313-E
「あのルールには決定的な穴がありました」
「ん? あの知らないことを言い合う、あれか?」
三月某日。
本日は茅ヶ崎栄、高校入試当日である。
今から入試ではなく、試験を余裕でパスして労い会ということで、僕が夕食を奢るべく電車で移動中なのであった。
茅ヶ崎は既に自己採点を終えて95%の正答率を証明している。(いつ採点したのかは不明)うっすら茶色に染まった髪以外、何も悩むことはない。きっと茅ヶ崎にとって髪色も一抹の不安にもならないことだろう。
この後輩にとって授業中に実施される小テストと、高校入試を同列らしい。
本質は一緒なのだから。
少なくとも僕には出来ない考え方である。
「そうです。その『自虐的無知合戦』のことです」
「そんな名前が付いたのか?!」
いつの間に?!
つか漢字変換するとこんなに悲しい名称になってしまうのか・・・・・・。
それを自信満々に麻香に言ったと思うと、かなり恥ずかしい。
「この『自虐的無知合戦』には弱点がありました。お兄さんの話だと麻香が後攻を選んだようですが、あれは本来なら失敗です。お兄さんが後攻になるべきでした」
「どうして?」
「麻香はお兄さんのいう事を読心して、先に答えれば順番が麻香に回ることなくお兄さんの負けです」
「・・・・・・もっと分かり易く説明してくれ」
「麻香はお兄さんが言おうとする『知らないこと』を、事前に『知ってること』にされたら勝てないという事です」
「麻香が先に答えることで僕の無知を既知にすればいいという事か」
隣のシートに座る茅ヶ崎が首肯する。
「麻香は喋ることを先読みすることが可能です。それによって相手の発言を完全に防ぐことが出来るのです」
茅ヶ崎は手を上にあげて伸びをした。
「発想は良かったのですが、詰めが甘かったですね」
「・・・そうだな」
「麻香は今頃何をしてるんですかね」
僕の心を読んだかのように茅ヶ崎が言う。
「さあな」
「もう心配はしてないんですか?」
「いつまでもあいつのことばかり考えてると、心労が重なるだけだよ。僕の妹の事だ。どっかで上手く生きてるだろう」
「・・・・・・ですね」
「それより僕たちの結婚の話だけどさ」
「いつにしますか?」
「え、マジで?!結婚してくれるの?!」
「私の周囲半径3000kmに侵入しないことが条件です」
「国外退去か!」
期待はしていなかったが、とんでもない条件付きだった。
ん・・・?
それでも結婚したほうが良いかな・・・。
「・・・執念なんですか・・・・・・?」
茅ヶ崎は溜息を吐いた。
「まあ、まずは付き合うことから―――っと!」
僕の言葉は最後まで続かなかった。
電車が急停車したからだ。
慣性を受け、僕は電車の進行方向に倒れそうになった。
急にどうしたのだろう。
当然ここは駅ではない。
すると、突然タイミングを見計らったように一人の女性が僕の隣、茅ヶ崎とは反対側のシートに腰を下ろした。
その女性は僕を見ず、前を向いたままでおもむろに言った。
「ねえ」
「え?」
「もしここで電車の車両が半分に両断されたら、そこからはもう異能バトル小説が始まっちゃうのかな?」
彼女の言葉はうまく要領を得なかったが、取りあえず断言できることはあった。
「・・・んなことあるかよ」
そんなことがあってたまるか。
超能力染みた異能の力、例えば宇宙的な計算を瞬時にやってしまうような力だったり、見たもの聞いたものを絶対に忘れない力だったり、人の記憶を自由に改ざんできる力だったり、ただのしがないダメ人間である実兄に人の為に本気を出させたり、そんな兄に生きろと言わせたり。そんな力が登場するなんてのは、現実と少しかけ離れすぎている。
これはあくまで僕と出会う女の子の数奇な運命の物語。
常識はずれの能力が登場するなんてのは。
小説なんかのフィクション作品で十分だ。
僕にとって。
そんなものを読むことよりも。
妹と話している方が。
この、何でもない妹と話している方が。
暇潰しとしては上等だろう。
完
持論です。興味がない方は空行まで飛ばしてください。
