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02 おさない、はしらない、ステータス確認

「な、なに見てるんだよ八神(やがみ)! 一丸(いちまる)! はやく逃げ、いや、誰か、誰か呼んできてくれ! いや、警察、救急車!」


 いつの間にか教室の中には、僕、八神竜胆(やがみりんどう)一丸色葉(いちまるいろは)、それから必死で暴れる川島くんを取り押さえる先生、その4人しか残っていない。もつれ合う2人、その2人と微妙に距離をとりながらステータスウィンドウを眺めている僕ら。先生が叫んだけど……。


「僕は……駄目そうだ、改造(モディファイ)、って、説明読むとなんか……生産系、サポート系……だなぁ……スキル進化的なやつがあったら概念系、システム系まで改造できて無双できそうだけど、どうだろ」

「ふーん、あんたにばっちりじゃん。ニヤけてるよ」

「君こそニヤけてるぜ、なに引いた?」

「SSR」


 そう言うと彼女は、いつもの笑い。この世に怖いものなんかなんにもない、全部私がぶっ飛ばしてやる、みたいな自信満々のやつ。いかにもな黒髪ロング清楚系ヒロインな顔面にスタイルの彼女がそういう風に笑うと、彼女はきっと、誰に何も恥じることなく、太陽の下をまっすぐに歩いているんだ、なんて思わされてしまう。


 でも、クラスで唯一彼女の本性を知っている僕は、それが錯覚だと知っている。まあ本人はなにも恥じていないから、間違ってはないけど……


 ……彼女がこうやって笑うのは、物語の主人公みたいになれそう、って興奮しているからに過ぎない。で、彼女が一番好きなのはなろう系の、王道チートハーレムもの、できれば主人公がマジでクズのやつ。


 まあ僕は僕で戦隊ものじゃ赤い人より、メカニックのなんとかさんに憧れてきた人生。なろうで好きなのは追放スローライフか、生産チートの内政モノ。


 でもまあ、それにしたって……


 ……僕と一晩ぶっ通しで今週のローファンタジーランキングで推すべき作品はどれか、あるいは、実際異世界転生したらどうするか、どんなスキルをどう使うべきか、負けヒロインは作中で救われるべきなのか、外伝でいいんじゃないか、ローグライク、ローグライト、ハクスラ、ルーターシューター、FPS、チーム制FPS、バトロワTPS、それぞれのジャンルで一番の名作とは、ジャンルや歴史を超えて今まで出たゲームで一番のものとは、的な話ができるのに、トップカーストの一員ってのはまったくどういうことなんだ、と、首をひねらざるを得ない。


 人間は見た目がすべてっていうのはまあ、本当なんだろう……でもすべてでもないよな、僕らがどっちもカス当たりしか引けなかった、親ガチャもある。


「……おい、肉弾系じゃないよな、だいたいはかませ犬フラグだぞ」

「ふっふっふ、ある意味肉弾系だけど、大丈夫、主役級ですよこれは。それに肉弾系ユニークスキルだってまだまだやりようはあるでしょー」

「ギャグの場合だろそれ、話の荒いところを笑いでごまかすような」

「出た出た、オレは周囲のガキと違ってシリアス作品が好みだぜ発言。邪気眼の数百倍中二病だからねそれ、SNSで言って炎上して謝罪に追い込まれろ」

「あのな、そうじゃない作品があるってことは君よりよく知ってるけど……君の好きなギャグ作品なんて中二病超えて四十二病みたいなもんじゃないか、笑いが全般的におじさんなんだよ」

