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47.何でしょうか?


 「何でしょうか?」

 わたしたちの中で唯一、危機感のなさそうなリリーサが、声をかけてきた男たちに、にこやかに答える。わたしたち3人なんかもう臨戦態勢で、いつでも男たちを燃やせるし、切り刻める。

 「くだらないお話でしたら、この世から消えてもらいますよ。」

 そうでもなかったか。

 「お姉様は、基本男性恐怖症なんです。一応恋人募集中の看板は掲げてるつもりらしいんですけど、近づく男はそのすべてが逃げ出すか灰になりました。」

 え?灰になるって何?物理的な意味で?比喩的な意味で?どうしよう、聞いちゃいけない話だよね。


 「ちょっと受付との話を聞いちゃったんだけど、君たち他の国から来てこの国不慣れなんだろ。俺たちが一緒に狩りについて行ってあげるよ。あ、俺たちCランクハンターの“赤鋼の騎士団”っていうんだ。よろしくね。」

 さわやかそうなイケメンがにこやかに笑う。

 「気持ち悪い。」

 つい本音が出る。あ、声掛けてきた彼の顔色が青くなる。

 「ま、まぁ今日一日一緒に行動して見たら、俺たちが頼りになるってわかるさ。お試しみたいなもんだと思ってつきあってみてよ。後悔はさせないよ。」

 「ウザい。」

 ファリナがジトッとした目で見る。美人系のファリナに睨まれ男タジタジ。

 「まぁ、そう頭から否定しなくても、お試しというならリルフィーナ。」

 笑みを崩さずにリリーサがリルフィーナに声をかける。

 「試してみましょう。そこのあなた。」

 声をかけてきた男を指さす。

 「この娘を捕まえてみてください。あ、セクハラにならないように気をつけてくださいね。」

 「そんなことでいいのかい?」

 リルフィーナが前に出る。その前に立つ男。

 男は、ボーッと立った状態からいきなり動き出す。その手がリルフィーナの肩に伸びる。

 うん、遅いな。けど、リルフィーナって戦えたっけ?

 肩を掴まれる、と思った瞬間、リルフィーナはその場に屈みこむと同時に前に移動、男の懐に入り込み、みぞおちに膝蹴りを入れる。

 「ゲホッ!」

 元の位置に戻ったリルフィーナの前にお腹を押さえてうずくまる男。

 「弱すぎですね。」

 にこやかに男を一刀両断のリリーサ。

 「きさまらぁ・・・」

 にこやかイケメンの仮面を外し、本性むき出しでわたしたちを睨む男たち。

 一人が剣を抜く。

 「ただじゃすまさないぞ。」

 え、それこちらのセリフだよね。

 男たちの真横にあったテーブルと椅子4脚がいきなり炎に包まれる。

 「「「「ヒェ!?」」」」」

 慌てて炎から飛びずさる男たち。炎が消えた後には灰も残らない。


 「次はあんたたちを燃やすよ。」

 わたしは指先を男たちに向ける。

 「か、火炎魔法?い、いや、灰すら残らないって・・・え?」

 先ほどの勢いはどこへやら、ビビッて手が震えてるよ。

 「これって正当防衛でいいのよね。剣抜かれたし。」

 受付のお姉さんに確認する。

 「それで結構ですけど、なるべく殺さないでいただけると助かります。こんなでも、そのうち勇者に推薦できるかもしれないパーティーですので。あ、でも、その方たちより、テーブルの方が大事なので、どうしても燃やすのであれば、その方たちでお願いします。で、“赤鋼の騎士団”のみなさんには、生き残られましたらテーブル代請求しますのでよろしく。」

 受付のお姉さんが、営業スマイルをいっさい崩すことなく言い切る。すごいな、さすがプロ。すぐ顔に出るマイムの町のハンターギルドのノエルさんに見せてやりたい。しかし、どこのギルドでもテーブルってそんなに大事なの。

 「で、どうしますか?死にますか?おとなしく引っ込んでいただけますか?」

 「はい、引っ込ませていただきます。」

 リリーサの質問に、さすがに実力差は理解したようで大人しく奥へ引っ込んでいく。


 ギルドを出るわたしの耳にひそひそ声が聞こえる。

 (エルリオーラとガルムザフトって恐ろしいところだな。)

 (気をつけないとな。)

 (見た目は子どもなのにな。胸はないし。)

 ギンと声のした方を睨みつける。全員視線を外す。

 誰だ?胸の話したやつは?こうなったら殺すか?皆殺すか?

