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〜異世メン〜  作者: マルージ
第三章 誇りの風が贈る[後編]
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恋バナは男の覚醒の鍵

深夜テンションで作ったタイトル


「それがテメーの本心だバーカ」

「見誤っていたようね。アンタ自身の甘さを」


ゲオルグの腹部に蹴りが刺さる。ただの蹴りではない。【巨神道】仕込みの【跳躍蹴り】に加えて、


「【スクリプト・チャージ】!!」


充電されていた魔力が爆発し、蹴りの威力を数段と持ち上げた。

ゲオルグの巨体が軽々と吹き飛ばされる。


「ぬぅ・・・・ッ!」


減速すべく地面に剣を突き立てようとする。

しかし自身の手には聖剣が握られていない。この手に確かに剣を掴んでいる感覚だけはあるのに。


「【洗脳魔法】」


その弱い微弱な洗脳魔法は、ゲオルグから手の感覚だけを掌握した。

聖剣はとっくに手放しているのに、握っている感覚が消えていなかった。


「ぐぅぅ!?」


ゲオルグは上手く体勢を保てず転げまわった。

それは威風堂々と地に両足を付けて立っていたゲオルグが、数十年ぶりに地面に手を突いた瞬間だった。


「派手にスッ転んだな団長殿ーぉ!!」

「無様ね。地面を這いつくばる気分はどう?」


二人の転生者が立ちふさがる。イクオとアヤメが増援に来てくれたのだ。


「撤退を進めるぜ?そろそろ鬼人族も参戦するからなー!!」


ゲオルグには勘で分かった。それがイクオの出まかせの嘘でも、アヤメの洗脳でもない事が。

『血肉の森』に向かって一直線に進軍する鬼人族の姿がゲオルグには見えた。そうなってしまえば、この奇襲は自軍に被害が拡大しすぎてしまう。


「彼らが来るまで、今度はアタシたちが時間を稼ぐ」

(心に大きな衝撃を受けた今のゲオルグに、断罪の聖剣は使いこなせない)

「イクオさん!!」

「おーッ!!」


二人はゲオルグに立ち向かった。



  ~・・・~



結論から言えば、粛清騎士団はアッサリと撤退した。

アリアを刺してからというものゲオルグは一気に勢いを失い、そのままイクオとアヤメ相手に数回打ち合った後、撤退を宣言した。


「・・・我の負けだ」

「アタシらボロボロなんですけど・・・」

「戦いには完全に負けてんだよなー・・・」


しかし勝負には勝った。ゲオルグは自身の見通しの甘さを呪った。まだ自分にも甘さが残っていたことが、相当精神的に応えたらしい。それが良い事なのか悪い事なのかは、戦場では間違いなく後者なのだから。


「我らは情報に踊らされた。ここには、ある技術が埋まっていると知ってな。悪用されないために保護しに来たのだ」

「・・・この『血肉の森』に?」

「真偽は定かではない。真実かもしれんし、偽りかもしれん。ただし、もし本当なのだとしたら」


ゲオルグはイクオたちに向き直った。

これは負けを認めたなりに差し出した情報。


「気を付けておけ。()()は必ず悪用する。もしかしたら、東の大陸は海に沈むかもしれんのだからな」

「は?」

「ひー?」

『フ?』

「へ?」

「ほぉ・・・?」(虫の息)


いつの間にか集合していたサラとピグ。最後に死にかけアリアがリアクションをした。

まともに聞く気が無い阿保どもが、とため息をついたゲオルグは背を向けて歩き出した。


「おいテメー!魔族じゃなくて『華の民』だ!覚えとけコンニャロー!!」

「いいや。()()だ」


イクオは、ゲオルグの言っている言葉のニュアンスが、自分のものとはズレていることが感じ取れた。『魔族』という言葉は蔑称だ。『魔なる族』と言う不名誉な言葉。元来は公に使ってはならない差別用語だ。


(しかし何だ?メッセージのような感情を感知してんだよな。まるで、『本当の魔なる族』がいるかのような、そんな感じの・・・)



