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すたうろらいと・でぃすくーる  作者: たけりゅぬ
1章 7月は出会いの季節

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18/18

いちのじゅうなな 板書魔王の小野先生

映画は結局途中までだった。


「続きは、またいつか」


と井口は言って授業を終えた。


トム・クルーズがこれからどうなるか少し気になったが、改めて借りてまで観る気にはならなかったから、結末は永遠に闇の中かもしれない。


教室を出る時、E組の一団のすぐ後ろになった。


慈恩を探したがやっぱりおらず、2年の時に同じクラスだった佐々木海斗に聞いてみた。


「慈恩どうした?」


「あ? 慈恩先月退学したろ。エロ配信バレて」


エロ配信までしたてのか。やるな。じゃない、けしからん。


しかし、先月ってどういうことだ? さっきのは何なんだ。


どうも、時間軸が変になってる気がする。


ひょっとしたら、きららが言ってた重力場がおかしいってのに関係あるのかも。



教室に着くと、水泳の時はいつもギリギリか遅れて来るのに、すでに〆子ときららが戻ってきていた。


「はやかったね」


「うん、今日は泳がなかったから」


言われてみれば、二人とも髪が濡れていなかったし、プールの後はいつも真っ青になっている〆子の唇の色もピンクのままだった。


俺は〆子の手をきららから譲り受けて、席に座る。


きららは康太の席に座って授業の準備を始めた。


待て待て、康太までどっか行っちゃったの? 


そういえば、さっきの保健体育の時間、いなかったような。


「康太は?」


「あそこ」


きららが指した廊下側の席を見ると、そこに一心不乱にイラストを描く康太がいた。


相変わらず余念に練習がなさそうだ。ん?


頭は目立ってでかいが、康太が存在していること自体に安堵した。


「しゅっていうのはないんだね」


「うん。ぼわっもないからだけど。なんか違うことさせられてるっぽい」


康太はいつのまにか人気絵師になったようだった。ボーダー限定の。


チャイムが鳴って、小野先生が教室に入ってきた。


猫背に小柄な体型。全身黒ずくめの脇に挟んだノートまで黒革だ。


きららがこの授業に出ることは了承済みなのか気になったが、


小野先生は生徒には一切目を向けず、出席簿に顔をうずめていたので、問題なさそうだった。


板書魔王の異名をとる小野先生。出欠を取り終わればすぐに黒板に向き、終業まで板書し続ける。




 今日の授業は古文で、『雨月物語』「白峰」だった。小野先生は何も言わず生徒に背を向けて板書を始めた。


思った通りになったのはよかったが、〆子ときららの様子がいつものようではなかった。


まるで、何かにとりつかれたように上気して、荒い息をしていた。


「どうしたの?」


小声で〆子に尋ねたが、まっすぐに黒板を向いたまま、反応はなかった。


今日の板書はそんなに面白いのか?


いや、それは冗談。


きららも同じように、黒板を睨みつけている。


さすがに何かあると思って黒板を見ると、教室の前面に猛烈な陽炎が立ち、逆巻く滝のようになっていた。


そして、板書は既に縦書きのG語だった。


いろは歌を縦読みすると「とがありてしす」となると習ったから、ひょっとして縦読みすると意味が分かったり。


のわけはなかった。縦に読もうと横に読もうとそこに書かれているのは意味不明のG語だった。


そのうちうち板書までくねくねと揺れ出してきた。


小野先生が板書の一行を差し棒でなぞると、


「井澤さん、ここの本文を読みなさい」


と突然きららを指名した。てか、こいつ本文読みなんてさせたことないぞ。今日はどんだけやる気なんだ。


きららは、意表を突かれた形で、言われたままG語の本文を読む。


(あけ)をそそぎたる龍顔(ミおもて)(おどろ)の髪膝にかかるまで乱れ、白眼(しろきまなこ)を吊り上げ、熱き息をくるしげにつがせ給ふ。御衣は柿色のいとうすすびたるに、手足の爪は獣のごとく生のびて、さながら魔王の形あさましくもおそろし」


きららが読んだのはまんま古文だった。


小野先生はチョークを持った手を挙げてきららを制すと、


「特進の井澤さんならこれが誰のことか分かるだろう、答えなさい」


きららはその質問に、声を異様に震わせながら答えた。


「すとくいんです」


「さよう、日本最大最強の怨霊、崇徳院だ」


教室前方の陽炎が勢いを増す。黒板の向こうに何者かがいてそれが(うごめ)きだしたのが分かる。


小野先生がなぞった行間に一筋の亀裂が走った。


きららが椅子を蹴って黒板へ猛ダッシュする。


ぼわ!


