84.新人ハンター 実戦に出る
新人たちの訓練は続いた。
「よく続いてますね。3日くらいで投げ出して、新人ちゃんたちは、今頃には、獣か野郎ハンターのどちらかの獲物になって美味しくいただかれちゃうんだろうなって思っていました。」
嬉しそうにノエルさんが何か言ってる。けっこう非道な事をにこやかに言ってるけど、そうならない様頑張ってるわたしたちをほめてほしい。
新人の4人は、それを聞いて引きつった笑いしかでない。
「でも、本当によくしてもらってます。」
「うん、実際やってみたら、わたしたちだけだったら、確実に人数半分以下になってたよね。」
わたしには全滅エンドしか見えないけどね、いまだに。
「そろそろ角ウサギや狼なら戦ってみてもいいかな。ナターシャの弓も買えたようだし。」
「はい。こんなに早く買えるとは思ってませんでした。」
「みんな薬草集め頑張ったからね。」
ファリナがにこやかに言う。
草原に生えてる薬草は、さほど高くは売れない。その気になれば、ハンターではない一般人だって採取に行ける場所だから。まぁ、一般人と新人ハンターの差って何って言われれば、ハンターギルドの登録証があるかないかくらいの差でしかないからね。
4人は獣が狩れない分、ひたすら薬草集めを頑張った。塵も積もればヤマトさん、の言葉通りだ。そう、昔々、あるところにヤマトさんというおじいさんが・・・
「はい、与太話はそのくらいにしてね。」
え?ファリナ、これって与太話なの?
ギルドの空き地での練習で、剣と槍の3人は、単独でいる時に奇襲をかけられない限り、対応できそうなくらいにはなった、と思う。実戦やらせてないから、多分程度。
ナターシャも弓の命中率は、本人が動かないのなら、かなり当たるようになった。ただ、実戦は動きながらだから練習みたいにいくとは限らない。
魔法もいくつか教えた小火球の魔法陣の中に、うまくナターシャに合いそうなものがあったらしく、小火球とはいえ、狼くらいなら倒せそうな威力までになった。まぁ、倒せる代わりに狼が焦げちゃうんだけどね。これも、まだ実戦でやったわけではないから、絶対にそうなるとは言えないけど。
あと、ナターシャの魔力だと、普通の狼程度を倒せる威力で撃てるのは、20発前後。絶殺(絶対殺すの略。必殺ではない。)だと、10発くらいが魔力の限界みたい。
なので、獣は群れてる事が多いので、最初は魔法で牽制。群れを分断して、獣1に対してこちら1以上の状況をつくりだす。あとは状況を見ながらナターシャは弓で戦ったり、魔法で牽制したりする。ナターシャに近づく獣は、基本弓で、接近された場合は、短剣で対応する。元が剣士だから、融通が利くのは助かる。
以上が基本の戦術。それでも、白の森の中央より奥には行かない。魔獣と遭遇したり、獣の数が多ければ逃げる、など覚えてもらうことは多い。これは口で言ってもしかたないので、現地に行き、実践で体感してもらおう。
「明日は朝から草原に行ってみましょう。各自念のために、普通のでいいからポーション1本用意して。」
「ハイ・ポーションじゃなくても大丈夫ですか?」
ルイザが心配そうに尋ねてくる。
「あなた方が単独で動かないで、ちゃんとチームとして行動できれば、それほど心配するようなことはないわ。それに、ハイ・ポーションは高いでしょ。」
ファリナが、みんなを安心させるためだろう。柔らかく微笑む。
「実戦初日だからね。みんなの周りは、わたしたちがガッチリ固めてあげるから大丈夫。とはいえ、重症にならない程度なら放っておくからね。軽く怪我するのもいい経験だ。」
「うぅ、ヒメさんって痛くされて喜ぶ趣味の人なんですか?」
エーヴ、なぜ変態を見るような目でこちらを見るの?
