06 冒険者はたくさんいる
「ダァッハッハッハ!! 根性のねぇ戦車だぜ、なぁ!?」
灰丸は豪快に笑い、僕の肩をバンバンと叩いた。僕は目を白黒させながら、呆然とするしかない。
金棒に叩き伏せられた悪鬼戦車は、地面に大きなヒビを入れ、ぎゃりぎゃり、金属とアスファルトのこすれるイヤな音をたてたかと思うと……
……割れる地面に飲み込まれ、そのまま落ちていった。
壱番街に。
崩落した上層と戦車に巻き込まれ、かなりの数のけが人…………うん、いや、僕がやったんじゃないからいいか、うん……死者が、結構な数出たと思うけど……階下から聞こえるのは 「それではここで優勝が決まった瞬間の渋谷スクランブル交差点の映像をご覧ください」 みたいな声。全員が全員悪鬼じゃないにしてもやっぱり、この街にいる連中はみんな、どうかしてる。
「い、今のは……あなたの、ユニーク・スキル……なんですか?」
身長3メートルを超す鬼に話しかけるのは大分勇気が必要だったけれど、よくいる豪快系パワーキャラだと思って無理をする。きっと裏切るときは一番最初に裏切ってくれるはずだ。四天王だったら確実なんだけどな。(用語解説※1)
「おうよ! 百鬼力っつってな、数秒間だが筋力100倍ボーナスよ!」
……進みすぎた科学は魔法と区別がつかないように、強すぎる筋肉もまた、魔法と区別がつかないようだ。
「ねえねえあなた! あなた、そのお洋服なに!? ステキ! ねえねえこれ自分で作ったの!? スキル!? やだステキすぎ!」
色葉の周りには炎魔術師の妖精が飛び回り、目をきらきらさせた彼女があれこれ質問攻めにしていた。
「え、あ、いえ、買ったヤツですけど……」
まだ少々警戒しながらも答える色葉。
「あの戦車は初心者殺しとして名高くてな。単純な物理攻撃はほとんど……まあこのバカみたいにふざけたユニークがあれば別だが、ほとんど通らん。それこそ、人間の使う対戦車砲でもなければな。いや、それにしても属性で弾かれるか?」
いつの間にか戦車から降りていた蛇怪のシーフがこちらに歩み寄りながら解説してくれる。
「で、でも一応……」
「ん? ああ、あのお嬢さんの武器のエンチャントか。悪くはないが、足りなかった。レベル30クラスの相手に挑むには、相応の付与がいる。100の防御を打ち破るには、10の攻撃を10回しても無駄。105の攻撃力がいる、そういうことだ。武器だけでなく、あのお嬢さんへ攻撃力付与も、していたのだろうが、な」
昔のクソゲーみたいに防御力-攻撃力でダメージが出るのかよ、(用語解説※2)って突っ込みそうになったけど、我慢。それに現実世界なら案外、それは真理なのかもしれない。
「それよりおまえら、人間のパーティなのか?」
鬼が僕の頭をつまみながら、しげしげと興味深そうに。僕は自分より大きい生き物に頭部をつかまれている、という恐怖感を、なんとか押し殺しながら答える。
「あ、はい……あ、いえ、あいつは悪鬼ですけど」
「悪鬼~~~?」
「おうおうおうおう! なんだ、なんか文句あるか?」
「大ありだぜ! 僧兵だけにな!」
「……! お前日本語うまいな! でもオレも知ってるぜ!」
「なんだ!?」
「悪鬼の好物を知ってるか!?」
「…………5個のプリン!」
「大正解!」
2人は顔を見合わせ、げらげら嗤い転げる。
よし、当面放っておこう。
他の2人……3人、はともかく、この鬼は、割と……。
与しやすそうな気がする。
【みなさん、4人目は見つからないままなんですけど、全員の情報送ります】
そこでようやく、リサさんからパーティメッセージボイスが届き、メニュー画面にも文字情報で表示された。
攻略視点で自分よりレベルが高い相手の情報を覗くのは、それなりに時間がかかってしまうんだけど、誰か他のパーティがあらわれたらそれを最優先に、って打ち合わせ通りだ。
「ゲハハハ! おい悪鬼、洒落の分かるヤツじゃねぇか! おい飲もうぜ!」
「ぐばばばばば! 我らのジョークは高等だぞ! 鬼がついてこれるかな!?」
…………色葉でもこんな脳筋ビルド、やらないぞ……。