 「無益な殺生と破壊はご遠慮ください。」

 受付のお姉さんに止められた。


 「リルフィーナってけっこう戦えるのね。」

 ファリナが感心した顔で見る。

 「はい、お姉様に近づく男を排除できるくらいは戦えますよ。」

 その排除ってどの程度のレベルでなんでしょうか。さっきから聞くに聞けなくて困っちゃう

 リリーサは消えてもらうとか言ってたような・・・いや、気のせいだ。わたしだって声かけられたくらいじゃ燃やさないし。たまにしか。


 町近くの黒の森に入る。

 「じゃ、魔法のレッスンです。<バラバラ>の魔法陣を描いてみますね。」

 リリーサは両手の平を上にして前に出す。

 いきなり始まったからびっくりしたけど、そう言えば魔法教わる予定だったね。

 空中に一辺が15センチくらいの正立方体が浮かぶ。その天井部分の面に、魔法陣が描かれている。

 「これが<バラバラ>の魔法陣です。」

 変わった形。ふと横を見ると、ファリナは興味なさげだけれど、ミヤがジッと魔法陣を見てる。魔法の能力はミヤが上だろうから、ミヤなら使えるのかな。ただ、ミヤは魔力を込めた鉤爪以外では、治癒魔法と防御魔法しか使ってるところを見たことがない。わたしに気を遣ってるのか、使う必要もないのか。でも、元いた世界をケンカで半壊させたって言ってたから、何らかの攻撃魔法は使えそうなんだよね。通常攻撃で、世界半壊は勘弁してほしい。


 「やってみるよ。」

 まず、見たままで魔法陣を描いてみる。初めてなので、目を閉じ真剣に陣を描くことに集中するけど、陣が整わない。なので、ちょっとわたし好みに変えてみる。

 目を開けてみると、手のひらの上に、リリーサより一回り小さい魔法陣が浮かび上がる。問題は、陣を描き変えたので予定通りに発動するかどうか。

 「すごいですね。一回でやって見せたのは初めてです。で、これを大きく広げるイメージで、目標を決めて発動します。発動すればいいんですけど・・・」

 リリーサは、陣を右の手のひらで握ると、人差し指を離れたところにある岩に向ける。

 「<バラバラ>。」

 サッと岩が塵になる。

 わたしも陣を手で握って隣の岩に指を向ける。

 さて、どうしよう。魔法名は言っても言わなくてもいいんだけど、言った方が成功率と威力が増す気がする。とは言え、<バラバラ>かぁ・・・ええい、ここは・・・

 「<分解>。」

 目標の岩の、中央部分が塵になって消える。

 「あれ?」

 「できました。すごいです。一回でやってのけるなんて。でも、この魔法は<バラバラ>ですよ。」

 「なんかちっちゃくない?壊れたとこ。」

 「まだイメージしきれてないのか、ヒメさんの<バラバラ>のエリアがこの大きさなのかですね。ちなみに、わたしは2メートル四方までが魔法の範囲です。」

 「魔法の発動する範囲があるんだ。わたしのこれって、いいとこ4,50センチだよね。」

 「これが限界なのか、まだ拡大できるかは繰り返しやってみないとわかりませんね。」

 練習あるのみか。

 「で、再生魔法はどうやるの?さっきの岩戻してみてよ。」

 「あー・・・」

 リリーサが困った顔になる。

 「<モトドーリ>は制限時間があります。<バラバラ>にしてから1分以内でないと、二度と再生できません。そのものを創っていた物質がその場に残っているうちでないと戻せないのです。」