私は何回か「お前の実力ならまだまだいい成績が取れただろう」という教師の言葉を聞いたことがあります。実際に言われたこともあります。しかし、この一言を言われる方は私以外にごまんと居るはずです。寧ろ言われない人の方が少ないかもしれません。どちらにしろこの一言は誰しもが耳にしたことがあるでしょう。
ここで私は揚げ足を取る様に反論します。その人間の実力はその時点ではその程度であると。「その」を多用乱用しているようですが、語彙が足らないので仕方ありません。申し訳ない。
つまり、私が言いたいことは、努力も実力の内ということです。
どんな天才と言われる人間が居ようと、ごく一部の存在を除いて陰では努力しています。
私たちが諦めてしまうようなところを踏ん張っています。
それが出来て、初めて天才と言われるのではないかと私は思うのです。
「お前の実力ならまだまだいい成績が取れただろう」という言葉は、何て無責任なふざけた言葉だと思っています。
彼は私の何を知ってその台詞を吐いているのでしょうか。
私の諦めた姿を目の当たりにしているのでしょうか。私が諦めなかった時の結果を知っているのでしょうか。
諦めた自分の結果が、自分自身の実力です。過小評価も過大評価も出来ません。
逆に、私は実力を伸ばすことも落すことも容易であると考えています。確かに世の中努力すれば全てが叶うなんて絵空事を言う気は毛頭ありません。それも含めて実力なので、単純に足りなかったという事だけでしょう。しかし、実力は変化に易い反面、短時間での変化には乏しいのです。その時だけ努力したところで、記憶形状の実力は簡単に元に戻るでしょう。それを叩いて、伸ばして、戻さないようにするには、やはり日々の努力というお約束のような台詞に堂々巡りしてしまうのです。
「お前の実力ならまだまだいい成績が取れただろう」は偉そうに言うだけではただの戯言です。相手の努力の底を知って初めて口にすることを許されます。したがって万人が、誰にも言う事は許されないのです。
結果はそのまま自身の実力。それが私の信念です。
お久しぶりです。もしくは始めまして。王手です。読了ありがとうございました。
遂に私の拙い文章で書き連ねた小説、もとい妹の暇潰しを完結させることが出来ました。
書き始めてから約2年。執筆のモチベーションはほとんど読者の皆様のおかげで保つことが出来ました。感謝の言葉もありません。感謝感激雨霰です。
最後のあとがきだと思うと名残惜しい気持ちでいっぱいですので、主要登場人物一人一人思い返しながら語っていきます。
まず、語り部の「僕」ですね。彼は一度も、名前はおろか苗字さえも明記されませんでした。これは当時感銘を受けた小説家の真似です。それまで主人公は名前があって当たり前と思っていた私の常識を見事に覆してくれた小説でした。今ではそのような作品はたくさんありますが、その頃はまだ幼く「文学」というジャンルには手を出していなかったのです。最後まで名前を明かさずにこれてホッと胸を撫で下ろしています。
この小説のタイトルである妹、「麻香」です。彼女も苗字を明かしていません。兄妹ですので仕方ないですね。麻香は終始キャラを掴みずらいキャラで大変でした。怒ったり、憐れんだり、笑ったりと一番感情が豊かだったのは実は彼女なのかもしれません。それも演技でしょうが・・・。
「茅ヶ崎栄」です。書いていて楽しいキャラです。彼女はある意味過去がない分、自身の事件を引きずらないので気軽に話せる存在です。彼女と話すときは「僕」もボケることが出来て、ある意味万能はやつでした。結婚したい。
生徒会長「鬼怒川夜見世」は最後まで不思議な人でしたね。まさか姉が登場するとは私も想像出来ませんでした。しかも格闘技まで・・・。まだまだ彼女の底は知れません・・・。話すことは男っぽくて、私自身好きなタイプです。
さて、ここらであとがきも終わります。
これまで応援してくださった皆様、ここまで読んでくださった皆様。本当にありがとうございます。一旦筆をおきますが、また戻ってくるつもりですので、その時はまた読んでくださると嬉しいです。またお会いできる事を切に願っております。
ありがとうございました!妹の暇潰し、完結です!
王手




