第2部(3)力狼丸への新たな刺客
力狼丸は、左手に取れたばかりのイワナを持ちながら、山兵衛たちといっしょに暮らしている家へ戻ってきました。
「とうちゃ、かあちゃ、これを見て見て! ぼくはねえ、滝つぼの中にいたイワナを2匹取ってきたよ!」
「おおっ、力狼丸くんは今日の晩ご飯を探すために滝つぼで泳ぎながら川魚を取ってきたんだね。力狼丸くんは、いつもイノシシ狩りとかしてくれるおかげで、晩ご飯に困ることがほとんど無いから本当に大助かりだよ」
力狼丸は、無邪気でかわいい表情を見せながら、山兵衛とおさえにイワナを取ってきたことを自慢げに言いました。山兵衛は、力狼丸が晩ご飯探しで滝つぼで川魚を取ってきたことに感心しました。そして、山兵衛はいつもイノシシ狩りなどを力狼丸がしてくれるので、晩ご飯に困るということがほとんど無いから大助かりであると力狼丸に言いました。
「このイワナはねえ、とうちゃとかあちゃに食べてほしいから取ってきたんだよ!」
「力狼丸くん、いつもありがとうね。あたしたちのために晩ご飯を取ってきてくれたんだね」
力狼丸が滝つぼでイワナを取ってきたのは、山兵衛とおさえに晩ご飯のときに食べてほしいからです。これを聞いたおさえは、自分たちのためにイワナを取ってきた力狼丸に感謝の言葉を言いました。
「でも、力狼丸くんの分は無いねえ。力狼丸くんは何を食べるのかな?」
「ぼくは、大きなイモをいっぱい食べることができれば大丈夫だよ! そして、でっかくて元気なうんちをとうちゃとかあちゃに見せてあげるよ!」
力狼丸が取ってきたイワナは2匹だけなので、おさえは力狼丸に何を食べるのか尋ねました。すると、力狼丸は大きなイモをいっぱい食べれば大丈夫と答えるとともに、山兵衛とおさえにでっかいうんちを見せてあげると元気な声で言いました。でっかいうんちがいっぱい出るのは、力狼丸がいつも大きなイモをよく食べるからです。
すると、おさえの前で力狼丸がいつも言うあの言葉を口にしました。
「かあちゃ、おっぱい! おっぱい!」
「力狼丸くんは、おっぱいをいっぱい飲むのが大好きなんだね」
力狼丸がおっぱいを飲みたいと言うと、おさえは着物からおっぱいを出しました。そして、力狼丸はおさえのおっぱいをくわえると、そのままおいしそうに飲み始めました。
「チュパチュパチュパチュパ! チュパチュパチュパチュパ!」
「力狼丸くんは、どう猛なイノシシを仕留めるほどの力持ちだからなあ」
「ふふふ、力狼丸くんはお布団へのおねしょとでっかいうんちをあたしたちに見せるかわいらしいところもあるからね」
力狼丸の表情は、大好きなおっぱいの母乳をいっぱい飲んでいるので満足している様子です。これを見た山兵衛とおさえは、力狼丸が力強さとかわいらしさの両面を持っていることに目を細めています。
力狼丸は、母乳の飲みすぎとイモの食べすぎで、いつも元気なおねしょやでっかいうんちを毎日のようにしてしまいます。しかし、力狼丸がどう猛な動物に立ち向かうほどの力強さを持っているのは、母乳やイモを飲んだり食べたりしているおかげなのです。
「かあちゃ、おっぱいをいっぱい飲んだよ! とってもおいしかったよ!」
「あたしたちは、力狼丸くんがずっと元気な男の子でいてほしいと願っているのよ」
おっぱいをたくさん飲んだ力狼丸は、とってもおいしかったとおさえに笑顔で言いました。おさえも、力狼丸の笑顔を見ながら、力狼丸がずっと元気な男の子でいてほしいと願っているとやさしく接しながら言いました。
「ぼくも、この手でどう猛な動物を仕留めたり、畑仕事や滝つぼでの水汲みとかのお手伝いをして、とうちゃとかあちゃを少しでも楽にさせてあげるからね!」
「おれたちが言わなくても、力狼丸くんは何でも手伝ってくれるから頼りになるよ」
力狼丸は、自分の力でどう猛な動物を仕留めることや、いろんな家のお手伝いをすることで、山兵衛とおさえを少しでも楽にさせてあげたいと明るい笑顔で言いました。これを聞いた山兵衛も、何でも手伝ってくれる力狼丸の親孝行ぶりに目を細めました。
そのとき、家の外からギシギシと半ば強引に引戸を開けようとしているので、山兵衛は土間へ下りました。すると、力狼丸は何か殺気のようなものを感じました。
「とうちゃ、ぼくが開けるから!」
「力狼丸くん、いったいどうしたんだ」
力狼丸は、自分が引戸を開けるからと山兵衛に大きな声で言いました。山兵衛は、力狼丸が切羽詰った表情で言ったことに驚いた表情を見せました。
「とうちゃ、かあちゃ、奥のほうへ逃げて!」
