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魔女のお話  作者: seara
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実験(オークソルジャー)

女の子は初めて実験するのではありません。特別の時だけ、こっそりと行うのでした。今夜実験する気になったのは、扉の中の女の子があまりに悲しい顔をしていたからでしょうか。女の子が悲しかったからでしょうか。


女の子は水瓶の水を補充し、大鍋にもたっぷりと水を入れました。

水面が揺れるたび、薪の火の赤い光が反射して、ゆらゆらと揺れます。


昨日の黒い煙?

そんなものは、馬鹿な女の子の空想です。

1日中、馬鹿なことばかり考えているから、ありもしないものを見るのです。

母さんなら、きっとそう言うでしょう。


『私ね、妖精を見つけたいの。前にも言ったわよね。人間のお友達でもいいなあ』

言ってしまって、女の子ははっとしました。

扉の中のお友達は気を悪くしなかったでしょうか。

まるで「あなたじゃ満足していない」と言ってしまったように聞こえなかったでしょうか。


そっと横目で鏡を見ました。


扉の中のお友達は、向こうの世界で何かをしていました。

手を動かし、何かを探しているような仕草。

けれど、口元はほころんでいます。


怒っている様子はありません。

むしろ――どこか、ほっとしたような。


女の子は胸が少しだけ温かくなりました。


『よかった……』


そう呟いて、大鍋の水を木の匙でゆっくり混ぜました。

水はまだ冷たく、夜の始まりを映していました。


女の子はそっと角砂糖を一つ、月に掲げました。

『黒い森の魔女の娘から、訪ねてくれる貴女への感謝の気持ち』

そのままそおっと、窓辺に角砂糖を置きます。


そして、実験を続けるために大鍋の前に戻りました。夜露を吸ったばかりの薄菫の花のオイルを慎重に一滴だけ入れて、黒苔の粉末を一振りして、大鍋の上で指をパッチンと鳴らします。女の子は3回だけ指を鳴らしました。

すると、どうでしょう。

大鍋の中の水面が、ぱしゃり、と小さく揺れました。


薪の火が赤く反射して、ゆらゆらと揺れます。


なんだか小屋の中が臭くなるのを女の子は感じました。


そして、大鍋の中には・・・


まだ若いオークが映ったのでした。

『…ん?』


オークが言いました。

大鍋の“水の中”から、まるでこちらを覗き込むように。

『なんだっぺ。まだちいせえ女の子の匂いがするだがや』

ブヒッ、と鼻を鳴らしました。


女の子は固まりました。

大鍋の中に映ったのは、オークの村だったのです。女の子はがっかりして座り込みそうになりました。でも、オークには用がないなんて、失礼なことは言えません。母さんはそんな失礼な子には育てていないのですから。

『こんばんは。オークさん』

女の子ははっきりした声で言いました。

『おいはオークじゃないだ。オークソルジャーちゅうだだ。 ただのオークなんかよりずっと強いだがや』


そう言って胸を張るオークソルジャーは、焚き火の赤い光に照らされて、筋肉が隆々と浮かび上がっていました。オークソルジャーの言葉は訛が酷くて女の子には聞き取りにくかったのです。それでも女の子は素直に頭を下げました。

『ごめんなさい。オークソルジャーさん』

素直な女の子は自分の失礼な言葉を詫びます。女の子は誰の気も悪くしたくはないのです。

オークソルジャーは満足げに鼻を鳴らしました。

でも女の子にはオークソルジャーと話すようなことは何もありません。

『魔女の匂いもするが。おんみゃ、黒い森の魔女と一緒に暮らしているだな』

オークソルジャーは女の子のことを知っているのでした。女の子は驚きました。外の世界に出たことなどないのですから。

『黒い森の魔女は、さっき見たがや。みったぐないクロヒョウの生皮被って得意になってただが』

立派は魔女の母さんになんてことを言うのでしょう。

『あのまんまクロヒョウに変わっちまったら、黒い森もいいこんだなや』

なんて失礼なオークソルジャーでしょうか。女の子はむっとして言い返しました。

『あんたなんか変わらなくたって豚頭じゃないの』

母さんに失礼なことを言うオークソルジャーの機嫌なんて、もう知りません。

オークソルジャーは目をぱちくりとさせました。オーク族は頭が良くないのです。う~ん、と腕を組んで考えてからオークソルジャーは言いました。

『おんみゃ、頭悪いだな。おいはオークソルジャーだがや。豚頭は当たり前のこんだ』

ブヒヒっと鼻がなったのは笑ったのでしょうか。

『もういいわ。あたし、元々オークになんて用はないんだから!さようなら!』


おいはオークソルジャーちゅうだ。

オークソルジャーの叫ぶ声は無視して女の子は大鍋の上でパッチンと指を一度だけ鳴らしました。オークソルジャーの姿は小さくなり、ゆらゆらとして消えました。

窓辺に置いた角砂糖も消えました。今頃、オークソルジャーが、がりがりと齧っているかもしれません。

大鍋の中にはまだ魔法の気配が漂っていました。もう一度、どこかの誰かに繋がることが出来るでしょうか。でも、小屋にはオークの臭いが残っていましたし、女の子はまだむっとしていました。こんな気持ちで妖精を探すのは難しそうです。オークの臭いが残る場所で妖精を呼び出すのは失礼かもしれません。


女の子は窓を開けてバタバタと仰いで空気を入れ替えました。こんなにオークの臭いがしたら、母さんが怪しむでしょう。大鍋も綺麗に洗って、実験の痕跡を消しました。

実験の後始末を終えてから、女の子は扉の中のお友達に話しかけました。

『今日は妖精に会えなかったわ。扉の中のお友達』

扉の中のお友達の瞳は、まるで火の粉のように揺れ、暖炉の火を映して黒い三つ編みが金色に輝きました。扉の中のお友達の目がぐんぐんと大きくなります。

女の子はその目に吸い込まれるようにしてゆっくりと床に膝をつきました。


そして


気が付くと母さんに木の箒で肩を突かれていたのでした。

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