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269.港町


 リリーサはすぐに戻ってきた。

 「話はつきました。明日の午前中なら会っていただけるそうです。」

 「もしも、問題があったとして、明後日には狼とかの解体しなきゃいけないんだよね。」

 「それほど差し迫った事態にはなってないと思われます。どうも、王都で国王様に贔屓にされている最大手の食料問屋が原因らしいのですが……」

 「国王様に直訴すればいいのかな?」

 「国王様は、その大手の商店とは懇意になっているとか。直訴しても、こちらが悪者にされる恐れがあります。が、とにかく、まだよくわからないというのが現状です。一応、庶民の味方と言われていた現国王が、なぜそうなったのか。もしかすると、賄賂的なものを渡されている可能性もあります。なにせ、うちの領主様がベアの毛皮をプレゼントしただけで、最近目をかけていただいてるようです。贈り物に弱いのかもしれません。」

 国王として、どうなのそれ?でもそれを調べるには、王都に行かなきゃならないってことなのかな?

 「ヒメさんが困っている時は、わたし、エルリオーラの王都までご一緒しました。よもや嫌とは言いませんよね。」

 言うよ!冗談じゃないからね!エルリオーラの絵に関するゴタゴタは知らないうちに片付いてたけど、ギャラルーナに引き続き、ガルムザフトの面倒まで抱え込む気はないからね!

 「大丈夫です。こちらの面倒は、最悪国王様を含めた何人かが天に召されれば解決するような気がします。」

 いや、暗殺業はやらないよ!人を何だと思ってるかな?

 「何って、気にいらなければすべてを燃やす極悪人程度には……」

 あのね!……あれ、否定する要素がないのはなぜ?いや、ともかく、極悪人ではないからね!


 「とにかく、明日ここの領主様に会ってから考えましょう。」

 ファリナ、甘い事言ってたらどんどんつけあがるからね、リリーサは。

 「そんな事より!」

 ミヤが真剣な目でこちらを見る。あぁ、わかりました。

 「晩ご飯、何にしようかっていうんでしょ。何がいい?」

 「魚。」

 即答か。この辺ってお魚屋さんあるのかな?ガルムザフトはよくわからないからな。

 「リリーサ……」

 「お魚でしたら他の領地に港町がありますから、そこで買った方がおいしいですよ。行ってみましょうか。」

 「行く!」

 ミヤが即答。港町か。パーソンズ領には港がなかったから、よそからの干し魚しか手に入らなかったけど、そういえば、他の領地に買い物しに行くという手もあったんだね。

 「どれだけ引きこもりなんですか……」

 いやぁ、住んでから半年間は、今の町から出た事なかったからなぁ……

 「最近はどこにでも行きすぎのような気もするけどね。」

 だよね。東方諸国で行ってないのはあと1国だもんね。

 「とにかく、買い物に行きましょう。海といえば……どこがいいんでしょう?」

 「カイムラック領のイルーシカの町がいいのではないですか、お姉様。」

 「そうですね。あそこの港は王都に近いだけあって、この辺じゃ一番大きいですからね。」

 なんかソワソワする、わたしたち3人。

 「落ち着きませんね。何かありましたか?」

 「いや、魚が生で売ってるのって見るの初めてなんだよね。」

 「どういう人生を送ってきたらそうなりますか?」

 ため息つかないでよ。そもそも、わたしたち、基本住んでいた町から動かなかったから、その辺で売っていたのは干し魚しかなかったんだよ。

 「エルリオーラ王国じゃ生の魚、というか港がある町を持つのは王都近くの大規模貴族が多くて、地方の小さな領地じゃいくつもないの。わたしたちの住むパーソンズ領も、もちろんないわ。なんかこの前の件のご褒美で、国王様から資金等の協力してもらって、港をもつ許可をいただいたようだけど、完成するのもいつの事やら。」

 「ファリナの言う通りで、パーソンズ領じゃ干し魚しか手に入らなかったし、言ったように今まで他の領地にはほとんど行ったことなかったからね。」


 勇者の村も、内陸、黒の森に近い場所にあったから、お店で売ってる魚は干したものだった。稀に聖女であるわたしのためにと言って、生魚らしいものも食べることはあったけど、それはすでに調理してあったから、生のお魚そのものは、仕事に出かけた先の、町のお店屋さんの店先のそれらしいのを遠目に見かけた気がする程度で、じっくりと獲れたばかりの魚を見た事がないんだよ、恥ずかしながら。


