320.日常
「うー、体が怠い……重い……」
「ミヤはそんなに重くないぞ。」
うん、とりあえず、どきなさい。ソファーに寝てる人の上でダラーっと伸びてるんじゃない。
ずいぶん長かった気がする1日が終わり、朝から気分は最悪。
今回は意識を失うこともなかったし、体もちゃんと動くんだけど、倦怠感だけはぬけきれない。がんばりすぎたかな。
「ヒメの場合、いつもそんなものだから、ほんとに体調が悪いのか、いつも通りのなまくらなのかの区別がつかないっていうのが問題よね。」
いや、ファリナ、誰がなまくらだっていうのよ。
「ヒメ。」
「ヒメ様。」
うぅ、いたわりって言葉知ってる?
「まぁ今日は1日ゴロゴロしても許してあげる。」
「うむ。ミヤがここで見張っているから大丈夫。」
だから、どきなさい。
「ゆっくりしすぎてもう昼になりそうね。」
「朝ご飯食べ損ねた。だが、ヒメ様を起こすことはできなかった。ミヤの献身的愛情に感謝すべき。」
「わ、わたしだって起こさなかったからね。」
「うん、2人ともありがと。」
手を伸ばして2人の頭を撫でる。
「てれてれ。」
「うん、てれてれね。」
あぁ、こんなゆっくりするのも久しぶりだな。
「ですが、そううまくはいかせません!」
家のドアを少し開けて、リリーサが覗きこんで叫ぶ。何やってんのよ……まぁ家の中にいきなり出現しなかったのはちょっとは進歩したのかな。
「昨日の怖そうな人たちはいませんか?」
部屋の中に顔だけ入れて、中をうかがう。あぁ、リューちゃんたちが怖くて直接入ってこれなかったわけか。
「帰ったよ。」
「なら、わたしの天下です!さぁどうしてくれましょう?」
ドアをバンッと開けこちらを指さす。まずあんたを燃やそうかな。
「あの人のように怒鳴る男の人は苦手です。問答無用で消したくなります。」
あー、リリーサ、リューちゃんは消すのが大変かもね。
「消したくなったら言え。ミヤが手伝う。今度こそ抹殺。」
うん、リューちゃん大変そうだね。ま、ミヤを渡す気はないけど。
「何者なんです?あの人たち。ミヤさんの知り合いみたいでしたけど。」
「何者と言われても……ねぇ……」
リルフィーナが素直そうな疑問符つきの目でこっちを見るけど、どう答えればいいのか。
「あの都合のいい雷。あれって魔法なんですか?」
うん、リリーサ、それもどう答えればいいのか。
魔法で水は出せるけど、雨や雪を降らせることはできない。天気のような自然に由来する現象を魔法で生み出すことはできない、とされている。
一番近いのは風を作り出すことだけど、風といってもその一帯だけに吹くものであって、はるか遠くまで吹き抜けるような風は無理だし、どちらかといえば、風の魔法って圧縮した空気を刃にして放つ凶器として使うものだから、厳密な意味での風とは言い難い。
つまり、雷を自由に好きな場所に落とすなんて言うのはありえないことなんだよね。
でも、前にミヤから雷の魔法はあると聞いていたからあるんだろうな。ま、ここは知らぬ存ぜぬだな。
「お体はまだ万全ではないようですね。治っていたら狩りに行こうと思っていたんですが。」
あぁ、あと1週間は無理かな、リリーサ。体調的問題ではなく気分的問題で。
「なら、約束通りわたしがつきっきりで看病しますね。まずは体を休めた方がいいでしょう。わたしが添い寝しますから寝室に行きましょう。」
「添い寝はミヤがするから大丈夫。リリーサは茶でも飲んでいろ。」
「わたしもいるから大丈夫。お茶でも飲んでいて。」
いや、ファリナはそろそろお昼ご飯お支度してよ。あ、ミヤでもいいよ。
「それはやぶさかではないが、ミヤにはヒメ様の薄い胸にうもれてお昼寝、もとい、つきっきりの看病をする義務がある。ご飯はファリナ、お願い。」
いや待て!薄くないからね!
