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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第4章 2人の試練編
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23、 総力戦 (前半)


凛が玄関のドアホンを押すと、 しばらくして内側からガチャリと鍵が開いた。


ドアから顔を覗かせたのは、 猫のように切れ長な目をしたショートヘアーの女性。

その少しつり上がった目元と(つや)やかな黒髪は、 凛の持っているそれと同じで、 この人が母親なのだと一目で分かった。



凛が先に玄関に入り、 愛に2人を紹介した後、 叶恵が前に進み出て簡単な挨拶(あいさつ)をする。


それに応えて愛も挨拶を返したが、 その表情は硬く、 歓迎されていないのは歴然(れきぜん)としていた。


「どうぞお上りください」


無表情で先に立って歩く愛に付いて行き、 部屋の中へと通された。



20畳ほどの広々としたLDKに置かれた白いソファーに、 凛、 叶恵、 奏多の順で座り、 凛の両親は先ほどまで凛が座っていた場所…… L字の端の方に2人並んで座った。



「はじめまして。 (わたくし)は奏多の姉で百田叶恵と申します。 南山(みなみやま)大学の3年生で、 現在は外国語学部で主に英語学、 言語学について学んでおります。 今日はお忙しいなかお時間を作っていただきありがとうございます」


「百田奏多です。 滝山高校1年A組です。 凛さんとお付き合いさせていただいてます。 よろしくお願いします」



尊人が「お座りください」と声を掛けるまで深々とお辞儀をして、 それからゆっくりとソファーに腰を下ろした。



ーー ここまでは打ち合わせ通り。



ここに来るまでに叶恵とは簡単な打ち合わせをしてきた。


奏多が叶恵に言われた主なことは3つ。


自己紹介には選抜クラスである『A組』だということを絶対に入れること。 (すき)があれば会話の合間に期末考査8位という情報をブッ込むこと。


そして最後に、 どんなに理不尽なことを言われても決してキレずに、 正直な自分の気持ちを切々(せつせつ)と訴えること。



だけど、 それに対して凛の親がどう言ってくるのか……。

ここから先は未知の世界だ。


奏多はガクガクと震える(ひざ)をぐっと両手で押さえて前を見た。




「小桜尊人です。 今日は凛がご迷惑をお掛けしました。 叶恵さん…… お姉さんは、 凛と顔見知りなんですか? 今日は御両親は…… 」


「はい。 凛さんと私はお友達として仲良くさせていただいています。 両親は父の仕事の都合で大阪におりますが、 母が明日こちらに来る予定ですので、 必要であれば後日また改めて母と挨拶に伺いたいと思っています」


「いや、 そこまでは……。 では、 家にはお子さん2人だけで?…… 」



両親が不在と聞き、 案の定、 尊人が眉を寄せた。 愛と顔を見合わせて複雑な表情をしている。


親がいない間に家に女の子を連れ込んでいる……。 字面(じづら)だけを見れば、 どう考えても不謹慎(ふきんしん)だ。



「父は東京五菱(いつびし)銀行の支店長として昨年4月から3年間の予定で大阪支店に勤務しております。 家事が全くなので母を帯同(たいどう)しましたが、 私と奏多は学校があるのでこちらに残りました」


「五菱銀行さんですか、 我が家も利用させていただいてますよ」


有名な銀行名を出した途端、 尊人の表情がやや(やわ)らいだ。



『全戦力をあげて』と宣言した通り、 叶恵は使える武器を惜しみなく全部投入していくつもりだ。

その一つが奏多の成績であり、 叶恵の大学名であり、 父の職業である。



実を言うとその点については、 奏多たちと叶恵の間で意見の相違(そうい)があった。



奏多と凛は、 『親の職業で凛の親を懐柔(かいじゅう)しようとするのは間違っているんじゃないか』と主張した。


あくまでも『奏多』のことを分かってもらって凛との付き合いを認めてもらうのが目的なのに、 親の肩書きに頼るのは卑怯(ひきょう)な気がするのだ。


それに、 親の経済力で自分の価値まで判断されてしまうなんて、 なんだか()に落ちない。



だけどその意見を叶恵は鼻で笑って一蹴(いっしゅう)した。



「人が他人を評価するときに、 まずは見た目や肩書きで判断するのは当たり前じゃないの? 」


そして、 憮然(ぶぜん)としている2人に向かってマシンガンのように語り出した。



たとえば外見。 髪型や服装、 清潔感があるか、 TPOをわきまえているかで好感度や印象は大きく変わる。


学歴や成績、 職歴で、 その人がどれだけ努力してきたのか、 優秀な人間なのかが分かる。 ついでに言えば役職でおよその年収も推測できてしまう。



中身は二の次だ。 だって性格の良し悪しなんて基準がハッキリしなくて曖昧(あいまい)なもの、 長く付き合ってみなければ証明も実感も出来ないのだから。


だからまずは目に見えてハッキリ分かる部分からアピールするしかないのだ。



「だから奏多の場合は成績を前面に出すしかないのに、 それさえ凛ちゃんに負けててインパクトが弱いのよ? だったら父親が働いてる銀行の名前でも出さなきゃ仕方ないじゃない。 しかも向こうは有名心臓外科医だよ? それでも足りないくらいだわ」


「だから、 わざわざ親の仕事とか役職をこっちから言うの? なんかあざといね」



「あざとくて結構! 」



叶恵は腕を組んで仁王立ちになり、 最後通牒(さいごつうちょう)を突きつけた。



「選びなさい。 みっともなくてもカッコ悪くてもいいから、 凛ちゃんといられるために足掻(あが)くのか、 変なプライドにこだわって諦めるのか。 さあ、 どっちにする? 」






そして叶恵の目論見(もくろみ)どおり、今は父親の仕事の話でひとしきり会話が弾み、 表向きは和やかなムードになったように感じられた。


だけどそれは、 まだ本題に入る前だったからで……。



「ところで、 病院にかかってきた電話のことですが…… 」



尊人がそう言った途端、 その場にピリッとした空気が流れ、 全員の顔にサッと緊張の色が浮かんだ。



ーー いよいよ、 ここからが本番だ……。



奏多は唾をゴクリと飲み込んで、 自分が言うべき言葉を必死で探していた。



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