 「海から上がったばかりの魚が見れるなんて……」

 なんかウキウキだよ。

 「子どもたちの面倒を見るシスターの気持ちがわかるような気がします。」

 失礼だな、リリーサ。そこまではしゃがないよ。

 あいかわらずの事だけど、リリーサは家の中にそのお魚の町への門を開く。連れて行ってもらう以上文句は言えないけど。

 「お魚の町じゃなくイルーシカの町よ、ヒメ。」

 うん、だから今後来るかどうかわからない町の名前をおぼえる気はないからね、ファリナ。


 さすがに他の領地だからだろう、町の真ん中に門を開くようなまねをしないだけの理性はリリーサにもまだあるようだ。町の近くにある森にわたしたちは出る。

 「まぁ、誰かに見られるのはかまわないのですが、驚かれて大騒ぎになるのは避けたいところですからね。」

 リリーサが真っ当な事を言っている。ビックリだ。

 「他の領地ですからね。あまり騒ぎになると何人の方が犠牲になるかわかりません。今回はヒメさんもいますから、家が2,3軒焼け落ちるなどとなったら、騒ぎが大きくなるでしょう。そうなると、犠牲がどんどん増えていきます。まぁ最悪、領主様の一家と警吏全員が天に召されれば、何事もなく落ち着くんでしょうけど。」

 落ち着かないよ!大騒ぎだよ!王都から騎士団がやってくらいの大騒ぎだよ!

 「フッ、この町のやつら、命拾いしましたね。」

 ごめん、何言ってるのかわからないよ、リリーサ。岩に片足のっけて無駄にかっこいいポーズは何なの?


 「何なんですか?これは?」

 「何なのよ?これ?」

 通りの真ん中にわたしとリリーサの叫びが響く。


 お魚の町に入る時、道のすぐそばまで海が迫っていた。奥には漁船が何隻も岸につながれていた。

 あぁ、これがお魚の町。

 「うん、イルーシカの町ね。」

 ファリナ、しつこい。

 どうしよう、お店に並ぶお魚が跳ねてたら、わたし怖くて逃げだしちゃうかも。

 「燃やさないでよ。」

 「魚が逃げると思うぞ。」

 ファリナ、ミヤ、わたしのワクワクの邪魔しないで貰えるかな。

 なのに……町に入った途端……

 お店の店先に並ぶお魚は、見慣れた干し魚だった。しかも、普段買っている値段の倍近く高い。

 「何で、港町まで来て、倍の値段の干し魚を買わなきゃいけないのよ!」


 「責任者を出しなさい。」

 わたしとリリーサのようなか弱い乙女が、ちょっと怒った顔をしただけなのに、市場を統括する商業ギルドの受付のお姉さんが泣きそうにしてるのはなぜだろう?不思議だ……

 「ぎ、ギルドマスター、お客様のお相手をおねがいしますぅ!わたし殺されてしまいます!!」

 奥に向かって叫ぶ受付のお姉さん。失礼な奴だな、こいつ。

 「ギルドに強盗?どこのバカだ?海の男なめんなよ!」

 奥からいかつい筋肉隆々の髭のおじさん登場。セリフから漁師もしくは元漁師のようだ。

 「事務仕事なんてやってるんですから、現役引退したジジイです。体も乾燥しまくりです。よく燃えます。いっちゃってください、ヒメさん!」

 「こいつを燃やせばいいのね!」

 「待て!強盗じゃなく、俺を殺しに来たのか!?何だお前らは!?」

 お魚買いに来た一般人です。

 「一般人が人を燃やそうとするんじゃない!」


 「何で港町まで来て、干し魚しかないのよ。しかもお高いときた。詐欺よね!もう責任者は命でわびを入れてもいいレベルだよね。」

 「グッ!」

 マスターが押し黙る。ほらごらんなさい。

 「実は……」

 受付のお姉さんが話し始めた時……

 「待ちなさい!」

 いきなり邪魔が入った。なんなの?この展開は……

 「わたしもその話が聞きたいわね。」

 振り向いた全員から言葉は出ない。その場は、それほどの驚きに包まれていた。


 赤のワンピースを着た少女がそこに立っていた。

 ただし、まともなのはそこまでで、頭には顔だけが出るネコの着ぐるみをかぶり、わずかに出ている顔には、わたしたちが憧れた、目を隠す仮面舞踏会などで使う仮面をつけていた。