「それはズルいわ。わたしだってヒメの薄い胸で……」
「薄くないからね!!!ゼー、ゼー……」
「ほら、怒鳴ると疲れるわよ。大人しくしてなさい。」
誰のせいだ、誰の……
「言っておくけど、<豪炎>くらいなら撃てるからね。気をつけて発言するように。」
慣れてきたのか今回は回復が早い。<超爆>は、あと2,3回使えば慣れてきて、1日2回くらい発動できるようになるんじゃないかな。
「昨日の夜にゴボルがズールスのところに愚痴を言いに来たとかで、ズールスから聞いた話ですけど、あの魔法の発動跡、とんでもないことになってたみたいですよ。なんでも、地面が溶けて火山の噴火口みたいになっていて、地面を冷やすのに時間がかかって、ギャラルーナ帝国の兵隊が来る前に主を回収するが大変だったとか。死んでしまって魔法障壁使えないから、溶岩の中の主がすっかり焼き上がっていたとか……という事は食べたんでしょうか?」
あぁ、3体目が襲って来てやっつけるのに夢中で、そっちまで気にしてる余裕なかったわ。そんな事になってたんだ……で、食べないんじゃないかな、多分。
「でも、2体目と3体目は雷が落ちたことになっているのに、それはまずいわね。」
ま、まぁ、今後一切あの国には関わらないという事で。あっち方面に行かなきゃそのうち忘れるよ、みんな。
「そうはいきません。エアさんから許可は得ています。ギャラルーナ帝国近辺に残った魔獣は狩ってもいいと。ヒメさんの体調が戻り次第行きますよ。久々の狩りです。」
うん、だから1週間は戻らないかな。
「というか、昨日、雷が落ちたから2,3日は天気が荒れる。狩りは無理かもしれん。」
何を言ってるのかな、ミヤ?
「雷のまほ……意図的な雷が落ちると、大気に多大な影響が出る。自然に干渉したむくい。やむなし。」
「12の月ですから大雪になっているという事ですか?それは一大事ですね。」
リリーサの言う通り、帝都から避難した人たちはまだ自分の家にも戻っていないだろうって時に大雪?しかも、帝都宮殿前なんか家が壊されちゃってるというのに。
「ちょっと様子を見て来ます。」
リリーサとリルフィーナが防寒服を着て、空間移動の門に消える。
わざとなのか、ボケてるかなのかはわからないけど、雷が落ちたら天気が荒れる、って話はスルーされたね。『なんで雷が落ちたら天気が荒れるんですか?』って聞かれたら、これ以上ごまかすのが面倒になって燃やしちゃってたよ。
「みぎゃー!」
行ったと思ったら、すぐに門が開き、ずぶ濡れの2人が戻ってくる。ちょっと、床濡れるじゃない。ファリナ、2人をお風呂場へ。
「酷い目にあいました。」
いや、リリーサ、ここには女の子しかいないとはいえ、バスタオルを巻いただけの姿はどうかと思うけど。
「服が乾かないと替えがありません。1度家に戻ってきます。うぅ、下着までびしょ濡れでした。」
「はしたない姿で申し訳ありません。」
リリーサみたいに堂々とではなく、恥ずかしそうにバスタオル1枚の身を縮めたリルフィーナが、リリーサの開いた門に向かう。
「あれだけ濡れるって、雨降ってるの?」
「でしょうね。雪ならあぁはならないでしょう。」
この寒いのに雨に濡れるとは、リリーサたちも不幸だね。
「大雨でした。わたしたちが最初にいた丘の上に出たのですが、帝都が見えないくらいの大雨でした。」
この寒いのに雨。よく凍えなかったね。
「それが、気温は暖かかったです。雨が気にならないくらい。」
「お姉様、あの立っているのもつらいくらいの大雨が気にならないというのは……」
「ごめんなさい、ウソです。雨の圧力で立っていることもつらくて、あの場所で身動きできずに死ぬのかと思いました。ですが、凍えることはなかったです。」
「気温が上がってさらに雨。異常気象だね。」
確かにすごい雷だったけど、そんなに天気がおかしくなるくらい自然に干渉しちゃう魔法って……
「主が焼け焦げちゃうくらいですからね。」
え?リルフィーナ、焼け焦げてた?