「力狼丸くん、引戸を開けようとしているのって…」
力狼丸は、山兵衛とおさえに板の間の奥のほうへ早く逃げるように言いました。これを聞いた2人は、力狼丸が言った言葉の意味をすぐに思い出しながら、急いで奥のほうへ逃げました。
力狼丸は、目の前にある引戸を開けました。すると、引戸を開けた途端、何者かがいきなり力狼丸を襲ってきました。
「ふはははは! これでおめえを始末してやるぜ!」
「うわわっ、ぼくに何をするんだ!」
「このマサカリで、おめえの首を飛ばしてやるのさ。そりゃあ! そりゃああ!」
力狼丸は、いきなり猟師らしき男にマサカリで襲われそうになりましたが、間一髪のところでかわすことができました。しかし、猟師は力狼丸に対する攻撃に手加減することはありません。
「よくも、よくもおれの攻撃を素早くかわしやがって!」
「とうちゃとかあちゃは、絶対に手出しさせないからね! とうちゃとかあちゃは、ぼくが守ってみせるよ!」
猟師は、鋭い刃を持つマサカリで何度も攻撃して力狼丸を始末しようとしても、その度に力狼丸は素早い動きでかわしていきます。力狼丸の素早い動きを見て、猟師は自分のマサカリによる攻撃がかわされることにかなり焦っている様子です。
力狼丸は、自分を育ててくれた山兵衛とおさえのことが大好きです。大好きな2人を守るためにも、力狼丸は目の前にいる猟師に対して反撃を開始しました。
「今度はこっちから行くぞ! それっ!」
「ふはははは! 自ら始末されるのも知らずに飛び上がるとは…」
力狼丸は、猟師の真上に向かってジャンプしました。これを見た猟師は、力狼丸が自分から始末されるのも知らずに飛び上がったので、不気味な笑いを見せています。
しかし、猟師が自分の真上へやってきた力狼丸にマサカリを振り下ろそうとした、そのときのことです。
「プウウウウウウウッ!」
「どうだ! 元気な子供はでっかいおならをするのは当たり前だぞ!」
「うわあっ、おれの真上で大きなおならをしやがって…。とてもくせえぞ…」
力狼丸は、猟師の顔面にでっかくて元気なおならを命中させました。でっかいおならをするのは、力狼丸がいつも元気な子供である何よりの証拠です。力狼丸のおならが顔面に命中した猟師は、おならのにおいがあまりにもくさくて七転八倒しています。
「これでとどめだぞ! そりゃ! そりゃそりゃ!」
「うわわっ! おれの顔をこんなに引っかきやがって! やめろ! やめろ!」
力狼丸は、オオカミの手から伸びる鋭い爪を伸ばすと、七転八倒している猟師の顔を何度も両手の鋭い爪で引っかき続けました。猟師は、自分の顔を力狼丸によって何度も引っかかれたので、あわてて外へ逃げ出して行きました。
「力狼丸くん、ケガは無かったか?」
「とうちゃ、かあちゃ、ぼくはこの通り大丈夫だよ!」
力狼丸が猟師を撃退したのを見た山兵衛とおさえは、力狼丸にケガは無かったかと尋ねました。すると、力狼丸はかすり傷も無い自分の身体を山兵衛たちに見せながら、いつものように元気な声で大丈夫と答えました。
山兵衛とおさえは、いつものかわいくて元気な力狼丸の表情を見てホッとしている様子です。しかし、山兵衛は先ほどの力狼丸の表情がいつもと明らかに違っていたので、どうしても気になって仕方がありません。
「さっきの猟師は、いきなりマサカリを使って力狼丸の首を狙ってきたからなあ。ここにはおれたち以外に人間が立ち入ることはまずあり得ないんだが…」
山兵衛は、険しい山奥の森の中に自分たち以外の人間が立ち入ることはあり得ないにもかかわらず、猟師がいきなり自分の家に入っては力狼丸に襲いかかってきたことが信じられない様子です。
「ここにいる人間は、あたしと山兵衛さんしかいないし…」
「そういえば、おれが狩猟のために森の奥へ入ったときに、草木が生い茂っているところに人影みたいなのがいた気がしたなあ。これが単なる思い過ごしであればいいけど」
おさえは、この山奥にいる人間は自分の他には山兵衛だけしかいないことを知っています。山兵衛とおさえの2人が育てている力狼丸は、外見はほとんど人間ですが、生みの親がオオカミです。その証拠に、力狼丸の手のひらと足はオオカミとそっくりです。
そして、山兵衛はここ数日の間、自分が森の奥へ狩猟へ行ったときに、草木が生い茂っているところに人影らしきものがあった気がすると言いました。しかし、それと力狼丸への突然の襲撃との関連はまだはっきりしていない以上、山兵衛は自分の単なる思い過ごしであることを信じるよりほかはありません。




