通常
※修正、北見→赤坂に変更しています。
キーンコーンカーンコーン―――――
いつもの音が耳に響く。
目を開けて顔を上げると、しかし、広がっていたのはいつもの景色ではない。
グループワークで来ている浅見が丘東部の高校生達が顔は知っているクラスメイトと共に授業を受けている。
グループ活動をしている間は授業も一緒に受けるということになったからだ。
何とも不思議な光景だ。
学力が少なからず乖離しているはずの二つの高校が、同じ難易度の授業を受けている。
ボケーっとそう思っていると、肩をドス、と突かれた。
誰かと思い見てみると、それはクラスメイト―――ではなく、赤髪がやけに目立つ中西だった。
小さい声で俺を睨んでくる。
「お前よく寝れるな、そんな堂々と一番前の席で」
「……別に、慣れただけだ」
大きな欠伸をすると、中西は大きな呆れ顔をした。
だが先生は俺のことなど全く気にしていない様子だった。
「えーじゃあ次は125ページ開いて見てー。積和の公式は覚えているよねー」
抑揚のない声でつらつらと授業を続けている。
ふと隣を見ると、中西は随分真面目に教科書を捲っていた。
机の上に広がっているノートも綺麗な文字が書かれている。
「……これは予想外だ」
「は?何が?」
俺の言葉に首を傾げる。しかし、何も言わない俺に呆れたのかまた直ぐに前の黒板に目を戻した。
その真面目な横顔が、妙に美しく感じる。
俺は少しだけ羨ましいと感じてしまった。もう俺にはないものだ。
少し嫌な心持になった俺は再び顔を突っ伏した。
■ ■
「―――――きりーつ、れーい。はい、さようならー」
言い終わってすぐに先生は教室を出ていく。きっと定時で颯爽と帰るのだろう。
残された生徒達は、それに対し不満感を抱きながらもグループ同士集合し、話し合いを始める。
そんな中、中西は自身の隣の席で堂々と腕を枕に寝ている生田を数回肘で突いた。
「……何だ?」
顔を突っ伏したまま生田が低い声で言う。だがそれでも声の高さは比較的高めであった。
「グループ活動だぞ。さっさと起きてくれ」
中西が面倒くさそうに言っていると、他のメンバーもやってきた。
「おーおー、まだ寝てんのかいな?」
「流石に起きてください、生田さん」
呆れた顔の二人。友人の田中も苦笑いをした。
「赤くん、そ、そろそろ起きない……?」
グループメンバーからの咎めに、やがて生田は背伸びしながら渋々起き上がった。
「……起きたのはいいが、何話すんだ?」
「そりゃやるのは魔法少女やろ?なら魔法少女のことやろ」
「それはそうですが、具体的に何を調べるんです?」
赤坂の返しに、住吉が言葉を詰まらせる。
”魔法少女”、それは抽象的な言葉だ。
だからこそ、住吉は頭を悩ませた。
だがやがて諦めたように肩を竦めた。
「……それは田中に聞いてくれや。提案した本人やろ」
「それもそうですね。では、田中さんはどう思っているんですか?」
視線が田中に集まっていく。田中は一瞬ビクリと肩を震わせた。
「ぼっ僕は……守護四天について調べてみたいな」
ポツリと呟くと、それに住吉と赤坂が怪訝な表情を浮かべた。
「それ魔法少女っていう扱いなんか?」
「魔法少女であって魔法少女でない、という感じではないでしょうか?」
二人の意見に対し、田中は目を光らせた。
「ッそれについてッ僕は一つ言いたい事があるんだ!まず守護四天についてなんだけど―――――で―――――だから」
途端に饒舌になりだした田中に、住吉と赤坂は微妙な顔をした。
「……そろそろやめとけ」
生田が面倒くさそうに言うと、田中は漸く静かになった。
「取り敢えず、やりたいってのは分かったわ」
住吉が辺りを見回し、溜息を付く。
「……にしても、このグループ協調性ないやんけ」
映るのは、机に肘をついて別の場所を眺め続ける中西と、漫画を読み始めた生田の姿。
「寄せ集めです。仕方ないといえば仕方ないです」
「でもな……グループやで?せめてもう少し仲良くいかへん?」
そう言って肩を落とす住吉。
対して、赤坂は何かを閃いたように一人合点した。
「では、グループでどこかに遊びに行ってみませんか?」
「……遊びに?」
それに反応したのは生田。
漫画から視線を外し、赤坂をどこか掴みどころのない目で見つめる。
その目に捉えられた赤坂は思わず背筋を伸ばした。
「ええそうです。遊べば仲良くなると思うのですが」
「……俺は家で漫画を読んでいたい」
一切表情を変えずに生田が言う。
その中性的な見た目とは裏腹に、似ても似つかぬ雰囲気であった。
赤坂が言葉を詰まらせる。
だが代わって、住吉が何かいい事があったといわんばかりに快活に声を張り上げた。
「ええやんかそれ。是非行こうや」
随分と乗り気な発言であった。
「い、いいかもね、それ」
田中も頷く。
だが、中西が面倒くさそうに言い捨てた。
「私もパスしたいな。仲良くなりたくないわけではないが、面倒くさい」
その発言は、やはり水を差すものであって、場は一気に静まり返った。
このままなのか、と一抹の不安が燻る。
だが、ふと彼らの背後に大きな人影が現れた。
「君達の班ばどうだー?」
暢気な声をゆったりと発するその人影は、先生であった。
その姿を見て、しめた、と思った赤坂が口を開く。
「はい、あまり協調性がなかったので皆で遊びに行こうかと思いまして」
「おーいいじゃないかー行ってきたらどうだ~?」
案の定、先生が若干喜ばし気に言った。
「しかし、反対が多く」
「そうなのか?だが遊びはいいぞ~?先生もよくやるよ」
先生が空いていた椅子に、疲労が溜まっていると言わんばかりに深く腰を降ろしながら続けて言う。
「グループ活動の名目で明日行ってこい。俺の負担も減るし~。ただし、問題は起こすなよ~余計メンドウだから」
「有難うございます」
視線が生田と中西に集まる。
「……あぁ分かった」
中西が観念したように言い、生田も漫画を読みながら渋々頷いていた。
先生に行けと言われれば、それに従うのがあくまで生徒の役目であるのだ。
赤坂と住吉が満足気に頷く。
「じゃあ、明日朝9時に東部中央駅前でどうや?」
「いいですね、そうしましょう」
「ぼっ僕魔法少女の話もしたいな」
「それはまた追々」
こうして、グループの最初の活動は決定された。




