関心なきよう覆い
私が工房へ入ると、そこには待ち構えていたように五反田がひとりでいた。
「どうも」
「あ、はい」
私たちは互いを戸惑った様子でしばらく眺めていた。
「えっと、日瑠葉さんは?」
おずおずとケーキの箱を差し出し問うと、五反田はそれに一瞬だけ嬉しそうな顔をして首を振る。
「先生は今日、お休みです。だから来ていただいて構わないと、椎乙さんにはそう、お伝えしたんですけど……?」
「ああ、はい。あの人はそのぉ――急用ができまして」
代わりに私が、と仕方なく笑っておいた。なんでこんな目に。私は誰かにこうしてわざとらしく作り笑いするのが好きではないのだ。
(ほぅら、みんなこうなっちゃうもんね)
五反田は私の顔をぼんやりと見つめていた……私に見惚れているのだ。
微笑む私が美しいのは仕方ない、認めよう。
ただ相手の夢見るような瞳に、自分がどう映っているかなんて知りたくもない。
(私は確かにキレイ。けどそれがなんだっていうの)
外見だけで判断されることや、第一印象のみで決めつけられることが大嫌いだ。
これはけして高慢な考えではない。
多くの人は美しいというだけで羨ましがるが、実際それでこうむる被害の方が大きいのだ。まとわりつく視線や妬み・そねみ、様々な嫌がらせに加え、人と多少見た目が異なるだけで差別化される面倒くささ――その疎外感たるや想像を絶するものがある。
いま五反田が向けている視線は、私がもっとも嫌うそれだった。
「じろじろ見ないでもらえます? 鬱陶しいんで」
笑顔を消してきっぱり言うと、五反田はびっくりしたように笑みを消した。
「す、すみません僕……あ、ケーキ! 切りますんで、良かったら一緒にどうぞ」
「いえ」
お構いなく、と応え終わる前にはもう、五反田は背を向け部屋を出ていった。
言い過ぎたかなとは思わない。せいぜい「やりにくくなったか」くらいだ。
勝手に帰るのも気が引けるので、「先日のお礼」だけ伝えて去ろうと決めた。
五反田が戻るまでのあいだ、私は工房の中をなんとなく眺めていた。
壁際にずらりと飾られたミニチュアを視線で追ううち、自然と木戸の前で足が止まる。
『制作室』と張り紙がされた、椎乙刑事に見てこいと言われたあの部屋だ。
真鍮のドアノブを回すと、今日はしっかりと鍵がかかっている。
「ちぇ」
ここになにかあるかもしれないのに。
日瑠葉は、事件が起きた瞬間の「ミニチュア」を作ることができるという。
(だとすれば未解決事件とか、昔の事件のミニチュアもここにあるのかしら?)
先日、なにげなく目にした様々な部屋のミニチュアは、ひょっとして貴重な事件の資料だったかもしれない。
椎乙刑事はこの部屋に入ったことがあるのだろうか。
ないかもしれないな、となんとなく思った。
(日瑠葉さん、椎乙刑事にあんまり会いたくなさそうな顔してたし)
この間訪れたときにはバタバタしてろくに話もできなかったが、椎乙刑事のことや、もちろん彼の作るミニチュアについても本人から直接話を聞いてみたい。
扉を未練たらしく眺めていると、「おまたせしました」と五反田がトレーを抱え戻ってくる。ガラス製のローテーブルにケーキとコーヒーを美しく並べ、それから大きなカメラを取り出した。
「すいません、ちょっと待ってくださいね。食べる前にいつも、先生に見せる写真を撮るんです」
数枚写真を撮ってから、五反田は笑顔でケーキを切り分けた。
「いやぁ、嬉しいなぁ。これでまた先生のミニチュアケーキが見られるかと思うと」
首を傾げる私にケーキを手渡しながら、五反田は教えてくれた。
「僕は先生の作品の中で、食べ物のミニチュアが一番好きなんですよ。ただそれを作ってもらうには、資料となる写真が必要なので」
どうやら、彼は日瑠葉にミニチュアの制作を依頼するつもりのようだ。
「自分で作れば良いのでは?」と聞くと「先生のとでは質が違います!」とのことだった。
「まあ……それなら、なにも今食べなくても」
日瑠葉がいるときに、彼と一緒に食べる方がよかったのではないか。いらぬ気をつかわせてしまったかもしれない。切られていくフルーツケーキを見つめていると、五反田は「いえいえ」と否定する。
