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底辺ハンター一家のダンジョンドリーム~200年続く迷宮時代、貧乏暮らしから始まる成長譚~  作者: 盆ちゃん


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第17話「六人の初顔合わせ」

# 第17話 六人の初顔合わせ


 第三探索者育成学園に入学してから、少しずつ授業の内容が専門的になってきた。


 採集士としての基礎知識。戦闘訓練。装備点検。危険を発見したときの報告方法。


 どれも大切だと神代悠斗は思っている。


 けれど、授業を受ければ受けるほど、一つの問題がはっきりしてきた。


 知識を覚えることと、実際に誰かと一緒に動くことは、まったく別なのだ。


「今日の授業は、合同訓練の準備だ」


 教壇に立った鬼塚蓮司が、教室を見回した。


 赤鬼先生の異名にふさわしい体格と、よく通る声。だが、今日の説明は怒鳴るようなものではなかった。


「実際の探索では、自分の得意分野だけをやっていればいいわけじゃない。前衛が敵を警戒している間に、採集担当が素材を確認する。盾役は仲間の動きを見て位置を調整する。回復や支援を担当する者は、全員の状態を把握する。偵察担当は、目に入った情報を正しく伝える」


 悠斗はノートを開いた。


「今日は、六人一組で模擬探索計画を作ってもらう。実際のダンジョンには入らない。訓練区画を使って、限られた情報から安全な行動計画を立てるんだ」


 黒板に、課題の条件が書き出される。


 指定された場所まで移動すること。


 途中にある採集対象を確認すること。


 危険が想定される地点を見つけること。


 素材を持ち帰る方法を決めること。


 そして、撤退条件を明確にすること。


「大事なのは、正解を当てることじゃない。分からないことを分からないまま扱えるかどうかだ。都合のいい想像で穴を埋めるな。確認できた事実と、そこから考えた予測は区別しろ」


