322.寒い日
エアに怒られて、ギャラルーナ帝国から帰ってきた翌日。
「昨日は散々でした。雨には降られるわ、ウルフは狩れないわ、どうしろというんでしょう。」
朝からやって来たリリーサがうるさい。昨日、しょんぼりしながら帰って行く姿に、ちょっとかわいそうかな、と思ったらこれだよ。
「なので、今日は昨日よりもっと帝都から離れた場所に行きましょう。要するに主さんを倒した場所から遠ければ問題ないのです。」
いや、そういう事でもないと思うけど。
「見たことないやつらが近くをウロチョロしてるのがまずいんだろうからさ。」
「ハンターだと言い張れば問題ないです。」
「ギャラルーナ帝国の人には通用しないと思うわよ。」
「そっちは消します。ウルフのためなら多少の犠牲はやむを得ません。」
わたしとファリナの意見をまったく聞く気のないリリーサ。どちらかといえば、ギャラルーナ帝国の人より、魔人族や天人族に会う方が問題で、会ったらまちがいなく燃やしちゃうよね。
「では、会った人全員天に召してもらいましょう。」
いや、殺すな、殺すな。行方不明者がでたら面倒になるから。
「ドルミント王国まで足を伸ばせばいいのではないか。シルバーウルフがいるかもしれん。」
なるほど、ミヤ、それはいいかも。
「ドルミントは寒いです。ギャラルーナは昨日の様子から暖かいはずです。」
ぜいたくは敵だよ……とは思うけど、寒いのか……
「ギャラルーナ帝国の帝都から、かなりの広範囲で魔獣は散り散りになりました。帝都から離れれば、さほど疑われることはありませんし、エアさんの目もそこまで届かないでしょう。」
昨日でこりたと思ったのになぁ。しょうがないか。ウルフ1匹狩らないと収まりそうもないしな。けど、主と戦う前に何匹かウルフ狩ったじゃない。あれでいいと思うけど。
「あれはあれ、これはこれです。」
きりがないな。物欲魔王め。
「ミヤ、悪いけど、向こうについたら見張りお願い。」
「わかった。だが、昨日もそうだが、エアなどは気配を掴みにくい。エアやログルスなどがいた場合、発見できない可能性がある。」
いたね、そういうやつも。まったく、ミヤに気配を掴ませないって、どれだけひねくれてるんだか。
「ひねくれた人がわからないなら、ヒメさんなんか絶対探知できませんね。」
うん、リルフィーナ、そこに座りなさい。お説教です。
昨日の場所に空間移動の門を開く。
「さっぶっ!」
昨日と同じ気温のつもりで防寒服着てこなかったんだけど、凍えて死ぬかもしれない。
大慌てで<ポケット>から服を出す。
「全然寒いじゃない!リリーサ!」
「なぜわたしが怒られますか?ここは天気の神様を怒るべきでは?」
どこにいるのよ、そいつ。燃やしてあげるから出てきなさい。
「神様にケンカ売るんじゃありません。」
そうは言うけどね、ファリナ、寒すぎだよ。
「とりあえず、万が一のことがある。帝都から離れる方角に移動するべき。」
ミヤの言う通り。最悪、この辺にはエアがいるかもしれない。見つかったらまたうるさそう。
「向こうが南だと思います。北は寒いので南に向かいます。」
いや、数キロ南に移動したところでさほど暖かくはならないと思うよ。
「気の持ちようです。」
もう好きにして。誰かに出会って面倒にならなきゃどうでもいいや。
2回ほど視認で空間移動。門を出た場所もやっぱり寒かった。
「黒の森の方に移ろう。魔獣がいるとしたらそっちだろうし、人目につかない場所ならミヤハウスをつくれる。」
「そうね。このまま魔獣を探して歩くには寒すぎるわよね。」
ファリナでさえ弱音が出るんだもの、わたしたちなんかやってられないよね。
「わたしってそんなに寒さに強そうに見える?」
「いや、脂肪が厚いんじゃ……ギブッ、ギブッ!首絞めないで!!」
危うく天に召されるところだったよ。
リリーサに黒の森の方に移動する門を開いてもらう。
「調子戻ってるならヒメさんやってくださいよ。」
「そんな気がするだけで、ひょっとしたら門開いたら倒れるかもしれないんだよ。」
「つまり、狩りでは役に立たないというわけですね。では囮として魔獣に襲われてもらうしかないですね。昨日も言いましたけど、死ななければなんとかしますので。」
だから死にそうになるのもイヤなんだけど。
「わがままですね。」
どっちがだよ。
黒の森の真ん中にあった草原にミヤハウスを建設。火をおこす。
「ふぁ、一息つきました。」
リリーサがのへらぁと笑う。
「暖まったら帰ろうか。」
「それでは昨日と同じです。ワンパターンは飽きます。違う展開を希望します。」
いや、違う展開って何だよ。
「じゃ、リリーサだけ残して帰ってみる?」
「泣きますよ。」
どうしろと……
「しょうがないな。ミヤ、近くに何かいそう?」
「いたほうがいいのか?」
引っかかる言い方だな。何かあるの?