きららの前腕が大口径のエネルギー銃になった。


シュはない。康太は別のことで忙しそうだ。


きららが黒板にエネルギー銃を向ける。


その時黒板に入った亀裂を大きく割いて、そこから巨大な何かが出現した。


それは、荒んだ柿色の衣を着て烏帽子をかぶり古代人のような恰好をしていたが、明らかにこの世のものではなかった。


いばらの棘となった髪が床まで垂れ、朱に染まり膨れ上がった顔面に吊り上がった白眼が炯炯と光っている。


血の色に裂けた口からはシュウシュウと炎熱の息吹を吐き、手足の爪は錐のように尖って触れた者すべてを貫いた。


まさに魔王。地獄の魔王だった。


全身からめらめらと紅蓮の鬼火が立ちのぼり、そばに寄れば一瞬で溶かされそうだ。


崇徳院。最大最強の怨霊がこの学園に出現したのだった。


魔王崇徳院が発する波動はすさまじく、誰一人それに抗えず身じろぎ一つしない。俺も頭の芯がぎりぎりと痛んで長く耐えられそうにない。〆子さえ頭を押さえている。相当な圧なのだ。


やがて魔王崇徳院の巨体から光の束が発し、それに触れた生徒たちは見るも無残に黒汁と化してゆく。


きららを探す。黒汁が飛散する中で頭を抱え悶絶している。


うぅぅぅぅぅんんんんんんんんん!


わぼ!


俺は痛みで割れそうな頭でめっちゃ耳を傾けきららを飛ばし、間段なく襲ってくる光の束からきららを逃がし続ける。


きららを逃がす。黒汁が飛び散る。きららを逃がす。黒汁が飛び散る。


他の生徒は黒汁になってもまた元にもどるだろう。保健体育のときのように。

しかし、ストライパーの場合はどうなるか知れたものじゃない。だからきららだけを逃がす。


何度もそれを繰り返えし、きららを安地に飛ばすも、きららの悶絶は収まらない。攻撃に反転する気配さえ見えてこない。


崇徳院がこちらに近づいてくる。


生徒の8割はすでに黒汁と化しその存在を消滅させてしまった。


崇徳院が全身を震わせると、魔王を取り巻く鬼火の濃度が上がり、教室全体が鳴動しはじめた。


それにつれて、光の圧も増し近づけば全てのものが黒汁となってゆく。


その光の束が俺と〆子に向けられる。


〆子は右手で頭を抱えたまま机に突っ伏している。


俺は覚悟した。


〆子を黒汁にするのだけは耐えられなかった。


うぅぅぅぅぅんんんんんんんんん!


わぼ!

わぼ!


俺は、最後に〆子ときららを別所に飛ばして力尽き、地獄の魔王の光に取り込まれた。


光の中には見渡す限りのGがいて歓喜の、声にならぬ歓喜の声を挙げていた。


すでに俺の「エントロピーの種」はGの手中でこねくり回されている。


全身の力が抜けてすべてがどうでもよい。


それでパラレルワールドでもなんでも作るがいいさ。


だがひとつだけ、ひとつだけ教えてほしい。


「種を取られたらどうなるの?」


「繰り返すの」


きららの声だ。女子更衣室でのきららの答えがここに来て聞こえたのだった。


やっぱりここは時間軸がおかしい。


今度は、〆子の朝の心の声が聞えてきた。


「しんどい日なの、今日は」


ああ、本当にしんどい一日だったよ。


意識が薄れゆく中、俺はゆっくりと暗黒の底に落ちて行った。




※『雨月物語』上田秋成作 安永5年版本(大阪府立図書館デジタルアーカイブ所収、巻1・10/22)より翻刻

(毎日2エピソード更新)

続きはこのあと21:10に公開します


よろしくお願いいたします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾⁾


★/いいねしてくれた方、ありがとうございます

とても励みになってます


たけりゅぬ

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