60.抱き合うようにして寝てる
夜が明ける。ファリナとミヤは、わたしの腕枕で、リリーサとリルフィーナはわたしの頭の上の方で、抱き合うようにして寝てる。
この雑魚寝も今日が最後か。
「今日あたりにはリリーサたちも帰っちゃうのか。」
「え?まだ帰りませんよ。お店を開けるまで、あと2日あります。」
起きてた?それよりいいかげん帰ってよ。お願いだから。ギリギリまでいるつもり?
「約束ですよ。貸しは体で払ってもらうって・・・」
頭の方からリリーサの手がそっと伸びてきて、その指先がわたしの頬に優しく触れる・・・直前に、ファリナの手にガッチリ捕まる。
「何する気だったのよ?」
「痛い!痛い!そんなに力一杯握ったら、手の骨が折れちゃいます!」
「手の骨折られるのと、剣でザックザクに斬られるの、どっちがいい?」
「どっちも嫌です。やきもちはみっともないです。」
「やきもちじゃない!」
ファリナが顔真っ赤にしてリリーサを睨む。
「あー!何、手を握り合ってるんですか!ファリナさんがまさかのお姉様狙いだったとは!」
目覚めるなり大騒ぎのリルフィーナ。
「ファリナの浮気者。」
「ウー!みんな切り刻む!」
わたしの茶々に顔をさらに真っ赤にして怒るファリナ。
「明後日から、灰色狼が売り終わるまでは、ヒメさんたちには店員さんをやってもらいます。約束でしたよね。体で借りを返してもらうって。」
「体言うな。労働でって言いなさい。」
ファリナがリリーサを睨む。
「わたしたちに店員は任せられないって言ってなかった?」
「明日の晩でお別れは寂しいです。せっかく仲良くなったのだからギリギリまで一緒にいられるよう無茶振りをします。今回、パープルウルフも手に入ったし、いざとなればブラッドメタルベアも出しちゃえば、多少の損失があっても大丈夫です。物を壊したり、お釣り間違えたり、お客さんを3枚に捌いてもなんとかなります。もちろん、死なない程度なら燃やすのもありです。」
そこまではやらないと思うよ。
「で、今日はバーグラーの町に行って、ゴルグさんに灰色狼とパープルウルフの解体を頼まなければいけません。ヒメさんたちにも同道してもらいます。働かざる者金返せ、です。」
あなたに借金はしてないけどね。
「うぅ、ずっとタダ働きかぁ・・・」
ファリナが露骨に嫌そう。
「労働が嫌なら構いませんよ。ヒメさんに直接返してもらいます。2人っきりで今夜は帰しません。」
「働きます!働かせてください!!」
両手を合わせてお願いするファリナ。
いろいろ借りを作っちゃったからなぁ。
「ま、いざとなったら燃やせばいいか」
「わたしが消すのとどちらが速いでしょうね。」
2人で顔を見合わせて笑う。間をミヤの鉤爪が貫く。
「くだらない話よりミヤはご飯を要求する。」
面白くなさそうにリリーサを見るミヤ。
「あらあら、ミヤさんもやきもち?」
リリーサの言葉に、グッとなってわたしの腰に抱きつくミヤ。
「わたしとヒメさんが仲いいのが気になるみたいですね。」
仲いいのかな。相手をヤっちゃう隙をうかがう仲だよね。
「死線を越えた友情ってやつですね。」
違うと思う。
「まぁ、初めてのお友達に浮かれる気持ちもわからないではないですけど、お姉様、急ぎませんと。灰色狼だけだったところが、パープルウルフまで解体を頼むとなると、時間的余裕がギリギリです。」
「そうなったら、開店を1日延ばせばいいでしょう。予定より先に開店するのは揉め事になりますけど、後ならいつものことですし。」
なんて雑な店なんだ。だが、そうはさせない。
「みんな、急ぐよ。今日中に準備を終わらせて、リリーサの店を明日から開けられるようにがんばるからね。」
「ヒメさん・・・開店はあさってです。わたしを早く追い出そうとしてもそうはいきません。ちゃんと明日いっぱいはお世話になりますからね。」
バレてた。