「さぁ。そばで確認したわけではないので何とも言えませんが、雷が落ちたら、普通は焼けるんじゃないですか?」
よくわからないからミヤを見る。
「直接の原因は電気ショックによる心臓停止だと思うが、多少は焦げたのではないか。」
うん、さらにわからなくなったけど、もういいや。きっとこれ以上聞いてもわからないだろうし。
うーん、頭使ったら……なんだか……
「あら、眠っちゃったわね。」
「昨日の今日だ。まだ疲れてる。」
ファリナとミヤの声を子守唄に、わたしは眠りに落ちていった。
「という事は、約束通り添い寝ですね。」
指をワキワキさせながら、リリーサが立ち上がり、ヒメのそばに向かおうとする。
「切り刻むぞ。」
「斬るわね。」
「わたしも刺しますよ、お姉様。」
3人がその手に武器をとり、リリーサの前に立ちふさがる。
「味方がいません!」
「この状況でいると思うのがおかしいでしょ。」
「しかたありません。いつかこういう日が来ると思っていました。」
リリーサが右手をスッとあげる。
「やるからには本気です!<バラバラ>!」
リリーサが魔法を放つ。3人がそれをかわして、リリーサに迫ろうとした時……
ドギャ。ドスン。
「ニギャァ!」
異様な音に続き悲鳴が響く。
恐る恐る4人が音の方向を見ると……
リリーサの分解でソファーの足が1本消え、傾いたソファーから投げ出されて床に顔面を打ち付けているヒメの姿が……
「あんたらねぇ……」
「待て、すべての責任はリリーサにある。」
「そ、そうよ、リリーサが……」
「お、お姉様、かな?」
「ふ、不可抗力です!」
「いいからそこに座りなさい!」
昨日、魔法を使ったことを今さら後悔する。クソ、体が重くて動くのがだるいものだから燃やせなかった。
「っていうか、ソファーの足どうすんのよ!?」
「大丈夫です。1部分でも残ってるのなら<モトドーリ>で直せます。運がいいです。もし全部分解されてたら、60秒が過ぎていますので直せないところでした。」
この状況のどこが運がいいと言えるんだろう……うぅ、顔がまだ痛い。しかも、もしソファーが全部分解されてたら、わたしはどうなっていたわけ?想像するのも恐ろしい。
リリーサにソファーの足を直してもらい、這いずるようにしてソファーに上る。
「疲れてるなら部屋でゆっくり休んだら?」
そうはいかないの。だって、お昼ご飯がまだなんだもの!
「あぁそう……」
いや、ファリナ、そうは言うけど朝も食べてないんだよ。死んじゃうよ。でも待って。これが今日の最初のご飯という事は、これが朝ご飯で、すぐにお昼ご飯を食べるべきなんじゃないかな。
「なるほど一理ある。」
「ないわよ、ミヤ。」
うぅ、ファリナのいけず……
「できたら持っていってあげるから。」
いや、ファリナ、ここが安全圏なんだよ。
「わたしが寝てたらミヤもついてくるから、そうしたらファリナも来ちゃって、ご飯があたらない事になるし、ミヤもご飯支度手伝うことになったら、リリーサが何しでかすかわからないんだよ。」
「失礼です。何しでかすってなんですか。ですから添い寝してあげますと言ってます。」
「あぁ、それはダメだわ。ミヤ、ヒメをここに残すからリリーサ見張っていて。」
「わかった。再生できる程度で勘弁してやる。安心しろ。」
「フッ、雌雄を決する時が来たようですね。」
いや、だから静かにしてって言ってるの!
「もう全員でご飯支度して!って、あぁ、ごめん、リルフィーナはやめて。お皿そんなにないの。リルフィーナがこの前割ってからまだ買い足してないの。」
今日はゆっくり休めると思ったのに……何でこうなるんだろう……
「「「「普段の行い。」」」」
あんたたち、そういうとこは仲いいよね。




