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1/3

『そうだ、東京に行こう。』

金曜日………。


「明日から休日だ。」


学校が終わり、徒歩10分ほどの道を歩いて家に帰る。


冬の夕方は暗くなるのが早い。


学校から帰る時間には、もう少しずつ空が暗くなり始めている。


いつもの道を歩き、家に着く。


「ただいまぁ……って誰もいないか……。」


家に帰って身支度を済ませ、自分の部屋に籠る。


制服を脱いで、適当に楽な服に着替える。


そしてベッドに座り、スマホを触る。


明日は土曜日。


友達と遊ぶ予定がある。


だから土曜日の予定は、もう決まっている。


問題は日曜日。


「日曜日……何をしようか。」


スマホを眺めながら考える。


休日に家でずっとダラダラしているのも嫌いではない。


でも、せっかくの休日なら、どこかへ出かけたい。


僕は休日になると、だいたいどこかへ出かける。


近所の店に行くこともある。


電車に乗って少し遠くまで行くこともある。


特に行き先を決めずに、とりあえず駅まで行ってから考えることもある。


そんなことを考えながらスマホを見ていると、ふと東京の観光案内動画が目に入った。


東京駅。


東京スカイツリー。


浅草。


渋谷。


横浜。


画面の中を、東京の街が次々と流れていく。


「東京……行きたいな……。」


完全に思いつきだ。


本当にそれだけだった。


僕は昔から、これをやりたい、あれをやりたいと思ったら、すぐにやる派だ。


もちろん何でもかんでもできるわけではない。


お金や時間の問題もある。


でも、できることなら、思いついた時にやってみたい。


「東京か……。」


東京へ行くとなると、まず問題になるのがお金。


新幹線。


食事。


現地での移動。


観光。


いろいろお金がかかる。


ふと、部屋の隅に置いてある貯金箱を見る。


昔から家の手伝いをしたり、毎年のお年玉を使わずに貯めたりしてきた貯金。


いつか何かに使うために、少しずつ貯めてきた。


こういう突然の旅行があってもいいように、お金は十分に貯まっている。


貯金箱を確認する。


頭の中で大まかに計算してみる。


「これなら……行けるな。」


日帰りなら何とかなる。


問題は親。


僕はスマホを置く。


少し考える。


「……よし。」


親に相談だ。


――――――――――


許可が取れた。


思っていたよりあっさりだった。


「ほんまに行っていいんや……。」


自分で言い出したことなのに、少し驚く。


日曜日。


東京。


日帰り。


本当に行くことになった。


「そうだ、東京に行こう。」


何気ないこの言葉。


普段から使う言葉だ。


でも、この日は違った。


この一言が、本当に東京へ行く旅の始まりになった。


その夜。


明日の友達との予定を確認しながら、日曜日の東京旅行について少し調べる。


東京で何をするか。


どこへ行くか。


全部を決めるつもりはない。


むしろ、全部決めてしまうと面白くない気がする。


「東京着いてから考えればいいか。」


ただ、帰りだけは考えておかないといけない。


日帰りで東京まで行く。


遊んでいたら、当然帰りは遅くなる。


そこで、帰りのことを考える。


新幹線で帰る方法もある。


でも、それだと普通すぎる。


せっかく東京へ行くなら、帰りも何か面白いものにしたい。


そして、僕はある列車を見つける。


「……サンライズ。」


寝台特急。


東京から夜に出発して、夜の東海道を走る列車。


これなら帰りも旅になる。


予約を取る。


空いていた席を確認する。


シングル。


一人用の寝台個室。


「これでいこう。」


東京へ行くことは思いつき。


でも、帰りのことはちゃんと考えておく。


明日の旅行に備えて、荷物を準備する。


財布。


スマホ。


モバイルバッテリー。


ICOCA。


そしてカメラ。


必要なものを確認する。


「よし。」


あとは寝るだけ。


明日は土曜日。


友達と遊ぶ。


そして、その次の日。


東京へ行く。


そう考えると、なんだか眠るのがもったいなく感じた。


⸻


日曜日


朝6時。


目が覚める。


「……朝か。」