「先生は偏食家なので、甘い物は食されません。それに、写真さえあれば大丈夫ですから」
ミニチュアを作るには資料写真があれば十分だと五反田は言う。
私は一緒に出された香り高いブラックコーヒーをいただき、五反田の丸く太い指が細い銀のフォークを器用につまむところを見ていたが、ふと聞いてみた。
「ということは、先日私たちが拝見したミニチュアも。なにか資料となるものがあったのでしょうか?」
私が言及したのは、事件の起きた瞬間を形にした例のミニチュアのことだ。
まるで現場を見たことがあるような、あの精巧なつくりには度肝をぬかれた。
(家具の配置や壁紙、机の上にあったコーヒーカップの柄まで)
実際に見ていなければわからないことばかりだと思う。日瑠葉が犯人でないのなら、彼はどうやってその「絵」を手に入れたのだろう? 椎乙刑事の言うとおり、本当に日瑠葉には「視える」才能があるのだろうか。
「先生は、ときどきああいうミニチュアを作ります」
五反田は自分の皿に入れたばかりのケーキを、ぼんやりとついばんでいた。その顔は心なしか憂鬱そうだ。
「ああいうミニチュア?」
「たしかに少し変わった題材です。普通のドールハウス作家なら、まず取り上げないような部屋ばかり作るんです」
私は木戸の奥で目にしたミニチュアを、可能なかぎり思い出してみる。
(ガレージ倉庫、喫茶店、駐輪場、寝室――)
どれも生活感にあふれた空間だった。本当にどこにでもある、日常でよく見る瞬間のひとコマだ。それは雑然としていて、たとえば使ったあとのゴミくずや、ティッシュが丸めて落ちていたり、洗い物がキッチンのシンクにたまっていたりする。
「そういう作品を作る人って、あんまりいないの?」
五反田は少しだけ視線を落とした。
「いるにはいます。でもそれは、計算された日常のひとコマを作る人たちです。構図や置物の配置をきちんと考え、それが作品として見られたときどう映えるか考えている。けれど先生の作品は、あれはちょっと違います」
私は頷く。なんとなく彼の言いたいことはわかる。
(まるでなにも考えず、目についた部屋をそのまま形にしているみたいだった)
それを椎乙刑事は『能力』と呼んだ。奴にはそういう能力があるのだと。
五反田は小皿に切られたフルーツケーキを眺めていた。オレンジ、イチゴ、メロンにピンクグレープフルーツ……鮮やかでみずみずしいケーキが、日瑠葉の手でミニチュアとして作られるところを想像しているのかもしれない。
「実は僕も、不思議だったんで聞いてみたことがあるんです」
日瑠葉がいったい何をつくっているのか。
どういう経緯で、どこからそのイメージを引っ張ってくるのかを、さりげなく問うてみたところ――、
「夢を見るそうです」
「ゆめ……」
「ああいう作品をつくるときは、たいていその夢を見たあとなんだそうです」
日瑠葉は夢でイメージをつかむと、数日は工房にこもり家に帰らず、ミニチュアの制作へかかりきりになる。食事も睡眠もろくにとらずに、自分のあたまの中に残る記憶を出し切るまでは休まないのだそうだ。
(なるほど。だからあの日、倒れたわけね)
はじめて日瑠葉に会ったとき、彼はなぜかふらふらだった。五反田はそれを「よくあること」と言っていたが、件のミニチュアを作る時には大体あんな状態になるらしい。
その夢が、どうやら現実の事件に関係していると五反田が気づいたのは、椎乙刑事がこの工房へ来るようになってからだという。
「僕、椎乙さんのことはじめは刑事だと思わなかったんですよ。顔は怖いし、そのくせミニチュアには興味深々で」
椎乙刑事のことをただ単に、自分と同じく日瑠葉作品のファンだと思ったそうだ。
「あの椎乙刑事が?」
私は苦笑したが、五反田は真面目に話していた。
「いやだって、実際そうですよ。あの人は刑事だからここへ来てたんじゃないと思います」
いわく、椎乙刑事は日瑠葉のミニチュアに魅入られ、ここへ足しげく通うようになったのだと。
(それはつまり、刑事としての仕事以外に、日瑠葉さんのミニチュアを見に来たかったってこと……?)