 「なるほど。これなら被り物に目が集まりすぎて、あの仮面でも誰だかよくわかりませんね。」

 いや、リリーサ、冷静に分析してないで、どうすればいいか考えてくれないかな。あまりにもあまりすぎて、燃やしていいものか判断がつかないんだけど……

 「あの、でん……」

 少女に目が集まりすぎて気がつかなかったけど、後ろに男が1人、付き添うように立っていた。

 「わたしの名はケイ。謎の仮面美少女ケイと呼びなさい。そして、付き従うは、しもべその1、ジー。」

 少女は、男の言葉を遮るようにそう宣言する。

 「いえ、あの、そのですね、ケイ様、私がジーなら、あなたはケイではなくシーになるのですけど……」

 「細かい!男のくせに細かい!シーよりケイの方がかわいいじゃない!あぁ、乙女心がわからないしもべしかいないなんて、何て不幸なわたし……」

 「わ、わかりました!もうどっちでもいいです!」

 この小芝居、いつまで続くんだろ……


 「というわけで、わたしたちにも話を聞かせなさい。」

 そう言われて、わたしたち全員が顔を見回す。話を聞かせるくらいどうでもいいけど、何者なの、こいつ?

 「何者かは知らぬが、その被り物をかぶる以上お前はミヤの敵!」

 あぁ。ネコの被り物はまずいかな。

 「戦うというなら容赦はしない。しゃー!」

 「はぁ?何訳のわからない事を言ってるの?でもやるっていうならやるわよ。しゃー!!」

 最近、その掛け声はやってるのかな……

 「はい、ミヤ、待ちなさい。やっつけるのは話が終わった後にして。」

 「でん……いえ、ケイ様も落ち着いて。ステイです、ステイ。」

 「何?その止め方?わたしを何だと思ってますか?」


 「お前ら、いいから出ていけ!」

 ギルドマスターがとうとう辛抱しきれなくて怒りだす。

 「わかっているのか?ここは商業ギルドだ!仕事の邪魔をするなら警吏を呼ぶぞ!」

 「いいのかな?」

 「何?」

 「大人しく話を聞かせないと……」

 「どうするっていうんだ?」

 怒りに燃えた目でわたしを睨む。

 「ここのテーブル、燃やしちゃうよ。」

 「な、何!?」

 「ヒィィ!そ、そんな。なんて酷い事を!」

 マスターと受付のお姉さんの顔色が変わる。やっぱりギルドの弱点はテーブルか。

 って、何で?テーブルに何があるっていうの!?もう目まいしかしないんだけど。

 「わかった。テーブルを人質に取られたら勝ち目はない。何の話を聞きたいんだ?」

 マスターがガックリと椅子に倒れ込むように座る。

 とりあえず、テーブルの話が聞きたいような気がする。


 「ここは港町ですよね。しかも、王都に一番近い。王都にも魚を卸してるはずです。なのに、なぜお店には干し魚しかないんですか?」

 あぁ、リリーサが本題に入ってしまったから、テーブルの話がしづらくなってしまった。

 「そんな話か。つまり、お前ら、この近くの住人じゃないんだな。なら知らなくて当然か。」

 わけありなんだ。

 「現在、すべての食べ物は、すべてを一旦王都に納めて、その上で各領地に分配されているの。お店に並ぶまで時間がかかるから、生のものは加工しなきゃ売り物にならなくなるの。」

 謎のネコ仮面がいきなり説明を始める。あんたが話始めるの?聞きに来たって言ってなかった?

 「だから、この国じゃ、今現在生魚を食べることができるのは、自分たちの分として獲ってくることができる漁師くらいかしら。」

 「いや。漁師も獲ってきた魚はすべて国に治めなきゃいけない決まりになった。今じゃ漁師でさえ干し魚を食べているよ。」

 マスターがうなだれて呟く。

 「そこまで酷くなっているの?」

 ネコ仮面が驚く。すでに事態はネコ仮面の想定を超えているようだ。

 「誰がネコ仮面なんですか!?」

 あんただよ、あんた。

 「しゃー!」

 うん、ミヤ、落ち着こうね。後で好きなだけ斬り裂いていいから。

 「そ、そ、そ、そんなこと、許されるとでも思ってるんですか?」

 でも相手は謎のネコ仮面だしなぁ……






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