普段なら、まだ眠い時間。


でも、なぜか旅行に行く時は朝は眠くない。


それは何故だろうか。


目が覚めた瞬間から、頭が妙に冴えている。


今日の予定を考える。


新大阪。


東京。


そして、その先。


「楽しみやな……。」


ベッドから起き上がる。


冷蔵庫を開ける。


そこにある卵を勝手に使う。


フライパンを出して、目玉焼きを作る。


焼き上がった目玉焼きをパンに乗せる。


某映画の飯だ。


「いただきます。」


牛乳と目玉焼きパン。


朝ごはんは軽めに済ませる。


なぜなら、新大阪で駅弁を買う予定だからだ。


朝からたくさん食べてしまうと、駅弁が食べられなくなる。


朝食を終える。


身支度をする。


自宅は関西。


最寄駅までは徒歩10分。


近くも遠くもない場所だ。


親はまだ寝ている。


起こさないように、静かに家を出る。


玄関を閉める。


外はまだ暗い。


季節は冬。


朝は肌寒い。


「寒っ……。」


手をポケットに入れながら駅へ向かう。


休日ということもあり、朝の街はまだ静かだ。


平日の朝なら、駅へ向かう人がもっと多い。


でも今日は違う。


まだ一日が始まったばかりという感じがする。


駅に着く。


改札にICOCAをタッチする。


「よし。」


ホームへ向かう。


やってきた電車に乗り込む。


車内はまだ空いている。


座席に座り、窓の外を見る。


少しずつ空が明るくなっていく。


冬の綺麗な朝日が電車の窓から差し込んでくる。


「朝早く出てきてよかったな。」


電車に揺られながら、今日のことを考える。


東京に着いたら何をしよう。


東京駅を見て。


スカイツリーにも行きたい。


浅草も見たい。


できれば横浜にも行きたい。


鎌倉も気になる。


でも全部行けるかは分からない。


「まぁ、その時考えればいいか。」


そんなことを考えているうちに、大阪駅に着く。


ここで乗り換え。


JR京都線に乗り換え、新大阪駅へ向かう。


大阪駅を発車。


新大阪までの短い乗車。


でも、僕にとっては東京旅行の一部だ。


そして、新大阪駅に到着する。


「着いた。」


まだ東京ではない。


ここからが本番だ。


新大阪駅のコンコースを歩く。


新幹線の案内表示を見る。


東京方面。


それだけで少しテンションが上がる。


新大阪駅で駅弁を買う。


新幹線の車内で食べるためだ。


だから朝ごはんも軽めにしてきた。


駅弁を選ぶ。


「これにしよう。」


旅の賑わい弁当。


そして麦茶も買う。


新幹線の切符は事前に予約してある。


券売機で発券する。


今の時代、ICOCAやQRコードなどで新幹線に乗れる。


便利な時代になった。


でも僕は紙の切符の方が好きだ。


券売機から出てきた切符を受け取る。


小さな紙切れ。


でも、これから東京へ行くための切符だと思うと、妙に特別に感じる。


改札に入る。


案内表示を見る。


のぞみ236号。


東京行き。


「よし。」


27番線へ向かう。


ホームに着く。


すると、ちょうど列車が入線してくるところだった。


N700S。


青いライン。


見慣れた新幹線。


でも、今日はいつもと違う。


今日は東京へ行くために乗る。


今回は6号車。


座席は1E。


進行方向右側。


そして一番後ろ。


「ここ取れてよかったな。」


一番後ろなので、後ろの人を気にせずリクライニングできる。


N700系列の青色の座席は、いつ見ても落ち着く。


実家のような安心感。


「まじでリクライニングシートは快適。N700Sなのもあり、最新型はいいよね。」


荷物を置く。


座席に座る。


列車の発車を待つ。


そして――


7時15分。


定刻。


のぞみ236号は新大阪駅を出発した。


ここから東京への道は今始まった。


⸻


新幹線


「新大阪駅、出発したなぁー。」


心の中でそう思う。


大阪の都心から離れて、のぞみ236号は次の停車駅、京都を目指して疾走する。


窓の外を見る。


街が後ろへ流れていく。


目の前にあるテーブルを出す。


新大阪駅のコンビニで買った麦茶を一口飲む。


そして駅弁の袋から、


「旅の賑わい弁当」


を取り出す。


蓋を開ける。


「うわ……。」


