01-02 冒険者は1人じゃない
〈Lv.14 牛人 斧戦士〉
〈Lv.17 蛇人 探検家〉
〈Lv.25 牙エルフ 魔導工 ライラ・ハイライハ・フルフ〉
「よぉ~し、ついたね、クソざこ悪鬼たちの街……」
自信に満ちた足取りで廃墟に一歩を踏み出し、向こうの城砦を見据えて幼い声で言ったのは、一人の……
……。
……。
……。
エルフ。頭の上にも書いてあるし。
シンプルながらも金装飾の光る、格調高い白と紅のローブに身を包んだ、少女。
さらさら流れる乳白色のロングヘアー、チョコレート色の肌。そしてなにより、横に大きく張り出した、とがった耳。なのに身長は120cmもなくて、顔立ちだっていいとこ、中学校低学年ぐらい。
……いやこんな褐色ロリエルフがいるような世界観だっけ今……?
と思ったものの要するに、エルフやドワーフなんかのおなじみ種族たちも、どこかの異世界から地球に送り込まれている、ってことだろう。牙エルフ、は、あんまり聞いたことがない亜種族名だけど。
「ミノちゃんナーちゃん! 警戒態勢で街まで行くよ!」
「ブモ!」
「承知」
「ついたら情報収集、はやく取り返さないとあたしの立場ってもんが……」
と、彼女がそこまで言ったところで、ばっちり僕と目が合った。
「……あ、どうも」
「…………ど、どうも」
反射でぺこりと頭を下げると、彼女もそれを返す。
人生で一番奇妙な間が流れて、僕らはしばらく動けなかった。
九鬼城砦。
ここは要するにダンジョンだ。
第壱階層が街になっている、上っていくタイプの、おなじみのダンジョン。
でも、違う点が、1つだけ。
ここは人間のものじゃない。
レベルを上げたい連中、全員のためのダンジョンだ。
……要するに、モンスターの冒険者パーティがレベル上げに訪れる場所。
「………………え、なんで他のパーティがいるの?」
「……いや、え、なんで、と言われましても」
「おかしいじゃない、ゲートから街まで行くときは時間がかぶらないように調節してくれるって話でしょ? スカウトに来た悪鬼がゆってたし。なんでもありは弐番街からって……あんたたちどこから来たの? ってか人間?」
「いや、えー、どこから、と言われましても……まあその……」
僕たちがかみ合わない会話をしていると、がしゃん! と大きな音。
「姉御ォ! こいつらヤル気だよォ!」
横で色葉とミノタウルスが、もう、武器を打ち合わせている。
「なっ! そっちからやりに来たんでしょッ!」
「なんだよゥ、軽く挨拶しただけじゃないかよゥ」
「手斧を投げてくる挨拶があるか!」
「そんなウマそうな体してっから悪いんだろォ!」
見れば、星空コーデで固めた色葉の足下には、人間の上半身ぐらいある巨大な手斧が、瓦礫に突き刺さっている。そして身長3メートル近い巨大な黒い、〈Lv.14 牛人 斧戦士〉が、両手で振り下ろしている戦斧を、聖バールで押し戻していた。
「クケケケ! 冒険はこうでなくちゃいかんなぁ! 蛇さん、そう思うよね!」
「同感だ」
ギィン! という金属音。色葉の横でスライ・スライが、ナイフを踊らせて蛇人に襲いかかっている。
「……そ~ゆ~こと……あんたら、PKってことねッ!」
(用語解説※1)
どこから取り出したのか、牙エルフの少女は自分の身長より遙かに長い杖を構え、不可思議な印を結び始める。
「へっ!? ち、ちがっ、PKじゃ」
「竜胆くんっ! 戦闘です! 風属性が来ます!」
リサさんが叫び、ようやく僕は我に返った。
彼女は攻略視点によって相手のスキル構成を覗き、ある程度どんな攻撃が来るのか予想できる。戦闘では彼女が情報役、僕が防御・強化役、色葉がメインアタッカーで、スライ・スライはサブアタッカー、みたいにしよう、と準備に準備を重ねていたけど……こんな形で本番が来るなんて。
「くっそ……発明狂界系!」
叫んで牙エルフと距離をとる。視界に覆い被さってくる、僕の職業スキル専用HUD(用語解説※2)。牙エルフ少女の杖が、青いオーラじみた光を放っているのを見ながら、土エレメントをパーティ全体に付与。
「ハイライラ・ユーライラ・フルフラルラ・ルールフ・ウプル・アプル・エプラ……風の妖精ちゃんたちぃ……このパーティー・キラーどもに天誅を!」
(用語解説※3)
轟ッ!!!