私は吹き出してしまった。
「それはないと思うけど。だって、椎乙刑事と日瑠葉さん、元々知り合いだったんでしょ?」
「え?」
僕知りませんけど、と前置きして五反田は「でも」と続ける。
「同じ日瑠葉ファンですから、僕にはわかりますよ。先生の作品にはそれだけの魅力があります」
聞いてもいないのに、五反田は日瑠葉の作品の魅力について語り始めた。
それは見た者を圧倒するリアリティだと言う。
触感、質感、光の加減や時の経過でさえ本物らしく、そこに無粋な継ぎ目や偽物と判別できるほころびはない。
まるで本物の世界を俯瞰し、世界のすべてを入手したような……それはひどく蠱惑的な体験だという。
「そうかなぁ」
私にはよくわからなかった。
私が日瑠葉のミニチュアで興味があるのは「事件の重要証拠かもしれない」からだ。
ただの物体としてなら、何の役にも立たない小さな玩具にしか見えない。
「分かってませんね」
得意げな口調にむっとして顔を上げると、彼はフルーツケーキを眺めていた。黒く丸い、そのつぶらな目は輝いている。
「先生の作品は芸術です、アートです。『芸術こそ至上であり、生きることを可能ならしめる偉大なものである』とは、ニーチェの名言ですが……まさにそのとおりだと思いませんか?」
私はフルーツケーキをフォークでつつきながら、食べることに夢中なふりをした。
(よく分からないけど、小難しい話が始まった)
曖昧な反応の私に構わず、五反田は嬉しそうにしゃべり続けた。
「僕は先生を尊敬してます。先生の第一のファンは僕であると明言できるくらいです。だって僕は、先生の作品によって命を救われたんですから」
呆然と黙る私に、そういう人もいるってことです、と五反田は笑う。
「他の人にとってはどうでも良いものだとしても、それを見て、感動して『生きてみよう』と考える人もいるんです。少なくとも数年前の僕にとっては、先生の作品は、当時死を考えていた僕にとってまさに救いの手でしたから」
この世にその作品が存在するという奇跡と、それを目にした瞬間の衝撃。
それこそが、五反田が死へ踏み出すことを思いとどまった理由だという。
だから彼は日瑠葉のもとで、ミニチュア作家になるべく助手として研鑽をつんでいるのだと話した。いつかは自分も人を助けられる作品を、アートを作れるようになりたいという想いでいるのだと。
私は「ふうん」と納得した風で頷いて、だいぶん冷めてきたコーヒーで唇をしめらせた。ここ最近ずっと考えていたことを提案するなら今かもしれない。
「五反田さん。あなたが誰かを助けたいと思うなら、今すぐにでもできることがありますよ」
彼はぽかんと口を開けていた。つぶらな目をじっと見つめて、はっきり告げた。
「あの『制作室』です。中に入れてくれませんか?」
するとすぐにその顔が強張ったので、私はやはりと確信する。
日瑠葉が夢を見て作ったというミニチュアは、おそらくあの奥の部屋に――「制作室」にすべて保管されているのだ。
(今回の事件以外にも貴重な手がかりが、あそこにはたぶんある)
椎乙刑事もそれを見ることが目当てで、この工房へ今まで通っていたに違いない。
五反田はそれを「日瑠葉の作品が好きだから」だと思っているようだが、私は刑事としての行動だろうと考えていた。
(どうして隠したがるのか知らないけど、もしそれを見ることができれば)
「だめです」
五反田の返事はにべもなかった。
「どうして?」
「先生がいやがるからです」