これほど「大阪・関西!」という感じの弁当は見たことがない。


ご飯には赤飯に甘栗、味付け飯。


おかずには、たこ焼き、豚玉葱串かつ、牛肉煮、いかなごのくぎ煮。


他にも焼鮭、卵焼きなど、たくさん入っている。


これで1200円。


まず赤飯を一口。


「美味しい。」


いかなごのくぎ煮。


「美味しい。」


卵焼き。


ほどよく甘くて美味しい。


「……って、さっきから美味しいしか言ってないな。」


自分で言って少し笑う。


駅弁を楽しんでいるうちに、京都へ近づいてくる。


東寺の五重塔が見える。


7時29分。


京都駅到着。


速やかに乗降を済ませ、7時30分京都駅発車。


その間にも僕は、景色も見ずに駅弁に夢中になっていた。


岐阜羽島通過ぐらいに駅弁を食べ終わる。


麦茶を飲む。


そして、ようやく窓の外を見る。


列車は中京圏へ入っていく。


8時4分。


名古屋駅到着。


名古屋には大きな駅ビルがある。


上まで見渡しても頂上は見えない。


「名古屋もでかいな……。」


列車が発車する。


名古屋を出るとのぞみは新横浜まで止まらない。


ここから怒涛の連続通過。


駅を次々と通過していく。


東海道新幹線最高速度285km/h。


窓の外を流れる景色を眺めながら、新幹線の速さを改めて実感する。


静岡地区へ入る。


しばらくすると車内アナウンスが入る。


新富士付近。


富士山が見えるとのこと。


窓の外を見る。


今日は冬場ということもあり、空気が澄んでいる。


山頂までしっかり見える。


「綺麗やな……。」


思わず写真を撮る。


新幹線の車窓から見る富士山。


東京へ向かっていることを、改めて実感する瞬間だった。


新富士から新横浜までは一瞬だ。


9時26分。


新横浜。


続けて9時38分。


品川。


終点東京はあと7分。


窓の外には高層ビルが増えてくる。


「東京、近いな。」


そして――


9時45分。


東京駅到着。


約2時間半の旅は終わりを告げた。


……いや。


東京旅行は、ここからだった。


⸻


東京


東京に着いたからには、まず伝統の丸の内駅舎だ。


丸の内北口改札から外へ出る。


「うぉ、眩しい。」


冬の綺麗な太陽が、さんさんと輝いている。


そして目の前に、赤レンガの駅舎。


「すごい……。」


それ以上の言葉は出ない。


東京駅は1914年、大正3年。


「中央停車場」として着工され、完成し、開業時に正式名称が「東京駅」になった。


歴史ある駅だ。


そんな駅が、今目の前にある。


写真で見るのとは違う。


画面越しでは感じられなかった大きさがある。


丸の内中央口まで歩いていく。


「でかい、とにかくでかい……。」


初めて見る圧倒感に、その場から動けなかった。


何枚か写真を撮る。


少し離れて駅舎を見る。


また近づく。


気がつけば15分ほど経っていた。


ふと思い出す。


「そうだ、今日は日帰りで東京に来ている。」


惜しい。


ここで時間を潰すわけにはいかない。


丸の内中央口から改札に入る。


ICOCAをタッチする。


「東京に来たら、観光ついでに山手線に乗って行こう。」


新宿とか原宿とか渋谷とか。


東京を代表する街を、電車から見てみたい。


少し遠回りになる。


でも、それでいい。


山手線内回りに乗るため、4番線へ向かう。


ホームに上がる。


ちょうど発車していったところだった。


「まぁ東京だからすぐくるだろ。」


そう思いながら周りを見渡す。


いろんな電車が走っている。


京浜東北線。


上野東京ライン。


常磐線直通の列車。


伊豆方面の特急踊り子。


眺めながらぼーっとしていると、接近放送がかかる。


ホームの向こうからE235系が入ってくる。


ファーン。


警笛を鳴らしながら、自分の目の前で止まる。


「来た。」


一番前の特等席。


運転士の後ろ。


ガラスにへばりつくように前を見る。


そして山手線は、東京を静かに発車していく。


⸻


山手線


東京駅を出発すると、東京の鉄道網の凄さがいきなり分かる。


中央線。


京浜東北線。


山手線。


上野東京ライン。


そして新幹線。


何本もの線路が並んでいる。


「僕の本拠地、関西でもJR京都線、神戸線の複々線までしかない。」