「もういいや。ご飯食べて、その誰だかさんのとこ行こう。でもちょっと待って、今日は解体だけならわたしたちいらないよね。」
「向こうでちょっと手伝ってもらいたいことがあります。今までは、強力な魔力持ちがわたし1人だったから大変だったんですけど、今日はヒメさんがいます。」
「燃やすの?燃やすんじゃなかったら、わたし役立たずだよ。」
「どれだけ、炎に特化してるんですか。」
「分解しかできないお姉様そっくりですね。」
「わたしは、怪我も治せます。これでも白聖女様と呼ばれてました。」
そんなのでいいなら、わたしだって、燃やしてばかりでも聖女様って呼ばれてたよ。
「この世界は聖女の基準がおかしい。」
ミヤ黙れ。好きで呼ばれてたわけじゃない。
「そのうち裏返したカードの図柄を当てたり、貨幣を右手から左手に気づかれずに動かせても聖女って呼ばれるかもしれませんね。」
リルフィーナ、聖女を手品師呼ばわりですか。
「金貨を右手から左手なんて、<バラバラ>と<モトドーリ>使えば簡単です。」
やっぱり聖女って手品師の素養が必要なの?別に呼ばれたいわけじゃないけど。
「でも、リリーサの分解って範囲指定だけど、金貨だけ指定ってできるの?けっこう難しそうだけど。」
分解する範囲を金貨だけにしないと、握ってる手も分解されちゃうよね。
「・・・わたしが指定できる範囲は、正立方体だけだから、右手も分解しちゃいますね。」
「それって、金貨が反対の手に移るより、無くなった手が再生で元に戻る方がびっくりだよね。」
「なるほど。今度やってみましょうか。リルフィーナの手で。」
「やりません!もしやったら、責任とって一生面倒見てもらいます。」
「じゃやりませーん。」
「あー、お姉様酷いです。そこはリルフィーナの面倒は一生見るって言うところでしょうが。」
こいつらも、気づいてないのか、ナチュラルにイチャイチャしてるよね。まぁ、他人事だからいいけど。
「じゃ、ご飯にしようか。ヒメ、買っておいたパンだしておいて。すぐスープ作っちゃうから。ミヤ、食器お願い。リリーサ、今度ヒメにちょっかい出したら斬るからね。リルフィーナも。」
「おかしいです。会話の流れが最後おかしいです。」
リリーサが手足をジタバタとさせて抗議する。
「それはこちらのセリフです。ヒメさん、お姉様にちょっかい出すのやめてください。」
「出してないし。出されてもいない。」
「世間の目が偏見に満ち溢れています。いわれの無い事を言われるなら、本当に既成事実を作ってしまいましょうか。」
「ごめんなさい。2度と言いません。許してください。」
「出してません。ヒメさんはなにもしてません。」
ファリナとリルフィーナ、あっさり降参。
朝ご飯が終わり、出発する。
念のため、家を出て、徒歩で森へ向かい、そこで、リリーサに空間移動の門を開いてもらい、目的地に出る。
「せまっ!ホコリ臭い。どこ?ここ。」
4,5メートル四方の空間。周りには、ホコリだらけの雑貨や箱が山になって積まれていて、中央のわずかばかりの空きスペースに5人がギュウギュウ詰めで立っている。
「ゴルグさんの家の物置です。普段使ってないので、ここに来るときはここに門を開いていいと言われています。いつもは、リルフィーナと2人だったので気にならなかったけど、5人だと狭いです。リルフィーナ、どさくさに紛れて抱きついてないで、早く表に出なさい。」
リリーサのセリフを聞いた途端、ファリナとミヤが抱きついてくる。
「あんた方ねぇ。燃やすよ。」
「狭いの。仕方ないじゃない。」
「うむ。やむを得ない。」
暑苦しいんだって。マジで。
汗をダラダラ流しながら物置を出る。危うく酸欠で死ぬところだった。
「少女5人のミイラ発見なんて、ゴシップ紙のネタになるところだった。」
一息ついて周りを見回すと、商店らしい家の裏庭で、周囲が塀で囲まれている。つまり、すでに家の敷地内なんだけど勝手にここまで入っちゃって大丈夫なの?
