396.雪原 4
魔人族は、ロクなものじゃないと思う。自分から雪崩を起こしてその雪崩に乗って、ふもとまで転がってくるのが楽しい遊びだと言い張るこの少女らしきものを見てるとそう思わざるを得ない。
「だから、らしきものではないですからね!」
まだ言うか。
「みんな、こんなことやってるの?」
「さぁ、わたし、人付き合いがないのでわかりません。お姉様からは、わたしは平気でも他の人や魔獣を巻き込むかもしれないからいい加減にしろといつも優しく諭されています。」
じゃ、こいつが異常なんじゃない。しかも、いい加減にしろ、は優しいんだろうか?
「人付き合いがないって、体が弱いとかの理由で人とは会えなかったのか、ただ単にボッチなのか、どちらでしょうね?」
いきなり斬り込んだね、リリーサ。面と向かって聞きづらいことを。というか、体の弱いやつが雪山転がってくるわけないじゃん。ボッチなんだよ。
「わたしは、お兄様とお姉様と3人で暮らしていました。今はお姉様と2人暮らし……執事やメイドはおりますけど……家族には入りませんよね。それに、最近、お姉様も遠くへ行ってしまって、もっぱらウルフと暮らしています。つまりボッチではありません。」
いきなり自分語りが始まってしまったうえに、登場人物がわかりづらい。さらに遠くってどこ?距離的意味合い?それともお空の彼方的意味合い?ついでにウルフが家族って、ボッチだと断言してるようなもんだからね。
「違います!幼いころから家にやって来るお客様で、気にいらない人を物理的に対応していたら、お兄様がなぜか、わたしを連れて山の別荘に住むようになってしまったのです。それ以降家を訪ねてくるものもいなくなりました。ですから、あまり知人がいないのです。」
物理的対応って何?
「え、ちょっと叩いてみるとか、蹴ってみるとか……わたしとしては、ケンカを売られたので仕返しにちょっとじゃれただけなのですが、なぜか皆さん生死の境をさまよわれるのです。虚弱体質すぎます。」
子ども相手の話だよね……それはやり過ぎじゃないかな。
「年齢は関係ありません。ケンカを売ってくる者はすべて敵です。」
「この娘もヒメさんサイドですか……」
だから、わたしサイドって何よ、リリーサ?
「ところで皆さんはまた狩りですか?こんな雪の中お疲れさまです。もの好きなんですね。」
リリーサのせいで、わたしまで悪しざまに言われる……
「わたしたちはエルリオーラ王国とガルムザフト王国のハンターなの。」
ファリナが、子どもを相手にするように優しく微笑む……けど、そいつ子どもじゃなくて、わたしたちより年上だからね。
「そうだった!見かけにごまかされてしまいそう!」
「ずいぶん遠くから来てるんですね。やっぱりもの好きなんですね。」
そういう、らしきちゃんの家ってこの辺なの?いつもいるけど。
「この辺りは冬になると人族が滅多に来ないので、遊んだり散歩をするのにちょうどいいのです。それに、転がるのに雪質もいいです。物好きで来てるわけじゃありません。」
「わたしたちだって、好きでここまで来てるわけじゃないよ。魔人族の人が、まぁ魔人族の領地だから文句を言う筋合いはないんだけど、うちの国の領地との境ギリギリで穴を掘っていて、もめ事になりそうになったから、自分の国じゃ狩りをしづらいんだよ。」
「穴?あぁ、今の魔王様はモノ・ピューリーをお集めになっておられるという噂ですものね。それを採掘していたのではありませんか。もの好きですからね。」
いや、なんでももの好きで片付けないでほしい……え?モノ・ピューリー集めてるの?魔王が?
「何のためですか?」
リルフィーナ、結構興味津々だね。
「知りません。魔王様のお考えなどわたしごときにわかるはずもありません。その話も、今住んでいる人里から離れた別荘で聞いたもの。真偽すらわかりません。まぁ、ギップランが言うのですから間違いはないと思いますが。」
いきなり人名挟み込むのやめてもらえないかな。誰だよ、それ?
「ギップランは2代前の魔王の参謀を務めていました、我が家の今の執事です。『千キロ先を見通す眼』の2つ名を持っています。」
なに、そのすごそうなやつ……
「そ、そのすごい人、他に何か言ってなかったの?」
ファリナ、情報が欲しいのはわかるけど、なんか必死すぎだよ。ごめん、睨まないで……
「なんでも、巨大な魔法陣で何らかの成果があったから、モノ・ピューリーで何か大規模魔法を発動させたいのではないか、と。」
成果って……主を倒したこと?
「何をする気なの?」
「そこまではわからないそうです。かなり秘密裏に動いていて、モノ・ピューリーを集めてる以外のことはほとんど外部に漏れてこないとか……あ、これって人には言っちゃダメって言われてたんでした。マズいです、困りました。みなさんを滅殺していいですか?」
いいわけないよ!
「大丈夫、誰にも言わないから。だったら秘密は守られるもの、わたしたちがケンカする必要はないでしょ。」
「なら大丈夫ですね。よかった、血の匂いをつけて帰ったら、オリーリアが心配しちゃってごまかすのが大変なのです。」
だから誰だよ、それ……いや、いいや、どうせ魔人族の誰かでしょ。しかも、血の匂いに気がつくやつなんて知りたくないです。
「これ以上よけいな事をおしゃべりしたら、お姉様に怒られそう。なので、わたしはもう1転がりしてきます。ごきげんよう。あ、どこに転がってくるかわかりませんから、この辺から移動した方がいいですよ。」
雪崩に巻き込まれるのは勘弁してほしいので、そうするよ。よくわからなかったけど、お話聞かせてくれてありがとう。
その場を去ろうと手を振るわたしに、手を振り返してくれるらしきちゃん。
「らしきじゃありません!シャラルです!」
そう叫んで、らしきちゃんは空間移動の門の中に消えていった。さらば、らしきちゃん。
「名前で呼んであげたら?」
「あれは怒らすと面倒そうだ。」
え、ミヤでも面倒なの?