  ~・・・~



アリアは何とか一命をとりとめた。アヤメの外科医術とアリアの神聖魔法により、完璧に近い応急処置が施されたからだ。本来は死んでも何らおかしくない重症だった。

『獣人族の成人式』は中断という形で収束した。ゲオルグの残した情報の真偽を確かめるため、血肉の森は緊急の調査を必要された。


血肉の森での粛清騎士団との小競り合いは、いくつかの不穏分子を残して幕を閉じた。


ここには何か大きな爆弾が残されている。異常なほどにまで凶暴な魔物や動物が跋扈する危険地帯。かつて旧人類の時代に何があったのか。まだまだ分からない事ばかりだった。



「・・・あった・・・・本当にあった・・・!本当に!!本当にィ!!!」



暗い夜の血肉の森で、歓喜に打ち震えるような声が響き渡った。

崩れ落ちた岩盤の下。超巨大な旧人類の収容施設。壁にびっしりと埋め尽くされた文字に、男は食い入るように張り付いた。



「ギャハハハハッ!ギャハハハハハハハハァ!!!」



ゼノス。

謎多きこの人物は、この技術をついに見つけてしまった。

旧人類の禁術がこの日にまた一人と継承された。現在の所有者は、ヨンとゼノス。


新人類史において類を見ない、激動のような戦争が始まろうとしていた。



  ~一日後~



「私、復活!!」

「アリアさん!!傷口が開くから大人しくしててください!!」


一日たって復活するこの頑丈さ。

傷を縫って、魔法かけて、飯食って、寝る。この一連の行動でアリアの傷は見る見るうちに回復した。明らかに体が頑丈になっている。【気闘法】による肉体改造を施した体は、着々と人体の常識を逸脱した肉体に代わっていっている。


「とは言っても抜糸してないんですから!急激な再生で栄養も足りてないし!安静にしててください!」

「はーい」

「まったく。なんで異世界ってこうも無茶苦茶な治療なのかな!【神聖魔法】は再生が急すぎ!無茶な再生は後遺症の恐れも歪な再生の恐れも十分あるっていうのに!・・・・ブツブツ」

「アハハ・・・」


アヤメは代々医者の家庭で生まれた。そこで生まれた瞬間記憶能力を持つ天才少女。幼いうちからあれやこれやと叩き込まれ、ここに来る前から下手な外科医術ぐらいならできていたのだ。

異世界に来てからも色々な医術を学んで(学ばされ)、実践の経験も積んで今では凄い腕になっている。


「そう言えばヨンは?」

「まだ帰ってきてない」

「え!?無事なの!?」

「無事よ。ただ今はちょっと精神が不安定ね」


ヨンは今だに『血肉の森』から帰ってきていない。ゲオルグが去ってから、ヨンも人知れず姿を消したのだ。


「心配そうな顔ね。イクオさんが妬くよ?」

「ア、アハハ」

「イクオさんに任せましょ?誰かを元気付けたりするのは、イクオさんが一番得意でしょ?」

「・・・そうね」


ここにいる二人も、ここにいないレチタティーヴォだって、イクオには救われている。彼は人の本音を引き出すのが得意なのだ。

【古代演算魔法】を持っているのもあるだろうが、その人の心にヅケヅケと土足で踏み込んでくる面の皮の厚さ。やはり彼の性格からくるものだろう。


(しかしイクオさんはまた恋敵を元気付けるのか。泣きを見ても知らないですよ?)


本当に泣きを見たりして。



  ー・・・ー



「・・・・・」


ヨンはまだ血肉の森にいた。

不思議と魔物が襲ってこなかったのだ。暗い木陰の中うずくまっていても、魔物や凶暴な動物がヨンを見つけることは無かった。


「・・・・・」

「あ、いたいたー!」

「ひゃああああ脳髄を引きずり出される!!?」

「いや、ビビり過ぎだろ」


しかしイクオはあっさり見つけてしまった。

負の感情が大きく渦巻いていた。いくらヨンが魔物に見つからないと言ったって、魔力を誤魔化すことはできない。【演算魔法】と【巨神道・気闘法】を身に着けたイクオは、感知性能が跳ね上がっている。

しかしイクオが気がかりに感じたのは、負の感情の性質だった。


「思ったよりヒデー顔じゃねーな。落ち込んでると思ってたぜ」

「・・・落ち込んでますよ。でも不思議と頭は冴えているんです」


ヨンは獣人族としてアリアを守るべきだったのに、アリアに庇われてしまった。そして命を失いかねない重症を負った。

華の民としては最大級の恥をさらしたとも言えよう。恐怖に震え、好きな相手を危険にさらし、自分は逃げる事しかできなかった。


(だというのに何だ?悲しみの感情は凄まじく大きい。だが近づいてみてみれば、恐ろしい程研ぎ澄まされた冷静さ)