杖から放たれたすさまじい風があたりを揺るがし、そこらに積み重なっていた瓦礫が舞い上がっていく。さらに、台風が来たって動じないだろうって瓦礫さえ……
……べき、べききき、ぎぎぎぎぃぃ……
と、聞いたことない種類のいやな音をたて、鉄筋コンクリートごと剥ぎ取られていく。飛び交う瓦礫の一つでも体に当たれば、骨の一本や二本じゃ済まないだろう。
けど魔法の操り方を見ると、これはたぶん、そういう呪文じゃない。問題になるのはこの後に来る方。一応、スライ・スライの胡乱な説明ながらも、使われるであろう魔法の種類については予習してきているんだ。
「喰らえっっ! 轟風落断陣!」
轟ッッッ。
風が彼女の杖先に集中し、やがて一直線、僕の足下に向かって放たれた。数瞬の後、すさまじい速度で彼女が杖で描いていた魔方陣が、僕の足下に出現。
「はじけて死ねぇい……!」
小型の台風、竜巻みたいなものが、僕を押しつぶすようにいくつも出現。その勢いはとんでもなく、おそらくビルの1棟分はあったであろうあたりの瓦礫がすべて、空高く舞いあげられていって元の地面が見える。瓦礫がよけられていた道の上に立っていた僕らはその被害をなんとか免れたものの、それでも、アスファルトのかけらがびしびしと舞い、頬がわずかに裂ける。
魔法の威力で相手を殺傷するんじゃなくて、魔法で引き起こされた物理現象、風で相手を空高く持ち上げて、落とす、ってこの攻撃。ほぼほぼ個人相手の即死技だ。風の呪文でもっともよく使われる攻撃手段だという。
でも、僕はその中にあって、頬以外は無傷で、地面にただ立っていた。HUDでしっかりと、残りエレメント量を確認しながら……かなり危なかった、あと少しでも強力な風魔法だったら、防御を突き破られていたはず。
「……なんで?」
エルフの少女はしばらく、僕が必死に耐えているだけかと思ったのか、にやにやしていたけど、いくらたっても空高く舞いあげられるどころか、そよぐ気配さえ見せないのでそんなことを呟いた。
「…………なんか、逆のエレメントで、相殺できるみたいですよ、魔法って」
「………………そーなの?」
「え、あ、そうみたいです。なんかそういうのが、対人戦の魔法戦の基本だって」
僕がパーティ全体に付与したのは、ありったけの土エレメント。これによってパーティ全体に防御力アップと、風エレメントを使った攻撃に対する相殺効果がある。相殺に使えば使うだけ、付与した土エレメントは消費されて防御力アップ効果は薄くなってしまうけど……1回防げれば十分だ。
「…………ふーーーん、詳しいじゃん」
「あ、どうも」
またも奇妙な、間。
「姉御ォ! ダメだァ! オイラじゃ無理だァ!」
「マスター、この悪鬼は、我の手に余る……ッッ!」
と、牛人と蛇人が彼女の元に駆け寄ってきた。見ると牛人の方は角の片方をぽっきり折られ、蛇人は無数の細かい傷跡から、青い血を流している。彼らを追うのは……
「ほーら牛さん、まだまだやれるよねぇぇぇ!」
聖バール二刀流の色葉。
鉄筋を材料に工作で作った同じサイズのバールに、解造でそれぞれ、火と水の属性を付加してある。本人は、これが伝説の、火と水が合わさり最強に見えるってこと……! って感動してた。まあ正直、僕もそれを意識して作ったことは否めない。
「ぐげ、ぐげげげ! これからぞ、これからぞ蛇さん! もっとやろう! もっと!」