東京は、やっぱり規模が違う。


一駅目。


神田。


神田を出てすぐ中央線と別れる。


そしてすぐに秋葉原。


カドショことカードゲームのお店もたくさんある街。


駅周辺にはいろいろな店が並び、東京らしい賑やかさがある。


御徒町。


そして上野。


御徒町から上野の間には、高架下にアメ横ことアメヤ横丁がある。


昔名だたる寝台特急が発着していた、北の玄関口上野。


「こういう駅の歴史も面白いな。」


鶯谷。


日暮里。


西日暮里。


田端。


駒込。


巣鴨。


大塚。


そして池袋。


「人多いな……。」


駅の周りには人が溢れている。


列車が走っても、街の景色が途切れない。


目白。


新大久保。


そして新宿。


世界一の乗降客数を誇る巨大ターミナル。


「ここだけでも一日潰せそうやな……。」


新宿を出る。


代々木。


明治神宮の最寄駅、原宿。


そして渋谷。


スクランブル交差点とハチ公が有名な街。


「東京って、どこまで行っても東京やな……。」


恵比寿。


目黒。


五反田。


大崎。


品川。


高輪ゲートウェイ。


田町。


浜松町。


その横を通ると、一瞬だけ東京タワーが見える。


新橋。


日本の鉄道はここから始まった。


そして有楽町。


次は東京。


「意外に1時間くらいだったけど、すぐだったな……。」


山手線を一周してしまった。


東京の街を一周した。


でも、まだまだ見たい場所はある。


スマホを見る。


「次は……東京スカイツリー。」


⸻


東京スカイツリー


東京駅から電車を乗り継いで、スカイツリー方面へ向かう。


車窓の景色が少しずつ変わっていく。


東京駅周辺の高層ビル。


その後ろに住宅街。


街の雰囲気が変わっていく。


そして、見えてきた。


東京スカイツリー。


「……高っ。」


動画で見たことはある。


写真でも見た。


でも、実際に目の前にすると全然違う。


下から見上げる。


首が痛くなりそうなほど高い。


しばらくその場で眺める。


写真を撮る。


「東京来たって感じするなぁ……。」


東京に来てから、まだそれほど時間が経っていない。


でも、もうかなりいろいろなものを見ている。


東京駅。


山手線。


そしてスカイツリー。


「次どうしようかな。」


Googleマップを開く。


周辺を見る。


すると、


「浅草……近いやん。」


思っていたより近い。


「じゃあ行ってみるか。」


今回の旅には、細かい予定表がない。


行きたいと思った場所へ行く。


それだけだ。


⸻


雷門


浅草へ向かう。


しばらく歩く。


そして見えてきた。


雷門。


「おお……。」


写真やテレビで何度も見たことがある。


でも、実際に見るとやっぱり違う。


人が多い。


外国人観光客もいる。


仲見世通りも賑わっている。


本当なら浅草寺までゆっくり見て回りたい。


でも今日は日帰り。


まだ行きたい場所がある。


今回は雷門をしっかり見て、写真を撮る。


「よし。」


また今度、ゆっくり来ればいい。


そう思いながら、東京駅方面へ戻る。


⸻


横浜へ


東京駅まで戻る。


次の目的地は横浜。


東京駅から東海道線方面へ向かい、品川まで移動する。


品川駅。


ここで京急に乗り換える。


「せっかく東京まで来たんだし、京急乗りたいな。」


ホームで列車を待つ。


そしてやってきた。


快特。


乗り込む。


ドアが閉まる。


列車が発車する。


「速っ。」


山手線とは全然違う。


駅を次々と通過していく。


東京の街を高速で駆け抜けていく。


ビルが流れる。


駅が流れる。


景色がどんどん変わる。


「京急の快特、めっちゃ速いな……。」


鉄道好きとしては、このスピード感がたまらない。


でも、しばらくしてふと思う。


「……でも関西の新快速も負けてないよな。」


普段乗っている新快速。


関西の街を高速で駆け抜けていく。


東京まで来て京急に乗ったからこそ、逆に普段乗っている新快速の凄さにも気づいた。


「やっぱり新快速ってすごいんやな。」


そんなことを考えているうちに、列車は神奈川県へ入っていく。


東京の高層ビル群が少しずつ減っていく。


