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背中合わせのアフェクション 〜キミとオレとの関係性〜  作者: 田沢みん(沙和子)
第4章 2人の試練編
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21、 発覚 (後編)


ーー 別れろって…… なんだよ、 それ……。


予期せぬ答えに、 奏多は目の前が真っ暗になり、 泣いている凛に言葉をかけることも忘れて、 ただその背中をきつく抱きしめていた。



すぐに許されるとも、 全てがスムーズに行くとも思ってはいなかった。

だけど、 凛が2連続1位を取ったことで、 凛の母親が少しは認めてくれるんじゃないか、 悪い返答はしないんじゃないか…… なんていう甘い考えがあったことも事実で……。


全く想像もしていなかった、『別れる』という2人の未来。

その『まさか』の一番最悪な選択肢を提示されて、 今の奏多には何も考えられなかった。



「奏多、 中に入ってもらいなさい」

「姉貴っ! 」


振り返ると叶恵が立っていた。


「ここじゃ人目(ひとめ)につくでしょ。 早く! 今以上に最悪の状態になりたいの?! 」


その言葉にハッと我に返って、 慌てて凛を家に入れる。


リビングルームのソファーに座らせると、 叶恵がホットミルクを持ってきた。



「ごめんなさいね、 いつものマグカップじゃなくて」


そう言って目の前に置かれたのは、 見慣れない真っ白なマグカップ。

凛のハニワのマグカップは、 もうこの家には無い。 割れて砕けて無くなった……。


そう思うと余計に切なくて苦しくて…… 凛はしゃくりあげながら、 ゆっくりゆっくりミルクを口に運んだ。


最後の一口をコクリと飲み干すまで、 誰一人として口をきかなかった。




「…… 義父のいる病院に電話が掛かってきました。 たぶん灯里ちゃんです」


ようやく落ち着いた凛が発した言葉に、 叶恵も奏多も驚愕(きょうがく)して思わず目を見開いた。


「あの子っ、 そこまでするっ?! 」

「あいつ…… 」


2人同時に絶句して、 その後は言葉を失った。



「私も甘かったんです。 1位を取って、 その流れで話せば分かってくれるって、 それだけしか考えてなかったから…… あんな風に密告電話でこの家の事を知られるとは想定してなかったから…… 」



***



『私、 好きな人がいます。 お付き合いを認めてください』


両親に向かって頭を下げた凛の耳に飛び込んできたのは、 『それは認められないわ』という愛の言葉だった。



「えっ?! 」


「凛、 中間と期末考査、 2連続で1位は素晴らしいと思うわ。 良く頑張ったと思う。……だけどね、 だからといって男の子の家に通っていいという理由にはならないわ」


「だけど、 それには理由が! 」

「どんな理由なの? 」



思わず顔を上げて反論しようとしたけれど、 『理由』と言われて言葉を詰まらせた。


両親に自分の気持ちを打ち明けていいものだろうか…… いや、 出来ない。


それは今まで自分の心の奥に隠してきた不満を全部吐き出すことになる。

聞き分けのいい優等生だった自分が作りものだったと教えることになる。

それを聞いた両親が、 どんなに驚きガッカリするか……。



「…… とにかく、 私が悩んでる時に手を差し伸べて助けてくれたのが彼なの。 とても真面目で優しくて…… 彼がいてくれたから私は頑張れたの。 彼がいなかったら2連続1位なんて絶対に無理だった! だから一度、 彼に会ってください。 お願いします! 」



「会ったとしても…… 私からは、 『別れなさい』としか言えないわよ。 直接言うか、 あなたが伝えるかの違いよ」

「お母さん! 」


「凛、 分かってるの? あなたは今が大事な時期なのよ。 医学部の受験がどれだけ大変か分かってるの? 恋とか言ってる場合じゃないの。 彼氏を作るなら、 無事大学に入ってからになさい」


「お母さん…… 樹先輩が彼氏ならいいって言ったよね」

「あれは…… あの子ならしっかりしてるから間違いはないと思ったのよ。 あなたの彼氏はどんな子なの? 同級生? Aクラスなの? 」



結局は…… 私の気持ちなんて考えていなくて、 自分の理想の『医学部に進む優秀な娘』と、 『それに釣り合う優秀な彼氏』を望んでいるだけだ……。


両手をグッと握りしめて、 唇を噛んだ。



「まあ、 凛、 まずは座って話を聞きなさい」


今まで黙って聞いていた尊人が、 凛がソファーに座るのを待ってなだめるような口調で話しだした。



「いいかい、 凛。 僕は凛が恋人を作るのが悪いとは思ってないんだ」

「あなた! 」



「愛も聞きなさい。…… 凛、 お前が今回いい成績を取れたのがその子のお陰だというのは分かった。 ……だけどね、 今はそうかも知れないけれど、 これからはどうだろう? 恋に夢中になって、 他のことがどうでも良くなるんじゃないか? 男の子の家に入り浸ってるなんて噂が広まって、 学校に行けるのか? そういう事を僕たちは心配してるんだ」


「噂にはなってないし、 私は大丈夫だから! 」



「……そうだと言い切れるのか? 噂なんて広まればあっという間だ。 実際に、 僕たちは密告電話で事実を知らされたんだよ。 凛は僕たちに内緒で男の子の家に通っていたんだ。 悪い影響を受けてるということだ。 これからも嘘をつくかもしれない。 凛が彼のことをどんなに褒めようとも、 それを信用出来ないのは親として当然だ」


「…… それじゃあ、 どうすれば…… 」


尊人は立ち上がって凛の隣に座ると、 その肩を抱いて言い含めるように言った。



「凛、 なにも一生恋人を作るななんて言わない。 今の彼氏が本当に好きなんだったら、 大学に入ってから改めて付き合うということも出来るんだ。 とにかく、 しばらく冷静になって考えなさい。 また明日にでもゆっくり話そう」



凛はその言葉に返事をせず、 黙って立ち上がった。


「凛! 」


愛が呼び止めるのもきかず、 自分の部屋に入って鍵を閉めた。


1人でゆっくり考えさせた方がいいと思ったのか、 2人は追ってこなかった。



***



「それで…… もう、 どうすればいいか分からなくて…… 」


その後そっと階段を下りて、 家を出てきてしまったのだという。



「だとすると、 今頃きっと御両親が心配してるわね」



凛がマナーモードにしている電話の画面を開くと、 愛からの着信履歴が並んでいた。



「凛ちゃん、 帰った方がいいわ。 こんな風に逃げてても事態の解決にはならない」

「でも…… 」


不安そうに見上げる凛に向かって、 叶恵が笑顔で言った。



「大丈夫、 凛ちゃんだけ1人で頑張らせたりしないわ。 私たちも一緒に行く」


「「 えっ?! 」」


「何してるのよ、 奏多も準備して! 」


「「 ええっ?! 」」



叶恵はすっくと立ち上がり、 強い瞳で凛を見つめた。


「凛ちゃん、 今すぐ御両親に電話してちょうだい。 百田奏多とその姉がご挨拶に伺いますって」



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