 悠斗は、以前の採集士の授業で書いた言葉を思い出した。


 種類の識別と、採取の判断は別に考える。


 知っているつもりにならず、必要なら確認する。


 今回も、その姿勢が役に立つかもしれない。


「組み合わせはこちらで決めてある。神代、月城、桐谷、白石、東雲、九条。お前たち六人だ」


 悠斗は顔を上げた。


 月城美鈴。桐谷健吾。白石凛。東雲紅葉。九条レオン。


 それぞれ別の授業や訓練で顔を合わせた相手だ。


 ただし、六人全員が一緒に課題へ取り組むのは初めてだった。


「よろしくお願いします」


 健吾が、いつもの調子で悠斗に手を振った。


「おう。よろしく」


「……よろしく」


 美鈴は短くうなずく。


 凛は配布資料を受け取りながら、すでに課題の条件に目を通していた。


「時間制限は四十分。最後に計画の説明もあるのね」


「うんうん、じゃあ早く始めようよ! こういうの、実際にやってみたかったんだ!」


 紅葉は椅子を引き、机の上に資料を広げた。


 その隣で、レオンは何も言わずに紙面を眺めている。


 悠斗は六人の顔を順番に見た。


 剣士。盾役。神官。火術師。偵察や情報収集を得意とする者。そして採集士。


 役割だけを見れば、なかなかバランスがいい。


 ただし、それぞれが何を考えているのかは、まだよく分からなかった。


     ◇


「まずは、目的地までの移動経路を決めよう」


 美鈴が資料の地図を指さした。


「最短経路は中央通路。迂回路は少し長いけれど、見通しがいい。危険地点の記載があるのは中央通路の先ね」


「じゃあ、迂回路でいいんじゃないか?」


 健吾が答える。


「安全を優先するなら、最初から危険な場所を通る必要はないだろ」


「でも、危険地点の記載があるからといって、現在も危険とは限らないわ」


 凛が淡々と言った。


「資料には、過去の訓練で物音が確認された、としか書いていない。何が原因だったのかも、今も同じ状況なのかも不明よ」


「それなら、中央通路を進んで確かめればいいんじゃない?」


 紅葉が身を乗り出す。


「何かあっても、私が魔法で――」


「待って」


 美鈴が言葉を挟んだ。


「何がいるのか分からないのに、魔法を使う前提で計画を立てるのは危険よ。相手が何かも、周囲に何があるかも分からないんだから」


「うっ……。それは、そうだけど」


「紅葉、魔法を使えることと、使うべき状況かどうかは別だ」


 鬼塚の授業で聞いた話を思い出しながら、悠斗も口を挟んだ。


「まず確認する方法を考えたほうがいいと思う」


「分かったよ。最初から撃つとは言ってないもん」


 紅葉は頬を膨らませたが、資料を見直した。


 意見が食い違う。


 それ自体は悪くない。


 けれど、誰かが自分の意見を押し通そうとすれば、計画はすぐに崩れてしまうだろう。


「確認するなら、俺が前に出て様子を見るのはどうだ?」


 健吾が言った。


「盾を構えて、何かあったらみんなを守る」


「盾役が先頭に立つのは、状況によっては有効ね。でも、見通しが悪い場所で一人だけ前に出るのは避けたいわ」


 凛が資料を指でたたく。


「盾役が安全でも、後ろの人間が状況を把握できていなければ、危険を避けられないもの」


「そっか。俺が守れるのは、俺の盾が届く範囲だけか」


 健吾は素直にうなずいた。


「だったら、全員が見える距離を保つことも考えないとな」


「そういうこと」


 凛は短く答えた。


 健吾は大柄で、盾を扱う姿にも迫力がある。


 しかし、意見を否定されたからといって怒ることはなかった。


 自分にできることと、できないことを分けて考える。


 その姿勢は、悠斗にとってもありがたかった。


「経路を決める前に、危険地点の情報を整理しないか」


 レオンが口を開いた。


 静かな声だったが、全員の視線が集まった。


「資料に書かれている事実は三つ。中央通路の先で物音が確認されたこと。確認された日時は今日ではないこと。原因は特定されていないこと」


 レオンは紙の余白に、短く書き出した。


「そこから考えられる可能性はいくつかある。何かが動いたのかもしれないし、設備の音だったのかもしれない。ただ、どれも確認されていない」


「つまり、危険なものがいるとも、いないとも言い切れないってことか」


 悠斗が言う。


「そう。だから、危険がないと決めつけて進むのも、必ず危険だと決めつけるのも、どちらも情報不足だ」


 レオンの言葉に、凛がうなずいた。


「いい整理ね。確認方法を決めて、その結果によって進むか迂回するか判断する。それなら、最初からどちらかに決めつける必要はないわ」


「じゃあ、まずは少し離れたところから観察して、異常がないか確かめる?」


 美鈴が提案した。


「その間、俺は後ろから全体を見ておく。何かあったら、すぐに止まれるようにするよ」


 健吾が続ける。


「私は観察した結果を記録する。負傷者が出た場合の対応も、先に決めておきたい」


 凛はもう別の欄に必要事項を書き始めていた。


「私は魔法を使わずに確認する方法を考える。必要になった場合も、周りに影響が出ない使い方を優先するね」


 紅葉も自分の役割を調整する。


 悠斗は、少しだけほっとした。


 誰もが最初の意見に固執しているわけではない。


 それなら、きっと話し合える。


     ◇


「それで、採集対象はどこにあるんだ?」


 健吾の問いに、悠斗は資料の後半を確認した。


「指定されているのは、訓練用の模擬素材だね。薬草に似た外見の植物が複数あって、その中から指定されたものを見つける。採取して、状態を確認して、持ち帰るところまでが課題みたいだ」


