397.散策
「何かを倒すためじゃなくて、何かをするためのものとか、どうかな?」
「何をしようっていうの、ヒメ?」
たとえばね、ファリナ、うーん……ずっと水を流し続けるとか、ずっと火を燃やし続けるとか、ずっと風を送り続けるとか、なんてどうかな?
「何のために?」
「うぅ、ファリナがいじめる……」
言ってる途中で無理があるなとは思ったけどさ。
「だが悪くはない。」
だよね、ミヤ。フーンだ。
「ず、ズルいわ……ミヤ……」
「水、火、風……雷?」
なんで雷なの、ミヤ?
「ゴボルの話では、主を倒した雷について、魔人族も天人族も気になっていたようだ。」
この世界には今のところ雷の魔法はない……と思う。とりあえず、わたしは使えない。
「違うか。実験に使うのならそれほど大型の魔法陣を必要とするはずがない。」
「あぁ、大きなモノ・ピューリーをいっぱい集めて、大きい魔法陣を造りたいみたいですもんね。」
そうだっけ、リルフィーナ?
「思ったんですけど、海の主の時のように地面の上に建設する必要はあるのですか?」
どういう事、リリーサ?
「完成した魔法陣を地面に埋めておいて、主の時のように遠くから発動させれば、例えばそうですね……人族との戦いの時に、戦場になりそうな場所にあらかじめ埋めておいて都合のいい時に発動させれば、相手に気づかれずに一気にいっぱいやっつけられますよね。」
それはいけそうだね。けど、魔法陣の範囲に味方がいちゃいけないっていうのは、結構なハンデになるんじゃないかな。
「というか、あからさまにそこだけ避けてたら、あやしまれないかしら?」
あやしまれるかな、ファリナ?
「少なくとも、そこまであからさまだったら、わたしは近づかないわね。」
「わたしもよけますね。」
リルフィーナも頷く、
「わたしは気になりませんけど。」
「うん、わたしも。」
「リリーサとヒメはやられてしまいました。おしまい。」
あのね、ファリナ。なんかいい昔話風にまとめないで。
「100ピースのジグソーパズルで遊んでいて、手元にはパーツが10個くらいしかないような感じね。」
「わかります。残りの90はきっと誰かが持ってるんでしょうけど、わたしたちの手には入りそうもないような……」
「「ハァ……」」
ファリナとリルフィーナが難しい話をしながらため息。そもそもピースが揃ってないのならパズルとして成り立たないじゃない。
結局、わからないものは、いくら考えてもわからないということになる。
「なんにせよ、近々で問題が起こるようでもないようですし、様子見ってことでしょうか。」
だよね。どこで何の魔法陣を造るつもりなのかがまったくわからない。
人族の領地で魔法陣を造るつもりなら、そのうち攻め込んでくるとか、なんらかの動きがあるだろう。相手をするのがどの国になるのかは、ま、運次第という事になるけど。で、魔法陣を魔人族の領地で造るのなら、わたしたちには知る術がない。もう勝手にやってとしか言うことができない。
「魔法陣をモノ・ピューリーであれ、その辺の土であれ、大きなものを造ろうっていうなら何日もかかるはず。人族の領地でやるなら、ギャラルーナ帝国の帝都の時みたいに、目的の場所を占拠しなきゃいけない。邪魔くらいならできるんじゃないかな。リリーサが突入して、魔法陣と魔人族を消していって、最後撃沈すればいいんだし。」
「何で撃沈しなくちゃいけないんですか!?」
いや、なんとなく……おもしろそうだから?
「今日はうちに泊まりますか?」
晩ご飯も終わり、お茶を片手にすっかり和まってたけど、ここってリリーサの家、わたしたちガルムザフトにいるんだっけ。
「今日の狩りでそこそこ獲物も狩れたし、明日と明後日は休みたいから帰るよ。」
「そうですか。わたしたちも今年始まって1度もお店に顔出ししてないので、その2日はお店の方の仕事をします。狩りはお休みですね。」
というか、お店が本業じゃないの?店主がいなくても回るお店って……
「しばらく本業に力入れていていいよ。販売日が決まったら教えて。ゴルグさんにいろいろ解体お願いしなきゃいけないから。」
「そう、販売日のために、ますます商品を手に入れなくてはいけません。3日後はどこに狩りに行きましょう?」
いや、もう行ける場所ないって話してなかったっけ?
「ギャラルーナ帝国とドルミント王国は、魔人族アッパッパガールズがいるので却下ですが、エルリオーラ王国はともかく、ガルムザフト王国なら大丈夫ではないですか?心配事項はエルリオーラと陸続きって事だけですし。」
アッパッパガールズって何?大体が陸続きというなら東方諸国6国全部陸続きだけどね。さらに西方諸国もつながるからね。
「まぁ、その件は今度でも考えよう。今日のところは帰るよ。」
ここは逃げの一手だ。どうせリリーサの事、明日にはおぼえていないだろう。
「それって、しれっと明日の朝顔出すかもしれないってことよね。」
怖いこと言わないで、ファリナ。おバカなリリーサならあり得るんだから……
「聞こえてますからね!」
怒られちゃった……
なにやらリリーサがブツブツ言ってたのをすべて無視してわたしたちの家に帰ってくる。
お風呂に入って、ベッドに横になった……と思った時には、わたしは眠りについていた。
朝だ。そう、いつだって朝はやって来る。苦しい時も、楽しい時も……
「いい加減しつこさが鼻についてきたわね。」
独り言くらい好きに言わせてくれないかな、ファリナ。
「今日はどうする?家に閉じこもっているにはもったいないくらいいい天気よ。」
朝ご飯のあと、ファリナが今日の予定を聞いてくる。天気はいいけど寒いんだよね。すべてをぶち壊すくらい寒いんだよね。
「本読むか?」
いや、ちょっと待って……読書もいいけど、文字数が30を超えると意識を失っちゃうからなぁ。
「しょうがないわね、散歩行く?」
最近、散歩の名目で出かけて、ろくな目にあった事ないし……
とはいえ、このまま家に引きこもってるのもなぁ。
歩き回るからダメなんだよ。1か所でじっとしていれば……
「町の中央公園の芝生にミヤハウスを建てて、焚き火するっていうのはどうかな?」
「警吏さんがとんできて、お説教ね。」
わたしの自由を返せ!
