少女
ふぃい。
不思議な雰囲気を纏っている少女だった。
見た目はカイ達と同じで10歳くらいだろうか。
ガラス玉の様な綺麗なサファイア色の瞳に腰まで伸びる白銀色の髪。
それは人口的に作られる様な色ではないと確信させるほどに透き通っていた。
今までの様に生活していたらこの先ずっとお目に掛かる事はなかっただろう。
まだ幼さの残るその顔立ちは、西洋人形と見間違えてしまうほどに整い過ぎていて思わず触れる事を躊躇わせる。
背は少し小柄で異常なまでに細い身体は力を入れたら折れてしまいそうだ。
そんな少女を包み込むのは黒いゴシックドレスの様なもの―――そんなこの場では場違い過ぎる格好をして少女は俺の目の前で儚げに微笑んでいた。
その微笑みは彼女の纏っている雰囲気と合わさり、妖しい雰囲気を醸し出している。
その少女の居る場所だけが、まるで違う世界のように感じられた。
とても幻想的で…まるでお伽噺の世界に迷い込んでしまったのではないかと錯覚させるほどに。
そんなこの場では、明らかに場違い過ぎて逆に目を引いてしまう様な容姿、格好をしている筈の少女の気配は―――全く無い。
目の前に居る筈なのに、実はそこに―――本当は存在していないのではないか…目を逸らしてしまえば消えてしまうのではないか…そう己を疑ってしまうほどだ。
そんな子が俺に向かって儚げに微笑んでいるのだ。
少女の皆無な気配とその妖しい雰囲気は、彼女の儚げな微笑みと合わさり、危い均衡を保ちながら…得も言えぬ色香を放っていた。
そんな微笑みに思わず俺は見惚れてしまう。
そして今更になって気がつく。
(…?おかしい。どうしてこの子はこんな場所に居るんだ?)
どうやって入って来た?
というより―――
「何で君は俺の名前を知っているんだ…?」
そうだ。
さっきの…さっきのと言うほど最近した気にはなれないが―――自己紹介の時もこんな子はいなかった。
翡翠も含め、髪型は違えど男も女も髪色は黒、偶に居ても薄い茶色と日本人色だった。
いくらなんでも、こんなに目立つような子が居たら気がづくぞ。
そんな俺の疑問を余所に少女は色素の薄い小さな唇を開き、
「……見てたから」
「…見てたから?」
「……うん」
そう答えた少女は、ぽろ…ぽろ…瞳から涙を流し、
ぽふっ…
俺に抱きついてきた。
…ん?……!?
俺の思考回路はショートした。
どういう状況!?
何で俺抱きつかれてんの!?何で泣いてるの!?もしかして俺の所為!?俺なんかした!?
疑問ばかりが出て来る。
「!?」
少女の突飛な行動に言葉が出てこない。
「……会いたかった……ふぇ…っく」
「……」
しかし理由はどうであれ、女の子に目の前で泣かれたら、どうにかしてあげたいと思うのが男ではなかろうか。
それも今は俺に抱きついて泣いているのだ。
どうして良いかなんて俺には分からない。
だから、俺に出来る事は頭を撫でてやる事と、
「…大丈夫だ。俺は何処にも行かないからな……」
少女を少しでも安心させてやる為の声掛けくらいだろうか。
この年頃はやっぱりまだ精神が未熟だからな。
大人に甘えたい盛りだろう。
年長者として少しでも安らぎを与えてやらないとな。
俺は少女を少しでも安心させてやるべく、優しく頭を撫で、少しでも安心して貰えるようににと出来るだけ優しい声音であやし続けた。
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「…落ち着いたか?」
「……うん」
あれから少しして、少女は泣きやんだ。
「…そうか。じゃあさ」
「…うん」
「そろそろ離れてくれないかな?」
「……いや」
無駄と半ば諦めつつ、もう一度俺は少女に尋ねた。
「…どうしてかな?」
「……いやなの」
やっぱりか。
ため息を一つ吐き、俺は思わず天を仰いでしまう。
このやり取りはずっと繰り返されている。
俺の離れてくれないかなアピールをずっとこれで跳ね返してくるのだ。
さっきまで泣いていた手前、強く言い返せない。
…何このジレンマ。
思わず状況を忘れてしまいそうになるが、一応今はリングと戦闘中だ。
警戒態勢だ。
なのに、
「なんで俺は女の子に抱きつかれてるんだ……?」
うん。
口に出してみたが一向に分からん。
誰かこの状況を説明してくれないかな。
誰にともなくそう零し、またため息を一つ。
「……ねえ」
ふと、少女が顔を上げてこちらを見る。
身長さがあるために少女は俺を見上げる形になり、自然と彼女の上目遣いが俺にクリティカルヒットする。
…いやいや!流石にそれはマズイって!俺にそんな特殊な性癖は無いぞ!
しかし、少女のあどけない、純真無垢な上目遣いを見ると思わず…って!いかんいかん。
そんな俺の葛藤を余所に少女は続ける。
「……ため息ばっかり吐くと……幸せ……逃げるよ?」
誰の所為だよ!!
思わず声に出してツッコむ所だった。
コイツ…出来るな。
……まあ、冗談はさておき、この天然とも言えるボケ(?)はなんなんだ?自覚がないだけに性質が悪いぞ!?
「っ!!」
俺は少女を両手に抱えその場から飛び退く。
ビシッ!
俺達が今まで居た場所が抉れた。
飛んで来た方向に視線を向けると、奴がこちらにゆっくりと近づいて来ているのが分かる。
奴の攻撃だろう。
おそらくレーザーか。
その割には集束するのが分からなかったが。
まあ、全体を警戒していたとはいえ、意識が完全にこの子に持っていかれてたからな。
探知が薄かったのだろう。
気おつけないとな。
「……ねえ」
少女はそんな時でも俺に話しかけて来る。
「なんだ?」
奴を警戒しながら、少女の話に意識を傾ける。
「……敵?」
「…は?」
少女はこてんと可愛らしく首を傾げながら片手は俺の服を掴んだままに、もう片方の手で奴を指さしながら俺に尋ねて来た。
俺は思わず素の声で返す。
「…あ、ああそうだ。端的に言うとそうなるな」
いきなり尋ねられたので答えがしどろもどろになってしまった。
「……そう……分かった」
何が分かったんだ?
そんな疑問を余所に、
少女の身体が光り輝く。
「っ!?」
なんだ!?
光が収まると少女の姿は消え、代わりに俺の手には木刀が現れ、
『……じゃあさっさと……倒そう?』
頭の中に少女の声が響いてきた。
何だ!?どうなっているんだ!?
『……来るよ?』
その声が聞こえて来ると同時、
「っ!!」
俺は右に飛ぶ。
どういう状況か全然分からない。
だけど、それはさっきからだ。
なら、今は気にしない事にする。
「倒す?」
そんなの言われるまでもない。
「最初からそのつもりだ!」
俺は木刀を振り下ろした。
諌の手に現れたのは木刀。
どういう状況?
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