サン
扉を開き、教室の中。僕達の訪れを確認すると長身の男性が手を上げ、出迎えてくれた。
「やぁ、無事で何より。まぁ、君たちに関していえば、心配することも無駄かもしれないか。ははっ」
碧眼に少し色の抜けた金の短めの髪、浮かべた笑みは優しく包み込むようで、それだけで人の良さが分かる。
「そういう貴方もよく残っていられるわね。その薄気味悪い笑みだけしか取り柄がないというのに……ある意味、尊敬するわ」
だが、姉さんの返答は突き刺さるように冷たかった。何故か、姉さんは出会った当初から彼の事、アインのことを毛嫌いしているようで、まともに応対しているところを見たことはない。
「はは、そりゃそうさ。俺には君たちみたいな力はないからね。生きる術、処世術ってやつさ」
そんな嫌味も何処吹く風、毎度変わらずに楽しそうに笑い、アインは先ほどまでいた席に戻っていった。
「つめてぇな。あんなのでも数少ない仲間なんだし、もちっと優しくしてやれよなぁ」
「別にアレは仲間でもなんでもないわ。私にしてみれば、タスク以外は全て塵芥と変わらないもの」
僕達よりも先に行ったはずのアイリが僕の背中に飛びつき、身を乗り出すような形で姉さんの頭の高さに合わせている。
「よくわかんねぇけど、分かった。姫様はバカなんだな」
「えぇ、そうよ。だから、さっさと離れなさい。私が貴女をバラバラにしてしまう前にね」
僕の頬に一陣の風が駆け抜け、アイリの体がふわりと宙を舞う。突然の出来事にも関わらず、アイリは空中で体勢を持ち直し、一回転してから地上に舞い降りる。
「ほんと、やることが派手だねぇ。もう少しで怪我するとこだったぜ。なはは」
頭に両腕を回し、けらけらと笑うアイリの姿に姉さんも溜息をひとつ吐いて、複雑な表情を浮かべている。
「あ、あいり……ちゃん……うぷっ」
ぱたりと倒れたイスズに再び笑い声を上げるイスズ。それに対して、恨み言のように小声で非難を述べ続ける。
「これ以上は付き合いきれないわ。さぁ、タスク。私達もいい加減席に着きましょう」
そういって、姉さんは席へと着く。ホタルもまた倒れたイスズの横を避けるようにして、通り過ぎ、席へと着いていった。
「……困った。どうしよっか?」
「わ、私に……聞かないで……う、むしろ喋ると気持ち悪いからほっておいてくれると助かるかも……」
力尽きたのか、僕にそういうと顔を地面に突っ伏してしまった。仕方なく、僕もその場を離れようとすると──。
「……ちっ、ちゃんと前見て、歩けよ。お前と関わると面倒なんだよ」
すっと僕の横を通り過ぎようとしていた3人組とぶつかりそうになってしまい、慌てて半歩下がる。
「ミカ、朝から不機嫌な。どうせあの日なんだろ? けけけ」
「重い。わかる。あたしもそうだから……」
取り巻き2人の反応に顔を歪ませるもそれ以上は何も言わずに足早に教室の端の席へと乱暴に座った。
「あ~あ~、もっと不機嫌な。面倒な女だぜ。からからから」
まるで嘲り笑うようにして、粗暴な仕草を下品な声で煽りたてる。より一層、不穏な空気をまとう柄の悪い少女。ミカがこちらを睨みつける。
「ルカ、面倒。もう疲れた」
「マコトの言ううとおりな。笑ったせいで、疲れたわ。そろそろやめとくか」
2人は僕には一切興味もないようで、ルカの近くの席に座ると気だるそうにしていた。
1人取り残された僕の頭上に鳴り響く鐘の音。その音に僕も席に着くのだった。




