これ一応…木刀だよね?
木刀の話…なのかな?
ガキィ!
高速で振り下ろされた木刀がリングに当たり、火花が散る。
だが、奴に傷が入った形跡はない。
「ちっ!」
ブンッ!
奴のタックルを横にずれてかわし、また叩きつける。
利き手じゃ無いためか、上手く力が入らない。
右肩は未だ負傷中で動かせないし…。
いや、正確に言えば動かせるといえば動かせるだろう。
痛みは今の所ないから行動に支障をきたす事はない。
だが、無理は禁物だ。
酷使して悪化したら目も当てられないしな。
『……諌』
「なんだ?…っ」
奴との攻防を繰り返しながら返事を返す。
一応まだ余裕はある。
俺の攻撃速度に奴は反応しきれていない。
依然俺達の攻防は軽く音速を超えて居るのだろう。
俺が動くたびに空気の弾ける音が俺の鼓膜を震わせる。
『……制御が甘い』
「っ、いきなり何だ?」
制御?……ああ、
「俺が使っている、よく分からないコレの事か?」
俺が言ったのは、こんな人外な動きが出来る元凶の『正体不明の力』の事だ。
『……多分…それの事』
見えないけど少女がこくんと肯いた気がした。
「君の言っている通りだと思うよ」
何せ、いきなり現れたんだから。
感覚を掴もうと色々試してはいるんだけどね。
『……無駄に消費してる』
「そうなのか?っと」
無駄か…無駄ね。
この間も攻防は続いている。
奴の周囲にエネルギーの集束を感知した。
俺はタイミングを見計らって避けようとして―――
『……避けなくて良い…!』
「え?…しまっ―――!?」
いきなりの発言で思考が止まり、タイミングを見失ってしまう。
ヤバい、当たる…!
そう思った俺に少女の声が続いて、
『……斬ればいい…肩の力、抜いて…軌道は合わせるから…振り下ろして…!』
俺は咄嗟にその言葉に従う。
俺にはそれ以外の選択肢なんてないのだから。
(来る!!)
奴からレーザーが俺に向かって放たれる―――寸前、
『…今…!』
同時、俺の身体は動いていた。
左手に持つ木刀に導かれる様に―――俺の左手はレーザーの中心に吸い込まれていき、
チィィッ!!
「!?」
俺の顔左右を熱元―――レーザーが通過して行った。
「……」
おいおい。
レーザーが二つに分かれましたよ?
…え?てことはですよ?俺―――
「レーザー斬った?」
茫然と呟いてしまう。
『……ん。…ね?……大丈夫だったでしょ?』
少女のどこか得意げな声が聞こえて来る。
なんとなく、えっへんと胸を張るのが想像できてしまった。
いやいや!
「なにが、ね?だよ!俺斬ったよ?!レーザー斬っちゃったよ!?」
俺はそれどころではない。
何せあのレーザーを斬ったのだ。
当たり前みたいな返事を返されても困る。
ほら見ろ、驚きのあまりリングも動きを止めてしまっているじゃないか!
『……私に…斬れない物は無い…!』
「その根拠は何処から!?」
『……なんとなく…?』
「なんとなく!?」
その根拠のない自信で俺はあれを斬らされたのか!?
「そんな根拠で俺に斬らせんじゃねえよ!!?」
『……結果オーライ…?』
いやまあ、そうだけどさ!
「それで俺が死んでたらどうしてたんだよ!?」
『……』
「なんで黙るの!?」
『……大丈夫』
「何が!?」
『……絶対に死なせるつもりは…ない…!』
「っ!!」
その言葉に俺は黙り込んでしまった。
何故だか分からないが、その言葉に少女の覚悟が秘められて居たのが伝わったからだ。
「…はあ。まあ、終わり良ければ全て良しって言うしな。どの道、君に助けられたんだ、感謝するよ、ありがとう」
話を逸らす意味も込めてそう告げる。
『っ……ん…!』
少女はどことなく嬉しそうに返事を返した。
「さて……」
俺は前を見据える。
目の前でレーザーを斬られた事に警戒したのか奴は動きを止めて居た。
(そろそろかな)
ポツリと呟く。
力の流れの感覚と言えば良いのだろうか。
少女には制御が甘いと言われたが、そんなのは言われなくても分かっている。
力の加減を確かめるために色々と試していただけだ。
奴と戦いながらな。
(それの制御も大体把握したし…)
俺は人より不器用で秀でた才能なんか無いから、それを補うために必要な事を自分で探さなければならなかった。
だから、その為に必要な事、不必要な事を幼い頃からずっと無意識のうちに取捨選択するようになっていった。
その為か、人より物事を観察するようになった。
その観察対象を分析するようになった。
だから、俺が自慢できる長所と言えば、観察または分析だろう。
(次の段階だ)
今度はこちらから仕掛けるか。
「行くぞ」
俺は今は木刀の姿になっている少女に告げる。
『……ん』
身体を流れる力の6割を足元に集中し、俺は地を蹴った。
ボゴォッ!!