「カイロを買ってもいいんじゃないかしら。」
カイロ!世の中にはそのようなすばらしい物が存在する。ピューリー鉱に暖かい風を発生させる魔法陣を刻んだもの。魔力を流してやれば、1時間は暖まる事ができる。冷めてきたら再度魔力を流してやればいい。直接、鉱石を持っていたら熱いので、厚手の袋などに入れてやれば完璧だ。
問題はいい値段するんだよね。
ピューリー鉱は魔石を買う事ができない庶民向けなのだけれど、使う場所が、家の灯りや暖房、キッチンのかまど、水道など、主に家屋の家財の部品として使われる。そんなにしょっちゅう買い替えるものではないし、家財扱いだから、売値がちょっといい目の家具くらいするんだよ。
もちろん、カイロ用は家庭で使うより小さい鉱石で作るので少しは安いけど、カイロ1個で銀貨数枚。ちょっと豪勢な晩ご飯くらいの値段と同等。
「そんな贅沢してもいいのかな。」
「買うのは問題ないの。ただ、昔、村から支給されてたカイロを、ヒメがしょっちゅう失くして、村長から怒られていたのが問題なの。」
「わたしがまた失くすと?」
「失くさないって言える?」
「ガンバルヨ……」
絵に描いた棒読みだった……
違うんだよ。勇者の村の時もらっていたカイロは失くしたんじゃないんだ……
カイロは手に持っていると暖かいんだよ。なので戦闘中に、つい、手に持ったまま、発射型の炎魔法を使ったら、わたしの巨大な魔力がピューリー鉱に流れたらしくて、ピューリー鉱が袋の中で粉々になっていたんだよ。でも、正直に言ったら、手に持つなって言われるよね。それじゃカイロの意味がないの!だから、失くしたって言い訳するしかなかったんだよ。別に村長に怒られても気にならなかったし。ポケットに入れておけばいい?それじゃ熱をしっかり感じられなくてカイロとしての価値が3ランクくらい下がっちゃうんだよ!
「あったかい……」
カイロを買った。しかも1人2個。左右の手に持てるんだよ。ピューリー鉱ってすばらしい……
「失くさないでよ。」
大丈夫。最近は発射型じゃなくて範囲指定型で魔法発動させることが多いから。手から撃つわけじゃないから大丈夫。範囲型でも魔力って流れるのかな?自信ないけど大丈夫。きっと……
町の中央広場の花壇の前に置かれたベンチに座って道行く人を見る。
「山の上とかじゃないから、防寒服重ね着して、カイロ持ったら、凍死はしなくてすみそうだね。」
ついでに言えば、ファリナとミヤが左右からベッタリくっついてるし。ちょっと暑いくらいじゃない?
寒いうえにお昼近く。中央公園には寒さに負けず遊ぶ子どもたちと、そのお母さんたちくらいしかいない。平和そのものだ。
「ここにテロリストがいるなんて誰も思ってないでしょうね。」
誰がテロリストなんだよ、ファリナ。そんなこと言ってると2,3人巻き込んで燃やしちゃうぞ。などと、軽口を叩いていてもどこからも苦情が来ない。生きてるってすばらしい……
「警吏呼びますよ!」
ごめんなさい!まだ何もやってません!
下げた頭をあげて、わたしたちの前を見る……誰もいないじゃん。っていうか、空耳なの?
まわりを見回すと、円を描く花壇の右側の方から、男に囲まれて困った顔の女の人がやって来る。男が3人、女の人に絡んでいた。
「お茶だけでいいからさ。」
「ちょっとだけ付き合ってよ。俺たち暇なんだよ。」
「わたしは暇じゃありません!」
ナンパだね。
「品のよくないナンパだけれどね。」
「しつこくて、女の人が困ってるようなら助ける?」
「それしかないかしら。見捨てるわけにもいかないでしょうし。」
「いいから行こうぜ!」
男が女の人の肩に手を廻し、無理に引っ張っていこうとする。よし、これはダメだね。
「離して!あ、そこの人、お願い、警吏さんをよん……」
男の手を引き剥がして、女の人がわたしたちの方に駆けて来て……わたしたちの顔を見てセリフを言い淀む。なんで?
「ポーニャだ。ギルドの。」
ミヤが小声で告げる。ギルド?そんな人いたっけ?ノエルさんしか知らないな……って、何でそんな冷たい目で見るのよ!?ファリナにミヤ……え、この女まで!?




