55.いきなり泣き始めた
「ウヮーーーン!」
呆然としていたリリーサが、わたしにしがみつき、いきなり泣き始めた。
「あー、よしよし。」
困った。まさか泣かれるとは。
「泣いてる子をあやすのってどうするんだっけ?燃やせばいいのかな。」
「え?き、斬ってみたら?」
「煮るのもいいかも。」
だめだ、こいつら使えない。ミヤ、煮てどうするのよ。え?燃やしてどうするって?だったら、ファリナこそ斬ってどうする気なの。
「慰めるのですか?まかせてください。このリルフィーナの得意分野です。」
なぜか、指をワキワキさせながら、リルフィーナが近づいてくる。なんだろう、危険しか感じない。
「ヴゥー!」
目に一杯涙をためたリリーサが、近づくリルフィーナを指さす。
「<バラバラ>。」
「ミギャァ!」
慌てて躱すリルフィーナ。
「ほ、本気でしたね!本気でわたしを消しちゃう気でしたね!」
「ムー!」
わたしにしがみついて離れずに、リルフィーナを睨むリリーサ。
「幼児退行してる・・・」
「御見苦しいところをお見せしました。」
土下座するリリーサ。
「いいから立ってよ。リリーサは何も悪くないんだからさ。」
「そうです。土下座しなくちゃいけない相手は、わたしだと思うんですけど。」
「リルフィーナには、142回消しちゃってもいいくらい面倒をかけられてるので、相殺です。」
「なんですか、その具体的な数字は?あぁ、でも、そこまで具体的に言われると、そういうものかって思ってしまいます。」
「そういうものなんです。」
まぁ2人が納得するならいいけど。
「リリーサは・・・けっこういろいろ言われたの?」
聞いていいのか一瞬迷ったけど、ここは聞いてしまう。
「まだ、お父さんと一緒に住んでた頃、たまに訪ねてくる天人族の人たちが、わたしが自分の部屋に行って、その場にいないときなんかしょっちゅう部屋に聞こえてきました。わたしは、お父さんが・・・」
泣きはらした目を男に向ける。
「・・・そんなことはないって、その人たちを怒ってくれると思ってたけど、お父さんは、ただ笑ってるだけだった。だから・・・わたしがお母さんを殺したんだって、わたしはいらない子なんだって思わざるを得なかった。そしたら、案の定、教会なんかに預けられちゃったし。」
「ち、違う!そんなことはない!俺は・・・」
冷ややかな目で男を見るリリーサ。
「ヒメさんは、混血だって悪口言われたことないのですか?」
「うーん、どうだろうね。なにせわたし、赤ちゃんの時に預けられて、ものごころついた頃からは誰にも会えなくて、家から魔法の訓練の時以外は出してもらえなかったから。陰じゃ言われてたのかもね。知らないだけで。」
「え?」
リリーサとリルフィーナ、それと男がわたしを驚きの目で見る。
「あ、でも、悪いことばかりじゃなかったよ。ファリナ貰えたし。」
「人を貰うって言わないの。」
口調は怒ってるけど、まんざらでもなさそう。
「ミヤとも会えたしね。」
「それは感謝。」
腰に抱きついてくる。
「この力は大事なものを守るために必要なんだ。それを邪魔する奴らはヤっちゃうよ、わたしは。」
「そうですね。大事なものを守れる力。」
リルフィーナは気がつかなかったみたいだけど、リリーサはチラッとリルフィーナを見たようだった。
「そして、邪魔者を消し去る力。」
厳しい目で男を見る。男は視線に小さくなる。
「少しずつでいいから、言いたいことは言った方がいいよ。貯めこむとさっきみたいになるから。わたしたちを見なよ。言いたいこと言いあってるから、月に2,3回しかないよ、剣を持ち出すケンカなんて。」
「剣、持ち出すんですか・・・」
「魔法ありにしちゃうと、家がね、燃えちゃうから。<モトドーリ>、いいよね。あれが使えたら、殲滅級は無理でも壊滅級くらいならケンカで使えるのに。」
