49.それをただ見物していた
ブラッドメタルベアと灰色狼の激闘は続き、わたしたちは、それをただ見物していた。
たまに、灰色狼がわたしたちに向かってくるのを、やっつける。
「どうしよう。どっちかが勝つまで見てるしかないのかな。」
「でも、これまずくない?ブラッドメタルベアは毛皮がどんどん傷ついてるし、灰色狼は、なんかぺっちゃんこに潰されてるよ。」
ファリナの言う通り、ブラッドメタルベアは灰色狼の爪や牙で体が傷ついてるし、灰色狼はブラッドメタルベアの殴り攻撃で地面に叩きつけられて、少なくとも内臓は無事ではないよね。
「困りました。商品価値がどんどん下がっています。」
「面倒そうなのはブラッドメタルベアの方かな。大きいし、肉固そうで、剣でどこまで傷つけられるかわからないし。燃やしちゃうのが手っ取り早いんだけどな。」
「リリーサの分解魔法でブラッドメタルベアの頭を分解して倒した後、頭を再生できないの?」
ファリナが尋ねる。あれ、それだと部位欠損で生き返っちゃうのかな?
「<モトドーリ>を使うには条件があります。生きて再生させるためには、全身を<バラバラ>で分解して1分以内か、一部分が損傷した場合は、再生する対象が生きていなければいけません。要するに、<バラバラ>で全身分解したもの以外は、死んでしまったら生き返らせることも再生させることもできません。」
「つまり、頭を分解して殺しちゃったら、生き返らせることも、頭を元通りにすることもできないってことか。生き返らせる必要はないんだけどね。」
「じゃ手か足を分解して、動けないうちに心臓一突きとか。」
ファリナの案にリリーサが首を振る。
「死んだら再生できません。毛皮の手足の部分が無くなります。」
「手足を分解して、地面に倒れてるうちに再生で治して、心臓を一突きは?」
わたしの案に対しても同じく。
「手足を治した時点で元気な熊になりますけど、一瞬の隙をついて攻撃できますか?」
「あー、それなら今攻撃しても同じだよね。」
「地面に倒れていれば、うまくすれば隙ができるかもしれませんけど。」
「めんどくさいわ。燃やしましょう。」
とうとうファリナがわたしみたいなこと言い始めた。
このままじゃ灰色狼の肉が傷ついちゃって使えなくなってしまう。
「その前にこのままじゃ灰色狼が逃げる。」
ミヤの言う通り、あまりに不利になったら、灰色狼たちは逃げ出すよね。
「リリーサ、今のところ、灰色狼何匹確保してる?」
「16匹です。まだ20匹くらい足りません。」
「仕方ない。ブラッドメタルベアはあきらめよう。わたしたちには灰色狼が必要なの。二兎を追う者は一斗樽にぶつかって大惨事、というでしょ。」
「「「「言わない。」」」」
え?4人で否定?
