70.マイムの町近くの森に設定する
<ゲート>の出口をエルリオーラ王国、マイムの町近くの森に設定する。帰ってきた。何日ぶりだろう。
「問題はこれからよね。お決まりのパターンだと、家の前にフレイラかダラムルさんがいるはずなんだけど。」
「何で、言っちゃうかな。フラグになると思って黙ってたのに。」
ファリナがよけいな事を言う。せっかく帰ってきたのに、気が滅入る。いえ、大丈夫。いなかったことだって1回ぐらいあったもの。
「8割以上の確率でいた。」
ミヤ、そこは2割もいなかったというところ。
離れた小路の角から家を覗く。なんで自分の家に帰ってきて、こんな真似を・・・リリーサの気持ちが少しだけわかってきた。
家の前には、警吏の方々がいっぱいいた。なんで?
よく見るとその中に、ダラムルさんとあれは、マリシア?
よくわからない組み合わせだけど、このままじゃ家に入れないから嫌々ながらその集団に向かう。
「あ、ヒメさん!」
涙目のマリシアがわたしを見つけて駆け寄ってくる。
「嬢ちゃん方、いいところに来た。説明してやってくれ。俺はこの家の工事を頼まれた大工だと。」
「何事なの?」
「実は・・・」
マリシアの話だと、ロイドさんの命でわたしたちが帰ってくるのを、エミリアと交代で昨日から待っていたそうだ。そこに、変な男が付きまとってきた、というわけで、警吏を呼ぶ羽目になったとか。
「ズーッと傍に立ってこっちを見てるんです。怖かったです。」
「いや、だから、嬢ちゃんたちの知り合いかなと思ったけど、声をかけていいものかどうか考えていたんだ。いきなり、警吏を呼ぶなんて酷いだろう。」
まぁ、声かけづらいよね。ダラムルさんには。
「とりあえず、問題がなくてよかった。今後も何かあったらすぐ連絡ください。」
警吏の隊長が、マリシアににこやかに語りかける。マリシアが、領主に雇われたお嬢様の護衛だと知っている上に、美人だからもう親切丁寧な対応のことこの上ない。
片や気をつけろよ、と言わんばかりな対応をされるダラムルさん。どちらにも掛ける言葉がない。
「で、ダラムルさんはどうしたの?」
「あぁ、商業ギルドから材木が手に入る日にちがようやく決まった。今日の午後には入荷する。」
ようやく。やっと工事が始まる。それでも、当初の話より2,3日早い。
「もう工事始められるの?」
「お前らが良ければ、あさってには家の工事を始められるんだが。」
「どのくらいの日数かかりそう?」
「補強して壁を抜くだけだから、2日あれば終わる。で、いつからがいい?」
「当然あさってから始めて。」
「ミヤは今日から始めてもいいと思う。」
ファリナとミヤが、わたしを無視して決める。さすがに今日からは無理でしょう。大体、リリーサがいた間掃除してないから、結構家が汚れてる。女の子のお部屋ですもの、掃除してからじゃなきゃ人は入れません。
「なら、あさっての昼近くから始めるってことでいいか?工期は、あさって、しあさっての2日。なにか希望は?」
「ベッドのオーダーメイドできる?」
「できるが、オーダーメイドということになると、2週間は見てもらわないとな。」
「うーん、結構かかるな。ごめん、それはまた今度お願いするね。どんなのがいいか、部屋が完成してからじゃないと何とも言えないから。」
「こちらこそ頼む。今は少しでも仕事が欲しいからな。」
「じゃ、そういうことでお願い。」
片手を上げて、ダラムルさんが帰っていく。
さて、問題は、話が終わるのを横で待っていたこちらの方か。ロイドさんが呼んでいる?また、面倒事を持ち込む気かな。フレイラやエミリアじゃなくマリシアをよこすあたり段々巧妙になってきたぞ。
「そういう格好してると、ハンターに見えないよね。」
マリシアを上から下まで眺める。いつもの、シャツにズボンでなく、ワンピースのスカート姿。休みか何かで私服なのかな。
「はい、フレイラお嬢様から、ヒメさんに頼みごとがあるなら捲りやすいようにスカートをはいていけと。あの・・・捲るのなら、他の人の見てないところでお願いします。」
「うがー!」
ファリナとミヤが、わたしを左右から押さえつける。
「ヤっちゃったらダメよ。」
「マリシアは悪くない。落ち着け。」
落ち着いて、深呼吸。
「マリシア、あんた職場変えなさい。」
言えることはそれに尽きた。
「でも、領主家の護衛で、しかもお嬢様が相手だから、領主様やご子息様に・・・その・・・体を求められることもないですし、女のわたしからすれば、夢のように待遇の良い職場なんです。」
「前はハンターなんだよね。ソロ?パーティー?」
「パーティー組んでました。わたしの腕じゃソロなんてとても。女性2人と男性1人の3人だったんですけど、その・・・他の2人が結婚しちゃいまして・・・男って、力技の剣士より、かわいいって感じの魔術師の方が好みなんでしょうか?」
ドンヨリと視線の定まらぬ目で話を続けるマリシア。
しまった、地雷踏んだかな?よけいな事聞くんじゃなかった。
「わたし、騎士志望なんです。ハンターから勇者になって、名を上げて騎士に推挙してもらえないかって思ってたんですけど、わたしの実力じゃ、勇者なんて・・・だから、領主様の護衛をして、領主様に騎士に推挙していただけないかと・・・」
騎士って、女の子いけたっけ?女人禁制とかじゃなかった?興味ないから覚えてないな。
そもそも騎士って、他国との戦争のための集団だけど、他国と戦う余裕のない現状、お飾り以外の何物でもない名誉職なんだよね。そのくせ、自分たちが国を守ってるってプライドだけは高いし。魔人族が最大の敵である現状、国を守ってるのは、勇者とハンターだっていうの。