「どう見たって、相手を痛くして喜ぶ趣味の方でしょうが。」
ナターシャ、最年少だからって何言っても許されると思ったら大間違いだからね。
4人を家に返した後、ノエルさんがギルドの例の応接室らしき部屋にわたしたちを招く。
「ありがとうございます。」
ソファーに座るなり、ノエルさんが頭を下げる。
「本当なら新人の面倒なんて、ベテランのハンターにお願いできる筋合いではありません。ハンターという職業を選んだ時点で自己責任。生きるも死ぬも自分で判断していかなければいけないはずなんです。」
まぁ、新人研修なんて聞いた事ないしね。
「それでも、あんな若い女の子が、放っておいたら、ただ死にに行くだけだって思ったら、わたし・・・」
「でも、それも自己責任なんだけどね。」
この仕事は甘くない。どんなに気をつけても、死ぬときは死ぬ。わたしたちの教えはあくまで手助けであって、これで死ななくなるわけではない。
「あともう少しは教えるけど、その後までは責任持てないよ。ただでさえ非力な女の子のハンターの生存率なんて、男連中に比べたらバカみたいに低いんだから。」
「はい。後は彼女たちの自覚次第です。」
祈るように両手を胸の前で合わせるノエルさん。
「まぁ、わたしたちは貰えるものさえ貰えば、何の問題もないんだけどね。」
「ヒメさん、悪役っぽいですよ・・・マスターには連絡してあります。ヒメさんたちに頼んだと報告書に書いたら、決裁書に涙の後がありました。かなり無理して要求の金額を呑んだようですよ。」
ノエルさんが引きつった笑みを浮かべる。嫌なら断ればいいのに。
翌朝。天気は上々、絶好の昼寝日和。
「なので、わたしは寝ます。各自、角ウサギを適当に狩ってくること。」
「というのは冗談で、4人でまず教えた隊列を組んで、草原を進みます。今回は薬草を探しているうちに、獣と出会うパターンでいきます。ただし、薬草探しながら歩いてもらうけど、薬草は2の次なんだから探すのに夢中になって、獣に襲われるまで気がつかないなんてことのないように。」
ファリナ、首を絞めるのはやめて。冗談、冗談だから。寝ないから。
槍のエーヴを真ん中に、剣のルイザとオトーヌがその左右を固める。ナターシャは、やや後方から前の3人の様子と周りを確認しながら、いつでも魔法を撃てるようにする。弓を構えて歩くのは、目の前だけを見てしまい、指示ができなくなるから、弓は戦闘が始まるまでは背負ったまま。
後は好きにやらせる。戦闘は各々の個性が出るから、お互いがそれにどう合わせるかにかかってる。つまり、実戦をやってみないとパーティーのやり方が見えてこない。
失敗しながら試行錯誤していけばいい。今、わたしたちがいるうちに。
角ウサギ3匹は、きれいに倒せた。次に現れた狼2匹は、急に襲ってきたから、みんな連携も忘れて大騒ぎ。ファリナさんが入ってきてくれて、あっという間に倒してくれた。
わたしたち、まだまだだ。ルイザはちょっと悔しい。
戦闘の指示は後衛のナターシャが行うことになっている。それでも、パーティーリーダーとして、少しは役に立ちたい。パーティーを組んだばかりのいい加減な気持ちはもうない。だから、わたしたちはもっとできるはず。ルイザはちょっとだけ焦りを感じる。
急襲に弱いかな。ま、初めての実戦だし、いきなり敵が出てきたらああなるよね。
ファリナも助けに入るの早いよ。あの娘たちが心配なんだろうけどね。
「だからさ・・・」
「でも、それじゃ・・・」
4人で反省会。わたしたちは参加しない。4人のやり方を決めるのに、わたしたちの意見は邪魔になる。よほどとんでもないことを言いださない限りはね。
どうやら、後衛のナターシャと、前衛から1人、エーヴが、薬草を探すのをやめて、獣の警戒をするようだ。人員の無駄のような気もするけど、最初は、命大事に、か。
「左から狼・・・だよね?2、違う3匹!オトーヌとエーヴ迎え撃って!」