「そんなの、わからないじゃない」
「わかりますよ……なんとなく」
五反田は肩を落としている。べつに彼を責めているわけではないが、私は自分の顔つきがきつくみえることを知っていたので、かすかに微笑んで見せた。
「じゃぁ、内緒にしておけばいいわ」
「っ、え」
「知らなければ日瑠葉さんが気分を害することもない、そうでしょ? それに貴方が協力してくれたら、いくつかの未解決事件が解決して、犯罪を未然にふせげるかもしれない」
「それは――そんなこと」
うつむく五反田は居心地が悪そうだった。私はついほくそ笑んでしまった。
「逆に。あなたが協力してくれないと、捕まる犯人が捕まらなくて、防げる犯罪が防げないかもしれない」
被害者が増えるかもと暗にほのめかしてやれば、五反田は額に汗を浮かべ目を泳がせた。あともうひと押しだ。私がさらにたたみかけようとした時だった。
工房の入り口のドアが開き、日瑠葉が入ってきた。彼は一瞬だけ怪訝な顔をして、私と五反田が仲良くケーキを食べているのに目を留め、剣呑な表情になる。
「なにをしている」
五反田が飛び上がった。
「あ、せ、先生っ……きょ、今日はお休みのはずでは?」
日瑠葉は五反田に目もくれなかった。鋭い視線がじっとこちらを見つめている。
私はその眼差しと、込められた視線の意味に少しだけ驚き、それからオーバーに肩をすくめてみせた。
「ただお話していただけです。先日のお礼とか」
「お礼?」
日瑠葉はぼそりとつぶやいた。
彼の視線の意味がわかると、不思議とおかしな気持ちになった。
こちらへ向けられているのはあけすけな敵意だったのだ。
まるで目の前にあるすべてを憎み、破壊したいとでもいうような――禍々しい殺意ともいうべき類のもの。
こんな瞳をどこかで見たことがある。
(あ、そっか)
昔、うちで飼っていた黒猫だ。母猫が出産したばかりの子猫を遠ざけようとして、危険から守ろうとするようにこういう眼差しをしていた。
なにかを守ろうとするとき、動物は本能的に牙をむく。
だとすれば、日瑠葉は何を守ろうとしているのだろう。私はちらりと五反田を見る。
(彼ではないわね)
その五反田はといえば、立ち上がり必死にことの経緯を釈明しようとしていた。
「先生、刑事さんが先日のお礼でケーキを持ってきてくださったんです。それで僕、あの」
「五反田くん、君は……」
「ひ、すみません先生!」
すくみあがった五反田を見て、日瑠葉は言葉をのみこんだ。すぅと大きく息を吸い、視線を床に落としている。
「いや、君が悪いわけじゃない。五反田くん、今日はもう帰ってくれ。彼女とは僕が話をする」
日瑠葉と視線が合った。そこにゆるがぬ決意が見えて、私はそれに微笑みをかえす。
(いいわ、望むところよ)
されば心ゆくまで。こちらから折れる気はさらさらない。
「あの部屋を見せてくれませんか?」
五反田が心配そうな顔で部屋を去るのを見送ってから、私は真っ先にそう告げた。
日瑠葉は不思議な静けさで、先ほどまで五反田が座っていた場所へ腰かけている。
いま気がついたとでもいう風に、その視線がローテーブルの上のフルーツケーキへ向けられた。
「ケーキをもらったみたいだね。ありがとう」
淡々とした口調と無表情な顔に感謝はみられないが、ただもらった物に対するお礼は伝えておこうというスタンスのようだ。
私は穏やかに頷き同意する。
(言いにくくなる前に伝えておかないとね)