そして小学生が考えたオリジナルの面白い踊り、みたいな動きでくねくね、ナイフを振るっているスライ・スライ。
彼のナイフはかなりレアなユニークアイテムらしく、僕のスキルじゃどうにも改造できなかった。代わりに彼が着ていたマフィアじみたスーツに風のエレメントを限界まで付与し、再生速度を間違えた動画みたいな速度で戦闘できるようになっている。
なおスーツ……というか、人間風の衣服はすべて、ショップで自分のサイズにぴったりなものを買えるらしい。スライ・スライは意外とおしゃれで、結構衣装持ちだ。
「あ、あんたたち! 10分もしてないのになんでもう弱音はいてるのよ!」
「ダメだよ姉御ォ! こいつ、水のマジックアイテム使ってきやがるんだ、オイラの今の武装じゃどうしようもねえ!」
「我のスキルもここでは無用の長物……! マスター、ここは決断を……!」
「…………も~~! 覚えてなさいあんたたち! 次会ったらみんなあたしたちの経験値にしてやるから!」
「覚えてろよォパーティ・キラーめ!」
「覚えておれパーティ・キラーが!」
「もう! 行くよ! 禁急飛難!」
と言うと、彼女たち三人の体が光に包まれ、消えていった。
あとにはただ、さらにぐちゃぐちゃにされた廃墟と、遠くの方でどぉぉぉん……がらがらがら……と、上空の瓦礫が着地する音だけが残った。
「……なんか……定期的に来そうなトリオだな……」
「……あー」
「…………たしかに」
残された僕たちは、彼女たちの消えた後を眺めつつ、そんなことを呟いた。
※用語解説
※1 PK
元はオンラインRPG用語。Player Killer、プレイヤー・キラーの略。他のプレイヤーを殺すプレイヤーの意。
ネットゲーム最初期においては剣と魔法の世界でドラゴンを倒すファンタジーRPG世界であっても、どのようなプレイヤーであれ街の外に出れば、モンスターではなく他のプレイヤーに殺される可能性があった。システム的にそういった悪事が認められていたためである。メニューから対人戦を拒否する、といったゲーム仕様は搭載されていなかったため、プレイヤーたちはPKがよく出る道や時間帯を避ける、彼らのよく使ってくる麻痺呪文対策アイテムを持ち歩く、など、ある意味では現実世界のように、防犯意識を高く持ちながらプレイをせざる得なかった。
※2 HUD
ヘッド・アップ・ディスプレイの略。ハッド。自動車や航空機のフロントガラス部分などに、直接情報を表示させること。ゲームにおいては、たとえばFPSで残弾数やミニマップ、クエスト目標などが表示されること。竜胆は、専用機器を使わず、視界の中に直接情報がかぶさってくるものをHUDと呼んでいる。
※3 パーティ・キラー
九鬼城砦内の用語。城砦内部、弐番街以降にいる悪鬼ではなく、他の冒険者パーティを襲って経験値やアイテムを稼ごうとする冒険者のこと。
※あとがき
この章から戦闘多目進行です。あとこの3人が後々定期的に来るかどうかは……どうなんでしょう、現時点ではあんまり決まっていません。リクエストなどあればお気軽に感想まで……。
※まとめ
悪鬼たちの領域、新宿の燎夜中央に位置する、九鬼城塞にたどり着いた一行。転移してきたモンスターの冒険者に、パーティ・キラー、城塞内に配置されている悪鬼ではなく、他の冒険者を狩って経験値を得る種類の冒険者だと思われ、一戦交える。成長したそれぞれのスキル、装備でなんとか撃退に成功。