でも確実に、この鬼がメインタンク兼アタッカーってとこだ。★はたぶん、ユニークアイテム。僧兵が持つには不穏当すぎるだろ……。
「……やれやれ、バカがパーティにいると大変だな、お互い」
「…………ええ、まったく」
わかるぜ、みたいな空気を出してくる蛇怪の盗賊……既成ジョブとはいえ、頭脳プレイ重視のザ・シティシーフって感じのスキル構成。まだ攻略視点スキルがおっついていないのか、全部は見きれないけど……この調子じゃ、矢に毒が塗ってあっても驚きはしない。
「いーないーないーな! なにこれ! すっご、これ、こんなの、ウチの実家に来たらあんた、大金持ちになれるよこれ!」
「そ、そうなんですか?」
「こっちに来てからさー、妖精としてのアイデンティティクライシスが進行しちゃってるのよ! 地球ってロマンチック成分がなさすぎて! あたしらはフリルとレースとリボンがないとダメなのよ!」
色葉とやいのやいのやりとりしている妖精が、魔法による遠距離攻撃担当……というよりたぶん、牽制役だろう。魔法がらみのスキルは大器晩成というか、メインアタッカーとして運用するだけの破壊力を出すには、アホみたいにある関連スキルをすべて高めなければならない。たぶん、まだ育成途中って感じか。にしてもこの妖精、王族からユニークアイテムをもらってるってことは……それなりの地位なのか……?
【4人目がどこかにいるはずなんですけど……どうしても見つからないんです。たぶん、ボクと同じく隠れる系のユニークスキルなんだと思います】
まだ路地に隠れたままのリサさんのメッセージ。
げらげら笑い転げてる鬼と悪鬼。
しょうがないな、という顔で腕を組んでいる蛇怪の盗賊。
色葉の周りを飛び回る妖精の火炎導師。
先ほどの悪鬼発明家を倒した分で、19にレベルアップしている僕たちよりも格上で、明らかに場慣れした3人、いや、4人。ひょっとしたら彼らは本当に、気のいい先輩冒険者で、僕たちを助けてくれただけなのかもしれない。
でも、それならどうして4人目はまだ姿を現さない? あのとき確かにした、声の主が姿を隠したままなら……。
そしてモンスターたち……というか、人間以外なら、たとえ自分より下のレベル相手だろうが、経験値にできる。
以上を考えたら…………
…………こっちから仕掛けて、隙を突いて逃げるしかない。
「じゃあ、出すモン出してもらおうか」
色葉と目線をやりとりして、他のパーティとやり合うことになってしまった時の合い言葉を言おうとしていた、まさにそのとき。
音もなく蛇怪が僕の背後に回り込んで、液体の滴るナイフを僕の首にあてた。
※用語解説
※1 裏切るときは一番最初に裏切ってくれるはず
性格のシンプルなパワー系の敵キャラが主人公の強さや男気に感化され主人公サイドにつく、というあるある展開の一番最初はどこなのか、知っている方は感想欄でご教授をお願いしたい。
※2 昔のクソゲーみたいに防御力-攻撃力でダメージが出るのかよ
ダメージ=自分の攻撃力-相手の防御力、という計算式自体は、一般的に名作と呼ばれるゲームでも採用される場合がある。ただしレベルアップによるステータスの上昇や、武器防具とのバランスをとることが困難になるケースが多く、オーソドックスなRPGで用いられる場合、ゲームバランスが著しく崩れる可能性が非常に大きくなる。
しかしステータスがシンプルにまとまったゲームの場合、この計算式の採用自体が悪手とは言い切れない。あくまでも問題はプレイ感である。レベルがいくつの勇者なら、スライムは1回殴っただけで倒してしまってもよいのか? 魔王を相手によい勝負になる装備の数値の理想は? それら基準に満たない、あるいは行き過ぎたレベルの場合はどういった感覚になるべきか? 重要なのは、何百通りにもプレイヤーの状況を想定した上での設計思想である。
※まとめ
馬鹿力の一撃で戦車を床ごと下のフロアにたたき落とすという離れ業で撃退したパーティ、竜胆たちに近寄ってくる。弐番街の中は、誰もが等しく経験値になる場所。油断せず、こちらから仕掛けるしかないと思う竜胆だが、彼が行動を起こす前に、首にナイフを突きつけられる。




