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格差


オレンジ髪の少女の小さな桃色の唇から、終焉の言葉が紡がれる。


「―――固有魔法 業火の太陽(サン・ライト)


瞬間、辺りが白だけで塗りたくられたように燦然と輝いた。


それと同時に、先頭の人々がその光で発火した。


ジュワ、と気味の悪い音と共に、その青色の炎は勢いを増す。


やがて閃光が収まった時に、先頭に転がっていたのは黒色の人型をした何かだった。


「ヒッ……」


後続の人々が、後ろに引き下がる。


「こんなさぁ、ちゃちな妨害で止めれると思っていることに凄く憐憫の情が湧くっす。所詮民衆に渡る魔力阻害薬なんて低濃度のゴミっす。精々なり立てか弱い魔法少女くらいにしか効かないっすよ」


そう言い放つソ―リスの周りには、先ほど砕け散ったはずの光球が幾個も浮いていた。


「さて、もう終わらせてやるわっす。人生を」


普通は見えない魔力が、ソ―リスの小さな体躯に集まっていくように見える。


次の瞬間には、また灼熱地獄が訪れるだろうと思われた時だった。


「――そこまでにしてくれソ―リス」


今まで静観ばかりだったベクトリスが声を張り上げた。


その声は地獄空間に、妙に清澄に響いた。


「何だっすか? 今いいところなんだけどっす」


魔力が鳴りを潜め、ソ―リスが不満げにベクトリスを見る。


目前の死を免れた民衆は、思わず体が弛緩したのを感じた。


だが、そんな期待は一瞬で破砕することとなった。


「お前がやると眩しいし片付けが面倒くさいんだ」


ベクトリスが嫌々し気な表情を浮かばせながらそう言う。


「え~、最後まで燃やさせて欲しいっす。最近ストレス溜まってたんだっす、こいつらに」


「今回は勘弁してくれ」


言い終えたベクトリスが民衆の前に立つ。


民衆はいかなる地獄か訪れるのかと戦慄した。


中にはズボンが濡れている人間もいた。


べクトリスが不意に手を掲げる。


「固有魔法――――――生命の息吹(ライフ・カウント)


瞬間、彼女の手から柔らかな光が溢れ出した。


まるで神の後光かと思えるほどの清らかな光。


民衆たちは呆けていたが、次には我が目を疑った。


地面に横たわっていた黒い人型の何かや、上半身だけの身体が光に包まれ、どんどんと元に戻っていくではないか。


やがて元の民衆の姿に戻り、体が半分だけだったり炭だった面影など最早なかった。


その上、それらはまるで先ほどまでただ寝ていただけかと錯覚するほどに自然と目を開けた。


「ここ、は……?」


目を開けた一人が、そう細々と呟く。


民衆は言語に絶するほどの恐怖と同時に、世界の一端を見た気がして、脳が理解を拒んだ。


そして、光を放った張本人――――べクトリスは超然と言い放った。


「良かったな。今回は自殺で済む」


息を吞む音が確かに聞こえた。


民衆が理解が追い付かないままベクトリスを凝視する。


ベクトリスは民衆から視線を外し、後ろの少女へ視線を向けた。


「プルガチオ。やってくれ」


呼ばれた小さな少女――プルガチオが立つ。


反動で、美麗な衣服がフワリと浮いた。


「……うん。時が私にやれって言ってる」


毛骨悚然といった様子の民衆の前に立つ。


そして、魔力が蠢くオーラ。


「……固有魔法――――”運命に流れをディスティニー・チェンジ”」


放たれたのは先ほどと同じ光。


だがそれは、悍ましい色と雰囲気を放つ光だった。


世界がグニャリと歪むような感覚が辺りを襲う。


瞬間、民衆達は突如として表情が抜け落ちたように無表情になった。


そして、一切の動きを止めた。


「……立って」


プルガチオがそう声をかけると、一同がゆっくりとぎこちなく立ち上がる。


そこにはゾンビの復活劇のような様相が広がっていた。


「……帰ってから、自分で死んで」


妙な音色の声が響くと、民衆がのそのそと操り人形のように入口から姿を消していく。


その間も民衆達の表情は能面のように固定され、得体の知れない恐怖を与える。


やがて全員が場を去った。


「……これで、後片付けも楽?」


プルガチオが何事もなかったかのように、ベクトリス達の方へ振り返る。


無表情で、先ほどの民衆のようだった。


”浄化”―――――土地も勿論だが、その真価は別にある。


存在し得る現象の浄化。それは精神も例外ではない。


「ありがとう。これで面倒な問題が片付いた」


ベクトリスが肩を竦める。


「さて、今日はこれくらいでいいか?さっさとお暇したい」


その声に最初に反応したのは、ムルスだった。


「そうですね。もうどうせ話すこともありませんし」


ムルスがそう述べると、ソ―リスが後頭で腕組みしながら頷く。


プルガチオも例に漏れず、帰りたいと言わんばかりの表情をしていた。


「……私も、時間が呼んでいる」


「じゃあ解散するっすか」


「そうだな。じゃあ解散で」


言い終えると、彼女達はその小さな体躯を揺らして場を後にしていく。


最終的には、元の廃墟の暗闇が残っていた。






『―――――次のニュースです。今朝南部にて集団自殺が確認されました。

自身の心臓に包丁を突き刺し自害しており、全ての自殺者に共通する点から芸術庁は魔法によるものである可能性があることを示唆しています。依然として犯人は不明です』


今朝テレビを点けていると流れてきたそのニュース。


俺は音量を下げてから、紅茶を口にする。


「……ふーん、大変だな―――――」


小さなテレビの声に、食パンの咀嚼音が混ざった。
















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