。あの人にいっぱい血塗れの人とかが…、いっぱい…いっぱい、いっぱいいっぱい……いっぱい……」
「″いっぱい″」を″いっぱい″言われも困る…、でも自分には数人の足影しか見えてなかったのに…、ヤカには色々とハッキリ見えてしまっていたみたいで…
「血塗れ…って…、″アレ″の上半身はそうだったのか…?」
「うん…。いっぱい…」
「……。」
改めて…
一体何年越しに?…かは分かりませんが、今更″ゾッ″…とさせられてしまった自分。久しぶりにマカと会いましたが、薄暗い店内に斑ら模様に汚れた床。しかも対面で顔を見ながら話していたので、その時は幽霊らしき存在は未確認でしたから。
もしアレが悪霊だったなら、取り憑かれて体調不良になっているでしょうが。
案外、彼は元気そうだったぞ?ただ、首だけはいつも通り調子悪そうにグルグルと回していて。見た目が血塗れの霊でも、宿主に悪影響を与えているのか、はたまた否か?……は、実は微妙な案件。
彼は一切他人に気を遣わないタイプの人間だから、長期に渡りノーダメージだったのかもしれませんが…。ある意味、自分の親父とソックリだったのかも?
(バタン…、ブォーン…)
会計を済ませ″安い食べ放題店″を後に。車に乗り込み、家族は帰路につきました。しかし助手席に乗っていた長女が自分の服の袖を再び
(クイクイ…、クイクイ…、クイクイ…)
…と引っ張り。引っ張られ…、おい、しつこいぞ…
「ど、どうした?ヤカ」
妻は心霊現象話は大の苦手。だから娘は声を押し殺しながら、最後に…
「あの横にいたオバさんの方が酷かったんだよ…?」
「……………え?」
ーーそっち!?
完。