「今まで出会った魔人族の中では、頭1つ2つ抜きんでて強い。」
そんなに!?出会った人全員を半殺したって言うのはあながち冗談じゃないのかな……
ドーン!
遠くから音がした。で、その方向を見ると……
山頂付近で巨大な雪崩が起きていた……
「あいつ、あんな上まで登ったの!?逃げるわよ!巻き込まれたらちょっと大変かも!」
「かなり大変だと思います!」
リルフィーナの声が引きつってるよ。
山頂からだったので、空間魔法を使わなくても退避する時間があったのはラッキーだった。
後ろの方で雪崩の轟音に混じって『キャー、たのしー!』という声が聞こえたような気がしたけど気のせいに違いない……楽しいのかな、あれ。
「死ぬから。絶対死ぬから。」
うん、魔人族恐るべし……いや、恐ろしいのはらしきちゃんか……
その後、空間魔法で移動。門を出たところで襲ってきた灰色狼4匹を倒して、新たな商品ゲット。
「頭が混乱してるから、1度帰ろう。リリーサの家でいいかな。わたしたちの家は直接帰れないから。」
「フッ、直接家に帰る便利さに気がつきましたね。」
便利というか、混乱した頭で家まで歩きたくはないかな。
そして、リリーサの家に到着。
「意外なところから意外な情報が手に入りましたね。」
まったく。
「雪山って転がって降りてこられるものなんだね。」
「死ぬから!何度も言うけど死ぬの!」
ファリナ、うるさい。
「あれはあの狼娘の防御魔法のおかげだ。あれだけ長時間、自分の周囲を完璧に保護できるというのはすごいといえるだろう。」
ミヤにすごいと言わせるとは。すごいのはかぶり物だけじゃないんだね、らしきちゃん。
「名前おぼえてあげたら?」
しかし、もう会うこともないかもしれないしなぁ……
「ドルミント王国もダメとなると、いよいよ狩りに行く場所が……」
リリーサが頭を抱える。知らないよ。もう春までのんびりしようよ。その頃までには何とかなってるよ、多分。
「さて、どうでもいい話はそれくらいにして、とりあえず、お茶淹れますね。」
リリーサがキッチンへと向かう。
「ケーキもうないんじゃ……」
「買いに行ってくる?」
「わたしも行きますよ。ケーキの選択権は渡すわけにはいきません。」
リリーサがヒョイと扉から顔を出す。どうせあるだけぜんぶ買ってくるのに、選択も何もないと思うけど。
行ったお店の棚にあったケーキをすべて手中にしたリリーサが、お店を出るなり右手を高々と上げる。毎回こんな事やってるわけじゃないよね。
「会心のお買い物でした。チョコクリームのナッツ入りが手に入るとは……」
なるほど。それは期待に胸が膨らむね。
「「「え?」」」
なんでみんなでわたしの胸を見るのかな?ミヤ、何、ため息ついてるのよ……
リリーサの家に戻ってケーキとお茶の時間。至福だよ……
「あとは晩ご飯までお昼寝できれば最高だね。」
「ですよねー。」
リリーサと2人で顔が緩む。
「わざわざリリーサの家に集まった目的を忘れないでよ。」
わかってるよ、ファリナ。お昼寝するんだよね。
「撲殺本を出すか?」
ごめん、ミヤ、冗談です!
「主犯は魔王と来ましたか。」
ケーキで甘くなった口にお茶を流し込むリリーサ。
「目的がわからないというのが残念だったわね。」
ファリナが、手に持ったカップを揺らす。
らしきちゃんの話では、魔王がモノ・ピューリーで何かしでかしそうだということ。何をするのかはわからないけど、それをやろうと思ったきっかけが、海の主を倒した天人族の魔法陣を見たことらしいということ。
「まさか、また海の主が上陸するのでは?」
リルフィーナが不安げにみんなを見る。主を迎え撃つための魔法陣を、今度はモノ・ピューリーだけで建設しようっていうの?
「しかし、主が関係するなら、最初に騒ぐのは天人族だろう。なにせ、主を探知する魔法陣を持っているのは天人族だ。魔人族が先に知るはずはない。」
聖地にあるってやつのこと?
なら、ゴボルさんは今、聖地にいるって言ってたから知らないはずない。なのに何も言ってなかった。つまり、主関係ではないってことだよね。
「とぼけていたのなら話は変わってくるがな。」
ボケてるのは認めるよ、ミヤ。
「はっきりしてるのは、魔法陣をモノ・ピューリーで造ろうとしている。大型の魔法陣用だから、大きめのモノ・ピューリーが必要だ、ということ?」
それで、普通の大きさのモノ・ピューリーは無視されていたってことか。
「ただ、ファリナ、海の主の時に使った魔法陣は地面に固定する陣だった。つまり、発動させるべき対象をそこまで誘導しなければならない。で、今度はなにを誘導する?やはり主か?」
いや、主は天人族が動いてない時点でないって事だったよね、ミヤ。だったら、何をしようっていうのかな?




