319.来訪者 2
「ならピヨちゃんだ。」
え?いきなり何を言い出したわけ、ミヤ?
「鳥のこの世界線における名前。」
「ピヨちゃん?!」
鳥さんがギンっとミヤを睨む。いや、いくらなんでもその名前は……
「ちゃん、って呼んでくれるの?えー、どうしましょう。」
頬に手を当て照れだす鳥さん。どうもこの人たちの感情の琴線がよくわからない。いいのか、それで?
「いや、お前には朱雀という立派な名前が……グヒャ!」
そして、よけいな事を言うリューちゃんは顔面鷲掴み。容赦ないな。
「そう言うあなたは何なの?青龍よ。青なのよ。それが何で黒い服着てるわけ?」
「あん?かっこいいからに決まってるだろうが!」
いや、ようやく離してもらえた顔をさすりながら言っても、全然かっこついてないからね。
「白虎には言わねえのか?服が白くないぞ!」
「帰ったら亀に、リューちゃんが黒い服着てましたと報告しなくちゃね。」
「い、いろなんてどーでもいーじゃん……な、なぁ、虎。」
声がひっくり返ってるよ、リューちゃん。そうか、亀さんが黒なのか。
「ところでミヤ、何の色なの?」
「イメージカラー。特に意味はない。」
意味のないイメージカラーを持つ神様か……俗世的すぎないかな。
「イメージ戦略は大切なのよ、ヒメちゃん。」
そんなまじめな顔して言われても……
「わたしたちは、わたしたちの住む世界において、普段は明確な実体で存在してないの。色のついた霞のような存在ね。そういう時のための色よ。『あっちで青色の神様が弱い者いじめしてる』とか『こっちで青色の神様がジタバタ泣き喚いている』とか色ならわかりやすいでしょ。」
「俺を引き合いに出すな!そして住人がそんな事言うわけないだろう!」
「わかりやすい例えよ、た・と・え。」
うん、わかりやすかった。
「わかりづれーよ!俺がジタバタ泣き喚いてるなんて誰が言うんだよ!」
「ミヤは言う。まちがいなく。」
「そして、わたしはその報告を聞くわね。またかって言いながら。」
「言うな!そして聞くな!」
トリオ漫談か。
「それはダメだ。ミヤはヒメ様と組むから。」
いや、わたしは漫談の道に進む気はないからね。
「ところで、なぜ漫談とやらの話になったのでしょうね?」
いや、鳥さん、それは……なんでだろ……
「ヒメかリリーサのせいと思ってたけど、誰と話してもまともに会話が進んだことないわよね。」
だよね、ファリナ。何でだろ。この世界は不思議でいっぱいだ。
「わたしの名前がピヨちゃんに決まったところまではおぼえているのよね。」
それは……忘れた方がいいんじゃ……
「で、ここにいるみんなは、わたしのことピヨちゃんと呼んでくれるんですよね。」
「いや、いいの?それで?」
「いいも何も、ずっと不満だったのよね。わたしが虎ちゃん、あ、今はミヤちゃんね、とか、龍ちゃんと呼んであげてるのに、誰もわたしをちゃんづけで呼んでくれないの。呼び捨てよ、呼び捨て。おかしいと思わない?」
いや、わたしの方を向いて言われても、何と言っていいのか……
「お前、俺は呼び捨てだろう。」
「いやね、機嫌のいい時はちゃんづけで呼んでるじゃない。」
「機嫌のいい時なんてあったか?」
「あなたの普段の行いが悪すぎるのよ。」
漫談が止まらない。
「なるほど。ミヤは敬愛をこめて鳥と呼んでいたが、こめるべきは親愛であったか。すまない。今からミヤはピヨちゃんと愛情をこめて呼ぼう。」
「そ、それってつまり、俺をリューちゃんと呼ぶのも愛情ってことなのか?」
「リューちゃんは成り行き。ヒメ様がそう呼ぶというなら従うだけ。それよりも肝心な事が1つ。そうなるとヒメ様は、ミヤのことをミヤちゃんと呼ぶべきではないのか?」
「え、ミヤちゃんがいいの?」
「やっぱりいい。ミヤの方がしっくりくる。」
うん、よくわからないや。ところで、いつまで膝の上に座ってるのかな?ファリナだけでなくリューちゃんの視線もウザくなってきたんだけど。
「そうだった。ヒメ様、今日はお疲れだった。ごめんなさい。」
いや、そのくらいは別にいいんだけど、世間の目がね。鬱陶しくて燃やしたくなるけど、今日はもう燃やせないというか……体力的意味で……
ふと気がつくと、神様2人がわたしを見てる。リューちゃんは、白けたような、おもしろくなさそうな……ピヨちゃんは、柔らかい笑みを浮かべて。
「帰る。」
リューちゃんが立ち上がる。
「そう。」
笑みのピヨちゃんが答える。
「今の虎は聞く耳持たないからな。」
「大人になったわね。」
「あのな!俺は大人だよ!」
この2人も不思議な関係だよね。姉と弟?母と子?みたいな感じ。
「無理してるんじゃねーぞ。」
誰が無理を?って、わたしに言ってるの?