「リリーサの・・・<バ・・・分解魔法は範囲を狭めることはできないのか。」
ミヤが言い淀むなんて、リリーサの魔法名、なんて恐ろしいの。
「できますよ。最大が2メートル四方というだけで、小さくはできますよ。それが?」
「ブラッドメタルベアの心臓を含めた胸の部分だけ分解できないか。そのくらいなら、なくなっても毛皮として使える。」
「あぁ、なるほど。それならできそうです。ヒメさんも練習がてらに1匹やってみませんか?」
「いきなりで失敗したら嫌だから、今回はいいや。リルフィーナがリリーサの援護に入って。もう1匹が襲ってくるかもしれないから、リリーサを守って。わたしたちは、残ってる灰色狼をヤっちゃうよ。」
「わかりました。お姉様はわたしが命をかけて守ります。」
「じゃ、わたしはリルフィーナを盾にして生き延びます。」
「おかしいです。表現が納得できません。」
なんだかなぁ、と思っていたけど、これが2人の距離感なんだろう。リルフィーナもさほどムキにはなっていない。
「わたしたちの方は・・・あと20匹くらいは元気だね。あれをヤっちゃうよ。」
「息があるのがいれば、わたしが<モトドーリ>で元気にしてからシメちゃいますから、とどめはささないでくださいね。」
うん、確かにそれで潰れてないまともな灰色狼が手に入るだろうけど、このポヨポヨにシメるとか言われると違和感半端ないなぁ。
「とりあえずこの位置で、リリーサ、ブラッドメタルベアを1匹ヤっちゃって。向こうがこちらは眼中にないうちに。」
「なかなか卑怯ですね。ナイスです。やっぱり勝った者勝ちですよね。」
そう言われると、なんか罪悪感。おかしい、なんか調子が狂う。
「類友すぎる。」
「2人で場を荒らされると、ツッコめない。」
何を言ってるかな、君たちは・・・
「<バラバラ>。」
1匹のブラッドメタルベアの胸部がいきなり消え去り、その場に倒れる。もう1匹は何が起こったのか、まったくわかっていないみたい。
「もう1匹の体の正面が向こうむいてます。正面に回り込みます。リルフィーナ援護お願い。灰色狼は頼みます、ヒメさん。」
そう言うと、2人は走り出す。
わたしたちも木の陰から出て、いきなりブラッドメタルベアが倒れて、どうしたらいいのか迷っている灰色狼たちの方に走り出す。
水を10個、塊にして出す。それを凍らせて錐状にする。
「<氷の槍>!」
10本の尖った氷が、灰色狼を襲う。躱すものと躱しそこなったもの。
6匹が氷に貫かれて吹き飛ぶ。
ミヤは、踊るようなステップで、飛びかかってくる灰色狼の牙や爪をかわしながら、次々鉤爪で切り裂いていく。
ファリナも同じように、飛びかかってくる灰色狼を順に剣で切り裂いていく。
わたしは後方で<氷の槍>を使って、2人を援護。準備不足がここで祟る。
そう、現地まで来てから気がついた。リリーサに魔人族の剣を見せても大丈夫なのかってことに。
わたしが魔人族の血を引いていることはもうバレてるけど、この剣のことは知られてない。ただ、この剣、その辺にいた人魔でさえ所有者のことを知っていたくらい有名みたいだ。
リリーサは知らなくても、どこからか回りまわって魔人族に知られることになったら、わたしたちが狙われるかもしれない。なら、極力他人には見せない方がいいのではないか。そう思ったのよ。
そうなると、わたしの<ポケット>に入っている武器は、同じく見せられない、父の形見であるもう一本の魔人族の剣と使い物にならない鋼の剣が1本。詰んだわ。
なので、わたしにできることは、後方からの魔法支援だけなのです。あぁ、燃やしたい。
「<バラバラ>。」
リリーサの声が後ろから聞こえる。灰色狼もあらかた片付いたし、これで終了かな。そう思った時、さらなる気配がする。
「まだいる!」
ミヤが叫ぶ。
ブラッドメタルベアが現れた森の方から、全長2メートルもない小型のブラッドメタルベアが現れる。
「小熊です。」
いや、確かに小熊だけど、あんたより大きいからね、リリーサ。
その小熊が、クリクリした可愛い目で倒れている親らしい熊を見る。動かない親熊。
「グワァー!」
急に凶暴な顔つきに変わった小熊が、リリーサに爪を振り下ろす。そう、相手は小さくても魔獣。油断していい相手ではなかったんだ。え?2メートルは小さくない?