「ごめんなさい。余計な話しちゃった。ロイド様がお呼びです。」
一瞬、顔が引きつる。でも、フレイラやエミリアと違って、真面目一辺倒なマリシアの頼みは断りづらい。
「何の用か聞いてる?」
「いえ。ただ奥様の事かもしれません。」
「マリアさん、どうかしたの?」
「わたしはフレイラお嬢様の護衛なので、詳しいことは聞く立場にありません。けど、伝え聞いた話じゃ、お薬が足りないかも、と。容体が完全に治り切らないらしくて、今日は、フレイラお嬢様がそばについてます。」
それで来てないのか。おかしいと思った。
どうしよう。マリシアに何の用か聞いてきてもらおうと思ったけど、それだと明日になるかもしれない。明日は家の掃除と、行きたいところがあるから忙しい。あさってからは家の工事が2日間。それが終わるまで放っておくという手もあるけど、万が一マリアさんの一大事だったらそうも言っていられない。
「行くしかないわね。ことがマリアさんの緊急事だったら困るし。」
「違ったらパーソンズ邸は焼失するけどね。」
ファリナの言葉にため息を吐きながら答えるわたし。
「お手柔らかにお願いします。」
マリシアが深々と頭を下げる。相手が誠実に生きてるマリシアだと強く出られない。罠だわ、これ。
「国王様が会いたいと申されている。灰色狼の礼がしたいのだそうだ。」
ほら、罠だ。こうなったら、全部燃やして何もなかったことにするしかない。
「いや、待ってくれ。今のところ灰色狼は、他国から来たハンターから買った事にしてある。一応お前たちの意見も聞きたくてな。断っておいて後から実は国王様に会いたかったとか言われても困るからな。」
「それはこの国が滅亡でもしない限り無い。えぇ、有り得ない。」
「国王様に何か含む所があるのか?」
恨みがあります、とは言えないよね。しかも、個人的過ぎる恨みだし。
「手込めにされる。」
「いや、自分の幼児体形を見て言ってるのか?それ。」
燃やす!もう燃やす!絶対燃やす!
「落ち着きなさい。」
ファリナ、痛いよ。殴ることないじゃん。
「とにかく会いたくありません。今後もごまかしてください。どうしても、ということになれば、こちらも力ずくになります。それは避けたいです。」
ファリナが真顔でロイドさんを見据える。
「ふむ、わかった。無理強いはしたくない。また何か頼むこともあるかもしれない。お前たちにいなくなられることが、私にとって一番困ることだ。この件はうやむやにしておこう。」
もう頼まれたくないけどね。
「お父様、お母様が目を覚ましました、ってファリナお姉様、戻られていたのですか?わたしに会いに来たのですね。」
何となく、フレイラの元気がない。
「マリアさんの具合はどう?」
フレイラには聞きづらいので、ロイドさんに聞く。
「だいぶ良くなった。もう少しだと思うんだが・・・」
こちらも急に元気がなくなる。
「だが?」
「・・・ここにきて、治り切る前に薬が切れた。後はマリアの体力を信じるしかない。」
マリシアの話は本当だったのか。これは困った。
薬はある。わたしの分と、リリーサの売れ残った分を買ってある。こうなる予想をしたわけじゃなく、<ポケット>に入れておけば劣化はしないから、いつか使うこともあるかもしれないと思ったのだけど。
渡すには問題がある。
最初のマリアさんの薬のために森に入った時に出会った人魔は、領地に戻ったってロイドさんたちには話してあるけど、実際は燃やしちゃった。
今回の人魔は、その人魔を探しに来ていた。今後も、あの森付近に出没するかもしれない。そのことをどうやって説明しよう。
(今回のだけにしておきましょう。リリーサから譲ってもらったやつだけ出しましょう。)
あぁ、そういえば勢いに押されて言い忘れてたけど、リリーサにわたしがパープルウルフを持っていた事を内緒にしてもらわなきゃね。
「この前、ここに灰色狼を置いていった後、リリーサと森に行ったんだけど、その時出会った人魔が連れていたパープルウルフから採れた薬なら今持ってるけど。」
「また人魔に会ったのか?」
そっちに食いつくの?
「当たり前だ。領地を預かる者として魔獣より人魔の方が問題だ。で、そいつはどうした?」
「逃げられた。何かを探してたようで、わたしたちには用事がないって言って、やっつけたパープルウルフを置いて逃げていった。」
「戦わないで逃げた?人魔がか。それに、何かを探していた?なら、また現れる可能性もあるのか。」
「わたしたちには、あいつらが何考えてるかなんてわからないよ。それより、薬、使う?」
「あ、あぁ。すまないが譲ってくれ。パープルウルフの他の部分はどうした?肉や魔石は。」
「リリーサが売っちゃった。なんか、凄く儲かったみたいだよ。」
ここは正直に言っておく。現物は持ってないし、もう無いのだから、ごまかすと面倒になる。
「お薬があるのですか?」
珍しく大人しかったので、いるの忘れてたよ、フレイラ。
<ポケット>から薬の入った瓶を出す。
「リリーサのお店で売れ残ったから、使うこともあるかなって思って買っておいたんだ。」
「それを使って、わたしを脅すつもりですね?ファリナお姉様と別れろと言う気ですね。」
その手があったか。って、子ども相手に脅迫はないでしょう、普通。
(やっちゃいなさい。ここは、しっかり脅しておきなさい!)
ファリナ、それは非道だよ。
「ヒメ様とファリナ、外道。」
わたしは何も言ってないよね。まだ。