「ひょっとして、誰かいる?」
「いない。」
つまり、面倒な魔獣がいるってことか……あぁ、めんどくさい。
「ベアがいる。」
「熊さんかー……」
「熊さんですか……うちの国じゃ無理ですけど、ヒメさんのとこの領主様ならもう2,3匹買うんじゃないでしょうか?」
買わないと思うよ。そんなにいっぱいどうするんだよ。
「では、ヒメさんのところの領主様も国王様に差し上げるみたいなことを言ってましたから、これでガルムザフト、エルリオーラの2国の王室にクマさんの毛皮が存在することになる予定です。つまり、ギャラルーナで買いませんかね?」
あー、エリザベートか……リリーサが買ってと言えば買ってくれるんじゃないかな。わたしからは、とてもじゃないけど言えないけどね。
「で、どうするの?ベア。」
見なかったことにしたいな。放っておけば帰るよきっと。
「帰らなかったら、ギャラルーナの人大惨事ですけどね。」
「そうよね。これから街を復興しなきゃいけないんだろうけど、当然家を建てるには材木が必要なわけで、この辺にも木を切りにきこりがやってくるかもしれないわ。ハンター、ギャラルーナじゃ補完軍人だったっけ、ではない一般のきこりだったら、熊なんかに襲われたら……かわいそうに……あの時ヒメが何とかしていれば……」
あのねファリナ、顔を覆った手の、指の隙間からこっちをチラチラ見るのやめてくれないかな。
「わたしが行くなら燃やすからね。」
「ですから、ギャラルーナ帝国で買ってくれませんかね。」
知らないよ。リリーサが話を持ちかければいいじゃん。
「正直、もう王族とは顔を合わせたくないです。ぶっちゃけ面倒です。」
それは賛成するよ。そういえば、主の報告にライザリアに会いに行く必要ってあるのかな?
「変な事を変な時に思い出さないで。とりあえず今はベアをどうするかでしょ。」
けっこう大事な事なんだけどな。まぁいいや、燃やそう。
「やむを得ません。まだ在庫ありますしね。」
リリーサ、あと何匹熊さんを収納に抱えてるんだよ。
「白いです……」
「シロクマだね……」
放っておくわけにもいかず、やっつけに向かった先にいたのは全身真っ白な毛でおおわれた熊さんだった。わたしたちは木の陰から、なかば呆然と熊さんを見つめていた。
「熊って黒から茶色じゃないの?あれ?これ熊じゃないのかな?」
「魔獣ですからいろんな色がいるんだと思いますよ。」
いやリリーサ、それにしても白って……
「これって……スノーキングベア?それともホワイトアイスベア?」
え?ファリナ、白い熊さんって何種類もいるの?というか、やっぱりこれって熊さんの魔獣なの?
「さぁ……白いベアって北の方の魔獣なうえに、人族の領地に出てきたって話自体聞いた事ないし……わたしもこんな魔獣がいるらしいって話でしか知らないわ。」
「まぁ名前はどうでもいいや。燃やせば同じだし。」
「何言ってるんですか、ヒメさん?珍しい熊さんですよ!危惧種です。保護しないと。」
何の危惧だよ?どう見てもこっちの生命の危険しか感じないんだけど。しかも保護って生け捕る気?
