古譚:はじまりの契
■ 古譚:はじまりの契(改訂版)
― 見出し、応えたもの ―
それは、まだ名もない時代。
山は深く、森は閉ざされ、人はただ“恐れ”だけを知っていた。
夜。雨。
境界のあわいに、ひとつの影が立つ。
白。それは“見出すもの”。形を持たず、意味だけを持つ存在。
そこに、もうひとつ。
黒。それは“応えるもの”。声を持たず、在り方だけで返す存在。
二つは、互いを知らない。知る必要が、なかった。
白は、世界の揺らぎを見出す。黒は、それに応え、均す。
それだけで、足りていた。
だが、その夜。
ひとつの“誤差”が生まれる。
人の、祈り。
形にならない願いが、境界へと落ちた。
白は、それを見出した。黒は、それに応えた。
本来なら、そこで終わる。
消え、均され、無に還る。——はずだった。
だが。
その“祈り”は、残った。
消えきらず、形にもならず、ただ“在ろうとするもの”として。
白は、初めて“留める”という選択を知る。黒は、初めて“拒まない”という応えを持つ。
それは、規定外。
本来、存在し得ない揺らぎ。
二つは、同時にそれを認識する。
そして——
白は、見出し続けることを選んだ。黒は、応え続けることを選んだ。
触れないまま。交わらないまま。
ただ、同じ“誤差”を抱えながら。
それが、はじまり。
恐れでも、愛でもない。
ただ。
見出したものと、応えたものが、互いの影を重ねたという事実。
後に、人はそれをこう呼んだ。
——影添いの契。




