五ノ怪 知らぬが仏〜地元トンネル、電柱の怪
「ケイジさ〜ん。また怪談話して下さいっ。わたし聞きたいですっ」
「あっ、それなら俺もスッゲェ〜聞きたいっすっ」
とある職場でイッツァ、ワーキングゥタァーイム…。発送担当の自分たちの仕事は昼過ぎからが本当の山場。そんな多忙な時間帯に憩いのひと時。三時の休憩と相なりました。
お茶を口に少し含み、最初に声を掛けて来たのは部下の″キンちゃん″。沖縄出身の彼女は最近再婚してこの名前になり、二人の子を持つ優しいパワフル母さんでもありました。
そしてもう一人、ロン毛で元DJという謎の経歴を持つナイスガイ。イケイケの見た目と違い、とても誠実で真面目な男性″ユウ″です。頼りない自分には勿体ない部下ですが、そんな二人にググッと詰め寄られ…
「お、俺はネタも尽きたから、たまには二人の怪談話を聞かせてよ?あ、けど。俺はすっごい怖がりだから優し目のヤツね?」
優し目の怪談話?自分で言ってて悪いが、そんなのあるのか?気持ち的には、夜中同伴が無くても一人でトイレに行けるレベルの怖い話だろうか?そんなもの、基準は無いに等しい…。でも、実はこの二人。自分なんかより霊感が物凄く強いのです。するとキンちゃんは
「ありますよっ。あります、ありますっ。高速横の螺旋道路の先のトンネルが…」
「あっ。待ってよ?その話、俺も知ってるっすっ!」
そのネタを知らない自分を置いてけ堀に、二人は完全に意思疎通。場所は大阪の高速道路、西名阪柏原降り口近く。あそこは国分になるか?うず巻き道路からの高速道路を潜るトンネル、地図で調べればすぐに分かりますが…
「ちょっと待ってよ…。マジで??あの高速を潜る真っ暗なトンネルだろ?俺、市内回りしていた時。時間に余裕があったら、そこで車停めて休憩してたよ?他にも営業マンらしき人が、いつも何台も車停めて休んでたけど…」
「ケイジさん。あそこ行くの止めといた方がいいっすよ?だってトンネルの天井から…」
「そうそう、天井から逆さ向きに、にょ〜ん…て、現れますよ?私、何度も見た事ありますし」
「…はい、俺もバイクで通って何度か見ちゃいました…。逆さまに営業マン風の霊が降りて来て…」
「そう、それそれ。それよ」
「!?…えっ?マジで…?俺、見た事ないけど…。見逃してただけか…?」
自分が鈍感なのか見ても気付かなかったか。それか、その霊とは波長が合わなかったかは分かりません。しかし二人は事細かな同じ説明をするのです。更に
「あ、じゃあ、あの酒屋の横の電柱。キンさんも見たんじゃないっすか?」
「あー、ユウ君っ。あの存在感のなさそうな女性が電柱横で下向きに立っていて。その電柱を通り過ぎて″振り返ったらいなくなってる″ヤツでしょ?私も見たわよ?」
何処だよ、そこは?最寄りの駅から大和川とは反対側の国分に有るらしいが、自分には明確な位置が分かりません。キーワードは国分、酒屋プラス電柱…。そもそも、そこは生活エリアでは無いので一生通らない気もしますが…。そして、このままでは自分は話題で二人に負けっぱなしになる…と、そう思い。
「おほんっ…。実はここの会社に…」
と、言った直後…
『あ〜、落ち武者の霊ですか?』
…と、二人は声を揃えて即答しました。普段から誰もいないのに、勝手に自動ドアが開き。夜は静かな無人エリアでカツン、カツン、カタン、コッ、コッとか、何かの音が聞こえてくる。言わば、いわく付きの職場でした。二人はその霊の正体すら知っていたのです。いや、正体を私は教えてもらったと言えばいいのでしょうか?しかし、こんな場所に落武者?特に会社裏手の敷地に生えている桜の木の下がヤバいらしいですが。確かに、そこでは自分でも違和感や鳥肌が立ちますが。この部下たち二人の様に見えたりはしません。これは残念…か?はたまた…
あ、ヤバい…。これだと負けっぱなしな上、オチが全く無い…。あははは……はぁ…。まぁ、いいか。
完。




