85.ヒメ 新人ハンターを説教する
「ファリナ、<ポケット>に入っている服借りるね。」
「え?あ、うん。」
パーソンズ家の依頼の時の人魔戦での反省から、<ポケット>に替えの服をいれてある。
「わたしのじゃ、一部があわないみたいだから・・・」
「何泣いてるのよ?」
泣いてないよ。ファリナ、あんたにはわからないわよ。
<ポケット>からファリナの服を出し、上半身裸同然のルイザに渡す。あと、ハイ・ポーションと。
「ハイ・ポーションなんて高価なものいただけません!」
慌てて押し返してくるルイザ。
「傷、残るよ。女の子なんだから気をつけなきゃ。いいから飲みなさい。」
さっき飲んだポーションじゃ、傷を負いすぎて治しきれない。このままじゃ、傷が残っちゃう。
ミヤの魔法でもいいんだけど、ただで治してもらえるって思ったら、こいつら無茶しそうだしな。今回みたいに。
「甘い。」
ハイ・ポーションを口にするルイザ。
え?甘いの?
「ち、ちょっとだけ舐めさせて。」
「え?どうぞ・・・」
3分の2飲み終えた瓶をわたしに差し出す。一口だけ口に含んでみる。
「ほんとだ、甘ーい。果樹水より甘いよ。おいしいね。」
「それ、あくまでも薬だからね。」
わたしたちの中で、飲んだことのあるファリナが呆れた顔をしてこちらを睨む。
「わかってるよ。」
こちらをジッと見ていたミヤに瓶を渡す。
ミヤも一口。飲むと渋い顔になる。
「本当に薬か?よくない甘さ。」
飲みたそうにしてるナターシャ含む3人に瓶を手渡す。
一口ずつ飲み、『甘ーい。』『これ薬なの?』とか言いあっている。
「ジュース代わりに・・・」
「ダメです。値段が高い上に、どう考えても体がなんともない時にガブ飲みするのは、体に悪そう。」
ファリナが首を横に振る。
「ヒメさんたちは飲んだことなかったんですか?」
オトーヌが残りを一息で飲みながら尋ねる。いや、それルイザのだからね。
「そこまで酷いケガしたことなかったからね。」
まぁ、魔法で治していたってこともあるけど。それより問題は、ジュース代わりダメか。
「ルイザのケガも落ち着いたところで、さて、敗因はなんでしょう。」
「わたしが出すぎました。狼を散らそうと思ったんだけど・・・」
服を着替えたルイザが俯いたまま呟くように答える。
「最初の撹乱は誰の役目?」
「わ、わたしです。」
シュタッと手をあげるナターシャ。
「だよね。最初にナターシャが魔法で獣を撹乱させて、それを各個撃破するはずだったよね。」
3人が困ったようにルイザを見る。視線が自分のせいだと言っているようで、小さくなるルイザ。
「で、何で3人は止めなかったの?」
「「「え?」」」
「だって、止める間もなくルイザが前に出ちゃったから・・・」
「止まったか止まらなかったかじゃないの。なんで声を掛けなかったのかって聞いてるの。」
「声を掛ければ、ルイザは自分の行動が間違ってるって思って戻るかもしれないし、戻らないにしても、自分はチームとして間違った行動をとっているってわかるわよね。」
ファリナがわたしに続く。
「さらに、その後3人そろって黙って見てるだけってどういうこと?あなた方、あのままルイザが狼に食べられるまでボケーッと見てる気だったの?」
「そ、それは・・・」
3人が青くなる。
「ルイザの援護に動くか、他の狼に対して動くか。色々できることはあったはずだよね。」
「・・・はい・・・」
「とりあえず、帰ろうか。このまま続けるのは無理でしょ。帰って4人で話し合いなさい。どう動くのがいいのか。誰が指示を出した方が動きやすいか。そして、肝心な事。このままハンターを続けていけるのかをね。」
4人は俯いたまま黙って聞いている。
ハンターをやめて、普通の生活に戻るなら、早い方がいい。
「え?やめるかもしれないってどういう事ですか?」
ギルドに戻って、ノエルさんに報告。4人は共同で借りている部屋にまっすぐ戻って行った。
あらましを説明する。
「なるほど、それケガする前になんとかできたんじゃないですか?」
「あのね、今後ずっと一緒にいるわけじゃないんだから、そんなまねしたら死ぬんだよってところは自覚してもらわないと。」
「もういっそ7人パーティーになっちゃえば・・・」
「「却下。」」
ファリナとミヤが即決。
「あの娘たちに合わせて、チマチマ薬草集める気もないし、わたしたちに合わせて、魔獣狩らせる気もないから。」
レベルの差が大きいとやっていけないよ。
「仕方ないのかもしれないですね。」
組んだ手の指を、器用に動かしながらノエルさんが呟く。
「半年前のサムザス事変のせいで、この国はあちこちボロボロで立て直している最中。男性は仕事選びたい放題ですけど、女性は・・・」
サムザス事変で、魔人族との国境近くの村や町がいくつか壊滅、または半壊してる。復興するとか廃村にするためには、土木含めて人手が必要だ。でも、それが必要としてるのは男手であって、女には、復興の現場では食事の賄いか、現場近くの酒場などの、夜のお仕事くらいしか需要はない。
無事な町だって、人口の数パーセントとはいえ、それが急にいなくなったんだ。しかも、ほとんどがハンター。宿とか飲食店で影響が出てきてる。王都くらいかな、以前と変わらないのは。
「あんな戦争がなければ・・・ううん、あんなに簡単に引き上げるくらいなら、最初から魔人族が攻めてこなければ・・・」