 割とシビアだね。

 「魔法陣だけ見せますね。」

 今度は片手の手のひらの上に陣を描く。器用だね。こんなにきれいに描けるなんて。

 あれ?陣を見て、引っかかる物を感じる。

 「これって治癒魔法じゃないの?」

 これ、わたしが使っている治癒魔法の魔法陣だよ。

 「なら、ヒメさんが使っているのは再生魔法ですね。治癒と違って失った物、例えば血液なども元通りになっていませんでしたか?」

 「なった。なってたよ。ついでに胸も大きくしようと思ったのに元通りだった。」

 「元の体が残っている場合は、そこから損失部分の情報を読み取れますので、時間に関係なく元通りに戻せます。わたしが教会で治癒と言って行っていたことですね。」

 「他人も治せるんだよね。わたし、自分しか治せないんだけど。」

 リリーサは首をかしげてやや考える。

 「さっき<バラバラ>を使った時、分解した物質の情報読めました?」

 「え?何、それ。バラバラにした感覚しかないよ。」

 また首をかしげる。

 「この魔法陣、使えますか?」

 リリーサは、右手にまた新しい魔法陣を描く。

 魔法陣を見ながら陣を構築しようとするけど、うまく描けない。こんなこと初めてだ。今までどんな魔法でも、それなりには形にできたのに。

 「できない。何?この魔法?」

 「<ソーサ>とわたしは呼んでます。物質の情報を読み取る魔法です。これで情報を読み取って再生するのです。ヒメさんはこれが使えないから他のものの再生ができないのだと思います。」

 「自分の体はできるんだよ。」

 「ご自分の体だから、情報を無意識に理解されてるんでしょう。ただ他のものは、この魔法が使えないと無理ではないかと。」

 「そうかー。残念。」

 そう言って笑う。

 (役立たずだ、わたし・・・)

 心の中でそう思ってしまうけど、表には出さないようにしないと。2人に心配かける。

 なのに・・・

 「気にしちゃだめよ。」

 「ヒメ様はヒメ様ができる事をやればいい。そのためにミヤとファリナがいる。」

 後ろからファリナが、前からミヤが抱きついてくる。

 だから、人の心の中を読むな。目頭が熱くなる。


 「いいですわね。お友達って。いいえ、何も言わなくても理解してくれるなんて、それ以上ですよね。」

 「だから、家族なの。家族。変な勘繰りはやめて。」

 「呼び方は何でもいいわ。」

 「ミヤはつがいと呼んでほしい。」

 リリーサはチラとリルフィーナを見てため息を吐く。

 「それに比べて・・・」

 「わたしだって、お姉様の考えてることくらいわかります。」

 「それで、あれですか・・・」

 「でも、なんだかお姉様の望む方向性が見えてきました。これからはわたしも、愛人ではなく恋人と自己紹介します。」

 「消しますよ。」

 これはこれで、わたしたちにはわからない絆があるんだろうな。あまり関わりたくないけど。

 「ちなみに、こういうヒメさんたちみたいのを“バカップル”というんですね。」

 「なるほど、そうですね。」

 2人が頷きあってこちらを見る。

 「「違うわよ!」」

 「バカ言うな。殺すぞ。」

 そう喚くわたしたちを生暖かい目で見る2人。この2人にからかわれるのはなんか悔しい。


 「じゃ、わたしの方は今晩のキャンプの時に教えるね。火と水の魔法。」

 「はい、お願いします。」

 再生魔法は、魔法陣はわかったんだ。もう少し練習してみよう。

 「ヒメさんって、身内に天人族の方っていらっしゃいますか?」

 「は?いきなり何を言うかな。いない・・・と思うよ。わからないけど。」

 身内なんて誰も知らないよ・・・父親以外・・・

 「天人族系の魔法<バラバラ>を一回で使えるようになるとか、そうかなって思ったんですけど、そんなはずないですよね。だってヒメさんって魔人族系ですもんね。」

 空気が一瞬で凍る。

 ミヤとファリナが武器に手をかける。

 「魔人族の血が邪魔して<ソーサ>が使えないと思うんですよ。あれってモロ天人族系ですから。ちなみに実はわたしは天人族系なんですよ。」

 「「はぁ?!」」

 にこやかに語るリリーサにわたしとファリナ唖然。ミヤだけがその場の空気に流されずにリリーサを睨みつけていた。





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