「大事ならちゃんと面倒見てやれ、ミヤ。」
そう言うとドアに向かう。
「ここから帰ればいいのに。」
いや、鳥さん、じゃなくてピヨちゃん、町の外まで歩いてください。2人が家に来てるの、町の人に見られてるから。帰るところもちゃんと見てもらってほしいんだけど。
「少し歩きたい気分だ。お前は先に帰っていいぞ。」
「つきあうわよ。何しでかすか見張ってないと。」
「何もしねーよ。じゃ、な、ミヤ。そのうちまた来る。」
急に大人しくなったリューちゃんを不審そうな目で見るミヤ。
「うむ。来なくていい。あ、ピヨちゃんはまた。」
「はい、またね。」
2人はそう言って帰って行った……何だったんだろう?ミヤを無理やり連れ帰りたいふうでもなかったけど。
「心配だったんでしょ、ミヤが。様子を見に来たのよ。」
「むぅ。」
ファリナにそう言われ、照れくさそうに顔をそむける。
ま、いいか。
2人を見送るために立ち上がったわたしだけど、気が緩んだとたん、足元が急に不確かになって……その場に座り込む。
「ヒメ!?」
「ヒメ様!?」
2人が駆け寄って体を支えてくれる。
「大丈夫。何があってもいいように臨戦態勢だったから、気が緩んだら力が抜けた。」
「もう。とにかく横になって。ミヤ、寝室に運ぶわよ。」
「わかった。」
2人に両側から支えられて、わたしは寝室へ。最後までかっこつけるのは難しいな。
「ずいぶん大人しく引き下がったわね。」
「何を言っても今はケンカにしかならないしな。それに……」
「それに?」
「何でもない!」
龍は慌てて顔をそむける。
(虎の顔は見れたしな。)
「ヒメちゃんの体を気づかうなんて、優しいところもあるのね。」
「そんなんじゃねぇ。弱ってるやつを敵と思うのは俺の矜持に反する。元気が出てから倒す。」
「倒したらミヤちゃんに怒られるわよ。」
「2人しかいないんだ。ミヤちゃんと呼ぶのは……やめろ。」
「何照れてんの。あっらー、ほんとはあなたもミヤちゃんって呼んでみたかった?」
「んなわけあるか!」
顔を真っ赤にして速足で歩き出す龍。
「ところで、わたしのことはピヨちゃんって呼んでね。」
「呼ぶか!」
「正直になった方がいいわよ。」
「俺はいつでも正直だ!」
「で、そろそろ向こうの世界への門を開かない?」
すでに町を出て、人通りの少ない街道を進む2人。
「知るか!」
「えー、まだ歩くの?ねぇねぇリューちゃん。」
「その名前で呼ぶな!」
「ねぇリューちゃん……」
「うるせえよ!!」
「ねぇってばー……」
山陰に陽が落ちようとしていた。
「これは……」
ギャラルーナ帝国帝都に入ったエリザベートは、街の状況にめまいを感じざるを得なかった。
海側にあった、街を守る防壁は壊れ、そこから宮殿までの間にあったはずの建物の半分近くがなくなっていた。
建物がなくなって広がる空間には、巨大な立体物……魔人族が建設した魔法陣の残骸が残されていて、その魔法陣の真ん中は、数十メートルの深さの巨大な穴が開いている。
さらには、その周囲、いや、街全体が水に浸かっている。
「どうしろっていうの?」
思わず口に出た言葉に、まわりの将兵もただ頷くしかない。
何がどうなったのかまったくわからなかった。
海獣が向かう先の町に向かっていた騎兵たちが、突然立ち上った光の柱と、落ちてきた落雷によって、海獣が倒れる様を目撃した。
町に向かう必要がなくなったのか判断できず、本陣に指示を仰ぐため帰還。その報告を受けてさらに兵を派遣したのだが、海獣が倒れていた場所には何も残っていない。
まだ生きていたのかと、慌てて馬を走らせるも、目的の町につくまでの間に海獣の姿はどこにもなかった。
「幻だったというのでしょうか。」
「幻が帝都をこのようにしたとは考えたくないですな。」
ハイマンの言葉に、苦虫を噛み潰したような顔で答えるエリザベート。
「まずは人々が帰る家を復旧させないと。あぁ、これから雪も積もるというのに、工事も大変、仮の住処を用意するのも大変。どうしましょう。」
「少しずつでもやるしかないでしょうな。不詳、ハイマン、街の復興が終わるまではお手伝いいたしますゆえ。」
「頼みます。今は人材ができるだけ必要です。民のために力を尽くしてください。」
「ハッ。」
ハイマンはじめ、諸将軍がエリザベートに剣を捧げる。ようやくそれを見て笑みを浮かべるエリザベート。
「バンスを早く呼び戻さないと。」
うれしそうに呟くエリザベートに、まじめな顔から一気に疲れた顔になるハイマン。
(まぁ、女帝陛下らしいか。)
苦笑を浮かべ、街をながめる。
(大変だが、民のため、女帝陛下のためならばやり遂げて見せよう。)
そう、やるべきことは山済みなのだ。
暗い部屋だった。明かりはあるのだが、数を減らしているのだろう部屋全体に行き渡っていない。さらに窓もないため、一段と暗さが目立っていた。
