59.みんなラッキーです
「人魔はこの世から消します。パープルウルフは商品です。お客さん喜ぶ。わたし儲かる。みんなラッキーです!」
狸の皮算用がすごいけど、まぁその通りだよね。この人魔をヤっちゃって、後は知らんぷり。以後の対応はきっとロイドさんがなんとかしてくれる。この辺の領主だもん。
魔法だけじゃ追い切れないかも。パープルウルフが速すぎる。あの人魔、魔法陣に対する勘がいい。リリーサの<バ・・・>分解魔法をことごとく躱してる。
ズールスさんから借りてる剣じゃ対応できない。仕方ない。持っている剣を鞘にもどし、<ポケット>から剣を出す。
「ヒメ!」
戦闘中だっていうのに、常にわたしから目を離さないファリナが慌てた声をあげる。
「やば!」
慌てて剣を<ポケット>に収納する。いつもの癖で、魔人族の剣で戦う気になっていた。腰の鞘になければ、<ポケット>の中。ついそう思ってしまったけど、まずいことに、今<ポケット>に入っているのは父さんの形見の方だけだった。いつもの方はズールスさんに預けてたんだっけ。
すぐに、ズールスさんから借りている剣に再度持ち替える。
「おい、お嬢ちゃん、今の剣はなんだ?」
目ざといな。リリーサとリルフィーナが何?といった顔でこちらを振り返ってるから、リリーサとリルフィーナには見られてないみたい。
「なにいってるかわからないね。さいしょからこのけんよ。」
相変わらずの棒読み。いざという時の腹芸ができるようになりたい!
「よく見たら、そっちは魔人族の混血か。なんだ、この組み合わせは。」
「あなたの知った事じゃありません!パープルウルフを置いていけば、命までは取りません。お買い得です。今だけのタイムセールです。」
言うよね。負ける気無いんだろうな。でも、わたしだって。
「俺もかなりサービスしてるんだがな。俺の質問に答えてくれりゃ、手出ししないって言ってるんだから。」
「わたしたちは知りません。この国の人間じゃないんで。通りすがりですから。なので、あなたの質問には答えられません。さぁ、質問にはお答えしました。パープルウルフを置いて去ってください。」
わたしからはノーコメント。
「そっちのお嬢ちゃんの剣については?」
「剣?あれはわたしの・・・ち、ち、ちち、父が・・・いえ、知り合いが打った剣です。本人に聞いたらいかがですか?」
父って言えないのね。魔神族が聞いたのはこの剣のことじゃないんだけど。でも、チャンス。人魔が呆れたのか、動きが止まった。
「リリーサ!」
わたしはリリーサに合図を送って左に走る。
「<バラバラ>。」
リリーサが、人魔の向かって右寄りに魔法を発動させる。
「チッ!」
人魔は慌てて右に、こちらから見て左に回避する。それに合わせて。
「<豪炎>。」
範囲指定型、躱した足元から発動、地面からの炎が人魔とパープルウルフを襲う。
「グッ!」
躱す人魔の左腕を捉える炎。肘から先が灰になる。
「<バラバラ>。」
人魔と反対側に逃げたパープルウルフを狙うリリーサ。
「ギャンッ」
パープルウルフが塵になる。
「リルフィーナ!」
「はいです。」
リリーサの呼び声に答え、横に走ってくるリルフィーナ。
「戻しますよ。<モトドーリ>。」
リリーサに尾の方を向けて、再生されるパープルウルフ。
いきなり再生されて、戸惑っているところに、リルフィーナが、剣に魔力、あれは土、を込めて振り下ろす。
「キャン!」
首筋を一突きにされ、倒れるパープルウルフ。
魔法を流して切れ味を増してるだけじゃなく、土の魔法に特化することで剣の硬度も増してるんだ。
「まさ・・・のむす・・・しかも、まじん・・・」
人魔がなにやらブツブツ言っている。
「・・・それに、誰だ?あいつ・・・」
遠くを見る人魔。わたしたちのことじゃない?