「はぁぁぁ? それのなにが悪いっての? 年齢差別じゃん。そもそもあんたの好みが偏りすぎなだけでしょ? スローライフ系ばっか読み過ぎなの」

「はぁぁぁ? 君が偏ってるんだよ、いい加減チーハー勇者は卒業しろ」

「追放スローライフだって結局チーハーやるじゃん!」

「お、おい二人とも! な、なんで逃げないんだよ!」




 先生が叫ぶ。まだ暴れ続けてる川島くん。




「いや先生、外……」


 僕は渋い顔を作って、耳に手を当てて見せる。




 聞こえてくるのは、地獄の音。




 人が倒れる音。

 悲鳴。

 爆発音。

 絶叫。

 なにかが焼け焦げる鼻をつく臭い。

 金属が打ち合わされる音。

 そして絶叫。

 また悲鳴。




 たぶん今はまだ、この教室の中が一番安全だ。

 自分のスキルが直接戦闘系じゃないなら、特に。




 要するに今の僕たちの状況を説明すると、こうなる。




 なろうの現代ダンジョンものでよく数行の描写で飛ばされてる、レベル・スキルシステムが日本にやってきた当初の混乱、その最中にいる。読んでいる最中は、そうそうそこはいいから早くダンジョン行ってくれるとありがたい、なんて思ってたけど、実際自分がその中にいると……


 ……って待てよ……ダンジョンありなのかこれ?

 いや、違う……? どうなんだ……?


「お……おい、うそ、だろ……? ……ほ、他の教室でも……学校、全部……?」


 信じられないって顔の先生。

 その顔を見て僕と色葉が、信じられない、って顔になってしまう。


 川島くん並に「イジられてる」生徒が各学年、各クラスに1人か2人はいるみんな仲の良い、笑いの絶えない明るい学校で、よくまあ言えたものだ。大人のツラの皮ってヤツは一体、主原料はなんなんだ? コーンスターチとかか?


 呆然とする先生。そこに響き渡る校内放送。


「全校生徒の皆さん! た、ただいま、ただいま学校内、一部の生徒が多数、一部……多数暴れています! ひひひ非常に、に、危険ですから、ただち、ただちっ、ただ、ただっ、ひなっぼっ」


 ぶつんっ。


「こ、校長……?」


 この学校にイジメはありませんがよその悲しい事件はよく耳にします、と、全校集会で仰っていた校長の声が途絶えると、先生の体から力が抜けていったのが、見ているだけでわかった。彼の中で何かが、ぷつん、と切れてしまったようだ。


 好機と見た川島くんは両手に聖剣を生み出す。

 馬乗りになられた状態から、先生のお腹に勢いよく、突き立てた。


「んがっっ! がっ……! ぁっ! か、かわっ……」


 ぐり、ぐり、ぐり。

 川島くんは無表情に聖剣を動かす。


 が、先生は顔を真っ赤にしながら川島くんの手を掴んだ。たぶん、まだ(・・)、本来の馬力の差はどうしようもないみたいだ。

 真っ赤な顔をした先生が力尽くで、川島くんの聖剣を抜く。

 そして今度は力尽くで聖剣を、川島くん自身の胸に近づけてく。




 ……だめだ!




 僕ははじかれたみたいに駆け出して……

 ……膝を思い切り隣の机にぶつけた。

 …………くそ、運動なんて、するもんじゃない。

 こういうのはできる人にやってもらうのが一番いいんだ。


「っ……! 色葉ッ! 頼むッ!」

「任せなさーいっ!」


 どっちを、と、言う必要もなく、駆け出す色葉。

 こういう時、幼なじみは便利だ。

 生まれた病院から一緒だった彼女が、スカートを翻して駆け出し……。



 ……思い切り、蹴飛ばした。




「っっどーーーーーんっっ!」




 先生を。




 机と椅子を巻き込んで、壁にぶつかってそのまま動かなくなる先生。

 僕は先生にかまわず川島くんに駆け寄る。




「あぅっ……あっ……うぁっ……」




 でも、遅かった。




 川島くんが生み出した聖剣は、既に、彼の胸の半ばまで埋まってた。

 聖剣の熱でじゅうじゅう、肉が焦げ、血が沸き立ち、一気に気化してく。

 血煙、って比喩表現でしかないはずの言葉を、僕は嗅覚と触覚で体感した。




「川島、くん……っ!」




 なんて言ったらいいのかわからなくて、呟いて彼の手をとる。


「まけ、ちゃった……よ、やが……み……く、ん……」


 川島くんはそう言うと、弱々しく、笑った。


 彼との記憶が一気に、僕の頭を走ってく。




 どんな時でも絶対、川島くんと呼んでたこと。

 かっとばされた鞄を一緒に探したこと。

 彼のなろう小説にポイントを入れたこと。1話1話感想をつけたこと。それは結局僕だってばれたけどありがとうって言われたこと。僕の名前の勇者を出して、主人公にボコボコにさせたこと。2人でそれを、ゲラゲラ笑いながら話したこと。