(まだ昼なのだがな。)
左右の壁に人魔が並ぶこの部屋で、ゴボルはある人物を待っていた。
目の前4,5メートル前方にゴボルの身長くらいの高さの壇があり、中央にそこを登るための階段があった。
その壇の上は、黒いカーテンで覆われているが、向こう側がわずかに透けているため、今、その壇上には誰もいない事がうかがい知れる。
魔人族王都にある、魔王の宮殿。今、ゴボルは宮殿内にある魔王の間で魔王の登場を待っていた。
魔王。魔人族を統べる最高権力者。魔人族の中でもっとも強い者がその座につく。
(前の魔王の時は普通の部屋だったんだが、いや、前の前か。前の魔王には、魔王になる前に会ったきりで、魔王になった時には会ってないから、どんな部屋なのか知らないんだよな。いやはや、今の魔王は、人族の物語の魔王のイメージを強く持ちすぎなんじゃないか?何なんだろう、このいかにもな部屋の雰囲気は……)
心の中でどう思おうと、それを表に出すことはできない。なにせ、今回の海の主討伐の全面的協力を認めてくれたのだから。まぁ、それも、おそらく、魔王としての評判を気にしてのような気もするが。なんにせよ、天人族としては大助かりだったのだ。文句は言うことはできない。
「魔王ジャザラーグ・リャンダルク様、ご入室いたします。」
部屋に宣言が響き渡り、壇の奥からカーテン越しに巨大な人……とは言い難い人型の影が現れ、そこにあった椅子に腰かける。
膝をつき、両手を開いて床につける。人族とは違うが、手を床につけることで戦う意志はない事を示す服従の動作らしいが、これも今の魔王になって決まったことらしい。以前の魔王はその辺は無頓着で、挨拶の時は膝をつくくらいで、後は立ち上がろうがどうしようが気にしなかった。無論、いきなり襲われても、1撃で相手をたたきのめす実力があったからの話ではあるが。
「報告は聞いた。ローよ。海の主討伐の任、ご苦労だった。」
「ありがとうございます。これも、魔王様のお力添えあってのこと。天人族一同感謝の思いでいっぱいです。」
「うむ。古からの盟約、魔人族の長として叶える事ができ私も喜ばしく思う。で、話は変わるが……」
「は、何でしょう?」
(早速か。辛抱のできない性格なのだな。)
しばらくは、建前上の謝辞が続くかと思っていたが、いきなり話を本筋に持っていくあたりは気が小さいのか、そう思いつつも表には出さないよう気をつけなければとゴボルは気を引き締める。
(よけいな情報を与えてはならない。ことにヒメについては。)
「……主を倒したのは何者かわかったのか?」
「申し訳ありません。そもそもが雷を魔法とする方法が不明ですので、自然現象の可能性も捨てきれません。」
「偶然、雷が主に落ちて助けられた、と?」
「あくまで可能性としてないわけではないと。」
「まぁいい。こと魔法に関しては、天人族の方が進んでいる。その天人族ですら魔法と断言できないとなれば、確かに自然現象の可能性もあるが。だが都合が良すぎる。なんにせよ調査はこちらでも行う。そちらも引き続き調べてもらいたい。」
「はい。」
「主を主の墓地に埋葬する準備は進んでいるのか?」
「はい。西方の国の協力で船を用意してあり、それに主の亡骸を運び入れております。なにぶんにも墓は海の沖合にありますので、さすがに人力頼りにならざるを得ません。」
「うむ。ならば、この件はこれまで、という事だな。長らくご苦労だった、ローよ。」
「ありがとうございます。本来ならそのお言葉を受けるべきロロック・カイナムがいない事だけが残念です。」
「あぁ、そうだったな。カイナムの一族にはできうる限りのことをしてやってくれ。」
「わかりました。」
ロロックには血縁たる身内はいない。それを知らずに出た言葉だろうが、それを説明しても詮無きこと。ゴボルはただこうべを垂れた。
「我らが知らぬ力があるかもしれぬ。それを人族が有する可能性がある事。それは看過できん。あれば、の話だが。」
よけいな事に気を廻さないで、魔人族の平穏にだけ心がけていてほしいものだ。ゴボルは心の中でそう呟く。
様々な思惑の中、長かった1日がようやく終わりを迎えようとしていた……
作者の頭の中だけの章立てにおける、『激闘 編 (前の章)大海獣大進撃』の終了です。
次回からは『(後の章)〇〇〇大攻略戦』が開始になります。ラストバトルです。あ、〇〇〇は大したことないので気にしないでください。ネタバレになるから隠してるだけなんで。(正式名称まだ決めてないこともあるんですけど)
今回の後半の魔人族のくだりでは、『魔王』多すぎで、表現力のなさに涙が止まりません。精進しないと。
次回の更新は4月1日になります。
それでは、これからもお付き合いのほどよろしくお願いします。