街の雰囲気も変わっていく。


そして、


横浜。


「着いた。」


⸻


横浜と崎陽軒


横浜駅。


人が多い。


さすが大都市。


駅の規模も大きい。


そして、ここでようやく昼ご飯。


朝は軽め。


新幹線で駅弁を食べたとはいえ、もうかなり時間が経っている。


「そういや、昼飯食べてないな。」


せっかく横浜まで来た。


だったら、


「崎陽軒のシウマイ食べよう。」


横浜といえば、やっぱりこれ。


店を探す。


そして購入。


「いただきます。」


一口。


「うま。」


横浜に来たという実感が湧く。


旅先で、その土地の名物を食べる。


それだけで旅をしている感じがする。


昼食を済ませる。


さて、次はどうするか。


スマホを見る。


少し考える。


「……鎌倉、行ってみるか。」


また思いつきだった。


でも、それが今回の旅だ。


⸻


鎌倉


横浜からJRに乗る。


車窓を眺めながら鎌倉へ向かう。


横浜を出たあたりでは、まだ都会の雰囲気が強い。


しかし進んでいくにつれて、景色が少しずつ変わっていく。


住宅街。


緑。


そして鎌倉。


駅に降りる。


「なんか……東京と全然違うな。」


東京の巨大なビル群とは違う。


高い建物が少ない。


その代わり、昔ながらの建物や小さな店が並んでいる。


人は多い。


でも東京とは違う。


観光地らしい賑わいだ。


「こういう街もいいな……。」


駅前を歩く。


小町通りへ向かう。


通りにはいろいろな店が並んでいる。


食べ歩きをしている人。


お土産を探している人。


写真を撮っている人。


自分と同じように遠くから来た人もいる。


「みんな、それぞれ旅してるんだな。」


そんなことを考えながら歩く。


少し進むと、さらに鎌倉らしい景色が増えてくる。


歴史を感じる建物。


細い道。


住宅街。


そして、その先には鶴岡八幡宮。


時間があれば、もっとゆっくり見て回りたい。


でも今日は日帰り。


東京へ戻らなければならない。


「また今度、ゆっくり来よう。」


そう思いながら駅へ戻る。


その途中だった。


ふと、案内を見る。


江ノ電。


「……江ノ電。」


鉄道好きとしては、ここまで来て乗らないわけにはいかない。


予定にはなかった。


でも今回の旅は、そもそも予定通りに進んでいない。


東京スカイツリーへ行って。


浅草へ行って。


横浜へ来て。


そして今は鎌倉。


だったら最後にもう一つ。


「江ノ電、乗ろう。」


そう決めた。


駅へ向かう。


改札を通る。


江ノ電のホームへ。


JRとはまた違った雰囲気がある。


ホームで待っていると、遠くから列車の音が聞こえてくる。


やがて、江ノ電がゆっくりと姿を現す。


「来た。」


列車がホームへ入ってくる。


車内へ乗り込む。


発車を待つ。


ドアが閉まる。


そして列車が動き出した。


最初は鎌倉の街中を走る。


道路のすぐ横を走ったり、住宅のすぐ近くを通ったりする。


「こんなところ走るんだ……。」


東京の山手線とは全然違う。


さっき乗った京急の快特とも全然違う。


京急は大都市の中を高速で駆け抜けていた。


江ノ電は、街の中をゆっくり進んでいく。


それが妙に心地よかった。


しばらくすると景色が少しずつ開けてくる。


建物が減っていく。


そして――


海が見えた。


「うわ……。」


思わず窓の外を見る。


青い海。


その向こうまで広がる空。


さっきまで東京の高層ビルを見ていたのが嘘みたいだった。


同じ一日の中で、こんなにも景色が変わる。


新幹線で関西から東京へ来て。


東京の街を山手線で一周して。


スカイツリーを見て。


浅草の雷門を見て。


京急に乗って横浜へ行って。


そこから鎌倉まで来た。


そして今、江ノ電から海を見ている。


「……これが旅か。」


ふと、そんなことを思った。


目的地へ行くことだけが旅じゃない。


その場所へ向かう途中で見る景色。


乗る電車。


偶然見つけた街。


思いつきで立ち寄った場所。


そういう一つ一つも、全部旅なんだと思う。


江ノ電は海沿いを走る。


窓の外には海が広がっている。


しばらく何も考えず、その景色を眺めていた。


