1話 H-S-335C-Sheepdoll act2
1話目後半です。
「…伝言からすると、これは母さんの新作か?」
龍一は嫌そうな表情を浮かべる。
「ほほう…」
ウィンディのモノクルがキラリと光る。
「…”感想をくれ''であって、”着心地を教えて”ではないからね」
「おそらく、ニュアンス的には後者かと…」
ウィンディは楽しそうに龍一の希望的見解を否定する。服飾デザイナーとして有名である龍一の母から送られてくる小包はほぼ彼女がデザインした龍一のサイズにあった服である。従って、ウィンディの見解は正しい。
龍一が嫌そうな顔をする理由はその服のデザインにあった。
「…メイド服の新作ね…」
「また、ゴージャスなフリルがついて随分とロリロリしてますね〜。当館の女性職員用の制服でしょうか?」
小包の中身はメイド服であった。サイズは明らかに龍一のサイズである。
「うん、そうみたいだね。でもうちの職員向けじゃないと思う。メイド服としては落ち着いていいデザインだと…。ウィンディ?」
メイド服をしげしげと見ていた龍一は期待に満ちたウィンディの視線に気がつき、目線を彼女に向ける。
「はい?」
「何? その期待に満ちた視線は?」
ウィンディはスマホ片手に笑顔で龍一を見ている。彼がメイド服を着たところを写す気満々である。
「着ないのですか?」
「誰が着るんだ。誰が‼︎」
「リュウコちゃん。ぶはっ!」
龍一はメイド服をウィンディに投げつけた。服は彼女の顔面を覆い隠す。
「僕は男!」
「似合えば男性、女性関係ないと愚考します」
ウィンディはメイド服を簡単に畳むと龍一に差し出す。
龍一の母はデザインした服の良し悪し、着心地などを尋ねるべくこのように服を送ってくるのだが、高確率で女性用の服が多い。その度に彼は苦情の連絡をするのだが、母親はそれを楽しんでいるようである。
一見すると女性に見えなくもない龍一の容姿は今回送られてきたメイド服にマッチしそうである。
ウィンディも目の保養としてきてもらいたい感満載なのだが、龍一はあえて気がつかないフリをしていた。
「とにかく、着ないよ。いっそのこと、サイズ直して君が着ればいいんじゃない?」
「いえ、執事ですので、メイド服はチョット…」
「服装についてとやかく言うことではないが、名義上、僕付きのメイドだったかと?」
「羊のメイドより、羊の執事の方が面白いじゃないですか。ですから執事です」
龍一はガクッとずっこけた。ベタベタのセンスは彼女自身のセンスであったようである。
「父さんのセンスかと思ったら、君のセンスか…」
「旦那様は語尾に”メェ”を付けろと…流石にお断りしましたが…」
龍一は眉間にしわを寄せて頭を抱える。
「と、とりあえず。それは着ない。片付けといて」
「残念ですが仕方ありませんね。…ん?」
ウィンディのモノクルに緊急通信を知らせる信号が点灯する。
彼女は先ほどしまったスマホを取り出して、緊急通信の内容を確認する。
「…ほほう…これはこれは…」
なにやらスマホを操作すると視線を龍一に向ける。再びモノクルがキラリと怪しく光る。
と、同時に龍一は急に寒気を感じ、身震いする。
「?…急に寒気が…」
「作戦開始!」
ウィンディは掛け声と同時に指をスナップする。と、同時に複数のビーストドールが龍一を取り押さえた。
「へっ? 君らはウィンディの配下の??」
「申し訳ありません。龍一様、ウィンディさんからの指示でして…」
龍一を取り押さえた中で一番体格のよい牛型のビーストドールが申し訳なさそうに言った。
「ウィンディの指示? まさか?」
「申し訳ありません、龍一様。指示系統の優先順位は奥様からの指示が最優先ですので…」
ウィンディは龍一に先ほど届いた緊急通信文を見せる。
ーー
ラムちゃんへ
りゅうくんが服を着ないようなら、無理やり着せて写メ送ってね。
p.s.送ってくれたらボーナスあげるよ。
りゅうくんのママより
ーー
「‼︎…僕が着ないことを既に読んでいたのか。だが、このあと予定が…」
「すでに各予定2時間後ろにシフトしております。先方のある予定についても通達済みです。ご安心を」
モノクルが三度キラリと光る。
「無駄に有能だな。しかし、チョット…」
「待ちません。速やかに試着していただき、私めの目の保…もとい、着心地をレポートしていただきます」
「今、目の保養と…」
「気のせいです。カウベルさん、メリノさん、速やかにお連れして」
「だから、ちょっと待て〜‼︎」
龍一はビーストドール達に連行されて行った。
「さて、カメラカメラと…」
ウィンディは自前のカメラを探しに自分の部屋に戻って行った。
後日、メイド服をきた引きつった表情の龍一の写真が彼の母の元に送られたが、表情が硬いとの理由で撮り直しとなったのは別の話である。
主人公…不幸orz