サムザス事変は、魔人族が王都に向け侵攻、その道中3分の1くらいまで進んだ後、急に転進。領地に引き上げていった。
指揮をしていた魔神に何かあったのだろうという話だけど、わたしたちは知らない。当事者だけど知らない、関係ない。
「たらればは、言ってもしかたないよ。そうならなかったのが今なんだから。」
「ヒメさん、割と冷めてますね。自分が勇者になっていれば、魔人族なんて全滅してやったのに、とか言いそうなのに。」
「わたしも、子どもじゃないんだから、できないことくらいはわかってるつもりなんだけどなぁ」
「まーたまたぁ。」
ご冗談をと言いながら、わたしの肩を叩く。
「まぁ、明日。あの娘たちの考えを聞いてからだね。今日は帰るよ。」
ヤバそうなので、ミヤの肩を押さえつつ、ギルドを後にする。
ミヤの目が、ノエルさんを殺しそうだ。
「気楽に過ぎる。いくら現地にいなかったとはいえ、ヒメ様1人で何ができたと言う気か?あの女、殺すべき。」
「この辺は、魔人族の進攻方向になかったからかしら、お気楽よね。それでも、何百人もの勇者が還らなかっただろうに。」
サムザス事変の悲惨さを言いながら、戦局をお気楽に考えているノエルさんに、ミヤが怒り心頭、ファリナも呆れてる。
わたしたちも、住んでいた村が壊滅している。まぁ、自由になれたからいいといえばいいんだけど。それでも胸が少し痛い。
ファリナが食事の支度をしてくれるようになるまで、わたしたちにご飯を運んでくれていた、カイラさん。たまに隠れて駄菓子を買いに行ったお店のエーミャさん。それほど仲良くはなかったけど、いなくなって悲しくないというほど非情にはなれない。
「わたしが本気になっていれば、死ななくて済んだ人がいたのかなぁ。」
前線にいれば、半分くらいは燃やせたよね。
「たらればは、言っても仕方ありませ-ん。」
ファリナが後ろから抱きついてくる。
「卑怯。」
ミヤも負けじと腰にしがみつく。
「そう、だね。」
前線でいくらがんばっても、指揮官を倒さない限り戦闘は終わらなかっただろう。
できることはやったんだ。終わってしまった今となっては、あの時ああしていればなんて、ただの戯言だ。
それは、現在の状況にも言える。
ものごころついた頃から勇者になるべく育てられたわたしたちに・・・わたしだけか。ファリナは本人の希望で、ミヤは成り行きだもんね・・・初心者のあの娘たちに教えてやれることなんてほとんどない。正直、できない理由がわからないわたしたちに教わっているあの娘たちが不幸だ。
それでも、教えられることは教えておきたい。将来、あの娘たちに不幸があっても、あの時ああしていれば、なんて言わないくらいは。
次の朝。ギルドのいつもの部屋。ここもう、わたしたちの私室になってるよね。
「続けさせてください。お願いします。」
代表して、ルイザが宣言した後4人が頭を下げる。
「・・・だめでしょうか?」
恐る恐る、ルイザがわたしの顔色をうかがう。
「いいよ。決めるのはあなたたち。わたしたちはそれに協力するだけ。」
「昨日、やめろみたいなこと言いませんでした?」
「それも含めて4人で相談しなさいと言っただけ。決めるのはあなたたち。その結果、誰かが神様と対面することになっても、それはあなたたちの決断の結果として受け止めなさいと言ってるの。」
「うぅ、神様と対面とか、遠回しに言われる方がきついんですけど。」
ナターシャがジトッとこちらを見る。
「直接的な方がいい?あなたたちの誰かが死んでも、あなたたちの責任だし。」
「「「「グホッ!」」」」
胸を押さえて、うずくまる4人。
「ひ、ヒメさん、そんな最悪な結果だけを考えなくても・・・」
ノエルさんが間に入ろうとする。
「昨日の状況見たら、それ以外出てこないんだけど。」
「今日のわたしたちを見てください。」
ヨロヨロと立ち上がるルイザ。
「うん、楽しみにしてるよ。」
わたしは、ルイザの肩を叩いてやる。
「相変わらず、冷たいです。ヒメさん。」
ノエルがファリナに愚痴る。
「そう?」
「がんばれって、言ってやれば、あの娘たちだって・・」
「で、死んじゃったら可哀想だったねって言っておしまい、と。」
「そんな!わたしは・・・」
「失敗して、また挑戦できることなら、がんばれって応援すればいい。でも、ハンターの失敗は死なの。次はないかもしれないの。命が助かっても、腕や足がなくなるかもしれない。だから、無理なら無理って自分で納得しなきゃいけないの。今度こそ、なんて言ってられないの。でも、あの娘たちは若いから、自分で納得はできないでしょう。だから、ヒメがわざときつく言ってるの。ヒメに言われたくらいであきらめるなら、その程度。でも、あの娘たちはやりたいって言った。それは、ヒメも嬉しいんじゃないかな。」
「・・・わたしは、事務の人間なんで現場のことなんてわかりません。わたしの言ってることは無責任なんでしょうか・・・」
「それは現場の人間にはわからないですよ。」
「・・・でも、ファリナさん、あの娘たちが若いって言いますけど、皆さんと変わりませんからね。年齢。」
「うぅ、気持ちがもうオバサンなのかなぁ・・・」
そして、再度の草原。再度の挑戦。
後でちょっと後悔する。この日、この場所に来なければ。と。
それこそ、たられば、なんだけどね・・・