「似た外見、ね……」


 美鈴が地図から目を上げる。


「間違ったものを採ってしまう可能性もあるの?」


「あると思う。前の授業でも、見た目が似ている素材を区別する練習をしたから」


「じゃあ、神代くんが中心になって確認するのがよさそうね」


 凛が言った。


「採集士としての知識を使って、候補を絞ってもらう。ただし、判断材料が足りなければ無理に決めない。それでいい?」


「うん。俺も、そうしたい」


 悠斗はうなずいた。


 採集士だからといって、何でも見分けられるわけではない。


 知らない植物もあるし、状態によって見え方が変わるものもある。


 だからこそ、確かな情報を集める必要がある。


「でも、採集する場所までの経路を決めるのは、神代くんだけじゃないわ」


 美鈴が言った。


「採集対象が見つかっても、そこまでの道が危険なら意味がないもの。前衛として、周囲の安全を確認する方法を考える」


「俺はその間、みんなが動きやすい位置を保つ。危険を感じたら、採集を中断して戻れるようにする」


 健吾が続けた。


「私は全員の体調と装備を確認する。訓練だからといって、確認を省く理由にはならないわ」


「私は周囲の変化を見て、必要な情報を伝えるね。魔法を使うかどうかも、その情報を見てから決める」


 紅葉が指を立てる。


「僕は経路や周囲の様子を観察する。見えたものと、推測したことを分けて報告する」


 レオンも言った。


 六人の役割が、少しずつ形になっていく。


 誰か一人がすべてを決めるのではない。


 それぞれが自分の得意分野を持ち寄り、足りない部分を補う。


 悠斗はその様子を見て、父の言葉を思い出した。


 探索者は戦うだけの仕事ではない。


 素材を採取して持ち帰るまでが仕事だ。


 そして、無事に帰ってくるためには、仲間の力が必要になる。


「一つ、提案していいかな」


 悠斗はノートを机の中央へ置いた。


「採集対象を見つけたとき、すぐに採るんじゃなくて、全員で一度確認する時間を作りたい。場所の安全、対象の特徴、持ち帰る方法。この三つを確認してから採取する」


「確認に時間を使いすぎる可能性はあるわね」


 凛が指摘した。


「うん。だから、確認する項目をあらかじめ決めておく。必要な情報がそろっていれば進む。足りなければ追加で調べる。それでも分からなければ、採取を見送る」


「採れなかったら、課題の達成にならないんじゃない?」


 紅葉が首をかしげた。


「採れないことより、間違ったものを採ったり、危険な場所に無理に入ったりするほうが問題だと思う」


 悠斗は自分の言葉を確かめるように話した。


「分からないものを分からないままにしておけば、次に調べられる。でも、無理に決めて失敗したら、何が原因だったのか分からなくなることもあるから」


 言い終えてから、少し不安になった。


 自分の意見は、慎重すぎるのだろうか。


 しかし、美鈴は静かにうなずいた。


「いいと思う。危険を避ける判断も、探索の一部だから」


「俺も賛成だ。採れなかったら、次に採れる方法を考えればいい」


 健吾も笑った。


「記録が残れば、次回の判断材料になるわね」


 凛はノートの項目を整えた。


「観察結果、判断の根拠、採取の可否。三つを分けて書きましょう」


「それなら、私も観察結果を記録するのを手伝うよ!」


 紅葉が手を挙げる。


「僕は移動経路と周囲の変化を担当する。採集場所だけでなく、戻る経路も確認しておく」


 レオンが言った。


 話し合いが始まってから、まだ十分ほどしか経っていない。


 それでも、最初のぎこちなさは薄れていた。


     ◇


 四十分の制限時間が近づき、六人は計画をまとめた。


 最短経路を無条件に選ぶのではなく、危険地点の手前で状況を確認する。


 観察結果をもとに、進むか迂回するかを決める。


 採集対象は、特徴と状態を確認してから採取する。


 運搬中も周囲への注意を続け、異常があれば作業を中断する。


 そして、予定時間を超えた場合や、危険の判断ができない場合には撤退する。


 計画の説明役は、自然と悠斗になった。


「俺たちの計画では、採集を成功させることだけを目的にしません。対象を確認できても、経路や周囲の安全が確保できなければ、採取を見送ります。分からないことがあった場合は、推測で決めず、追加で確認します」