「そのケーキ、椎乙刑事からなんです。先日のお礼にと」
日瑠葉はうすく笑みを浮かべた。
「なるほど、お礼ね」
彼らしい、と少し口もとを緩めるだけで、先ほどよりいくぶん優しげな雰囲気になった。
日瑠葉は、灰色の長袖シャツのあまった袖で口もとをおおい、ソファーへゆったり背をあずけている。ぼんやりとフルーツケーキの輪郭や形状を視線で追い、彼は静かに話した。
「あの部屋のミニチュアは、見せるために作っているものではないんだ。そう、前にも言いましたよね」
「ではどうして。なんのために作っているんですか?」
私は日瑠葉の切れ長の目を見つめていた。その瞳の奥にある感情が、ひとつでも理解できれば良いと思った。
日瑠葉はぼんやり考えこんでいるように見える。ただ目の前にあるフルーツケーキを、どうミニチュアにするかを悩んでいるみたいだ。
しばらく待っていると、静かなため息とともに彼は答えた。
「僕がなにを作ろうと構わないだろう。君たちには関係のない話なんだ」
「普通であれば、そうですね。けれど私が刑事で、先生の作ったミニチュアが過去の事件に関わりがあるかぎり、話は別です」
「関わりがあるかなんて、分からないだろう?」
「それはこちらが判断することです。それに椎乙刑事は、あなたの特別なミニチュアに意味があると信じています」
はっとあざ笑ったその表情には、けれど確かに敵意が見える。日瑠葉は椎乙刑事を嫌っている、もしくは憎んでいるのか。
(あるいは私たち警察を、かな)
私は切り口を変えてみることにした。
「私は刑事です。ひとりでも多くの犯人を捕まえるために、この職につきました。たぶん椎乙刑事も同じ気持ちでいると思います」
「僕は刑事じゃない。関係ないと思うけど」
「あなたの作ったミニチュアで、防げる犯罪があるかもしれないんですよ? 事件が起きた瞬間を見ることができるというのは、刑事にとってはうらやましい才能なんです」
「才能?」
日瑠葉は今度こそ嘲笑した。
「勘違いしないでほしい」そう日瑠葉ははっきりと言った。
「僕はこんなこと、したくてしてるわけじゃない。わけのわからない夢ばかりを見て、それをミニチュアとして作っているけど――それが何かなんて知りたくもないんだ。たとえ現実で起きた事件に関係していても、そんなこと僕には関係ない。どこで誰が死のうが、犯人が捕まろうが逃げようが、どうだっていい」
僕には関係ない、と日瑠葉は繰り返した。
「なら、どうしてミニチュアを作っているんです? 本当は誰かに見せるために……犯人を告発するために、作っているんじゃないですか?」
彼はちょっとだけ、口を閉じた。その瞳がかすかに揺れている間に私は続ける。
「あなたには事件を解決し、犯人が誰かを探る才能がある。それなのにどうして、事件が起きたときにすぐ警察へ連絡しないんです」
「誰も僕のことを信じないだろう」
「椎乙刑事は別です。彼はあなたを信頼してます。だからそれは、あなたがそうしたくないというだけです」
日瑠葉は細く息を吸いこんでいた。
「僕には、関係ない」
「いいえ、関係ありますよ日瑠葉さん、あなたのその無関心は――」
私は彼の瞳から視線をそらさなかった。切れ長の目、揺れる黒い瞳、その奥にはかすかに負の感情がある。それが後悔でないかと期待したのだが、茫洋とした彼の表情からはわからなかった。
「あなたの無関心は、いっそ犯罪です」
日瑠葉は答えなかった。
ただ静かに凪いだ表情で、否定も肯定もせずに話を聞いていた。