失った左腕の残った部分を上に上げる。肘から先が、銀色の光に包まれ、腕が再生する。
「な・・・」
治癒魔法?違う、あれは再生魔法だ。
「ちぇーっ。ウルフがやられちゃしょうがないな。ここは逃げるしかないか。」
なんで?まだ全然余裕あるよね、この人魔。
「じゃぁな。また会うこともあるかもしれん。その時はおじさん負けないぞ。」
そう言うと、人魔の後ろに空間移動の門が現れる。
「<ゲート>?」
「<あちこち扉>?」
リリーサと声が重なる。
「あばよ。」
門に消える人魔。
何だったの。あれ・・・
確かに空間魔法を研究してた人魔はいた。ミヤをこの世界に召喚した人魔。死んだけど。
それ以外にも研究してた魔人族がいたってこと?それとも、空間移動なら昔から使えたってこと?考えてみたら、魔人族がどんな魔法を使えるかなんて知らない。戦ったことしかないから、戦闘用の魔法を使うところしか見た事ない。
「逃げました。が、パープルウルフは手に入れました。勝利です。」
「やりましたね、お姉様。これで商品が増えます。しかも、滅多に手に入らないパープルウルフです。灰色狼数十匹分以上に匹敵します。」
手を取り合って踊る2人。
「大丈夫?ヒメ。」
「あ、うん。さっきはありがと、ファリナ。怪我はない?」
「わたしは・・・ミヤがついていてくれるから・・・」
ファリナがちょっと悔しそう。
基本、人魔級以上の魔人族戦は、敵VSわたしたちが、1VS3にならない限り、ミヤがファリナの援護につく。ファリナを信用していないわけじゃない。万が一が起きないようにだ。ファリナは、それが不満のよう。直接口には出さないけど。
ファリナには嫌われるかもしれないけど、それでも、わたしは、守りたい・・・そう思いつつも、ファリナに嫌われたら生きていけないかもと思うわたし・・・ジレンマだ・・・
「ミヤ・・・」
ファリナの横に立つミヤに声をかける。
「近くに誰かいる?」
あの人魔、この近辺に誰かいるようなこと言ってた。
「わからない。」
「わからない?」
何言ってるの?いるかいないかだよ。
「通常の探査範囲のギリギリに何かがいる気配はする。でも、いないようでもある。封印を1つでも解けばわかるのだけど。」
「獣か魔獣かもわからないの?」
「そういうのではない。なにもいないはず。なのに気配だけする。あ・・・」
「どうしたの?」
「いなくなった。」
いなくなったってことは、何かがいたのよね。ミヤでも探知できない何かが。
「その言い方は不正確。封印さえ解けば、ミヤにわからないものはない。」
ミヤも意外に負けず嫌いなんだよな。
「さぁ、引き続いて毒草、もとい、薬草を探しましょう。また、あの人魔出てきませんかね。今度こそこの世から消し去ってみせますものを。」
パープルウルフを収納魔法で収納したリリーサが相変わらず力強い。パープルウルフの所有権を分けようかとリリーサに言われたけど、倒したのは2人なんだからと、権利はリリーサに譲った。
ここまでの展開に不安は残るけど、ここでみんなを不安がらせても仕方ない。このまま採取を続けますか。
歩き出すと、すぐにリリーサがそばに来る。
「さっきの・・・人魔、人魔でしたよね。」
「ごめん、何言ってるのかわからない。」
「ううん、なんでもないです。」
変な笑いを残してリリーサはリルフィーナの方に戻って行った。
そういえば、人魔が現れる時、ミヤも・・・人魔らしきものとか言ってたっけ・・・
え?人魔じゃない?灰色の髪、灰色の皮膚、白目のない黒い目。間違いなく魔人族だよね。
「ミヤ。」
ファリナと薬草を取っていたミヤを呼ぶ。ファリナと2人でやってくる。
「さっきの、あれ、人魔だよね。」
「かもしれない。」
「かもって、何?」
ファリナがミヤを訝しげに見る。
「特徴は魔人族だった。それだけはわかった。後は不明。はっきりしてるのは、ヒメ様と敵対した。ならば、あれは敵。」
ミヤがはっきりしないのは珍しい。
後、考えられるとしたら・・・魔神?