「来てよかったな。」


今日、東京へ行こうと思ったのは本当に突然だった。


金曜日の夜、動画を見て「東京に行きたい」と思った。


それだけだった。


でも、その一言から始まった旅は、いつの間にか東京だけではなく、横浜、鎌倉まで来ている。


そしてまだ終わっていない。


江ノ電に乗ったことで、今回の旅の中で一番「旅をしている」と感じた気がした。


しばらくして、列車は鎌倉方面へ戻っていく。


海が少しずつ遠ざかる。


「また来たいな。」


今度は鎌倉をもっとゆっくり歩いてみたい。


江ノ電にも、もっと長く乗っていたい。


そんなことを考えながら鎌倉駅へ戻る。


時計を見る。


「……そろそろ東京に戻らないとな。」


楽しい時間は、本当に早い。


でも、まだ今日の旅は終わっていない。


⸻


東京駅・八重洲


鎌倉から東京方面へ戻る。


電車に揺られながら、今日一日のことを少し思い返す。


朝は関西にいた。


今は東京へ戻ろうとしている。


「一日って、こんなに長かったっけ。」


そう思うくらい、いろいろなことがあった。


そして東京駅に到着する。


朝に来たときは丸の内側だった。


今度は八重洲側へ向かう。


「東京駅って、表と裏で全然違うな。」


朝に見た赤レンガの丸の内駅舎とは、また違った雰囲気。


駅の中を歩く。


そして、ふと思い出す。


「そうだ。」


明日は学校。


友達と会う。


せっかく東京まで来たんだから――


「お土産、買って帰るか。」


東京駅のお土産売り場を見る。


東京ばな奈。


東京駅限定のお菓子。


いろいろなお土産が並んでいる。


どれにするか迷う。


「これなら喜ぶかな。」


友達の顔を思い浮かべる。


自分用ではない。


友達に渡すためのお土産。


「まぁ、これでいいか。」


購入する。


袋を受け取る。


荷物が少し増えた。


でも、不思議と嫌ではない。


むしろ、今日の旅の思い出が一つ形になった気がした。


「明日、どんな反応するかな。」


少し楽しみになる。


時計を見る。


「……もうこんな時間か。」


そろそろ帰らなければならない。


普通なら新幹線で帰るところだ。


でも――


僕には、もう一つ予定がある。


⸻


サンライズ


実は、東京へ来る前から帰りのことは考えていた。


東京で一日遊べば、当然帰りは遅くなる。


だから、最初から帰り方については考えていた。


「帰りも旅にしよう。」


そう思って、事前に予約していた。


寝台特急。


サンライズ。


思いつきで東京へ来たように見える。


でも、帰りが遅くなることは予想していた。


だからサンライズを予約していた。


「ちゃんと考えてるんですよ、僕。」


誰に言うでもなく、心の中で思う。


東京駅のホームへ向かう。


ホームで待つ。


今日一日。


新大阪から東京まで新幹線に乗った。


東京駅を見た。


山手線を一周した。


スカイツリーを見た。


雷門にも行った。


京急の快特にも乗った。


横浜で崎陽軒のシウマイを食べた。


鎌倉へ行った。


江ノ電にも乗った。


そして東京駅へ戻ってきた。


「……長い一日だったな。」


朝の自分からしたら、今の自分は想像できなかったと思う。


東京へ行く。


ただそれだけだった。


それが気づけば、こんな一日になっていた。


やがて、遠くから列車が見えてくる。


サンライズ。


東京駅のホームへ、ゆっくりと入ってくる。


「本当に乗るんだな……。」


列車が停車する。


僕が予約したのはシングル。


一人用の寝台個室だ。


車内へ入る。


狭い。


でも、落ち着く。


今日一日ずっと歩き回っていたから、逆にこの狭さがちょうどいい。


荷物を置く。


東京で買ったお土産も置く。


「これ、明日友達に渡したらどんな反応するかな。」


少し楽しみになる。


そして窓の外を見る。


東京駅のホーム。


朝にここから旅が始まった。


そして今、ここから帰る。


朝と夜。


同じ東京駅なのに、全然違って見える。


列車が動き出す。


東京の街が少しずつ後ろへ流れていく。


ホームの明かりが遠ざかる。


ビルの明かりが窓の外を流れていく。


「また来たいな。」


そう思った。


今日の旅は、思いつきから始まった。


「東京に行きたい。」