「ヨン。お前は大敗を決して、何か大きなものを得たな」

「・・・どうなんでしょう」


ヨンは体育座りのまま夜空を見上げた。

何時しか空腹だったイクオが見上げたものと同じ空だ。焚火もなければ食えるキノコも持ち合わせちゃいないのに、あの時の高揚がイクオには感じ取れた。


「今までの自分と何が違ったのか思い出してみるんだ。敵前逃亡の回数なんざお前は両手の指じゃ数えきれないほどやってきてるだろ」

「うん・・・」

「だと言うのにお前は過去一番と言っていい程自分の情けなさに嫌気がさしている。今までと何が違うかったのか。肩の力抜いて口に出してみろ」


ヨンは考えるまでもなかった。


(頭が冴えわたってる。情けなくてみっともなくて、だから自分の現在地が歪なほどによく見える。不思議と涙が出ないのは、今回の逃走で僕がどんな存在か、開き直る事ができたからなんだ)

「・・・アリアさんがいたからだ」

「・・・ああ」


ポツリと、二人の核心に触れた。

どんなに辛くても、アリアの一喜一憂で二人は振り回される。アリアを守りたいから、逃走した自分が情けなく感じる。アリアを笑顔にさせたいから平気で自分の命を懸ける。

とる行動がほとんど真逆だったとて、二人の根底はそこにある。『アリアが好きだから』。


「僕は臆病だ。死ぬのが怖くて、すぐ敵に背を向ける。それが紛れもない僕だ」

「・・・」

「けど、初めて好きな女の人ができたんだ」

「・・・!」


口を再び開きだす。

決意を胸に宣言するでもなく、情けなさを胸に打ち明けるでもなく、ポツポツと自分の本心を冷静に並べる。


「僕の本心を見つけてくれたんだ」

「モテたいだっけ?」

「ううん。『平和主義』だって」

「あ、そっちか」


確かにアリアの元気付けには勇気をもらった。

しかしアリアのただの勘が、ヨンの内に秘めた心の奥の本心を呼び覚ましてくれた。ただの臆病じゃない。『平和主義』だと。


「本当の臆病者なら、アリアを捨てて一目散に逃げてた。お前は戦いこそしなかったものの、ゲオルグの殺気を当てられてなお、あの戦場に残ることを決めていた。なるほどな、アリアは初対面の時からヨンの大切な勇気を見抜いていたわけか」

「・・・うん。誰も信じなかった。僕でさえ信じ切れていなかった。そんなちっぽけな勇気を、アリアさんだけはすくい取ってくれた」

「ちっぽけな勇気か・・・。なかなかにロマンじゃねーか」


ヨンは自分から立ち上がった。

イクオがヨンを連れ戻そうとここに来なくても、ヨンはひとりでに立ち上がっただろう。悲しみの感情は今だにヨンの周りを渦巻いて、しばらく消えそうにない。

それでも背筋が伸びていた。


「こんな僕でも、アリアさんは好きになってくれるかな」

「どうだかな。少なくとももっと強くなる必要があるな。お前も、俺も」


否定はしなかった。

過去の行いがどれだけ情けなくても、ヨンのその可能性をイクオは否定する気にはなれなかった。ヨンの臆病な目が、段々と座ってきている。


(コイツは変わるぞ。何ならティーヴォより変わるかもしれん。とんだライバルが現れたな)

「ワッハッハ!もう大丈夫か?」

「うん。まずは最初の勇気を一歩踏み出してみるよ」

「最初?修行も料理も、いろいろ頑張ってたろ。最初って言うほどでもないだろ」

「いいや。最初だよ」


(どれだけ臆病でもいい。情けなくったって構わない。でも、ガタガタ震えて何もできない僕はもう終わりにするんだ)



  ~最初の一歩~



「アリアさん!!僕と結婚してください!!!」



「なッ!!?」


「なっ!!?」


『なッ!!?』


「なっ!!?」



「・・・・・・・へ?」



「「『「何ィィィィィィィイイイイイイイイイィィィィィィイイいいぃぃぃぃいいいぃぃぃイイイイイイイイいぃぃぃぃイイイイイイイイイイイイ!!!?!??!?!??!!?!?」』」」


本日は成人式の7日目最終日。締め切り限度いっぱいの時間に、ヨンは自分の獲物をアリアに渡した。それは【世界樹の実】。

自身の子に合成させれる獣ではないが、人と華の民は交配できないので、そのルールはそもそも成立しない。ヨンの贈り物は、それを理由にした族長ズァオス(ヨンの父)のゴリ押しにより、なんと通ってしまったのだ。

間に合ったのだ。ヨンは成人式を果たしたのだ。


「・・・先越された・・・ッ!」


イクオはレチタティーヴォに続いて、ヨンにも告白を先越されてしまった。

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