「ケンカで町半壊させるのはどうかと思いますけど。」
リルフィーナがなぜか呆れた顔をしてる。ミヤは、ケンカで世界半壊させたって言ってたよ。
「魔法ありだと、わたしに不利じゃない。」
ファリナが異議を申し立てる。
「剣だけだと、わたしが不利なんだけど。2人に勝てないし。」
わたしだって不服だ。
「ミヤはどちらでも勝てるからいい。」
このチート野郎。いつかギャフンと言わせてやる。
「ヒメ様が言ってほしいなら、いくらでも言う。ギャフン、ギャフン。」
「そうじゃないのよ!そういうことじゃないのよ!ちゃんと勝ちたいっていうか、こう・・・」
「ヒメ様じゃ難しい。カエルにならなんとか勝てるかも・・・」
「カエル!?カエル?ど、どこ!?」
リリーサが慌てて立ち上がり、人差し指を構えて辺りを見回す。
「あー、前にも言った通り、お姉様の前でカエルの話は遠慮していただきたいのですが。」
リルフィーナが困ったようにリリーサを抱きしめる。
「大丈夫です、大丈夫ですよ。カエルなんていませんから。」
「ほ、ほんと?」
リルフィーナにしがみつき、辺りをキョロキョロ見回す。
いったいカエルに何があるんだ。知りたいような、知りたくないような。そして問題は、ミヤの言うカエルは、ミヤの世界のカエルのことらしい。どれだけ強いんだ、カエル。
「わけがわからなくなったが、とりあえず、俺が悪かった事だけは確かだな。お前さんには罪はない。すまなかった。俺はズールス。聞いてるかもしれないが、リリーサの父だ。」
「わたしはヒメ。隣のエルリオーラ王国でハンターをやってる。」
「ファリナです。ヒメのパーティー仲間です。」
「ミヤ。ヒメ様のつがいをやっている。」
「あんた、その自己紹介は反則でしょ!いつもみたいに『ミヤはミヤであってそれ以外ではない』とか言ってなさいよ。」
「どうも最近埋没気味。自己主張が必要。」
ファリナとミヤが、訳の分からないことを言い出した。もう無視だ。
「それで、ファリナと、ヒメに剣を打ってあげてほしい。違う!打ちなさい。これは命令です。あなたにできることは、わたしの命令を聞くか、わたしに殺されるかしかないの。だから、せめて言うことを聞きなさい。」
泣き喚いてしまった反動だろう。ツンデレがいっそう激しくなってしまった。
「ツンデレじゃありません。消しますよ、本当に・・・」
顔を真っ赤にして睨まないでよ。
「いいだろう。そっちのファリナの分はわかった。だが、ヒメは・・・」
「何よ、まだ言う気?」
「違う。俺の打ち方じゃ魔人族の魔力は剣に纏わせることはできない。特殊なんだよ、魔人族の魔力は。魔力剣が欲しいんだよな。ただの剣なら俺のところになんか来るはずないし。」
「そうよ。でも、あなたでも無理なんて。」
リリーサがかなり不服そう。
「魔人族の中なら打てるやつがいるかもしれないが、知り合いはいないのか?」
「一応人族側なんで、魔人族に敵はいても知り合いはいないかな。」
「あいつらは、そうだよな。」
「っていうか、さっきからの話じゃ、天人族ってけっこうこの世界にいるの?」
「あぁ、人族の間じゃ何処かへ行ったことになっているんだったな。確かに、ほとんどの天人族は『新世界』と名付けた別の次元の世界に移住したが、こちらに残った者も100人以上はいるぞ。」
多いのか少ないのか微妙な数字だな。
「とりあえず、ファリナの剣、お願いできるかな。やってもらえるとして、いくらくらいかかって、いつくらいまでにできるかな。」
「代金はいりません。これは贖罪なのです。期間は明日の朝まで。いいですね。」
「俺にも生活があるんだが・・・」
「普通に鍋とか包丁とかで稼いでいるんでしょ。わたしのためにやりなさい。」