「毛皮で保護します。」
それ保護って言わないから。え?毛皮いるの?じゃ燃やせないじゃん。もうリリーサが消して再生するしかないじゃん。
「ヒメさんはそこでステイです。ファリナさんとリルフィーナは足を攻撃して地面に倒してください。倒れたところで足のけがを再生します。ミヤさんは倒れている隙にクマさんのとどめを。」
ミヤがどうする、とこちらを見る。ミヤとしては、リリーサの言うことに従う気はあまりないようだ。ま、この際しかたないか。わたしはミヤに頷いてやる。
ミヤが気乗りしない顔で熊さんに視線を向ける。
「では行きますよ。」
リリーサが珍しい獲物を前に俄然やる気だ。
「待て、待て、待てーっ!」
突然声とともに、空から人が降ってきた。ズンっと地面に降り立ったのは……エアだった。またか……
「どこから出てきたのよ!?」
空からだなんて非常識な。
「いや、そこの木の上の方から飛び降りただけだ。」
そこの木の上ってどの辺からよ?上の方だと10メートルくらいあるよね。
「それじゃない。そっちの15メートルくらいある方のてっぺんからだ。」
あぁ、もうどこからでもいいや。聞いていて頭が痛くなってくる。
「な、何の用ですか?」
リリーサが構える。
「何の用もなにもあるか!お前たち、かわいいキャンディミーに何をする気だ?」
え?待って?何?
「え?その熊さんって名前ついてるの?え?エアの飼い……飼い……飼い、熊?」
飼い熊というのは言葉として正しいんだろうか……いや、ここは考えたら負けだ。考えるな、感じるんだ。
「もうなんでもいいわよ。」
あれ、ファリナ、最近ツッコミが雑だよ。
「あぁ、かわいいキャンディミー、こっちおいで。」
「ほんとに飼ってるの?」
「いや、今、名前をつけた。」
待ちなさい!ペットを狩ろうとしたのかと反省しようとしたのに、何かな、それは。
「だから狩るなと言ってるだろうが!最終的に私が探しきれなかったのならしかたないと言ってるのに、なぜ言う事をきかない?」
「今日で3日も待ちました。」
「まだ3日だ、バカ者が。1ヶ月は待て!何千匹こっちに残されていると思ってるんだ?」
え、それ全部探す気?何千?
「できるだけ、だな。全部は無理だ。人族に狩られてしまうものも出るだろうしな。ついでに言えば何千は盛りすぎかもしれん。何百かもしれんし、何十かもしれん。」
いい加減だな!
「昨日の今日だから、どのくらいいるかなど見当もつかんのだ、しかたなかろう。」
「じゃ、わたしが狩ってもいいじゃないですか。」
「お前は天人族の血を引くからダメだ。」
「何で天人族はダメなんですか!?」
「フッ、私が嫌いだからだ!」
うゎ、大人げない。
「聞いた話じゃお前の父親はズールスなのだろう!あの軟弱が!あいつがちゃんと結婚していれば……」
「え、ズールスさん知ってるの?」
「知らん!誰だ、それ?」
いや、今はっきり言ったよね。
「まぁいい。帰るぞ、ベニーリー。今、領地に送ってやるからな。」
クマの名前変わってない!?こいつもいい加減だな。
熊さんに近づくエア。
「グヮォ!」
いきなり唸り声をあげて、熊さんがエアに殴りかかる。名前で呼ぶから慣れてるのかと思ったら全然じゃん!危ない!
「こらこら、じゃれつくんじゃない。」
殴ってきた熊の腕を片手で受け止めると、捻って地面に投げ倒す。あの……その熊さん4メートルくらいあるよね……重さなんてトンくらいあるんじゃないの?
「愛情だ、愛情。」
どこがよ!?
空間移動の門を開くと、倒れた熊さんを、ヒョイと門に投げ入れる。こいつマジで何者なの?
「ではな。あ、この辺の魔獣はあと1ヶ月は狩るんじゃないぞ。」
そう言って、エアも門に消えた……
「……ハッ!シロクマが強奪されました!」
リリーサ、どっちかっていうと強奪しようとしてたのはこっちだよね。
「おのれ、エアさん、許しません。こうなったら……」
あきらめる気無いわけ?あぁ、もう帰りたい……
「ドルミントに行きます!!」
なんで!?