それだけだった。


でも、実際に来てみれば、東京だけじゃなかった。


横浜にも行った。


鎌倉にも行った。


江ノ電にも乗った。


思いついたら、その場所へ行く。


それだけの旅。


でも、それが楽しかった。


そして何より――


まだ旅は終わっていない。


サンライズは、これから夜の東海道を走り続ける。


僕はベッドに横になる。


今日一日の出来事を思い返す。


新幹線。


富士山。


東京駅。


山手線。


スカイツリー。


雷門。


京急。


横浜。


シウマイ。


鎌倉。


江ノ電。


東京駅。


そしてサンライズ。


一日だけとは思えない。


でも、全部本当に今日の出来事だ。


「……また旅に出よう。」


そう思いながら、僕は目を閉じた。


列車は静かに夜の街を走り続ける。


明日は学校。


そして、友達に東京土産を渡す。


その時、今日の旅のことを話すかどうかは――


まだ決めていない。


⸻


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


『そうだ、旅に出よう。』第1話「そうだ、東京に行こう。」でした。


今回の第1話は、とにかく「旅をする楽しさ」を詰め込んだ話にしてみました。


主人公が東京へ行くことを決めたきっかけは、本当にちょっとした思いつきです。


金曜日の夜に東京の動画を見て、


「東京……行きたいな……。」


そこから始まった今回の旅。


新幹線に乗って東京へ向かい、東京駅を見て、山手線に乗って、東京スカイツリーへ行って、浅草へ行って、京急に乗って横浜へ。


そこからさらに鎌倉へ行き、江ノ電にも乗りました。


改めて並べてみると、一日でかなり動いてますね(笑)。


でも、今回の主人公にとっては、それくらい自由に動くことが「旅」なのかなと思っています。


最初から全部の予定を決めて、その通りに行動するのではなく、


「ここ行ってみたい。」


「近くにあるなら行ってみよう。」


「せっかくだし、この電車にも乗ってみよう。」


そんな感じで、その時の気分や思いつきを大切にして旅をする。


この作品では、そんな旅を描いていきたいと思っています。


そして今回、個人的に一番書いていて楽しかったのが、江ノ電のところです。


東京の高層ビル。


山手線の巨大な駅。


京急の快特。


そんな都会の景色を一日中見たあとに、鎌倉へ行って江ノ電に乗る。


同じ一日の中なのに、街の雰囲気が大きく変わる。


それも旅の面白さだと思います。


目的地そのものだけではなく、そこへ向かう途中の電車や車窓、駅、街の雰囲気。


予定にはなかった場所に立ち寄ったこと。


たまたま見つけた景色。


そういうものも全部含めて「旅」なんじゃないかな、と。


だからこの作品では、観光地をただ順番に紹介するだけではなく、主人公が実際にその場所を歩いて、電車に乗って、何かを感じるところまで描いていけたらと思っています。


そして最後は、東京駅からサンライズ。


朝、新大阪から新幹線で東京へ向かった主人公が、夜には寝台特急に乗って東京を離れる。


一日の始まりと終わりを、東京駅でつなげてみました。


個人的には、この終わり方がかなり気に入っています。


さて、ここから主人公の旅はどうなっていくのでしょうか。


……と言っても、まだ第1話です(笑)。


次回からはまた日常へ戻ります。


旅の翌日。


主人公は何事もなかったかのように学校へ行くことになります。


東京へ行ったことを、友達に話すのか。


それとも……?


ぜひ次回も読んでいただけると嬉しいです。


この作品は、主人公と一緒にいろいろな場所へ旅をしているような気持ちになってもらえる作品を目指して、ゆっくり書いていきたいと思っています。


毎回大きな出来事が起こる作品ではないかもしれません。


それでも、電車に乗って、駅に降りて、街を歩いて、知らない景色を見る。


そんな何気ない時間を「旅」として楽しんでもらえたら嬉しいです。


それでは、今回はこの辺で。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!


次回もお楽しみに!


――「そうだ、旅に出よう。」

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