「あぶないです!」
リルフィーナが、小熊をポヨポヨと見ていたリリーサを突き飛ばす。そのリルフィーナは、小熊の爪で肩を引掻かれる。
「ッ!」
怪我の痛みでリルフィーナはうずくまってしまう。
「リルフィーナ!今、治します。」
それは後にしないと。
「治すのは後!こっちに来なさい!」
攻撃してきている相手がいるのに、その場に留まるなんて悪手以外の何物でもない。
燃やす?ダメ、2人が子熊に近すぎる。
<氷の槍>は生成に時間がかかる。
ミヤは・・・わたしやファリナならすぐ対応するのだろうけど、リリーサやリルフィーナ相手だと、あいつら危なくない?みたいな目で眺めている。
なので、ファリナが全速力で突入する。
振り下ろされる小熊の爪をなんとか無理やり剣で受け止め・・・パキン・・・剣が折れた・・・
振りぬいた小熊の腕の勢いで、ファリナが吹き飛ぶ。爪の直撃は受けてないみたい。
それを見たミヤが一瞬で小熊の前に走り込む。速い。いや、動くのが遅いよ。
左右の鉤爪が小熊の頭を縦横に切り裂く。剣が通りづらいほど固いブラッドメタルベアでもミヤの魔力が通った鉤爪の前にはなす術もなくその場に倒れる。
「<モトドーリ>。」
リルフィーナに再生魔法をかけ傷を治す。
「うぅ、痛かったです。」
「ありがとう、リルフィーナ。助かりました。ファリナさんもミヤさんもありがとうございました。」
周りを見回し、リリーサが怪訝な顔になる。場の異様な空気に気づいたんだろう。
「・・・ファリナ・・・」
わたしはどう声をかけていいのか判断がつかなかった。
折れた剣先を拾い、ファリナが困った風に笑う。
「・・・折れちゃった・・・」
それ・・・お父さんの形見の剣だよね・・・
「ごめんなさい!本当にごめんなさい!」
「申し訳ありません!」
リリーサとリルフィーナが並んで土下座してる。
「まさか、そんな大切な剣をわたしたちのせいで折ってしまうなんて。」
「いいの。けっこう使い込んでたし、2人を助けられたんだからいいの。」
無理に笑ってるのがバレバレだよ。
「リリーサの再生魔法で直せばいいのではないのか。」
ミヤがあっさり言う。
「「「「・・・」」」」
「そうだった!」
あっさり問題は解決した。
「<モトドーリ>。」
2つに折れた剣を元の形に並べて置く。剣は銀色の光に包まれ元の形に戻る。
「剣とかは、たとえば、半分ないようなやつでも戻せるの?」
「物質は<バラバラ>で分解して1分以内のものか、元の形がわかるだけの部分が残っていないと再生できません。<ソーサ>では生きているものしか調べられないので。」
「そもそも<ソーサ>って何?」
「<ソーサ>は。『走査』。物事の流れや状態を調べる魔法です。『スキャン魔法』というらしいですけど、これって天人族にしか伝わってないので実態は不明です。生き物の組織の流れやつながりを解明する魔法らしいです。これで、欠損した部分のつながりを調べて、それを元の形に戻すのが、再生魔法<モトドーリ>です。生きていないものは、そのつながりが<ソーサ>では読めないので、元の形がわからないと直せません。元の形がわかれば、欠けている隙間くらいなら埋めることができます。」
「なんにせよ。ありがとう。お父さんの・・・父の形見だったから・・・」
何だろう、何かファリナの歯切れが悪い。
「その剣・・・ちょっと待ってください・・・」
何かを言おうとして、リリーサが頭を抱える。
「うーん・・・うーん・・・でも・・・あいつに・・・だけど・・・いや、やっぱりそれは・・・悔しいけど・・・」
何事?頭を抱えて、しゃがみ込んでブツブツ言い出した。
「リリーサ、どうしたの?」
リルフィーナに尋ねる。
「剣のことなので、なんとなく想像はつきますけど。もう少し待ってあげてください。今、葛藤中なので。」
「お友達のためです!頭くらい下げれます!」
いきなり喚き出した。
いや、謝ってもらわなくてもいいよ。