 教室の前で説明を終えると、鬼塚が腕を組んだ。


「悪くない。役割も分かれているし、判断の基準もある」


 六人の間に、少し安堵した空気が流れる。


「ただし、一つ聞くぞ」


 鬼塚は計画書の中央通路を指した。


「観察した結果、危険が確認できなかった場合はどうする?」


「そのまま進みます」


 美鈴が答えた。


「ただし、確認できた範囲に限ります。見えていない場所まで安全だと判断することはできません」


「よし。では、観察中に紅葉が異常を見つけたが、レオンは異常ではないと判断した。どうする?」


「すぐに進まず、いったん止まります」


 健吾が答えた。


「二人の見たものを確認して、必要なら距離を取る。意見が食い違っているのに、無理に進むのは危ないからな」


「そのとおりだ」


 鬼塚はうなずいた。


「情報が食い違ったとき、誰かの意見を力ずくで通すな。何を見たのか、どこまで確認したのかを聞け。確認できないなら、確認できないこと自体を判断材料にしろ」


 悠斗は、その言葉をノートに書き留めた。


 六人が話し合いの中でたどり着いた考えと、同じだった。


 最後に鬼塚は、計画書を机へ戻した。


「今回の課題は、模擬探索の計画を立てることだ。まだ実際のダンジョンに入るわけじゃない。今日できたことが、現場でもできるとは限らん。だから、次は訓練区画で採集対象を探してもらう」


「採集対象を探す……?」


 悠斗は顔を上げた。


「そうだ。次回は、実際に訓練区画を歩いて、指定された対象を見つける。見つけたら終わりじゃない。なぜそれだと判断したのか、採取してよい状態なのか、説明できるようにしておけ」


 悠斗の胸が、少しだけ高鳴った。


 これまでの授業では、先生が用意した素材を見たり、説明を受けたりすることが多かった。


 今度は、自分で探す。


 採集士として、自分の目で見て、自分の頭で考える。


 もちろん、失敗する可能性もある。


 けれど、失敗を恐れて何も確かめなければ、何も分からないままだ。


「神代くん」


 帰り支度をしていると、美鈴に声をかけられた。


「さっきの確認項目、次の訓練でも使えそうね。採集対象だけじゃなくて、周囲の状況も一緒に確認するのは大事だと思う」


「ありがとう。俺も、みんなの意見を聞けてよかったよ」


「俺は、誰か一人が全部背負うより、みんなで確認したほうが安心できるな」


 健吾が盾を背負い直す。


「私は、判断の根拠を記録しておくことに意味があると思う。結果だけでは、次に同じ状況が起きたときに役立たないから」


 凛は手元の資料を整えた。


「次は実際に歩くんだよね! よーし、私も周りをよく見て、魔法を使うべき場面を考えてみる!」


 紅葉は元気よく拳を握った。


「僕は、みんながどこを見て、どんな情報を必要とするのかも観察しておく」


 レオンは相変わらず静かだったが、その言葉には確かな意欲があった。


 六人は、まだ仲のいい友人というわけではない。


 それぞれに得意なことがあり、考え方も違う。今日の話し合いでも、何度か意見がぶつかった。


 けれど、違うからこそ気づけることがある。


 一人では見落とす危険も、誰かが気づけば回避できるかもしれない。


 一人では判断できない素材も、知識を持ち寄れば見分けられるかもしれない。


 悠斗は、そんな可能性を感じていた。


 家族を支えるために、まずは金を稼ぎたい。


 その気持ちは変わらない。


 だが、ダンジョンで稼ぐには、素材を見つける技術だけでは足りないのだ。


 仲間と協力し、安全に行動し、確かな成果を持ち帰る。


 そのために、自分ができることを一つずつ増やしていこう。


 悠斗はノートを開き、今日の最後に一行を書き加えた。


 ――自分の役割を知り、仲間の役割を知る。


 そして、その下に続ける。


 ――一人でできないことは、相談して考える。


 書き終えた悠斗は、ノートを閉じた。


 次の訓練では、いよいよ自分の目で採集対象を探す。


 見つけられるだろうか。


 間違えずに判断できるだろうか。


 不安はある。


 それでも、今は一人ではない。


 六人で立てた計画が、どこまで通用するのか。


 悠斗は少しだけ楽しみになっていた。


### 次回予告 第18話「採集対象を探せ」


 初めて六人で取り組む、訓練区画での採集課題。


 指定された素材を探す悠斗たちだったが、目の前にはよく似た植物がいくつも並んでいた。


 見た目だけで判断していいのか。それとも、別の手掛かりを探すべきなのか。


 観察する者、周囲を警戒する者、記録する者。


 六人の役割が試される中、悠斗は採集士として最初の判断を迫られる。


ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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