魔人族の支配階級である魔神は、色々な形態をしている。
獣型、人型、ただ、この場合の人型というのは2本脚で立ち腕が2本あるという程度のもので、実際、身長が3メートルくらいあるとか、体には鱗が生えてるとか、頭に角があるとかで、人間と同じ姿という意味ではない。
ただ、中には、まったく人間と同じ姿、つまり、魔人族でいうところの人魔と同じ姿の魔神もいるのだ。
人魔かと思って戦ってみたら、異常に魔力が強くて魔法の威力が半端ないものだから、危うくやられかけたこともあったくらい。
でも、貴族である魔神が、平民クラスの人魔を探すくらいの用事で自ら人族の領地にまで来るかな。
考えても仕方ないか。あの魔人族が戻ってこない限りは推測しかできない。推測したってわからないものはわからない。つまり、考えるだけ無駄。
「よーし、トリカブト見つけちゃうぞ。」
「やめて!」
ファリナが何か喚いてる。
「ヒメさん、トリカブト欲しいんですか?さっき見つけましたから譲りますよ。」
リリーサが収納から見慣れない草を出す。
ごめん、冗談だったんだけど・・・本当に毒草採取してたの?あんたは?
わたしたちは薬草を。リリーサたちはそれプラスアルファを採取。途中でホーンラビット2匹倒して晩ご飯のおかずも手に入れた。
「けっこう採ったよね。そろそろ帰る?」
「ヒャイ!?カエル!?ど、どこ!?」
リリーサが人差し指を構えて右往左往。
「できればお姉様の前で・・・」
「あぁ、悪かったわよ。めんどくさいな。」
燃やしてやろうかしら。
<ゲート>でマイムの町の裏手の森に出る。この頃帰ると家の前に誰かいるので、家の中への直帰ができない。
今日は・・・誰もいない。
「いなかったらいないで、なんか寂しいな。」
「やめて。誰か来たらどうするのよ。」
ファリナが、わたしの腕につかまり、まわりをキョロキョロ見回す。負けじとミヤが反対の腕につかまって、ボーッと立つ。
「うん、ミヤの探知魔法で見て、誰かいる?」
「いない。」
それでも、わたしの腕にしがみつけただけで満足そうだ。
「それでは、リルフィーナ。お風呂の用意をしますよ。」
帰るなり、リリーサがお風呂場へ向かう。
火と水の魔法が使えるようになって、昨日からお風呂の支度が楽しいようだ。今だけだぞ。どうせすぐ飽きるから。
「いい?人数が多いから、家事の手伝いはやってほしいの。」
要はご飯支度手伝えっていうんでしょ。やるよ。
「昨日みたいなくだらないまねしたら、ご飯抜きじゃすまさないからね。」
「昨日・・・?」
思い浮かばないから、笑ってごまかす。
「頭は飾りなの!?おかしな味付けしたらただじゃ済まさないって言ってるの!」
「ヒメ様、ご飯粗末にするのよくない。」
「あぁ。あったね、そんなこと。」
「「そんなこと?」」
2人で睨まないでよ。人死にがでてないんだから、いいじゃん。
「やるんですか?またやるんですか?だったら、わたしもヒメさんに内緒で一品作ります。当てっこしましょ、おーーー・・・」
浴槽を洗っていた濡れた足で走ってきたリリーサは、キッチン前で止まろうとして、滑って止まることができず、そのまま滑り去って行った。
ガッシャーン!うん、何かに突っ込んだようだね。まぁ、死ななけりゃ、再生魔法でなんとかなるでしょ。
「ミヤがやる。ヒメ様とリリーサはお座り。」
居間の真ん中で、正座させられるわたしとリリーサ。え?何で?おかしい、わたしは何もしてないぞ。まだ。
「楽しいですね。」
楽しくないよ!