「いつものことなので。」
フレイラと仲良くなれそうだね、リリーサは。不法侵入仲間。
「おぉ、騒がしいと思っていたらリリーサか。今日はまた大勢だな。」
前の家から4,50代の男の人が出てくる。
「あ、ゴルグさん、いつもお世話になってます。きょうはお友達連れなんで、騒がしくてごめんなさい。あ、リャリャさん、こんにちわ。」
男の人の後ろから女の人。見た目30代。娘さんかな、奥さんかな。微妙なところ。
「紹介しますね、こちら、ゴルグさん。いつもお世話になってる解体屋さんです。お隣がリャリャさん。ゴルグさんの奥さんです。」
「初めまして。リリーサの友人のヒメです。エルリオーラ王国でハンターやってます。」
「パーティー仲間のファリナです。」
「ミヤ。」
うん。もっと何か言えというか、よけいな事言わなくてよかったというか・・・ミヤの挨拶はいつも冷や汗ものだ。
「で、今日は何を持って来たんだ?」
ゴルグさんがリリーサに尋ねる。
「灰色狼が18匹。それとパープルウルフが1匹。」
「パープルウルフ?また珍しいものを。」
最近はそうでもないんです。わたしの周囲限定だけど。
「灰色狼はいつも通りの料金でいいが、パープルウルフは魔石を取り出すのに手間がかかるからそれの2割増しになるが構わないか?」
「構いません。お願いします。あ、傷物で申し訳ないんですけど、それとは別に灰色狼3匹置いていきますから、皆さんで食べてください。」
「いつも悪いね。それで、解体する分の内臓はどうする?」
リャリャさんが嬉しそう。
「灰色狼の肝だけ薬に煎じて、後は処分を。パープルウルフはどうしよう。滅多に捕れないから内臓が使えるかどうか、わたし知らないんですよね。」
リリーサが顎に人差し指を当て考え込む。
「肝臓と膵臓はウルフの感染症の薬になるけど、生薬にしなきゃいけないの。保存期間が短いから、薬が必要な人がいないなら廃棄した方が安上がりかな。」
ファリナが会話に混ざる。
「魔獣のウルフに出会うなんて、ほぼ有り得ないから薬が必要な人がそんなにいるとは思えないから。」
「詳しいんですね、ファリナさん。尊敬します。」
エヘヘ、みたいにはにかむファリナ。
「朝から手を握っていたことといい、あきらかにポイント稼ぎです。お姉様を狙ってます。いくらヒメさんよりお姉様がかわいらしいとはいえ、なんて節操のない。」
「狙ってません。それにヒメの方がかわいいです。」
「ヒメ様はおバカでカワイイ。」
「おバカさ加減じゃうちのお姉様に勝てるものなんかいません。」
「は?バカさ加減でヒメに勝てるわけないでしょ!」
「ご冗談を。お姉様よりおバカは見たことありません!」
あんたたち、褒めてないよね、それ。
「燃やす。」
「消します。」
アレ?とこちらを見る3人。
「おかしい。褒めてたはずなのに・・・」
いや、ミヤ、あんたの一言から始まってるからね。わたし、悪口は聞き逃さないよ。
「時間もない。じゃあ、パープルウルフの内臓は廃棄でいいんだな。」
キャンキャンやってるわたしたちをまったく気にせず、ゴルグさんが仕事の確認を進めていく。すごい、プロって感じ。
「一応薬にしてください。万が一必要な人がいたら困りますから。今回の販売期間で売れなかったら処分すればいいのですよね。」
「いいの?薬にするのだってお金かかるわよ。」
「かかった分は、パープルウルフの肉と毛皮の売り上げで賄えますから。言った通り、万が一にも欲しい人がいた時に、売れないことの方が辛いです。損をするつもりはありませんけど、儲けのためだけでお店やってるわけじゃないんで。あ、パープルウルフの魔石だけはわたしが使おうかな。家の貯蔵庫に使いたいです。」
なんだろう。普段のリリーサとは思えないくらい聖人なんですけど。
「なんかいい人っぽいこと言ってますけど、お姉様は1種類でも多くお店の棚に商品並べたいだけで、他意はありませんよ。棚に並んでる商品を見て悦に入る変態さんなんです。」
「変態とはなんですか!お店なんだから、いっぱい並んでた方がかっこいいでしょう。」
「でも、今回は灰色狼とパープルウルフしかないんだよね。」
「だからこそ、薬なんかあったらスペシャルな感じしません?」
「ごめん、わからない。」
こだわりどころがわからないよ、リリーサ。