「わーかったよ。金はいい。だが、さすがに明日は無理だ。一週間は見てもらわないと。あと、どのくらいの長さと重さにする?希望があれば言ってくれ。」
ファリナは腰に下げていた剣を抜く。
「これを・・・リリーサから聞いた話じゃ合成するって聞きました。これ、父の形見なんです。これを使ってもらえませんか。この大きさで。軽くできたら嬉しいかな。」
「いいのか、合成には溶かさにゃならん。これはこれで、形見としてしまっておいた方がいいんじゃないか。」
「剣は飾りじゃないです。使わなきゃ。それに、いつもお父さんがそばにいてくれるって思えるから。」
「こいつが死んでれば、わたしもこのナイフに思い入れができるんでしょうか。」
いい話っぽいところに、リリーサがズールスさんから貰ったというナイフを手に、ボソッと言い放った言葉が場を重くする。こいつは・・・
「わ、わかった。軽く、だな。あと、形は変わってしまうがかまわないのか?」
「はい。大事なのは形じゃないから。」
「そう、大事なのは、いかにサクッとシメちゃえるかよね。」
リリーサ、わざとか?わざとなのか?
「ところで、合成って何を合成するの?」
疑問に思っていたことを聞く。けっして、雰囲気が悪かったからじゃないよ。
「あぁ、鋼にピューリー鉱を混ぜてやるんだ。」
ピューリー鉱って、山で採れる鉱石で、魔法陣を彫りこんで、一般家庭で水とか火を出すのに使うやつだよね。
「あれって、魔法陣を彫るのがやっとで、加工できないって聞いたけど。」
「天人族の魔法には、ピューリー鉱を液状化できる魔法があるのさ。液体化したピューリー鉱はいろんなものを強化したり、魔力を伝導させたりできるようになる。それを、鋼に混ぜて、硬度を高くしたうえに魔力を通せるようにするんだ。」
「それって天人族にしかできないの?」
「魔人族もできるはずだな。直接奴らと交流があったわけじゃないから、聞いた話だが、あいつらの土地で採掘できるという、『モノ・ピューリー鉱』を使えば、より魔力を通せる武器ができるとか。本当かは知らん。言った通り魔人族と会ったことはないし、現物を見たこともない。モノ・ピューリー鉱だって本当にあるのかどうか。」
「そんな石があるんだ。」
「魔人族は、まぁ天人族もそれなりにだが、魔力が異常に強い。この世界の大気には魔力が含まれているが、魔人族の土地はそれが著しいんだろう。ピューリー鉱にも影響を与えてるようだ。それが、モノ・ピューリーだ、と言われている。何度も言うが、何せ見た事ないからな。」
このおじさん、物知りだな。話してて面白い。
ふと、横を見ると、仲良く話してるわたしたちを、ファリナとミヤが面白くなさげに、リリーサが憮然とした表情で睨んでいた。
「ヒメは魔人族の剣は持っていないのか。それがあれば俺の剣なんかいらないだろう。武人の家に生まれれば、人魔だって剣を持っているはずだが。あぁ、赤ん坊の時に預けられたと言っていたか。それでは無理か。」
「いや・・・わたしの剣は・・・人様に見せられるようなものじゃないんで・・・」
「剣は剣だろう。」
どうしよう。話したりしていいものか。見せろなんて言われても・・・
「うぅ、ズールスさんのエッチ!」
「ヒメさんに何をしましたか?やっぱりこの世から消します!」
「な、な、な、何されたの!?斬る!もう徹底的に斬る!」
「切り刻む。ミヤのヒメ様に手を出す愚か者は何だかわからなくなるまで切り刻む。」
「お姉様じゃないなら、どうでもいいです。」
「待て!俺は何もしていない!」
なんか誤解で大変な事になってるけど、わたし的にはそれどころじゃない。この剣って話したり見せたりしていいものなのかな・・・あぁ、悩む。




