六ノ怪 部下しか知らない世界
今回は、職場の部下が自分に話してくれた霊体験をポエム的に書きます。(嘘です)怖いかな?怖くないかな?ーー
私の部下で岡山出身がコンプレックスという少し風変わりな二十代の女の子″オカちゃん″。決して私のオカアチャンではありませんのであしからず。って、聞いてないか。そんな事…
それにそんなに嫌がらなくても岡山はそんな田舎とは思いませんが…。でも、吉備団子がウマ…まぁいいか。
彼女は既婚者でしたが。昔付き合っていた彼氏こと、ユウキを含むもう1組のカップルと四人で、鳥取のとある砂浜へデートに行った時の話らしいです。その恐怖体験談ですが…
※そこは有名な鳥取砂丘ではありません。
そして駐車場からかなり離れた場所。果てしない水平線、美しい夕暮れ時に海岸沿いを歩き。二組のカップルは淡いオレンジ色の夕日を背に、互いを見つめ合い永遠の愛を誓おうと…
「わたしね、ユウキの事…」
「オレも…、オカちゃんの事…」
「…わた、わたし…わたわたわたわたわた……わた…」
「…?」
告白し合う若き男女。
しかしその時です。オカちゃんの目には彼氏の背後、左側には沈む夕日が見え、右側には両足の無い青くどす黒い肌をした男性が、生気も無く海の上に立っているのが見えました。彼はココで思いっ切り水死でもしてしまったのでしょうか?
そして既に「あなたの知らない世界へようこそ」状態のオカちゃん。しかも…
「あ、あのね…、ユウキ。ぜ、絶対逃げないって約束してくれる?」
「え?なんで?俺がオカちゃんを見捨てて逃げるわけないだろ?」
「ぜ、絶対だよ?わたしを置いて逃げないでね…?」
「ああ、男に二言は無いさっ」
「じゃあ…、あのね…?」
そしてオカちゃんは力一杯ユウキの手を両手でギュッと握り締め、こう言ったのです…
「わ、わた、わたしの足を誰かが掴んでるっ!!」
「…へっ?」
心の底から泣き叫ぶオカちゃん。彼氏こと、ユウキの視線は徐々に首、胴体を通過し彼女の足下へと……
「…っ!?」
彼の表情は少しずつ青褪めて行き。やがて顔をゆっくりと正面に向け、再びオカちゃんを見つめ直すと…
「ふぎぁああっ!!!」
これが火事場の何ちゃらか?ユウキは絶叫しながらオカちゃんが握っていた両手を叩きつける様に振りほどき、彼女を見捨て一心不乱に逃げ出しました。アーメン…
「いやぁっ!!お、おいていかないでぇー!!」
泣き叫ぶオカちゃん。でも何かに掴まれた彼女の足はピクリとも動きません…。そして、もう1組のカップルも海に立っているその幽霊を見てしまったのか。少し遅れの絶叫。続けて、同じくユウキの後を追う様に逃げていきました。まさにプロも顔負け、素早く見事な連携プレーです。
「いやぁあっ!!?」
やがて背後から足首を掴まれた霊の両手が、梯子を上るかの如くゆっくりと、みぎ、ひだり、みぎ、ひだり…と段々と上半身へと登ってきて…
「ーー!!?」
その不気味な手は、地球上に生きる生物の様な体温など無く、ただ、ただ冷たくて…
パニック&気が動転してしまった彼女はその場でフッと気を失ってしまったらしいです。そしてこの後の記憶は一切無く。次に目覚めたのは朝方、霧晴れぬ満潮時。満ちてきた冷たい潮が足元を冷やし、彼女を優しく起こしてくれたのでした。
ーーで、話は職場へと戻り、何故かオカちゃんは自分を睨みつけながら、こう言い放ちます。
「男なんてね?口ばっかりなんですよっ。わたしを岡山の田舎娘だと思って…。だから、思いっ切りビンタしてわたしの方からその男、フッてやりましたよっ!それにウチのダンナもそうっ。いつも、いつも……カクカクシカジカ……。ケイジさんっ、どう思いますかっ!!」
「た、確か…今の旦那さんとは…。な、仲が良いんだよね?」
「ええっ、とってもっ!!」
全く気持ちのこもっていない『ええ、とっても』。垣間見る他人の家庭内事情。凡人の俺にどうしろと?そして、一体何が彼女の心をここまでひん曲げてしまったのか?それは先の心霊現象よりも恐ろしい話なのかもしれません…
完。