俺が蹴った場所が抉れる音を聞きながら、奴に向かって加速していく。
ここに来て、俺が学んだ事の一つ。それは―――
(常識を捨てる事!!)
俺が今まで暮らして来た世の中の常識を捨てる事だ。
ここに来て、俺の価値観は変わった。
空想上の世界や生き物に神という頂上的存在。
そんな、今までの常識を覆す存在を前にすると、それが今の俺の常識となり、今まで生きて来た世の中が虚偽という事になる。
だから、自分の常識を捨てる事にした。
そんな奴らと戦う時にその常識、考え方は邪魔でしかない。
空中を蹴れるという人外の技や動きをしてしまったのもその結論に拍車を掛けた。
それを踏まえての次の段階だ。
(足が着けるのは地上だけではない!)
俺は奴に向かっていく滞空中の道すがら、右足で右の空中を蹴る。
軌道は左斜めに修正された。
出来た。
なら、俺は今度は左足でさっきよりも力を入れて左の空中を蹴った。
軌道は右斜めに修正される。
それを数度、高速で繰り返す。
フェイントだ。
その動きは残像を残し、俺は奴にそのまま向かっていく。
奴からすれば俺が二人に見えているのかもしれない。
バキイッ!!
俺の攻撃に奴は碌な抵抗を見せず吹き飛ばされた。
(空中戦って、出来るんだな)
2次元だけの話だと思ってた。
『……さっきと全然違う…』
少女の驚いた声が聞こえて来る。
ちょっと得意になった。
「凄いだろ?」
『……何で最初から…しなかったの?』
不思議そうに聞き返された。
「今出来るようになったからな」
格好つけてみた。
『……凄い』
少女は素直に信じてくれた。
その純粋さに俺は感動した。
今時ここまで素直な子はレアだよ。
『……諌』
「ん?」
前を警戒しつつ俺は返事を返す。
『……早く倒そう…?』
「早くたって…」
今だってそのつもりでやっているんだけど?
『……だから…力…分けて?』
力を分ける?
「どうやって?」
『……気合で…?』
「無茶言うな!」
俺は熱血キャラじゃないぞ!
『……大丈夫…諌なら出来る…!』
「その根拠のない自身はどこから来るんだよ!!」
『……ふぁいと…』
「……」
こいつ天然だよな絶対。
悪意を感じないし。
性質が悪いな。
(力を分ける…ね)
まあ、アニメやらマンガやらの創作物ばっか見ていたから、それを参考にやるだけやってみようか。
少女に力を分け与えるイメージ。
俺の中の力を木刀に流すイメージだ。
ガクンと俺の中から力が吸い取られるのが分かった。
「…出来たのか?」
『……んぅ…諌のが私の中に入って来る』
艶めかしい声が聞こえて来る。
というか、
「その言い方止めろ!」
思わず頬が熱くなる。
『……?…どうしたの?』
不思議そうに聞き返されてしまった。
自覚がなかった。
「…何でもない」
思わずため息が出てしまう。
「それより、成功なのか?」
『……ん。これなら何でも斬れる』
物騒な事を言ってくれるな。
冗談に聞こえないのが我ながら不思議だ。
『……じゃあ…早く倒そう?』
「…そうだな」
見た目に変化とかは特に無い。
……本当に斬れるのだろうか…。
…冗談だよな?
いや、だって、今更だと思うけどこれ……木刀だよ?
今まで寧ろ、よく折れなかったなと褒めてやりたいんだけど。
次回決着。
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