 それでも「イジられてる」彼を見てなにかしたら、今度は自分が「イジられる」からなにもしなかったこと。

 彼と友達にはならなかったこと。

 なれなかったこと。




 一つ一つを思い出しながら、言った。


「……次は、うまくやれるよ」

「……なら……ノク……ンが……いい、な」


 そう言ってまた弱々しく笑って、そのまま凍り付いた。

 胸に突き刺さった聖剣はろうそくみたいの火に揺らめいて、消えた。


 僕は祈った。

 少し顔を赤くしながらも、こういう話ができないほどオレはガキじゃないぜ、みたいな強がりを顔ににじませつつ「結構、いいよ。オレは全然、アリって思う」って言ってた、貞操観念逆転モノ世界に、彼が転生できますように。

 天井を見上げ、深く息をつく。言えなかった言葉を頭の中で持て余す。彼とパーティを組めたらきっと、もっと楽しかったのに。




「……竜胆ー、どうする?」




 のんきな、色葉の声。

 こいつはまったく、人の情緒なんてかけらも考えちゃくれない。外見は完全無敵な黒髪乙女のクセして、中身はとびきりがさつ、どころか、死ぬまで撃てばみんな死ぬ、みたいなことを真顔で考えてるFPS廃人が入っている。

 それでも、僕は少し感謝しながら色葉の横に向かった。

 人の死に初めて触れてSANチェック、的なヤツは後にしよう。

 今は目の前の状況に対処しなきゃ、自分がその、人の死になるだけだ。




 僕たちは絶対に、死にたくない。

 そんなの、当たり前だろ。




「先生、川島くん、死にました」


 僕は先生にはっきり言った。

 壁に打ち付けられ、頭をさすりながらぼんやりしている先生。腹の剣はもう消えていたけど、刺された痕はもう、これ以上ないってぐらいはっきりしてる。この場に凄腕医療チームが転移してきたとしても……たぶん……。


 数秒の間があった後、先生は僕を見上げ呟いた。


「俺が……殺したのか」


 僕は先生のステータスに目を向ける。


〈Lv.04 新人(ヌーブ) 山寺健人(やまでらたけひと)


「ですね」


 青白いウィンドウは、無機質に、半透明に、ただそこにある。


「…………そうか」


 呟くと、ゆらり、立ち上がる。


「逃げます?」


 まるで亡霊みたいな雰囲気の先生に声をかける。

 亡霊は振り向きもせず、ゆらり、窓辺へ歩いてく。


「お前たちも早く避難しろよ」


 それだけ言い残すと、窓から飛び降りた。

 いつか川島くんが言っていた、この教室の高さなら、人が死ぬには十分なんだぜ、って言葉が聞こえたような気がした。僕はその声に心の中で、結構勝ってたよ、川島くん、って答えた。それから、死ぬにしても先生、自分のユニークスキル確かめてからにすればよかったのに、なんて思った。


「……うっそぉ」


 色葉が信じられない、って口調で呟く。

 その数秒後。


「うそぉ……?」


 今度は僕が呟いた。




〈おめでとうございます! レベルアップです!〉




 脳内の声……というか、もう今後はこう呼ぶけど、システムメッセージ、珠洲嶋(すずしま)かやの声はそう言った。




〈パーティの皆さんと、喜びを分かち合いましょう!〉




 経験値の入る判定どうなってんだよ、

 いつ色葉とパーティを組んだんだ、

 川島くん死んじゃった、

 先生意外とメンタル弱かったんだな、

 世界はどうなったんだ、

 いや考えなきゃいけないのは、どれ(・・)になったんだ、か……?


 なんて思考が頭の中をぐるぐる、駆け巡っていった。

 地獄の音は鳴り止まず、むしろ、その強さを増しているように聞こえた。












※後書き

ローグライク(ト)、ハクスラ、ルーターシューターでなにかおすすめの作品があったら教えてください。



※まとめ

・先生により川島くん死亡。先生がレベルアップ。

・生徒を殺した罪の意識を感じてもらうべく竜胆が声をかけると、先生は自殺。

・すると竜胆と色葉がレベルアップ。二人はすでに、パーティという扱いになっている模様……。

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