後衛のナターシャがぎこちなく指示を出す。3匹いるなら前衛3人を動かさなきゃ。それに、ナターシャも距離のあるうちに、小火球の1発も撃ちこみなさい。
「ルイザ、そっち行った!」
「え?うそ!待って、待って、待って!」
「「「キャーーー!」」」
グダグダだった。
「うまくいきません。わたしに指示は無理です。」
ナターシャがガックリ。
「違うよ、ナターシャ。わたしたちだって言われたことにキチンと反応できてない。」
ルイザが悔しそうに言う。
「他人と組むって難しいでしょ。でも、1人じゃあっという間にやられちゃうよ。」
わたしのセリフに俯く4人。
「もう一度、やらせてください。」
ルイザが何か思いついたのか、スックと立ち上がり、わたしを見る。
「何回でもやるよ。あ、疲れが見えたらやめるよ。無理してもいい結果は出ないからね。」
ルイザの肩の力の入り方、なんかよくない事考えてそう。
「来る!狼!正面から・・・3!」
弓がうまく射れるだけあって、ナターシャの目がいい。目はね。
「エーヴ、オトーヌ、狩り逃したやつお願い!」
ナターシャが指示を出す前に、狼に向けルイザ吶喊。うん、バカかね。素人が1人で3匹相手にするか。先生が悪いのかな・・・わたしの短絡的な所を見せたせいだって言われるパターンかな。
「ミヤ!」
ちょっと考えるから、あれお願い。
先頭の1匹を上段から一気に斬る。続く2匹は、慌てて目標を、後ろにいる2人に移すはず・・・そう思っていたルイザに、狼2匹が飛びかかる。
「キャァ!」
地面に倒され、1匹の牙を剣で受けるのがやっと。もう1匹が腕に噛みつく。激痛が走る。爪が体に突き立てられ、服がビリビリに破かれ、肌に血の筋が何本も走る。
『痛い、痛い、痛い、痛い!』
死ぬ・・・そう思った瞬間、剣で押さえていた狼が、空高く舞い上がった。
涙が溢れる目には、狼を足で蹴り上げたミヤの姿。
まだ、蹴られた狼が空中にいる間に、ミヤの鉤爪がもう1匹の、ルイザの腕に噛みついていた狼をあっさり切り裂く。
さらに、落ちてきた狼も、空中で着地の姿勢をとろうとクルクル回っているところを切り裂く。
『助か・・・った・・・の?』
堪えていた涙が溢れだす。ルイザは、動くこともできず、ただ泣くしかできなかった。
「誰かポーションを飲ませてやれ。」
今さらながら、駆けつけてきた3人に、ミヤが声を掛ける。
「大丈夫!?ルイザ!」
「ルイザ!」
「怪我は?うわ、ヒドイじゃん。」
3人がルイザを抱き起し、ポーションの瓶を口に。
「どう思う?」
ファリナが半分あきれ顔。
「教え方が悪かったかな。」
「わたしのせい?ヒメのまねしようとしたんじゃないの。ヒメが非常識だってことわかってるのかな。まねできるわけないじゃない。」
「わたしが悪いのかな。んー、じゃ、白黒はっきりさせるには・・・」
「待ってください!今のはわたしの判断ミスです!2人は何も悪くありません!だから、ケンカはやめてください!」
傷だらけで座り込んだままのルイザが何か叫んでる。
「・・・じゃんけんかな。」
「いいでしょう。負けた方が悪いということで。」
「「「「は?」」」」
「待て。じゃんけんならミヤもやる。」
「待ってください!あの・・・なにやってるんですか?」
4人が呆然とこちらを見てる。
「じゃんけん。やる?」
「いや・・・そうでなくて・・・」
「誰が悪いのかはっきりしないからね。ここは公平に・・・」
「そんなことする必要はありません。わたしの責任です。」
わたしは、そう言うルイザの方を見ない。
「怒ってますよね・・・」
目を合わそうともしないわたしを見てうなだれる。
とりあえず今ルイザを見たくない。狼に服を引き裂かれて、肌が見えてる。
『あれ、絶対わたしより大きいよね。』
同い年のくせに・・・わたしは、ちょっとプンプン、かなりガックリだ。




